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第二部 少年と王女と教皇と 第一章 新たなる戦いの始まり
6.王子のマッチポンプ
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アル王女が語る過去を聞く僕ら。
とりあえず、彼女が全く王女らしくない理由は分かった。
7年前まで王女どころか社会の最底辺の盗賊という立場だったわけだ。
そこら辺の話も気になるが、それ以上に問題なのが義父を捉えられた後、彼女に囁いた甘い声。
「それがルシフだったんですか?」
「わからん。当時ヤツがそう名乗ったわけではないし、お前の前世の弟の姿など知らんからな。そもそもヤツの言葉を信じるなら、姿など意味がないのだろうし、別の姿だった可能性も高い」
そりゃあそうだ。
「ただ、突然暗黒の世界に引き込まれて幼子の姿をしたクソ生意気な存在に出会ったのは確かだ。そして、ヤツは、パドに仕掛けた以上のひどい自作自演をしかけてきた」
お師匠様が尋ねる。
「自作自演とはどういうことだい?」
「あの時、ヤツは4人に囁いたんだ。私、義父グダン、母シーラ、そしてレイクだ」
「ふむ、そういうことかい」
いや、お師匠様は納得しているけど、僕には全然わからないんですけど。
僕の困惑顔を見て察したのか、レイクさんが補足する。
「簡単に言えば、グダンを人質に取ったのは、アル殿下を呼び寄せるために私が仕掛けた罠でした。私に漆黒の世界の幼児――仮にルシフとしておきますが、彼が提案してきたのです」
ルシフはまず、レイクさんに国王の隠し子の居場所を教えた。
レイクさんはかつての上司からアル王女の存在こそ知っていたが、居場所は分からなかった。
というか、まさかちまたで話題の盗賊女帝が、実は王の隠し子だなどと誰が思うだろうか。
ところで、この先の話をするまえに、この頃王宮で起きた大事件について説明しないといけない。
王の子ども達が次々と変死した事件についてだ。
---------------
少し複雑だが、この事件の背景を理解しないと、何故レイクさんがアル王女を擁立しようとしたかが分からないので解説しておく。
まず、現国王には3人の妃がいる。
第1妃は王家の遠い親戚の娘。
第2妃は教皇の娘。
第3妃は各地の領主の連合体である、諸侯連立盟主の娘。
それぞれがこの世界の人族三大勢力である、王家、教会、貴族を代表していると考えていい。
国王としては第1妃の子を時期国王としようとしていた。
教会や諸侯連立とは明確ではないにせよ対立構造が出来上がっていたからだ。
当然、長男は第1妃の子である。
そうなるように、国王も行動した。
が。
今から11年前、その王子・王女達が次々と謎の死を遂げた。
それも、第1妃と第2妃の王子達が全て死に、第3妃の子ども3人は全員健康体。
病死としては不自然な状況。
毒を盛られた可能性を誰もが考えたが、王族の口に入る物はすべて毒味がされる。
王族を毒殺などそう簡単にできる話ではない。
唯一毒味されないのは、王族が王族に贈呈したもののみ。
連続変死事件の直前、第3妃の子が他の王子・王女にワインを贈呈していた。
しかも、亡くなったの王子達の症状と同じ現象が起きるとされる希少な毒物を、第3妃が密かに入手していたことも明らかになった。
「真っ黒じゃん。犯人明らかじゃん」
説明を聞いて、思わず僕は叫んだ。
「落ち着きなパド。証拠はないだろうし、あったとしても相手は王族だ。迂闊な言葉1つでお前の首なんて切り落とされるよ」
お師匠様の警告に、僕は「う゛」と黙る。
「とはいえ、確かにパドの言うことももっともだね。その状況下で陛下は病死だと納得されたのかい?」
「ご納得はされていないでしょう。しかし、病死だと発表するしかありませんでした」
「それは何故?」
お師匠様の言葉に、レイクさんは顔をゆがめる。
「当時の王宮の薬師では毒殺だと証明できませんでした。どこかの誰かがその数年前に王都から出奔していましたし」
あれ、その誰かってひょっとして……
僕がお師匠様の顔を伺うと。
「ちっ。そこでそういう話になるのかい」
お師匠様は不機嫌そう。
「まあ、仮にアラブシ先生がいても結果は変わらなかったでしょう。毒殺だと証明できたとしても、その犯人を断定できる証拠は見つからなかったでしょうから」
