神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第三部 エルフと龍族の里へ  第二章 エルフの里で

6.兄と弟

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 僕の意識がエルフの里へと戻る。
 目の前には剣を構えた『闇』――リリィのなれの果て。

 迫る『闇』の剣を、漆黒の刃でなんとか弾く。

「リリィ!!」

 僕は叫ぶ。
 だが。

「……パド、シネ……」

『闇』はさらに剣を振るう。
 何度かのぶつかり合い。

 ――クソ。

 ダメだ。
 このままじゃ、殺される。

 元々技量や戦闘可能時間は相手が上なのだ。

 しかも、今の僕には、自分でもそう理解できるほどの迷いがある。
 漆黒の刃を振り抜こうとしても、『闇』の体に当てる直前で、力が抜けてしまう。

 手加減も油断もできる相手じゃない。
 それなのに、僕は戦いきれていない。

 と、そんな中。

「きゃっ」

 リラが悲鳴を上げる。

「リラ!?」

 慌てて確認すると、リラとバラヌの前に、リリィのなれの果てとは別の『闇』が2体降り立っていた。

 ――まさか、こいつらあの時の……異端審問官のなれの果て!?

 あるいはそれとはまた別の『闇』かもしれないが。

「リラっ!!」

 マズい。
 マズい、マズい。

 リラには浄化の炎があるけれども、肉体的な戦闘力は村娘とほとんど変わらない。
『闇』2体に連携攻撃されたら、リラもバラヌも殺されかねない。

 だけど。
 僕もまたピンチだ。

 リリィのなれの果てからの攻撃を躱しきれなくなっている。

 ――こうなったら。

 僕はリリィとバラヌに駆け寄る。
 2体の闇が邪魔をするが、片方をパンチで、もう片方をキックで払いのける。

「パド!?」
「いったん、結界を張る」

 僕は言って、結界魔法を発動したのだった。

 ---------------

 とりあえず、『闇』達の攻撃は僕らに届かなくなった。
 同時にこちらからも動くことや攻撃を仕掛けることはできないけど。

「どうするのよ、これから!?」

 リラが言う。

「どうするたって……」
「エルフ達は、今も『闇の獣』に襲われているのよ!!」
「分かっているよ!! 分かってるけどさ」

 そもそも、僕の結界魔法もいつまでも持たない。
 漆黒の刃の魔法でずいぶん魔力を使ってしまっている。

 魔力そのものは200倍チートでも、1度に放出できる魔力の限界量は、1ヶ月前からさほど増えてはいない。

「パド、やっぱり、あれってリリィなのかな?」
「……ルシフはそう言っていた」
「また呼び出されていたの?」

 リラの問いに僕は頷く。
 そんな僕らを横目に、バラヌが言う。

かたき、とってくれるんじゃなかったのかよ!?」
「それは……ごめん」
「お母さんに、あんたと僕の関係は聞いた。よくわかんないけど、僕の兄なんだろ!?」
「そうだね」
「だったら、どうしてお母さんのかたきに、呼びかけたりするんだよ!? おかしいじゃんか」

 なんと説明したらいいものか。
 頭に血が上って混乱している5歳児に分かるように説明するのは難しい。
 たぶん、異母兄弟の意味もよく分かっていないだろうし、ましてや『闇』の正体なんて理解しようとも思えないだろう。

「あんたがやらないんだったら、僕がやるっ!!」

 叫んで、バラヌは駆け出す。
 もちろん、結界魔法に阻まれるわけだけど。

「バラヌ、落ち着いて」

 僕はそれ以外に何も言えない。
 1つ1つ説明したいところだけど、今の彼に理解するのは難しいだろう。
 よしんば理解したとしても、自分の母親のかたきの化け物の正体が、僕らの仲間の一人だと知れば、余計暴走しかねない状態だ。

 そんなことをやっている間も、『闇』達は魔法でつくられた結界に攻撃を続ける。
 この魔法は攻撃を受ければ受けるほど、消費魔力が大きくなる特徴がある。

 このままじゃ、破られるのは時間の問題だ。
 そんなことを2人に告げても、余計不安にさせるだけだけど。

「くそぉ」

 僕は叫ぶ。
 考えが纏まらない。

 3体の『闇』と戦うだけならば、まだ作戦の立てようはある。
 だけど、そのうち1体はリリィなのだ。
 しかも、そのリリィのなれの果ては義母弟バラヌにとってはかたきだ。
 そう考えると、混乱してそれ以上何も考えられなくなる。

 僕は。
 僕が、リリィを殺さなくちゃいけないのか。

 正直、リリィのことはそこまで好意的に思ってはいなかった。
 我儘だし、無自覚だし、乱暴者だし。

 だけど。
 だからといって。

 漆黒の刃で斬り殺すなんて。

 そんなこと。
 そんなことっ。

 悩む僕に、リラが声をかける。

「パド、やりましょう」

 恐ろしく、重く冷たい声だった。

「やるって、何を?」
「あいつらを倒しましょう」
「リラ!?」
「このままじゃ、あなたの魔力が無くなるだけだわ。今ならまだ攻撃に転じられる」
「でも、だって、あれは……!!」

 リラは僕よりもリリィと仲が良かった。
 僕と違って、宿で同じ部屋で眠ったこともある。
 それなのに、なんでそんなことが言えるんだ。

「やらなきゃ、いけないのよ」
「だけどっ」
「だって、元に戻せないんでしょう!?」

 リラの声は、悲鳴に近かった。

「このままじゃ、リリィもバラヌも救われない。私たちもエルフも殺される。
 分かっているはずよ!!」

 分かっている。
 そんなことは分かっている。

 分かった上で悩んでいるんだ。

「考えろって……お師匠様は『考えろ』って、いつも言っていたじゃないか」
「でも、それは結論を先送りにして逃げろってことじゃないわ」

 そうだ。
 それはその通りだ。

 だけど。
 それでも。
 僕はっ!!

「アイツをやっつけられるの?」

 バラヌが尋ねる。

「それは……たぶん」

 リラの浄化の炎と合わせれば、なんとかなるかもしれない。

「だったら、アイツをやっつけて」

 ――バラヌ。

「お母さんのかたきを取ってよっ!!
 お兄ちゃん!!」

 その日、僕は初めて本当の意味でお兄ちゃんと呼ばれた。

 ルシフの虚言っぽい呼びかけではなく。
 死んだ後になって届かない稔の声でもなく。

 本当の弟から、直接お兄ちゃんと呼ばれたのだ。

 ――だから。

「分かった」

 僕は頷いた。

「リラ、手伝ってくれ。僕一人じゃ無理だ」
「ええ、もちろん」

 僕は3体の『闇』を睨む。

 もう、迷わない。

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