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【番外編】天才魔法使いとその弟子達
【番外編14】最後の弟子達
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人族と獣人のハーフ。
リラの出自を最初に聞いたとき、私は年甲斐もなく動揺しているのを、子ども達に悟られないように必死だった。
私がリラに語った獣人の歴史。
その一端には他ならぬ私自身が関わっている。
若き頃調子に乗ってガラジアル公爵に語った獣人の自治権や税優遇策。
あの時の判断として間違っていたとは思わないし、それがそのまま採用されたわけでもない。が、だとしてもガラジアル公爵が私の提言をきっかけに動いたことは事実だ。
その時は想像もしなかった。人族と獣人のハーフがその後どういうは扱いになるかなど。
獣人の間で人族との交わりが禁忌とされるようになったと伝え聞いてはいたが、現に目の前で子ども2人が崖から飛び降りるまでに追い詰められたと知れば、やはり心に渦巻く想いはあった。
「さてと、ではまず、大人としてやるべきことをやるかね」
自分の動揺を自覚しつつ、そんなことを言って2人の頭をゴチンと叩いた。
「大人の義務として、無茶をした子どもを躾けるのは当然だろう。
まず、リラ。確かにあんたにはあまり選択肢は無かったかもしれない。
だが、だとしてラクルス村でなぜ自分よりも年下の子どもにだけ相談した?
村に迷惑をかけたくないなら黙って立ち去るべきだし、村を頼るならきちんと大人と話すべきだ。
あんたがどんなに不幸な身の上であったとしても、パドや他の子ども達を巻き込む権利まではないんだよ」
正論を吐きながらも、その実、これは私自身が心の動揺を抑えるための儀式みたいなものだった。
そして同時に感じていた。
リラはこのままでは生きていけないと。
「だけどね、よく頑張ったよ。大人に追われ、呪われた運命にあらがい、ここまでよくたどり着いた」
そう言いながら、私はこの娘をどうしたものかと、考察していた。
---------------
やがてリラはこう叫んだ。
「じゃあ、教えてよ。私の命の意味って何!?」
痛ましい叫びだった。
12歳の子どもが嘆くことじゃない。
本当なら、このくらいの娘は恋愛話に夢中になったり、美味しい食べ物を食べたり、家族で団欒したりするべきなんだ。
あまりにも痛々しくて見ていられなかった私は、こう返した。
「甘ったれるんじゃないよ。自分の命の意味なんていうのは、他人に教えてもらうもんじゃない。自分でみつけるもんだ」
我ながら正論だ。とても残酷な正論だ。
リラは小屋からかけ出していき、パドがリラを慰めた。
小屋の外の声も聞こえていた。何やら小っ恥ずかしい青春談義みたいな話だったが、少なくともリラは立ち直ったらしい。
「お願いします。私をここに置いてください」
リラがそう頭を下げてきたとき、私はこうなったらとことん厳しくしてやろうと心に決めた。
それこそ、鬼ババアと罵られてでも。
この娘の生きていく路は尋常でなく辛いはずだ。
私が庇ってやれるうちはまだしも、いずれ私も天に召される。
そうなる前に、彼女が1人で生きていける力を身につけさせなければ。
だから、私は弟子になったリラを容赦なくぶったたいたし、理不尽なほどキツいノルマを課した。
彼女がこれから生きていく世界は、その100倍。理不尽に溢れているはずだから。
一方、パドの方は村に返した。
彼には帰る場所があり、そこには両親がいるんだ。当然だと考えた。
その、当然だと考えた判断を、悔やむことになるとは思わなかったが。
---------------
1ヶ月後。
ラクルス村が崩壊した。
村長のバルは私にこういった。
「これ以上、パドを庇うのは難しい。ブシカさん、一時期でも良いパドを預かってもらえないだろうか」
「本気で言っているのかい?」
「はい」
「恨まれるよ」
「私はもうすぐ天に召される年齢です。孫に代を譲る前に、恨まれ役は引き受けておくべきだと」
まったく。
私より年下のくせに良く言うよ。
まあ、村がこんな状況になって、弱気になるのも分からないではないがね。
いずれにせよ、パドの力で村は崩壊した。
そりゃあ『闇』なんぞというワケの分からない存在に襲われ、母親が死にかけなんていう状態になれば、怒りに我を忘れたっておかしくはない。
『闇』に誰も殺されなかったのは、確かにパドのおかげともいえるだろう。
