神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第二部 少年と王女と教皇と 第一章 新たなる戦いの始まり

2.異端

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 謎の魔法使い2人から襲撃を受けて。
 僕とリラはお師匠様の小屋まで急ぎ戻ろうとした。

 戻ろうとしたのだが。
 歩き始めた直後。

「パドっ!! 上!!」

 リラが叫んだ時には、僕も気がついていた。
 頭上からまたしても石が――いや、違う、今度は赤々と燃え上がった溶岩が落ちてくる。
 しかも、今度は直径1メートルはあるぞ。
 さすがにこれは、いくら僕の体が頑丈チートでも死ぬっ!!
 まして、リラはっ!!

「リラ!!」

 僕はとっさに、手のない左腕でリラを突き飛ばす。
 とっさだったので、もしかするとチートで怪我をさせてしまったかもしれないけど。

 次は僕が避けないとっ!!

 僕も飛び上がり、リラとの方向へ跳ぶ。

 僕が跳んだことでクレーターができ、グレッドリーの死体がその中へと落ちていく。
 その上に、溶岩が落下。
 なんとか、僕とリラは避けられた。

 が。
 こんどは四方八方から石礫が飛んでくる。

 くそ、なんなんだこれ。
 溶岩と違って致命傷にはならないが、何しろ数が多い。
 さすがに避けるのは無理で、僕はできるだけリラを庇いながらその場に留まるしかできない。

 ――どうする?
 ――使うか?

 結界魔法。
 ルシフと契約したあの魔法なら、とりあえずは自分たちを護れる。

 ――だけど。

 ルシフの魔法は。
 アイツに頼るのはっ!!

 いや、だが、昨日のお師匠様の説明では魔法の契約時に心が弱いのが問題なのであって、すでに覚えた魔法を使っても問題はないはず。
 お師匠様にはルシフの魔法は使うなと言われたけど、それはたぶん、今後も僕が安易にヤツと契約しないための方便。

 なにより、このまま石礫がリラの頭にでも当たったら大変だ。

 僕は意を決して結界魔法を発動。
 僕らの周囲に漆黒のバリアーができる。

 それでも、石礫はやまない。
 だが、大丈夫。結界魔法が全て防ぐ。
『闇』の指ほどには威力も無く、これならばしばらくは持つだろう。
 あとは僕の魔力と、相手の石礫を飛ばす魔力のどちらが先に尽きるかという話。

「パド、このままじゃ……」
「大丈夫、僕の魔力は相手より多いはずだから」

 200倍という僕の魔力が、相手より先に尽きるとは思えない。
 が。

「相手が何人いるか分からないのよ」

 言われ、ハッとなる僕。
 あまりにも迂闊だったのだが、冷静に考えてみればその通りだ。
 極論、相手が200人いれば200倍の魔力なんて意味がない。

 相手の正体も人数も居場所も分かっていない。
 それに対して、相手は僕らの居場所を知っているのだろう。そうでなければこんな攻撃できない。
 しかも、結界魔法を張っている限り僕らはここから動けない。

 溶岩の2発目がこないので、さすがにあそこまでの攻撃は何度もできないのだと信じたいが。

 ――どうする?
 ――結界魔法を解き、リラを抱えて一気に跳躍するか?

 だが、また不意打ちされるかもしれない。お師匠様の小屋に逃げ込んだって、小屋ごと炎の魔法で燃やされたらむしろ、犠牲者が1人増えるだけだ。

 ――それなら、いっそのこと。

「一体、なんなんですか、これはっ!!」

 僕は叫んだ。
 突然の僕の言葉に、リラが訝しがる。

「パド?」
「相手は人間。言葉は通じるでしょ」

 僕は小声で言う。
 話し合いなり、交渉なりができるなら、それに越したことはない。

「あなたたちの目的は僕ですか、それとも彼女ですか? 獣人達と何か関係があるんですか?」

 未だ何処にいるかもわからない相手に語りかける。
 その間も石礫はガンガン飛んでくる。

 ――ダメか?

 対話の余地はないのか?
 そりゃあそうか、問答無用で殺しにきているんだもんなぁ。

 が。

「どうやら、これ以上続けても無駄のようですね」

 僕らの目の前に突然1人の男が現れた。

 ---------------

 その出現は唐突だった。
 木陰から出てきたという話ではない。
 何もいなかったはずの空間に、突然現れたのだ。

 ワープ?
 それとも、透明化?

 男は20代後半か、30代前半といったところ。
 青い服に水色のマントと帽子。そして手には大きな杖。先ほどの2人よりも立派なロッドだ。
 服には大きな紋章みたいなものがえがかれている。

 ――って、この紋章どこかで見たことがあるような……
 ――まさか。

「神父様?」

 そう、その紋章は。以前ラクルス村にやってきた巡礼の神父が持っていた本――前世でいうところの、聖書の表紙に書かれていたものに酷似していた。

「……神父。そうですね。神父……うむ。間違ってはいませんね」

 彼は顎に手を当てて首をひねる。

「ただ、パドくんが考えている神父様とは若干違うでしょうけど」

 そういってニコニコ笑う彼。

「なんで、僕の名前をっ!?」

 もちろん、さっきからリラが呼びまくっていたような気もするが、おそらく、彼は元々僕のことを知っていたはずだ。

「ふむ、ということは、やはりキミがパドくんですか」

 あれ、藪蛇だった?

