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【番外編】もふもふ女神

【番外編18】毛玉転生!?

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 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(カルディ視点 一人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 目が覚めると自分がまんまるな生き物になって、下界の森だか山だかで気絶していた。
『倒れていた』と言いたいけど、この体格だと『転がっていた』が近いかなぁ。うん。

「ふぅみゅ、一体、これからどうしたものか」

 私は羽を広げてふわふわ浮かびながら考えた。
『首をひねった』と表現したいところだけど、まんまるな今の私の体には残念ながらひねる首がないんだよね、まいったまいった。

 あのでっかい神様、テオスだかデオスだかは、『私が転生させたゆうたん――桜勇太くんをぬっころせ、そうすれば神に戻してやる』とか言っていたけど……うーん、いくらなんでもねぇ。
 そんなことできないし。

 どうしたもんかね。

 あ、いまさら気がついたけど、私、言葉をつぶやいていたわ。
 神様の世界では、頭の中で思い浮かべるだけで会話になるんだけど(人間風に言うとテレパシーかな?)、私の言葉は、無意識のうちの人間と同じにように空気を震わせて発声していた。

 自然と口から息が出て音声になったみたい。

 考えてみれば気絶している間から、無意識に息をしていたしね。生き物の本能ってすごいねー。生命の神秘だねー。

 それにしても、ここはどこなんだろう。
 たぶん、ゆうたんを転生させた世界だとは思うんだけど……っていうか、倒れている2人の少年はなんなん?
 もしかしてどっちかが、ゆうたんだったりするんだろうか?

 片方は金髪、もう片方は茶髪。
 見た目はで判断するなら、ゆうたんが元いた世界では例えると小学生か中学生かくらいといったところ。
 金髪の少年の方がちょっと背が低いかな。

 などと考えているウチに、飛びにくくなってきた。
 羽がちょっと痛むというか、動かすのがだるいというか……

 あー、これが地上の生き物が感じる『肉体疲労』ってヤツなんだね。
 神様の場合、精神はともかく肉体は疲れないからなぁ。初めての感覚だ。

 ともあれ、私はふらふらと再び地面に降りた。
 土の地面は意外とあったかい。
 これが命の暖かさなのかなぁ……とかいったら、私、詩的?

 なんか、口の中がざわざわしだした。
 きっと、『喉が渇いた』ってことなんだろう。

 うーん、とりあえず、倒れている2人を見てみよう。

 私は、羽に力を入れる。
 すぐに飛ぶのはちょっとつらいっぽいので、転がってに金髪少年に近づく。
 どうやら、2人とも息はしているみたいだ。
 とりあえず金髪少年の頬を羽でペンペン叩いてみるか。

  ---------------

 さてさて、びっくりだよー。

 見たことない少年だと思った2人だけど、2人が目を覚ましてから話してみたら、実は私のよく知っている人――いや、人じゃなくて神様だった。
 ……神様だったのは過去のことなので、やっぱり人かな。

 まあ、それはどっちでもいいとして、2人とも私の上司。
 金髪がバスさんで、茶髪がルペさん。
 バスさんは頭の硬すぎる係長で、ルペさんはセクハラ部長なんだけどさ。

 ……って、よく考えてみたら私、いま全裸じゃね?
 2人はシャツと半ズボンを身につけているのに、私だけなにも着ていないよ?

「いやんっ」

 私は思わず羽で全身を隠した。

「なにが『いやんっ』だっ!!!」

 ルペさんが怒鳴る。

「だってぇ、何故か私、裸なんだもん。男2人は服を着ているのに、美少女天才美人神様の私だけ全裸なんて、ヒドくない?」
「何が天才だ!? お前たちのミスのせいで私まで……それに、自分で美少女とか美人とか厚かましいにもほどがある!! というか、美少女と美人って言葉が重複している上に、微妙に矛盾もしている気がするぞ!?」

 ものすごい勢いで叫びながら、私を捕まえようとするルペさん。
『長文ツッコミ乙』ってかんじだけど、とりあえず飛んでかわす。羽の疲れもだいぶ取れたし。

「いやぁぁぁ、このセクハラお子様、全裸の私にナニをするつもりなよぉー」
「誰が“お子様”だぁぁぁ!!」

 いや、だって、お子様だよね。少なくとも今の見た目は。

「バスティーニ、そもそも貴様がこのバカのミスを見逃したから、こんなことになったんだぞ」
「申し訳ありません」

 頭を下げるバスさん。
 バスさんの方が背が低いから、まるで年下の子ども虐めているみたいだ。

 私はバスさんをかばうように2人の間に飛び込んだ。

「やめて、バスさんを責めないで。こうなったのは私のせいなの!!」

 うん、我ながらカッコイイ台詞だ。
 ホレボレしちゃうねっ!!

 だが。

「……『私のせいなの!!』……だと?」

 ルペさんが肩をふるわせながら言う。

「……当たり前だぁぁぁぁぁ」

 ルペさんに続くようにバスさんが叫んで、私を後ろからむんずと掴んだ。
 そのままニギニギと私の体をつぶそうとする。

 えええええぇぇぇ、私はバスさんを庇ったのにぃぃぃぃ。
 なんで、バスさんから攻撃を受けているのぉぉぉぉ。

 世の理不尽さを感じながら、私は記念すべき転生(?)1時間で圧死の危機に瀕するのだった。

 ---------------

「ふぅ、ふぅ、ふぅ」

 バスさんの両手から解放されたあと、私は地面に転がったまま、なんとか息継ぎをする。

「このバカはともかくとして、これからどうするかだな」
「はい。確かに」

 いや、『ともかくとして』っていうけど、ガチで死ぬかと思ったよ!?
 なんかもう、神様としてじゃなくて死者として元の世界に戻りそうだったよ!?