それでも。
――いくらなんでも、あの子には大きすぎる力だ。
確かに、この力は、1つの村や1人の村長が御せるモノじゃない。
だから、残酷だと知りつつ、私はパドを追求した。
「あんたの悪い癖だね。獣人に追われて崖から飛び降りたときと同じだ。いくつかの選択肢を提示されると、それ以外が見えなくなる。学科試験と違って、世の中のあらゆる問題にはあらゆる数の解答があるんだよ」
「じゃあ、他にどんな方法があったって言うんですか。『闇』を倒さなかったら、今頃みんな殺されていんだ。お母さんだって……」
パドは泣きそうな顔だった。
本人も分かっているのだろう。
「さてね。私はその場にいなかったから何が正しかったかなんてわからないよ。だがまあ、村人やお母さんを助けたかったというならば、その結果があんたの望んだものか、よく見て考えることだね」
後は自分で考えさせるしかない。
私が答えを与えても、それはかりそめに過ぎないから。
自分で見つけてこそ、意味のある解答だから。
「パド、厳しい言葉だとは承知した上で言う。
大きな力を持つ者は、他の者よりも遙かに自分の行動に対して責任を持たなくてはならない。200倍の力と魔力を持つ者として、あんたはこれからどう生きる?」
心を失った母親を前に、呆然となるパド。
「パド。今、あんたがすべきことは、まず考えることだ。
ルシフとかいうヤツは、一体お前に何をさせたがっているか。
選択肢を提示してあんたの自由意志を尊重したのか、それとも自分に都合の良い選択肢を提示してみせることで他の選択肢から目をそらさせたのか。
お母さんの様子をよく見て、何度でも頭を悩ませなさい」
もしかすると、これでパドは再起不能になるかもしれない。
そうなったら、それは私の罪だろう。
だが、バルがパドを追放するという罪を背負おうとしているように、私も背負おうじゃないかと思えた。
バルが追放を決め、私が厳しい言葉を投げかけ、周囲の大人たちが冷たい視線をむけるなか、バルの孫がパドに言った。
「お前が無事で良かった。村を助けてくれてありがとうな」
パドは救われた表情で、「ありがとう」と答えていた。
――大丈夫、パドはまだ立ち上がれる。
私はそう確信した。
---------------
リラを弟子にして4ヶ月。パドを弟子にして3ヶ月。
私は2人に共通する最大の問題点を理解していた。
この馬鹿弟子達は、自分たちが生まれたこと自体が間違いだったと感じている。
だから、一見するとこの年齢に似つかわしくないほどに、やたら大人びて見える。
だから、時に自暴自棄になってしまう。
だから、必要以上に反省と自己嫌悪に陥る。
だから、自分の身を犠牲にする決定ができてしまう。
だから、この子達は生きていけない。
誰かのために命を賭ける自己犠牲と、自暴自棄からくる自己犠牲では本質的に別物だ。
本人達はその区別が付いていないようだが。
この子達に必要なのは、自分を好きになることだ。
ナルシストも問題だが、自分が嫌いなどと考えていて生きていけるほど、この子達の運命も、この世界も甘くはない。
だが、どうしてやればいいのか。
『お前達の命は両親が望んだかけがえのないものだ』などと知った風な口を利いても無駄だろう。
結局、私にできたのは修行という形で2人を安全に追い詰めることだけだった。
鬼ババアによる鬼畜な修行。その中で、自分の命の大切さに気づかせる。
土砂降りの夜中に理不尽に小屋から追い出されれば、逆に生きたいという気持ちにもなるだろう。
事実、この数ヶ月で2人は徐々にだが生きようとする意思が見えるようになってきた。
誤算があったとすれば、鬼ババアの本音を感じ取ることができる程度には、馬鹿弟子2人の頭が良かったことくらいかね。
---------------
だからさ。
「どうしてよ。どうしてこんな……皆私のために。お父さんも、お母さんも、みんな、みんな……」
「僕が、僕がもっと早く来ていれば……ううん。そもそもお師匠様のところに転がり込まなかったら……転生なんて望まなかったら……」
今、こうして天に召される直前になっても、あんた達がそんな風だと安心できないんだよ。
「まだそんなことを言っているのか、この馬鹿弟子ども!!」
どうせなら、最後まで鬼ババアを演じようじゃないか。
「お前達の命はね、ご両親が、友達が、そしてこのアラブシ・カ・ミランテが命を賭けて護ったものなんだっ!! お前達だけのもんじゃないんだ!!
