神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第二部 少年と王女と教皇と 第二章 決意の時

1.混迷しすぎだろ、この状況……

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 現れた2人は、自らをこう名乗った。

「私はスラルス・ミルキアス。恐れ多くもテオデルス信教の教皇を名乗らせていただいております。隣は枢機卿ラミサル。私の右腕といってもいい男です」

 教皇とは教会の1番偉い人。
 僕たちを襲ってきた人たちも教会の人だった。
 だとしたら――

 僕は警戒感をもって彼らを見る。
 が、そんな僕の視線など、百戦錬磨の大人達には何の意味もないらしい。

 教皇はアル王女を一瞥いちべつすると問いかける。

「おや、そちらにいらっしゃるのはアル殿下ではありませんか。それにブルテ侯まで。質問に質問で返すようで恐縮ですが、なぜ王女たる貴女がこのような場所にいらっしゃるのでしょうか?」
「私も王女として擁立されたからには各地の検分をせねばと思ってな」
「ははは、それは中々殊勝な心がけ。もっとも、言い訳としてはお上手とは言いがたいですが」
「ちっ」

 アル王女、露骨に舌打ち。

「時に、お伺いしたいのですが、ここより南西方向にて首を斬り落とされた複数の遺体をみつけました。どうも、教会の者のようなのですが、アル殿下はなにかご存じですかな?」

 教皇はアル王女の大剣をチラリと見て尋ねる。
 彼が言っているのは僕らを襲ってきたヤツら――異端審問官のことだろう。
 どうやらアル王女か、あるいはキラーリアさんが斬り倒したらしいが、それを正直にこの場で言うわけにも……

 ……と僕は思ったのだが。

「ああ、そいつらなら私とそこのキラーリアで斬り捨てたぞ」

 あっさり白状しましたよ、この王女様。

「ほう」

 教皇は目を細める。

「いかに殿下といえども、出家した神父を理由もなく斬ったとなれば、こちらとしても正式に抗議せざるをえなくなりますが」
「むろん、私も理由なく人を、ましてや坊主を斬ったりなどせん」
「つまり、正当な理由があると? 是非お聞かせ願いたいですな」

 教皇の追求に、アル王女は「うむ」と頷いた。

「まず、彼らは本当に教会の者なのか?」
「ええ、間違いありません。斬り落とされた首に見覚えもありましたから」
「なるほど……」

 アル王女はそこでニヤリと笑う。

「つまり、教会は幼子2人を魔法で殺そうとしていたわけか」
「……どういうことですかな?」
「ヤツラはそこの少年パドや、隣の部屋にいる少女を殺害しようとしていた。私は王家の者として、幼子を保護するためにやむをえず彼らを斬るしかなかった。
 まさか、教会が幼子を魔法で焼き尽くそうなどと考えるとはよもや思わず、てっきり神父の姿に化けた盗賊の類いだと思ったのだが、まさか本物の神父だったとはな。これは驚きだ」

 アル王女はそこまで言って、言葉を句切る。
 肩をすくめ、やれやれと首を振った後続ける。

「しかしだ、もしヤツラが本当に神父だというならば、これは大変なことだな。教会は罪もない幼気いたいけな子どもを殺害しようとしたことになる。むしろ申し開きをすべきはそちらの方ではないか?」

 アル王女による議論のすり替え。
 しかもそれなりに正当性がある。
 大剣ふりまわす暴力系かと思ったが、案外こういった駆け引きもできるらしい。

「確かにそれが事実ならばご指摘にも一理ありますね。
 だとすればここは建前論はやめておきましょう。
 アル殿下も、私たちも4ヶ月前に下された神託について確かめるためここに来たと認めませんか?」
「ま、そこを否定し続けても意味がないか。情報源まで明かすつもりはないが」
「それは結構。どのみち見当はついています。テミアールでしょう」

 テミアール・テオデウス・レオノル。国王第2妃にて、教皇の娘らしい。

「ノーコメントだ」
「そうですか。ではそういうことにしておきましょう」

 ここでノーコメントと言うのは肯定したのと同じことだよね。
 さて、神託か。
 確か次のような内容だったはず。
 
  =====================
 エーペロス大陸の南西、ゲノコーラ地方、ペドラー山脈にあるラクルス村。
 その地に神の手違いにより転生しせりパド少年。
 その者、200倍の力と魔力を持ち、闇との契約に至れり。
 放置すれば世界が揺らぎ、やがて滅びるであろう。
  =====================

