神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第三部 エルフと龍族の里へ  第一章 よもやま旅路

7.襲い来る魔物達/または羨望の星下

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 巨大芋虫は自身の炎で黒焦げになった。
 僕はといえば、リリィのわがままっぷりに閉口するしかなかったわけだけど。

「リリィ、いい加減に……」

 レイクさんがリリィを叱りつけようとするが、その前に。
 アル様が彼女に近づく。

「リリィ、どういうつもりだ?」

 怒っている。
 さすがに怒っているよ、アル様。

「アルお姉様のお役に立とうとしただけです」
「足手まといだと言ったのを聞いていなかったのか?」
「私はっ、私は頑張ってるわ。努力もせずに、神様だかなんだかに生まれながらの力をもらったインチキなガキに負けたくなんてない」

 ――ズキン。
 僕の中で心臓が高鳴る。

 インチキ、か。

「そんなことは聞いていない」

 アル様がリリィの言葉を斬り捨て、リリィは視線をそらせる。
 そんな中、僕は心が苦しくなる。

 確かに僕の力はインチキだ。
 自分のチートはやっかいな呪いだとずっと思っていたけど、リリィみたいに一途に強くなりたいと思っている人から見れば、やっぱりずると思われてもしかたがないのだ。

 そのことを改めて実感する。

「ダルト」

 アル様がダルトさんに呼びかける。

「リリィを連れて村まで戻れ」
「え、しかし……」
「最初からそういう約束だったはずだ」

 確かに、アル様は死の砂漠にリリィを連れてくるにあたって、自分の命令を聞くことを条件にしていた。

「おいおい、お嬢さん。今更その2人だけで戻すのは賢い選択じゃないと思うぜ」

 デゴルアさんが言う。

「魔物は他にもいるし、そっちのあんちゃんは魔術師らしいが、だとしても危険だろう」
「ちっ、しょうがない。キラーリアお前もついて行ってやれ」

 アル様の言葉に、キラーリアさんが頷く。

「まって、アルお姉様、私は……」
「こんなところで、お前を失いたくはない」

 アル様にそう言われ、ぐっと黙るリリィ。

「わかり……ました」

 リリィは絞り出すようにそう言って、頷いた。

 ---------------

 その後、僕、アル様、レイクさん、リラ、デゴルアさんの5人でエインゼルの森林へと向かう。

「また来るぜ、今度は空からだ」

 次にやってきたのは、狐の顔と蝙蝠の羽、蛇のような尻尾を持つ魔物だった。
 それも全部で10匹以上。

 アル様が舌打ちする。

「ちっ、次から次へと」

 しかも、今回は空からの襲撃。
 アル様が大剣を振り回し撃墜しようとするが、なかなか当たらない。
 魔物は口から炎の弾を吐いてこちらを襲う。

「中々にやっかいですね、これは」

 レイクさんの言うとおりだ。
 手も足も剣も届かない場所から炎で攻撃とか、反則だろう。
 狙いが甘いのか、今のところレイクさんやリラといった非戦闘要因に近い2人も避けているが、このままでは当たるのも時間の問題だ。