お前達に最後の教えだ。
自分を呪うな。それは麻薬だ。誰が否定したとしても、自分で自分を否定してはいけない。
神託がなんだ。禁忌がなんだ。神がなんだ。闇がなんだ。
パドの力は人を救えるし、リラは獣人と人族とを結びつける鍵になる。
自分を肯定しろ。他の誰が否定しても、お前達だけはお前達を嫌いになってはいけない。
わかったか!?」
2人は泣きながら、それでも『はい』と言ってくれた。
「レイク、ラミサル、あの時は悪かったね。私は自分のことで精一杯で、お前達のことまで頭が回らなかった。
まだガキだったお前達を王城に残して、とっとと逃げ出しちまった。
大人の私でも嫌気がさすような場所に、お前達を残した」
神様もなかなか粋のことをするもんだよ。
あの王城を逃げ出した日、私が最も後悔したのはレイクとラミサルという、私を慕ってくれていた生徒達を放り出してしまったことだった。
そして、今、弟子達の元から旅立とうとするときも、やっぱり2人のことが心残りだ。
だが、その2つの心残りが、最後の最後で解消できたのかもしれない。
パドを転生させたという女神様の導きか、あるいは偶然なのか。
ああ、なんだか温かいね。
意識が遠のいていく。
「色々あったけど、最後にこうして弟子4人に囲まれて逝けるなら、私の人生も捨てたもんじゃなかったのかもしれないね」
最後の言葉は、果たして声に出せたのかわからなかった。
リラの出自を最初に聞いたとき、私は年甲斐もなく動揺しているのを、子ども達に悟られないように必死だった。
私がリラに語った獣人の歴史。
その一端には他ならぬ私自身が関わっている。
若き頃調子に乗ってガラジアル公爵に語った獣人の自治権や税優遇策。
あの時の判断として間違っていたとは思わないし、それがそのまま採用されたわけでもない。が、だとしてもガラジアル公爵が私の提言をきっかけに動いたことは事実だ。
その時は想像もしなかった。人族と獣人のハーフがその後どういうは扱いになるかなど。
獣人の間で人族との交わりが禁忌とされるようになったと伝え聞いてはいたが、現に目の前で子ども2人が崖から飛び降りるまでに追い詰められたと知れば、やはり心に渦巻く想いはあった。
「さてと、ではまず、大人としてやるべきことをやるかね」
自分の動揺を自覚しつつ、そんなことを言って2人の頭をゴチンと叩いた。
「大人の義務として、無茶をした子どもを躾けるのは当然だろう。
まず、リラ。確かにあんたにはあまり選択肢は無かったかもしれない。
だが、だとしてラクルス村でなぜ自分よりも年下の子どもにだけ相談した?
