神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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【番外編】もふもふ女神

【番外編19】神の怒り

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 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(ラクルス村村長バル視点 三人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ラクルス村を『闇』が襲い、パドが村を立ち去ってから3ヶ月の月日が経とうとしていた頃。
 村は少しずつ、しかし確実に復興していた。

 その立役者の1人が村長バルの孫で11歳のジラだ。
 彼は数ヶ月前とは別人のように働き、大人たちにも指示を出し、自らも動き回った。

 大人たちが、それぞれ自分の家を建て直すことに気を取られる中、全体をかん的に見て、建て直す家を選ぶ。
 どだい、冬までに全ての家を直すのは無理なのだから、複数の家族が一緒に住む少し大きめの家を厳選して建てる。

 それでも不満が出なかったのは、むしろそれを指揮したのがまだ幼いジラだったからだろう。
 大人が指揮していればそれぞれ不満を言いたくもなるが、幼子が頑張っているとなれば協力するしかない。
 ジラがそこまで意図したかはともかく、複数の家族が同じ家に住み、協力し合うことで村の結束はさらに増している。

 無論、問題も起きる。
 1つの家に住む者達の結束が強くなる一方、他の家に住む者達といさかいが起きることもある。
 それを収めるのはバルの役目だ。
 ジラが俯瞰的な視点を持つようになったのならば、それよりもさらに大きな視点で村を収めるのが自分の仕事だとバルは自覚している。

 現在、ラクルス村はバルが全体のまとめ役で、ジラが細かい方針や指示を出す役、そんな態勢になりつつある。

(あの我儘だった孫が、よくここまで)

 バルは感慨深い。
 ジラの行動原理の根底には、いつかパドとリラを迎え入れられるような村にしたいというものがあるようだ。
 自分が救うことができなかった少年少女を、ジラは救おうとしている。
 そのことが、バルには嬉しかった。

 水くみに行っていた年少組のキド、サン、ライの3人が、見知らぬ少年達を連れてきたのは、そんなある日のことだった。

 ---------------

 少年達はルペースとバスティーニと名乗った。
 姿からして、商人か、あるいは貴族の諸子にみえる。
 だが、何故そんな子どもだけでラクルス村近くの川原にいたのか、さっぱりわからない。
 しかも、なにやら人語をしゃべるモンスターを連れていたのだ。

 はっきりいって、これ以上の厄介ごとはごめんであった。
 が、事情も聞かずに子どもだけをいきなり村から追い出すのも気が引ける。
 パドを追放したときのジラの怒りの顔も、バルの中には浮かぶ。

 なんとも対応に困りつつも、彼らを1度は村に入れた。
 村の中央、かつては広場で現在はパドが作った大穴が空いている場所にやってきた彼ら。

「時に村長、あの大穴は何だ?」

 やたらと偉そうに尋ねるルペース。
 バルは詳しく説明する気も起きなかったが、サンがパドと『闇』の戦いについて軽く説明する。

 そこでルペースは村人たちに宣言した。

「我らはこの世界とお前達を創造せし神だ。この村に災厄をもたらしたパドを抹殺するために訪れた。早急にその子どもを連れてこい」

 なにやらとんでもないことを言い出す。

(一体、この子どもは何を言っている?)

 ルペースの言葉に、バスティーニが『いくら何でもそれで理解されるわけが……』とかなんとか言い、毛玉モンスターも『ゆうたんを抹殺って、本気なの!?』と呟いているが、ルペースは気にもしていないようだ。

 バルとしても、パドを抹殺などと言われて機嫌良くなるわけがない。
 確かに自分はパドを村から追放した。
 そんな自分に大きなことを言う権利はない。
 それは重々承知しているが、それでも許せることと許せないことがある。

「パドはもうこの村にはおらん」

 バルは冷たく言い放った。

「なんだと? ではどこに?」
「答えるつもりはない」
「なんだと!? 我らは神だぞ。お前達人間ごときが逆らうなど許されるものか。
 さあ、どうした人間ども。早くパドを連れ戻せっ!! 我らは一刻も早くその子どもを抹消しなければならんのだ」