 僕が跳び上がって撃墜する手もあるかもしれないが……

「レイク、感心していないでお前も少しは対処方法を考えろっ!!」
「剣は無駄でしょう。アル様とパドくんで石か何かを投げつけては?」

 あ、そうか。

 上空の敵に剣や拳といった近距離攻撃で挑む方が間違っているのだ。
 僕は足下から石を拾おうとして……

「って、砂しかないじゃんっ!!」

 思わず叫ぶ僕。

 砂漠は砂地だけでなく岩地も多いが、あいにくと今歩いているのは砂地の方。
 石を探すのは難しそうだ。砂を投げても、多分倒せないだろうし……ー

「ちっ、なら、コイツで!!」

 アル様が懐から何かを取り出して、魔物に投げつけた。

「ぐぎゃぁ」

 たまらず悲鳴を上げて落下する1匹の魔物。

「何を投げたんですか!?」

 問うレイクさんに、アル様はにやっと笑って「これだ」と見せる。

「って、銅貨じゃないですか、なんてもったいないっ!!」
「命よりは安いだろう」
「たしかにそうですけどっ!!」

 確かに前世の世界の時代劇にも銭を投げる岡っ引きがいたような気はするけど。

「ほら、パド、お前も投げろ」

 そういって、僕に銅貨を5枚渡すアル様。

「あ、はい」

 何か言いたそうにしているレイクさんには申し訳ないけど、確かに今は銅貨よりも命だ。

「きちんと狙えよ。銅貨の残りは少ないからな。あまり外すと次は銀貨を投げざるをえなくなる」

 ちなみに、銀貨は銅貨のおよそ10倍の価値がある。

「了解です」

 ……とはいったものの、僕、物を投げるのってあまり得意じゃないんだよなぁ。当たるかなぁ。

 ――あ、やっぱり外れた。
 しかも僕の力で思いっきり投げたので、回収不可能なくらい遠くに飛んでいった。

「パドくん、お金を無駄にしないでください」
「そんなこと言われても、あいつら動き回るしっ」

 そんなことを言っている間にも、アル様が魔物を3匹仕留め、一方で他の魔物が炎の球を吐いてリラを攻撃。

「リラっ」

 とっさに僕が前に出てかばう。

「あっつぅ!!」

 声を上げてしまう僕。
 だが、逆に言えば、声を上げられる程度のダメージの攻撃でしかない。
 左腕を少し火傷した程度だ。
 コイツらの炎の攻撃は見た目ほどじゃない。

「アル様、コインは任せます。僕は直接叩きます」

 そう言って、銅貨をアル様に返して、僕は魔物に向かってジャンプし、拳でたたき落とした。

 ---------------

 その後もひっきりなしに魔物は現れた。
 石の巨人ゴーレム砂の巨人サウドゴーレムみたいな力押しは、僕やアル王女の力で粉砕できる。
 空から襲いかかるタイプには、物を投げつけて対応。
 ちなみに、コインを投げるのはいい加減勘弁してくれとレイクさんに言われて、僕とアル様は石を見つけては適当に持ち歩くようにした。

 そんなこんなで、砂漠、初日だけで30体は魔物を倒したと思う。

「どうなっているんだよ、この砂漠」

 愚痴っぽく僕が呟いたのも無理はないだろう。
 なんで、砂漠に限ってこんなに魔物がいるのか。
 砂漠以外でも確かに魔物はいたが(この間のスライムとか)、こんなに次々と現れるなんてありえない。
 だいたい、水もほとんどない砂漠で、あの魔物達はどうやって生きているのだろうか。

「まあ、夜になれば魔物もよってこなくなるよ」

 デゴルアさんがそう言う。

「夜になると襲ってこなくなるって、どうしてですか?」
「さあな、理由は知らんよ。だが、この辺りの魔物は日が沈んだ後は大人しいのさ」

 魔物の生態の不可思議さ極まれり。
 だが、どうやら事実らしく、太陽が沈んだ後は魔物の襲撃もなくなったのだった。

 ---------------

 満天の星とはこういうことをいうのだろうか?
 砂漠の夜空には、きらびやかな星々が輝く。

 簡易的な夕食を済まし、今は交代で簡易テントの中で睡眠中。
 現在起きているのは、僕、リラ、デゴルアさん。
 後しばらくしたら、アル様&レイクさんと交代する。
 なお、デゴルアさんは少し離れたところで明日の朝食準備中なので、この場には僕とリラの2人きり。

「リラ、リリィのことで何か話したいって言っていたよね」
「え、あ、うん、まあね」

 らしくなく言いよどむリラ。

「なんなら今聞くよ。アル様達寝ているし」
「私が話してもいいかどうか分からないんだけど……リリィってあれで結構努力家なのよ」
「というと?」
「ほら、宿では男女別だったけど、リリィはずっとキラーリアさんに習って剣術修行していたのよ」
「それは、知っているけど」