村に迷惑をかけたくないなら黙って立ち去るべきだし、村を頼るならきちんと大人と話すべきだ。
あんたがどんなに不幸な身の上であったとしても、パドや他の子ども達を巻き込む権利まではないんだよ」
正論を吐きながらも、その実、これは私自身が心の動揺を抑えるための儀式みたいなものだった。
そして同時に感じていた。
リラはこのままでは生きていけないと。
「だけどね、よく頑張ったよ。大人に追われ、呪われた運命にあらがい、ここまでよくたどり着いた」
そう言いながら、私はこの娘をどうしたものかと、考察していた。
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やがてリラはこう叫んだ。
「じゃあ、教えてよ。私の命の意味って何!?」
痛ましい叫びだった。
12歳の子どもが嘆くことじゃない。
本当なら、このくらいの娘は恋愛話に夢中になったり、美味しい食べ物を食べたり、家族で団欒したりするべきなんだ。
あまりにも痛々しくて見ていられなかった私は、こう返した。
「甘ったれるんじゃないよ。自分の命の意味なんていうのは、他人に教えてもらうもんじゃない。自分でみつけるもんだ」
我ながら正論だ。とても残酷な正論だ。
リラは小屋からかけ出していき、パドがリラを慰めた。
小屋の外の声も聞こえていた。何やら小っ恥ずかしい青春談義みたいな話だったが、少なくともリラは立ち直ったらしい。
「お願いします。私をここに置いてください」
リラがそう頭を下げてきたとき、私はこうなったらとことん厳しくしてやろうと心に決めた。
それこそ、鬼ババアと罵られてでも。
この娘の生きていく路は尋常でなく辛いはずだ。
私が庇ってやれるうちはまだしも、いずれ私も天に召される。
そうなる前に、彼女が1人で生きていける力を身につけさせなければ。
だから、私は弟子になったリラを容赦なくぶったたいたし、理不尽なほどキツいノルマを課した。
彼女がこれから生きていく世界は、その100倍。理不尽に溢れているはずだから。
一方、パドの方は村に返した。
彼には帰る場所があり、そこには両親がいるんだ。当然だと考えた。
その、当然だと考えた判断を、悔やむことになるとは思わなかったが。
---------------
1ヶ月後。
ラクルス村が崩壊した。
村長のバルは私にこういった。
「これ以上、パドを庇うのは難しい。ブシカさん、一時期でも良いパドを預かってもらえないだろうか」
「本気で言っているのかい?」
「はい」
「恨まれるよ」
「私はもうすぐ天に召される年齢です。孫に代を譲る前に、恨まれ役は引き受けておくべきだと」
まったく。
私より年下のくせに良く言うよ。
まあ、村がこんな状況になって、弱気になるのも分からないではないがね。
いずれにせよ、パドの力で村は崩壊した。
そりゃあ『闇』なんぞというワケの分からない存在に襲われ、母親が死にかけなんていう状態になれば、怒りに我を忘れたっておかしくはない。
『闇』に誰も殺されなかったのは、確かにパドのおかげともいえるだろう。
それでも。
――いくらなんでも、あの子には大きすぎる力だ。
確かに、この力は、1つの村や1人の村長が御せるモノじゃない。
だから、残酷だと知りつつ、私はパドを追求した。
「あんたの悪い癖だね。獣人に追われて崖から飛び降りたときと同じだ。いくつかの選択肢を提示されると、それ以外が見えなくなる。学科試験と違って、世の中のあらゆる問題にはあらゆる数の解答があるんだよ」
「じゃあ、他にどんな方法があったって言うんですか。『闇』を倒さなかったら、今頃みんな殺されていんだ。お母さんだって……」
パドは泣きそうな顔だった。
本人も分かっているのだろう。
「さてね。私はその場にいなかったから何が正しかったかなんてわからないよ。だがまあ、村人やお母さんを助けたかったというならば、その結果があんたの望んだものか、よく見て考えることだね」
後は自分で考えさせるしかない。
私が答えを与えても、それはかりそめに過ぎないから。
自分で見つけてこそ、意味のある解答だから。
「パド、厳しい言葉だとは承知した上で言う。
大きな力を持つ者は、他の者よりも遙かに自分の行動に対して責任を持たなくてはならない。200倍の力と魔力を持つ者として、あんたはこれからどう生きる?」
心を失った母親を前に、呆然となるパド。
「パド。今、あんたがすべきことは、まず考えることだ。
ルシフとかいうヤツは、一体お前に何をさせたがっているか。