そうかなぁ。
ワインの入っていた瓶を調べるとか、色々やりようはありそうだけど……
「何より、陛下ご自身が真相解明を望まれませんでした。陛下の命令で真相を暴かせることこそが、諸侯連立の真の狙いだと推察されたからです」
意味が分からない。
が、お師匠様は納得したように頷いている。
「なるほどね。王子達が殺し合いをしたという醜聞を広めることこそ、ヤツラの真の狙いってことか」
つまり。
もし仮に第3妃の子ども達が他の王子・王女を謀殺したと発表すれば、諸侯連立は嬉々として次のように触れ回っただろう。
『今の王族は権力争いで兄弟同士で殺し合うまでに落ちぶれた。勇者キダンも嘆いていることであろう。この上は、我ら諸侯連立が王家を御し、国を立て直すしかない』
なんだか、どこぞの闇の幼児をおもわせるようなマッチポンプ作戦だ。
「いや、でも諸侯連室派の王子だけが生き残ったとなれば……」
「おそらく、その場合王子達は諸侯連立から切られるでしょう。彼らはあくまでも王家の人間です。王子達にそこまでの意識があったかは分かりませんが、諸侯連立の盟主はどちらに転んでも良いと考えていたはずです」
う、うーん。
でも、それで他の王子様達を殺した第3妃の子どもは無罪放免って。
なんか、納得がいかない。
「でも、自分の子どもが殺されたんですよ!!」
思わず、僕は叫んでしまう。
桜勇太のお父さんやお母さんは、僕の死体に涙していた。
パドの両親だって、もしも僕が死んだら同じように涙するだろう。
……今のお母さんは心を失っているけど。
だが。
「パド。第3妃の子ども達も、陛下の実子なんだよ」
次にお師匠様が言った言葉に、僕はハッとなる。
そうだ。もしも真相が王子同士の殺し合いだったとして、それを調べ上げれば、生き残った自分の子ども達を裁くことになる。
お師匠様の言葉をレイクさんが補足する。
「いかに王子といえど、他の王子……それも王位継承権が上の王子を連続毒殺したとなれば、おそらくは死罪にするしかないでしょう。陛下のご判断はそれを避ける意味もあったのだと思います」
想像してみる。
――もしも、桜稔が桜勇太を殺したとしたら?
――前世の両親は稔を殺人犯として告発するだろうか。それとも必死にかばうだろうか?
――もしも、パドに兄弟がいて、僕と殺し合いをしたら?
――お父さんはきっと悲しむだろう。悲しんで悲しんで、でも最後はきっと両方をかばう。
国王は殺された王子達を助けられなかった。
それならばせめて罪人であったとしても、第3妃の子ども達まで失いたくはないと考えてもおかしくない。
それが親というものだと思う。
「いずれにせよ、そのままであれば、第3妃の子どもが次期国王になります。事実上王家は形骸化し、諸侯連立がこの国の主となるでしょう」
ふむ。
兄弟を毒殺するような人が王様になるというのは、一応僕もその国で暮らしているわけで、あんまり歓迎したくはない。
「それ自体はあるいは問題ないのかもしれません」
いや、問題だろう。さすがに。
政治的にはともかく、感情的には最悪だ。
「しかし、最大の問題は諸侯連立が先代国王の発布したある法律の廃止を求めていることです」
「ある法律?」
「亜人種への課税免除です」
ここで、その話が出てくるのか。
リラを禁忌の子としたあの歴史。
亜人種からの課税、あるいは亜人種の奴隷化を50年前突然理不尽に禁止されれた。
諸侯連立はそれが気にくわないのだ。
もしも、亜人種への課税制度が復活したら。
人族の金銭をあまり使わない亜人種に課税は難しく、50年前のように亜人種の奴隷化が始まってしまう。
「そうなれば、今度こそ亜人種と人族の戦争です。私はそれを避けたいのです」
もしもそんなことになったら、リラは……
いや、それだけじゃない。
獣人の里に比較的近いラクルス村は、ひょっとしたら戦場になってしまうかもしれない。
それどころか、大陸全土で内乱が起きかねない。
「それでなくとも、近年の諸侯連立は人族の平民に対しても理不尽横暴が目立ちますからね」
レイクさんは諸侯連立派の王子以外を国王に擁立する必要性に迫られた。
だが、現実問題として第1妃、第2妃の子どもは死んでしまった。しかも、第1妃もすでに亡い。
王は年齢的にさらなる子作りは厳しく、また仮に第2妃に新たな子が宿ったとして、今度は教会勢力の政治への介入が始まる。
そんなとき、レイクさんの脳内に囁く声があった。