 確かにリリィは毎日剣の修行を欠かさない。
 彼女はキラーリアさんのような天才ではないし、僕のようなチート持ちでもないが、12歳にしてはそこそこ戦える。

「で、リリィが荒れている理由の1つが、例の神託らしいのよね」

 例の神託。
 僕の力と魔力、そして世界の滅びへの警告。

「その神託、アル様としては『これは利用できるぞ』って喜んだらしくて。
 リリィは言っていたのよ。『そんなチートやろうにだけは絶対負けたくない』って」

 なるほど。
 確かに、リリィからすれば、僕は努力もせずに力を振り回して、アル様の側近になったように見えるのかもしれない。

「あ、もちろん、私はパドがちゃんと努力しているのも知っているわ。でも、リリィの気持ちも分かるのよ。
 自分が一生懸命努力してもできないことを、あっさり生まれながらの才能でやってしまう子っていうのは……やっぱり見ていてつらいわよ」

 リラは獣人の里で、他の子達が獣の力に目覚める中、自分だけ能力を得られず苦しんでいた。
 もちろん、リラの場合とリリィの場合では全く事情が違う。
 だけど、リリィなりに努力してアル様の役に立とうとしていたのに、僕みたいなチビで戦闘訓練も受けていない子どもに、『護られる』というのは、確かに屈辱だろう。
 リリィの気持ちも、確かに分からなくはない。

「でも、そりゃあ、あのお嬢さんが悪いだろうさ」

 いきなり後ろから声をかけてきたのはデゴルアさん。

「聞いていたんですか?」

 かなり小声で話していたつもりだったが。

「砂漠ってヤツは障害物が何もないからな。今は無風状態だし、聞かれたくないならもっと声を落とすことだな。
 いずれにしても、自分の努力を認めてほしいなら、他人の努力も見なくちゃいけねぇ。あのお嬢さんに足りないのはそこだろうよ」

 確かにそうだ。
 だけど、それは僕も同じかもしれない。
 チートを操る努力を必死にしてきたのは事実だけど、リリィが剣術にかけた努力なんてほとんど見ていなかった。
 リリィの努力を無視して、神様のミスで手に入れた200倍チートをふるって見せた僕は、確かにリリィからみればムカつくヤツだろう。

 もちろん、リリィを巨大芋虫から救ったのは正しかったと思う。
 でも、知らず知らずのうちに、リリィのこれまでの努力をむなしくさせるような態度をとっていたのかもしれない。

「人の心って、難しいなぁ」

 ぼやく僕に、リラとデゴルアさんは、『何を当たり前のことを言っているんだ、このガキは』という顔をするのだった。

 ---------------

 さて、それから5日間。
 魔物はとにかく次から次へと現れる。
 いくら襲ってくる魔物とはいえ、こうも皆殺しみたいなことをしていると、自分の方が凶悪な存在に思えてくる。
 何しろ、魔物の居住地に土足で踏み込んだのはこっちなのだし。

 そういう精神的な面も含めて、アル様も僕もさすがに疲れてきた。
 体中魔物の血まみれだしね。

 レイクさんとリラも疲れているみたい。
 デゴルアさんはひようひようとしているけど。

 それ以上に、喉の渇きが酷い。
 日中、太陽は容赦なく僕らの体力を奪う。
 もちろん、事前に水はたくさん用意していたんだけど、無尽蔵ではないから少しずつ飲まなくてはいけない。
 食事もこの5日間はパンや干し肉みたいな、むしろ食べると喉が渇くモノがほとんどだし。

 そんなこんなで、もう限界と思った僕らの目に、遠く緑が見えてきた。
 デゴルアさんが言う。

「やっとついたな。あそこがエインゼルの森林だ」
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