 それを知ったからこそ、教皇やアル王女はここに来た。

「いずれにせよ、あの神父達は世界を救うためにパド少年を抹殺しようとしたのです」
「神の言葉ならば幼子を殺してもいいと?」
「もちろん、如何いかに神のお言葉、如何いかに世界を救うためとはいえ、幼子を抹殺するなど道義に反します。が、世界が滅びるというのを捨て置くこともできますまい」

 アル王女と教皇がにらみ合う。
 そこに、声をかけたのはお師匠様だった。

「ちょっと待ってもらえないかね」
「なんでしょうか、ご老人。今は政治の話。一般民衆が口を挟むことではありません」
「ふんっ、アンタに老人などと言われたくないね。しかも子どもを殺す殺さないが政治の話とは、この国も落ちたもんだよ」

 お師匠様の言葉に、教皇の顔が不快に歪む。
 が、彼が何かを言う前に枢機卿ラミサルが教皇の耳元で何事か囁いた。

「アラブシ・カ・ミランテ? まさか、あの天才魔道士ですか?」

 どうやら、枢機卿はお師匠様のことを知っているらしい。

「ええ、間違いありません」
「むむむ」

 教皇がうなる。
 っていうか、お師匠様どんだけスゴイ人なの!?
 王女様とか教皇とか、王様を除けばこの国でも最高権力を持つ人たちだと思うんだけど。

「ふむ、ラミサル久しいな」
「はい、アラブシ先生もお元気そうで」

 どうやら、彼もお師匠様の教え子らしい。
 どんだけですか、お師匠様……

「おのおの、言いたいこと話し合うべきこと等あるだろうが、いずれにしてもこの狭っ苦しい小屋に人が多すぎだよ。
 レイク、ラミサル、それとキラーリアとかいうお嬢さん、あんたら3人は悪いが外で待機しておいてくれないかね」

 お師匠様の言葉に、レイクさん、ラミサルさん、キラーリアさんがそれぞれ慌てる。
 レイクさんはアル王女のお目付役だろうし、ラミサルさんも教皇の補助、キラーリアさんはたぶん護衛だろう。
 いきなりこの状況で外に出ていろといわれてうなずけるわけがない。

 代表してキラーリアさんが言った。

「アラブシ殿。悪いがそれは聞けない。私はアル殿下の護衛としてここにいる」
「心配しなくても、この小屋の中はこのアラブシ・カ・ミランテの名において今より中立地帯とする。誰かが誰かを傷付けることはさせない」
「いや、そう言われても……」

 キラーリアさんは納得できなさそうだ。
 そりゃあそうだろう。教皇はどうかしらないが、200倍の力を持つ僕が本気で暴れたらどうなるか。キラーリアさんじゃなくてもこの状況下で王女を放置なんてできない。

 が。

「キラーリア、ここは従いましょう」

 レイクさんが震えそうな声で言う。

「レイク、何を言う?」
「アラブシ先生に逆らってはいけません。その気になれば、この山脈を吹き飛ばせるかたです」

 ――マジで?

 冷や汗をかきながらお師匠様を見ると、眼光鋭く・・・・ニコニコ・・・・笑って・・・る。
 ぶっちゃけ、恐い。

 どうにも動き出さないキラーリアさんとラミサルさんに、アル王女と教皇が言う。

「キラーリア、心配せんでもいい。私の力はお前が1番よく知っているだろう。護衛など必要ない」
「ラミサル、貴方も外に控えていてください。どうにもこのかたに逆らうのは悪手のようです」

 その後もなんだかんだと少しやりとりがあったが、結局3人は小屋の外に出て行ったのだった。

「さて、では話を整理しようか。パド。お前も椅子に座りな」
「はい。じゃあ、失礼します」

 最終的に、平民の子ども(僕)、お師匠様、教皇、王女という、およそありえない4人が机を囲んで話し合いをすることになったのだった。

 ……混迷しすぎだろ、この状況……
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七草裕也の小説
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