『王様の子どもはもう一人居るよ。元メイド、シーラの娘のアルだ。彼女の居場所、知りたくない?』
とりあえず、彼女が全く王女らしくない理由は分かった。
7年前まで王女どころか社会の最底辺の盗賊という立場だったわけだ。
そこら辺の話も気になるが、それ以上に問題なのが義父を捉えられた後、彼女に囁いた甘い声。
「それがルシフだったんですか?」
「わからん。当時ヤツがそう名乗ったわけではないし、お前の前世の弟の姿など知らんからな。そもそもヤツの言葉を信じるなら、姿など意味がないのだろうし、別の姿だった可能性も高い」
そりゃあそうだ。
「ただ、突然暗黒の世界に引き込まれて幼子の姿をしたクソ生意気な存在に出会ったのは確かだ。そして、ヤツは、パドに仕掛けた以上のひどい自作自演をしかけてきた」
お師匠様が尋ねる。
「自作自演とはどういうことだい?」
「あの時、ヤツは4人に囁いたんだ。私、義父グダン、母シーラ、そしてレイクだ」
「ふむ、そういうことかい」
いや、お師匠様は納得しているけど、僕には全然わからないんですけど。
僕の困惑顔を見て察したのか、レイクさんが補足する。
「簡単に言えば、グダンを人質に取ったのは、アル殿下を呼び寄せるために私が仕掛けた罠でした。私に漆黒の世界の幼児――仮にルシフとしておきますが、彼が提案してきたのです」
ルシフはまず、レイクさんに国王の隠し子の居場所を教えた。
レイクさんはかつての上司からアル王女の存在こそ知っていたが、居場所は分からなかった。
というか、まさかちまたで話題の盗賊女帝が、実は王の隠し子だなどと誰が思うだろうか。
ところで、この先の話をするまえに、この頃王宮で起きた大事件について説明しないといけない。
王の子ども達が次々と変死した事件についてだ。
---------------
少し複雑だが、この事件の背景を理解しないと、何故レイクさんがアル王女を擁立しようとしたかが分からないので解説しておく。
まず、現国王には3人の妃がいる。
第1妃は王家の遠い親戚の娘。
第2妃は教皇の娘。
第3妃は各地の領主の連合体である、諸侯連立盟主の娘。
それぞれがこの世界の人族三大勢力である、王家、教会、貴族を代表していると考えていい。
国王としては第1妃の子を時期国王としようとしていた。
教会や諸侯連立とは明確ではないにせよ対立構造が出来上がっていたからだ。
当然、長男は第1妃の子である。
そうなるように、国王も行動した。
が。
今から11年前、その王子・王女達が次々と謎の死を遂げた。
それも、第1妃と第2妃の王子達が全て死に、第3妃の子ども3人は全員健康体。
病死としては不自然な状況。
毒を盛られた可能性を誰もが考えたが、王族の口に入る物はすべて毒味がされる。
王族を毒殺などそう簡単にできる話ではない。
唯一毒味されないのは、王族が王族に贈呈したもののみ。
連続変死事件の直前、第3妃の子が他の王子・王女にワインを贈呈していた。
しかも、亡くなったの王子達の症状と同じ現象が起きるとされる希少な毒物を、第3妃が密かに入手していたことも明らかになった。
「真っ黒じゃん。犯人明らかじゃん」
説明を聞いて、思わず僕は叫んだ。
「落ち着きなパド。証拠はないだろうし、あったとしても相手は王族だ。迂闊な言葉1つでお前の首なんて切り落とされるよ」
お師匠様の警告に、僕は「う゛」と黙る。
「とはいえ、確かにパドの言うことももっともだね。その状況下で陛下は病死だと納得されたのかい?」
「ご納得はされていないでしょう。しかし、病死だと発表するしかありませんでした」
「それは何故?」
お師匠様の言葉に、レイクさんは顔をゆがめる。
「当時の王宮の薬師では毒殺だと証明できませんでした。どこかの誰かがその数年前に王都から出奔していましたし」
あれ、その誰かってひょっとして……
僕がお師匠様の顔を伺うと。
「ちっ。そこでそういう話になるのかい」
お師匠様は不機嫌そう。
「まあ、仮にアラブシ先生がいても結果は変わらなかったでしょう。毒殺だと証明できたとしても、その犯人を断定できる証拠は見つからなかったでしょうから」
そうかなぁ。
ワインの入っていた瓶を調べるとか、色々やりようはありそうだけど……
「何より、陛下ご自身が真相解明を望まれませんでした。陛下の命令で真相を暴かせることこそが、諸侯連立の真の狙いだと推察されたからです」