「いえ、大したことではありません。私は神父の中でも特殊な立ち位置にあるものでしてね。
 主に異端分子の排除をおこなっております。ある方から、あなたを殺してくださいと依頼を受けたので、こうしてやってきた次第です」
「ある方?」
「ええ、絶対に逆らうことが許されない方です」

 一体、なんのことだ?

「そう、分かりやすく言うならば、ですよ」

 神様!?

 僕の頭に浮かぶのはガングロお姉さん。
 いや、違うな。
 あのお姉さんはそんなことはしないだろう。

「一体、どうして!? 神様が僕を殺せなんて……」
「神託によれば、あなたは手違いにより200倍の力と魔力を持っているそうじゃないですか。しかも闇の者との契約をして、そんなおぞましい魔法まで使ってみせる。
 異端の存在であり、この世のことわりからはずれた子ども。神はそのような存在を許しません」

 神様が、僕の存在を許さない?
 唐突な出来事と言葉の連続に、混乱中の僕。
 代わりに叫んだのはリラ。

「ふざけたこと言わないでよ!! 仮にその通りだとして、そんなん悪いのはミスした神様じゃない。パドには何の罪もないわ」

 叫んだ彼女に、男は不快な顔を浮かべる。

「ほう、あなたのことはよく知りませんが、神に罪ありと説くとは、十分異端な存在ですね。あなたもパドくんと共に消すべきでしょうか」

 良く言う。

「最初から、リラも一緒に殺そうとしていたようにしか思えないけどね」

 どう考えても、石礫も溶岩も、防がなかったらリラも巻き込まれていた。

「『ナーガを倒すためにはラビの犠牲を気にしない』といいますでしょう?」

 ナーガとは伝説上の蛇のバケモノ。
 ことわざとしての意味は『大事の前の小事』といったところか。

 人の命を何だと思っているんだ、コイツ。

「あんた、本当に神父なの?」

 僕は神様も宗教も信じていないけど、ラクルス村を訪れた巡礼の神父様は、子ども達に『友達に優しくしましょう』とか『困っている人を助けましょう』とか、博愛の精神を説いていたはずだ。

「神の側に存在する人間を神父と呼ぶならば、私こそ最大の神父でしょう。教皇猊下すら迷われた神のお言葉を、今、実戦しようとしているのですから」

 ――教皇。確か、教会で1番偉い人。

「よくわかったよ」

 僕は言う。

「おお、分かってくださいましたか。では神の言葉に従い、死んでください」

 この人は、たぶん、本気で言っている。
 
 前世でもこういう人はいたらしい。
 自分の信じる神様や宗教のために、飛行機でビルに突っ込んだり、世界各地で爆弾テロを起こしたり、地下鉄で毒ガスをまいたり。
 狂信者とかカルトとかいう類いの、1本線がズレた異常な人。
 本人は神様のための聖なる行動と信じて、簡単に人を殺す。

「あなたが……あるいは、さっきの2人も含めて、あなた達が勝手に暴走しているだけだってな!!」

 僕は叫んで結界魔法を解く。
 どのみち、今ヤツは魔法を使っていない。

 僕は地面を蹴って跳ぶ。
 向かう先は男の元。

 慌ててロッドを構える男。
 そこからは、先ほどの2人組が放ったよりも大きな火球。
 手のない左腕で振り払う。
 無茶苦茶熱いし、焼けただれたけれども、左手だけだ。

 ヤツに接近。
 僕は右手を握りしめる。
 頭や腹は狙わない。それは相手を殺してしまうから。

 ――狙うのは、右膝!!

「くっ、悪魔めっ!!」
「それはあんたの方だろうっ!!」

 教会トップの決定すら待たずにこんな凶行に及ぶ人間。
 彼らなりの正義感や信仰心なのかもしれないが、暴走した正義など悪だ。

 ――村を護ろうとして破壊してしまった僕のように。

 僕はヤツの右膝を殴りつけた。
 全力ではない。
 全力ではないが、それでもヤツの右足はグチャっと曲がってはいけない方向に曲がる。

「きさまぁ!!」

 凄まじい痛みのはずなのに、ヤツは僕の顔にロッドを突きつける。

 ――くっ!!

 倒れながらヤツはロッドから火球を。
 僕の顔に発射。

「パドぉぉっ!!」

 リラの叫び声。
 火球はそこまで強くない。
 さすがに痛みで集中力が足りないのだろう。

 それでも。

 至近距離から発射された火球が僕の顔を焼く。
 炎が僕の顔にまとわりつくように燃え上がる。

 ――息ができないっ!!

 熱よりもそっちが問題。
 魔力の炎も酸素を燃やすのか?
 いや、それ以前に周囲の空気が熱すぎて取り込めない。
 さすがに肺や腸までは200倍のチートではない。

 僕は顔に炎をまとわせながらよろよろと歩く。

 おかしい。
 さすがにもう炎も消えるはず。

 ――まさか。

 威力を弱めて代わりにしばらくの間消えない炎を出したのか!?
 威力が低いのは集中力の問題ではなかった?

 まずい。
 本当に息ができない。
 我慢しようとしても、肉体が酸素を求める。

 炎にまとわれたまま、僕は大きく息を吸ってしまった。

 外側からの熱には耐えられた僕の体も、体内からの高温には弱い。
 肺と腸が熱で焼かれる。
 さすがに炎そのものではないからか、即死なんていうことはなかったが。

 ――だめだ。
 力が抜ける。

 僕はその場に膝をついたのだった。

 ――他に敵がいるかもしれない。
 ここで、気を失う、わけに……は、い、か……

 だが、僕の思いも空しく、僕の意識は暗闇へと消えた。
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