神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第三部 エルフと龍族の里へ  第二章 エルフの里で

4.デネブ

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「リリィ!?」

 叫んだリラ。

 ――どうなっている?
 ――何がどうなっているんだ!?

 何で『闇』がリリィの声で喋るんだ!?

 混乱のする僕。
 だが、考える間もない。『闇』が僕との距離を詰める。
『闇』の手から伸びた剣が、僕の頭上に振り下ろされる。

「くっ」

 僕は漆黒の刃でそれを受け止める。
『闇』の剣と漆黒の刃のつばぜりあい。
 これまで戦ってきた『闇』と明らかに違う。

 思えば、今までの『闇』は戦い慣れていなかったようにも感じる。
 こちらの動きに合わせて、ただ指を振り回しているだけだった。

 ――それに対して、コイツは。

「……パド……」

 リリィの声を持つ、コイツは。

 僕の漆黒の刃と『闇』の剣が何度も打ち合う。

「……シネ……」
「くそっ」

 コイツは剣士の動きだ。
 アル様やキラーリアさんほどじゃないけど。
 戦いを知っている者の所作だ。

「リリィっ!!」

 僕は叫ぶ。
 本当に、君なのか!?

「……リリィ……? 私の……名前……」

『闇』はそう言いながら、いったん遠のく。

 まさか、本当に。
 本当にそうなのか!?

 この『闇』の正体はリリィだとでもいうのか!?

 そんな馬鹿な。
 なんでリリィが『闇』になるんだ!?

 リラもまた、困惑している様子で叫ぶ。

「パドっ!! どうなっているの!?」
「わからないよ!!」

 叫び返す僕。

「まさか、本当にリリィなの!?」
「だから、わかんないってっ!!」

 再び僕に迫る『闇』の剣。
 漆黒の刃で弾く。

 ――くそっ、このままじゃ。

『闇』の剣とちがって、漆黒の刃の魔法はいつまでももたない。
 いや、それ以前に剣術の技量は相手の方が上だ。
 このままじゃ、いつか負ける。

 ――やるしかないのか!?
 ――だけど、もし本当にリリィだったら。
 ――いや、これはきっとルシフが仕掛けたハッタリだ。きっとそうだ。

 僕はいったん『闇』から距離を取る。

「うぉぉぉぉ!!」

 僕は叫び、漆黒の刃を上段に構える。
 剣術の技量では負けても、純粋な力では勝っているはずだ。
 だったら、強引にでも『闇』の剣ごと叩き潰す。

「行くぞ!!」

 叫んで『闇』に向かって駆け……

 次の瞬間。

『いいのかな、ソイツを斬って』

 底意地の悪い声が頭の中に響き、僕の意識は黒き世界へと招かれた。

 ---------------

 黒だけの世界。
 いい加減見慣れたそこに、ルシフは桜稔の姿で存在していた。

 ルシフっ!!

 僕は叫ぶ。
 いや、この世界では声にできないけれども、それでも精一杯の叫び声。

『やあ、お兄ちゃん、久しぶりだね』

 ルシフは相変わらずのニヤニヤ顔でそう言った。

 どういうつもりだ、これは一体!?
 いまさら、僕に何の用だ!?

 問う僕に、ルシフは答える。

『そうだね、まずは情報をあげようか。パドお兄ちゃんがさっきまで戦っていた『闇』の正体について』

 そう言われ、僕は思わず唾を飲み込む。
 いや、ここでの僕は魂だけの存在だから、本当に唾を飲み込んだわけじゃないけど。
 緊張したのは事実だ。

『ご想像通り、アレは――彼女はリリアン・ブルテだよ』

 その言葉に、僕は目を見開く。

 嘘だ!!

『嘘じゃないさ。砂漠で戦力外通告されて、彼女は落ち込み、そして力を求めた。だからボクが力をあげたのさ』

 僕の中で恐ろしい想像が浮かぶ。

 まさか、『闇』とは……
 これまで、僕が倒してきた『闇』も……?