選択肢を提示してあんたの自由意志を尊重したのか、それとも自分に都合の良い選択肢を提示してみせることで他の選択肢から目をそらさせたのか。
お母さんの様子をよく見て、何度でも頭を悩ませなさい」
もしかすると、これでパドは再起不能になるかもしれない。
そうなったら、それは私の罪だろう。
だが、バルがパドを追放するという罪を背負おうとしているように、私も背負おうじゃないかと思えた。
バルが追放を決め、私が厳しい言葉を投げかけ、周囲の大人たちが冷たい視線をむけるなか、バルの孫がパドに言った。
「お前が無事で良かった。村を助けてくれてありがとうな」
パドは救われた表情で、「ありがとう」と答えていた。
――大丈夫、パドはまだ立ち上がれる。
私はそう確信した。
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リラを弟子にして4ヶ月。パドを弟子にして3ヶ月。
私は2人に共通する最大の問題点を理解していた。
この馬鹿弟子達は、自分たちが生まれたこと自体が間違いだったと感じている。
だから、一見するとこの年齢に似つかわしくないほどに、やたら大人びて見える。
だから、時に自暴自棄になってしまう。
だから、必要以上に反省と自己嫌悪に陥る。
だから、自分の身を犠牲にする決定ができてしまう。
だから、この子達は生きていけない。
誰かのために命を賭ける自己犠牲と、自暴自棄からくる自己犠牲では本質的に別物だ。
本人達はその区別が付いていないようだが。
この子達に必要なのは、自分を好きになることだ。
ナルシストも問題だが、自分が嫌いなどと考えていて生きていけるほど、この子達の運命も、この世界も甘くはない。
だが、どうしてやればいいのか。
『お前達の命は両親が望んだかけがえのないものだ』などと知った風な口を利いても無駄だろう。
結局、私にできたのは修行という形で2人を安全に追い詰めることだけだった。
鬼ババアによる鬼畜な修行。その中で、自分の命の大切さに気づかせる。
土砂降りの夜中に理不尽に小屋から追い出されれば、逆に生きたいという気持ちにもなるだろう。
事実、この数ヶ月で2人は徐々にだが生きようとする意思が見えるようになってきた。
誤算があったとすれば、鬼ババアの本音を感じ取ることができる程度には、馬鹿弟子2人の頭が良かったことくらいかね。
---------------
だからさ。
「どうしてよ。どうしてこんな……皆私のために。お父さんも、お母さんも、みんな、みんな……」
「僕が、僕がもっと早く来ていれば……ううん。そもそもお師匠様のところに転がり込まなかったら……転生なんて望まなかったら……」
今、こうして天に召される直前になっても、あんた達がそんな風だと安心できないんだよ。
「まだそんなことを言っているのか、この馬鹿弟子ども!!」
どうせなら、最後まで鬼ババアを演じようじゃないか。
「お前達の命はね、ご両親が、友達が、そしてこのアラブシ・カ・ミランテが命を賭けて護ったものなんだっ!! お前達だけのもんじゃないんだ!!
お前達に最後の教えだ。
自分を呪うな。それは麻薬だ。誰が否定したとしても、自分で自分を否定してはいけない。
神託がなんだ。禁忌がなんだ。神がなんだ。闇がなんだ。
パドの力は人を救えるし、リラは獣人と人族とを結びつける鍵になる。
自分を肯定しろ。他の誰が否定しても、お前達だけはお前達を嫌いになってはいけない。
わかったか!?」
2人は泣きながら、それでも『はい』と言ってくれた。
「レイク、ラミサル、あの時は悪かったね。私は自分のことで精一杯で、お前達のことまで頭が回らなかった。
まだガキだったお前達を王城に残して、とっとと逃げ出しちまった。
大人の私でも嫌気がさすような場所に、お前達を残した」
神様もなかなか粋のことをするもんだよ。
あの王城を逃げ出した日、私が最も後悔したのはレイクとラミサルという、私を慕ってくれていた生徒達を放り出してしまったことだった。
そして、今、弟子達の元から旅立とうとするときも、やっぱり2人のことが心残りだ。
だが、その2つの心残りが、最後の最後で解消できたのかもしれない。
パドを転生させたという女神様の導きか、あるいは偶然なのか。
ああ、なんだか温かいね。
意識が遠のいていく。
「色々あったけど、最後にこうして弟子4人に囲まれて逝けるなら、私の人生も捨てたもんじゃなかったのかもしれないね」
最後の言葉は、果たして声に出せたのかわからなかった。
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