意味が分からない。
が、お師匠様は納得したように頷いている。
「なるほどね。王子達が殺し合いをしたという醜聞を広めることこそ、ヤツラの真の狙いってことか」
つまり。
もし仮に第3妃の子ども達が他の王子・王女を謀殺したと発表すれば、諸侯連立は嬉々として次のように触れ回っただろう。
『今の王族は権力争いで兄弟同士で殺し合うまでに落ちぶれた。勇者キダンも嘆いていることであろう。この上は、我ら諸侯連立が王家を御し、国を立て直すしかない』
なんだか、どこぞの闇の幼児をおもわせるようなマッチポンプ作戦だ。
「いや、でも諸侯連室派の王子だけが生き残ったとなれば……」
「おそらく、その場合王子達は諸侯連立から切られるでしょう。彼らはあくまでも王家の人間です。王子達にそこまでの意識があったかは分かりませんが、諸侯連立の盟主はどちらに転んでも良いと考えていたはずです」
う、うーん。
でも、それで他の王子様達を殺した第3妃の子どもは無罪放免って。
なんか、納得がいかない。
「でも、自分の子どもが殺されたんですよ!!」
思わず、僕は叫んでしまう。
桜勇太のお父さんやお母さんは、僕の死体に涙していた。
パドの両親だって、もしも僕が死んだら同じように涙するだろう。
……今のお母さんは心を失っているけど。
だが。
「パド。第3妃の子ども達も、陛下の実子なんだよ」
次にお師匠様が言った言葉に、僕はハッとなる。
そうだ。もしも真相が王子同士の殺し合いだったとして、それを調べ上げれば、生き残った自分の子ども達を裁くことになる。
お師匠様の言葉をレイクさんが補足する。
「いかに王子といえど、他の王子……それも王位継承権が上の王子を連続毒殺したとなれば、おそらくは死罪にするしかないでしょう。陛下のご判断はそれを避ける意味もあったのだと思います」
想像してみる。
――もしも、桜稔が桜勇太を殺したとしたら?
――前世の両親は稔を殺人犯として告発するだろうか。それとも必死にかばうだろうか?
――もしも、パドに兄弟がいて、僕と殺し合いをしたら?
――お父さんはきっと悲しむだろう。悲しんで悲しんで、でも最後はきっと両方をかばう。
国王は殺された王子達を助けられなかった。
それならばせめて罪人であったとしても、第3妃の子ども達まで失いたくはないと考えてもおかしくない。
それが親というものだと思う。
「いずれにせよ、そのままであれば、第3妃の子どもが次期国王になります。事実上王家は形骸化し、諸侯連立がこの国の主となるでしょう」
ふむ。
兄弟を毒殺するような人が王様になるというのは、一応僕もその国で暮らしているわけで、あんまり歓迎したくはない。
「それ自体はあるいは問題ないのかもしれません」
いや、問題だろう。さすがに。
政治的にはともかく、感情的には最悪だ。
「しかし、最大の問題は諸侯連立が先代国王の発布したある法律の廃止を求めていることです」
「ある法律?」
「亜人種への課税免除です」
ここで、その話が出てくるのか。
リラを禁忌の子としたあの歴史。
亜人種からの課税、あるいは亜人種の奴隷化を50年前突然理不尽に禁止されれた。
諸侯連立はそれが気にくわないのだ。
もしも、亜人種への課税制度が復活したら。
人族の金銭をあまり使わない亜人種に課税は難しく、50年前のように亜人種の奴隷化が始まってしまう。
「そうなれば、今度こそ亜人種と人族の戦争です。私はそれを避けたいのです」
もしもそんなことになったら、リラは……
いや、それだけじゃない。
獣人の里に比較的近いラクルス村は、ひょっとしたら戦場になってしまうかもしれない。
それどころか、大陸全土で内乱が起きかねない。
「それでなくとも、近年の諸侯連立は人族の平民に対しても理不尽横暴が目立ちますからね」
レイクさんは諸侯連立派の王子以外を国王に擁立する必要性に迫られた。
だが、現実問題として第1妃、第2妃の子どもは死んでしまった。しかも、第1妃もすでに亡い。
王は年齢的にさらなる子作りは厳しく、また仮に第2妃に新たな子が宿ったとして、今度は教会勢力の政治への介入が始まる。
そんなとき、レイクさんの脳内に囁く声があった。
『王様の子どもはもう一人居るよ。元メイド、シーラの娘のアルだ。彼女の居場所、知りたくない?』
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