 一体何なのだ、この子どもは。

「ふざけるなっ!!」

 突然あがった声は、村の見回りから戻ってきたジラのものだった。

「なんなんだよっ!! 皆でパドのことを追放だの抹殺だのっ!!
 今度はこんなわけのわからない魔物連れのガキどもまでっ!! アイツが一体何をしたって言うんだっ!!」

「き、きさまぁっ!! 人間ごときが神たる私に無礼な!!」

 ルペースが叫びジラにつかみかかろうとし――

「ジラに手を出すな!!」

 キドが叫び、ルペースを組み伏せる。

「部長っ!!」

 バスティーニがルペースに駆け寄る。

「き、きさまらぁ、神に逆らうつもりかっ!!」

 わめくルペース。

「村を出たとはいえパドは村の子よ。村の子を抹殺するとここで宣言して無事で済むと思っているのかい?」
「確かに恐ろしい力を持っていたかもしれないけど、よその子に抹殺なんて言われる筋合いはない」
「っていうか、お前らなんなんだよ。神とかふざけているのか!?」
「親切心で村まで案内したのに、とんでもねーやつらだっ!!」

 村人達が集まり、口々に彼らを非難する。

「やめんか、お前たち。さすがに子ども2人相手にやりすぎだ」

 バルは村人たちを静止する。

「悪いが今すぐ村から出て行ってもらおう。今のこの村にこれ以上の争いごとに関わる余裕はないからな」

 バルは倒れ込んだルペースたちを見下ろし、言った。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(バスティーニ視点 三人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ラクルス村からほど近い山林。

「おのれ……おのれ、人間どもっ!! 神たる私になんという仕打ちを」

 茶髪の少年――元神ルペースは両手を握りしめて声を震わせた。

「部長、これからどうしましょうか? カルディともはぐれたままですし……」
「あんなアホしるかっ!! それよりも桜勇太――パドとかいう子どもをどうやって抹殺するかだっ!!」

 金髪の少年――元神バスティーニの言葉にルペースはいきつ。

「おのれ、おのれ、たかが人間ごときが神たる我らにっ!!」

 ラクルス村でのことを思い出すだけでも腹が立つ。

 ラクルス村を追われ、森の中を歩くルペースは、バスティーニの目から見ても冷静さを失っていた。
 いや、それ以前に、ラクルス村でのルペースの言動はあまりにも考えが浅すぎる。
 あんな言葉で村人たちが協力してくれるわけがない。

 ルペースは未だ自らを神だと思っているのだろう。
 今の自分たちは人間の子どもに過ぎないのに。

「神をなめおって!! 絶対に、絶対にゆるさんっ!!」

 ルペースが天に向って叫ぶ。

「部長、とりあえず落ち着いて……」
「いいだろう、人間ども、お前達がそのつもりならば私も手段は選ばん。なんとしてもパドとかいうガキを抹殺するのみだっ!!」

 その時のルペースの表情は、バスティーニすら戦慄するほどに醜く歪んでいた。

(私はこの先どうするべきなのか)

 答えが出ないまま、バスティーニはルペースと共に山を下る。

 ---------------

 ――この少し後。
 パドは異端審問官の襲撃を受け、アル王女達と出会い、『闇』の集団から攻撃を受ける。

 ルペースとバスティーニは、パド達が『闇』の集団と戦う姿を隠れ見る。
 そして、思い知る。
 今の自分たちではパドを抹殺することなど不可能だと。

 故に、彼らは次なる手段を講じることになる。

 一方、毛玉モンスターに転生したカルディは、また別の活動を開始することになるのだが、それはまだ先の話である。
 今はエインゼルの森林にたどり着いたパド達に、話を戻すことにしよう。
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七草裕也の小説
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