「そもそも、ここは一体どこなのだ?」
大神デオス様の言葉が確かならば、桜勇太が転生した世界ということになるのでしょうが……」
「人の子1人見当たらんな」

 ルペさんの言うとおり、これだけ騒いでも人間どころか動物も現れない。
 いや、私の体をよじのぼろうとする黒い蟻みたいなの虫はいるけど。はっきりいってウザったい。

「とにかく、まずは、どこか村や町を探すべきではないでしょうか」
「ふむ、先ほどから感じているこの喉の不快感は、おそらく『喉が渇く』という現象なのだろうしな。水も探すべきだろう。そのうち、食料も必要になるやもしれん」
「食料……ですか。動物を殺して肉を食べるというのもゾッとする話ではありますが」

 神には食べ物なんて必要ないからね。バスさんの気持ちもわからんではないよ。
 でも、私はせっかくだしショートケーキとか食べてみたいけどなぁ。

「とりあえず、歩きますか」
「しかたあるまい」

 2人はそう言って、当てもなく歩き始めようとした。

「あ、ちょっとまってよぉ。バスさん、私も運んで~」

 地面に放置されたままにされそうになり、私は慌てて言った。

「何故私がお前を運ばねばならん。さっきから飛び回っていたじゃないか」
「それがぁ、あんまり長く飛ぶと羽がつかれちゃうみたいで……」

 ちょっとだけ猫なで声で言ってみる。

「ふむ、しかし、体に触るとセクハラと思うらしいからな。我々にはどうにもならないな」
「そうですな、部長」

 え、いや、そうだけどっ、でも、このまま放置されるのはもっと困るわけで。
 さすがの私も放置プレーの趣味はないわよ!?

「ではいきましょう、部長」
「そうだな」

 2人はそういって再び歩み始める。

「ちょ、まってよぉぉぉ」

 私は必死に飛ぶのだった。

 ---------------

 ずいぶんとさまよって、私たちは小川を見つけた。
 たぶん、2時間くらい?
 目が覚めたときは朝日だった太陽が、すでに1番高いところにある。
 私も羽の疲れが限界だったが、2人の足も限界が近そうだった。

 私たち3人は川に駆け寄り――いや、私は飛び寄りか――脇目も振らず水を口に入れる。
 水を見つけた瞬間、元気になってしまうのは、生き物のさがってヤツかね。
 転生して初めて感じた喉の渇きは、持った以上に深刻だったのだ。

 私の体は手がないので川に口をつけてすすった。
 流されそうになって四苦八苦しているのに、2人とも助けようとする様子は微塵もない。
 ヒドイ。

 ちなみに、水面に映る私の体はもえいろの毛玉。
 色はキレイだけど、単色かぁ。
 機会があったら毛を染めて、ストライプとか模様とかつけてみようかしら。

「お前ら、なにをしているんだ!?」

 背後から声をかけられ、私たちが振り向くと、そこには10人弱の少年たちの姿があった。全員手に木製のバケツを持っている。
 ルペさんが彼らに問いかける。

「ふむ、お前たちはこの近くに住まう者か?」
「そうだけど、お前ら川の水を直接飲んでいなかったか?」

 1番年上っぽい少年が言う。

「別にかまわんだろ。それとも、この川は君たちの所有物だとでもいうのか? 世界は神が作ったもの。川の水を人間のものだと考えるなど傲慢な……」
「いや、そうじゃなくて、沸かさずにあんまり生水を飲むと腹を壊すことがあるから」

 ルペさんの言葉を遮ってる少年。

「……………………」

 ルペさんとラルさんは顔を見合わせる。
 うん、私も含めてゴクゴク飲みまくったよね……

「ま、まあ、絶対にってわけじゃないし、大丈夫だとは思うけどさ」

 何故か少年にフォローされてしまう。

「そ、そうか。まあ、我らの肉体はそこまで弱くないだろう。ときに少年よ、このあたりに村か町はないか?」
「え、そりゃあ、近くに俺らの村はあるけど……」
「ふむ、ならばそこまで案内を頼みたい」

 ルペさんの言葉に、少年たちは顔を『どうしよう』という表情で相談し出しだす。

「案内しても大丈夫かな?」
「少なくとも『闇』とは関係なさそうだけど」
「っていうか、話し方ムカつかない?」
「だな、パドとは別の意味で子どもらしくねーし」
「なんか、貴族様っぽい」
「いや、さすがにそれはないだろ」

 そんなかんじで少年たちの話し合いが続いた後。

「とりあえず案内はするけど……。今、ウチの村大変だから食事とかは期待しないでくれよ」

 年長の少年が言った。

「ふむ、それはしかたがないな。では頼む」
「で、お前らの名前は?」
「名前を問うときは自分から名乗るのが、人間たちでも礼儀だと思うのだが?」
「……それ、何かを頼むほうが言うことじゃないと思うけど……つうか、お前らも人間にしか見えないけど……まあ、いいか。俺はキド。で、お前らは?」

 バスさんとルペさんが名乗る。

「で、私はカルディだよ~」

 最後に私が河原から飛び立って言う。

「なっ!?」
「なんだ、動物?」
「魔物?」
「なんで喋るんだ!?」

 少年たちは再びざわめき始める。
 どうやら、私のことは目に入っていなかったらしい。ちょっとショック。

 ともあれ、私たちはキドと名乗った少年に案内され、彼の住む村に向かうことになったのだった。
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