『ご明察。パドお兄ちゃん達が『闇』と呼んでいるのは、みんな元人間だよ』

 足元から崩れ落ちそうになった。

 ---------------

 呆然となる僕に、ルシフは続ける。

『ヒトを『闇』にするにはね、いくつか条件がある。
 例えば、強い負の感情を持っている人間と契約を交わすとかね。
 リリアン・ブルテの場合は自己嫌悪と嫉妬だね。アル王女の役に立てない自分にいらだち、自分の代わりにあっさりアル王女の横に立つパドお兄ちゃんに嫉妬した』

 リリィはそこまで……

『だから、僕は彼女をここに招いて尋ねたのさ。お兄ちゃんみたいな力が欲しくないかってね? 彼女は頷いたよ。あっさりとね』

 かつてお師匠様が言った言葉を思い出す。

『魔法の契約とは、人の心に情報を書き込むことだ』

 あれは正しいと同時に、実は正確ではなかったんじゃないのか?
 魔法だけじゃない。神や精霊は、あらゆる契約をするときに、人の心に情報を書き込み、さらには、条件が揃えば人の形すら変えることができるのでは?

『その通りだよ』

 ルシフは言う。

『他には、ボクが与えた武器で殺された人間なんていうのも『闇』の材料になるね。
 気がついていないのかもしれないけど、アル王女が斬り殺した異端審問官の人数は3人。その後、パドお兄ちゃん達を襲った『闇』も3体だっただろう?』

 じゃあ、あの時の『闇』はっ!!

『ご明察。アル王女が斬り殺した異端審問官のなれの果てさ。もっともリリアン・ブルテの場合と違って、死後『闇』に変えたから、意識は全く残っていなかったけどね。
 ラクルス村を襲わせた『闇』もかつてアル王女が斬った傭兵のなれの果てだったかな』

 なんなんだよ?

『うん?』

 一体、なんだっていうんだよ!?
 お前は、何をしたいんだよ!?

『あれれれ、もうとっくに気がついていると思っていたけど』

 やっぱり、そうなのか。

 僕は、ルシフの目的はこの世界に争いを起こすことだと思っていた。
 7年前、ルシフはアル王女達を罠にかけ、王位継承問題を複雑化した。
 諸侯連立派とアル王女派が争うように仕向けたのだ。

 あるいは、諸侯連立派王子による、他の王子暗殺にもコイツはかかわっているのかもしれない。
 そうやって、この大陸に争いを巻き起こすこと。
 それがコイツの狙いだと。

『いいね。なかなかいいよ、お兄ちゃん』

 だけど。
 今コイツがやろうとしていることは。

 僕はルシフを睨み付ける。

『そう、その通りだ』

 僕の心を、怒りという負の感情で支配すること。

 だから、ラクルス村でお母さんを、お師匠様の小屋でお師匠様やリラを、それぞれ襲った。
 そして、今、リリィを『闇』に変えて、バラヌの母親を。

 僕の中に怒りの感情が渦巻く。

 ――ダメだ。
 ――ここで怒りに身を任せたら、コイツの思うがままだ。

 コイツの目的は世界に争いを巻き起こして絶望を振りまいて『闇』を量産すること。
 そして、200倍チートの僕を『闇』に変えることなんだから。

『ようやっと、お兄ちゃんもそこまで気がついたんだね』

 ルシフは満足げにそう言った。

『ボクはね……いや、ボクらはね、デネブと呼ばれる存在だ。神々と正反対でありながら同じ存在もの
 神は世界を作り、人の繁栄を司る。
 デネブは人の滅びを招き、世界を崩壊させる。
 そういう風に作られたんだよ。
 にね』

 そして、ルシフは語り出す。
 神と闇と人の存在意義について。
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七草裕也の小説
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