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第一部 ラクルス村編 第四章 追放と飛躍
2.友達だよ!!
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村長の家も壊滅状態だったため、村の外れの無事だった小屋に僕らは集まった。
村長と向かい合わせに僕とお父さんが座り、横にブシカさんとナーシャさんが座る。
村長は深刻なそうな顔。
ナーシャさんは悲しそうで、ブシカさんは苦い顔。
それで、僕はこれから告げられることが、きっととても辛い話なのだろうと想像した。
「パド、体調はもう大丈夫か?」
村長に問われ、ぼくは「はい」と頷いた。
「そうか。ならば村長としての決定を話す」
村長はそこで言葉を区切った。
「パド、ならびにサーラを村から追放する」
その言葉に、お父さんの顔が蒼白に、僕の頭が真っ白になった。
---------------
しばしの沈黙。
そして、お父さんが口を開く。
「それは、どういうことでしょうか?」
「言葉通りの意味だ。前に言ったはずだ。もしもパドの力が村にとって致命的な事態をもたらしたら村長として別の判断をしなければならなくなる、と」
致命的な事態。
村の家々が倒壊し、たくさんの怪我人が出て、冬を越せるかどうかも分からない。
村長の言うとおり、僕が力を振るったために、ラクルス村は致命的な事態に陥った。
お父さんが僕をかばうように言う。
「ですが、あの謎の存在――仮に『闇』と呼びますが――パドの行動は『闇』を倒すためのものです」
「それはもちろん分かっている。だが、そもそもどうして『闇』はこの村を襲ったのか。アレは最初にサーラを襲い、次にパドを襲った。あるいはパドが力を持つが故にアレがやってきたとも考えられる」
「それは想像に過ぎません」
「無論その通りだ。だが、村を破壊したのがパドの力だったことは事実だ」
村長の言うとおりだ。
それに、何故『闇』が襲ってきたのかという理由は、実は僕の中で1つ推論が出来上がりつつある。
もし、その推論が正しいならば、確かに村のためには僕は消えたほうがいい。
だけど――
――と、その時だった。
「ふざけんなよっ!!」
叫び声と共に、ジラが乱入してきたのだった。
---------------
会議の場に乱入したジラを、村長が一瞥する。
「ジラ、今は大人の話をしている。子どもが口を挟むな」
「子どものパドをよってたかって大人が虐めておいて、なに言っているんだ!」
「ジラ、ワシは村長として村の未来の話をしているのだ」
「村の未来のためにはパドを追い出すっていうのかよ!?」
「そうだ。必要とあればそういう決定をするのが村長であるワシの役目だ。そして、次期村長にお前がなるというならば、いずれお前の役目になる」
村長のその言葉に、ジラが両手の拳を握りしめる。
「パドは村を護ったんだ。片手を失って、お母さんを殺されかけて、それでも村を護ってくれたんだ。それなのに、何が村のためだよ!?」
「だが、パドの力は危険だ」
その言葉に、ジラは拳を振り上げる。
泣きそうな怒り顔を村長に向け、そして、僕に向き直る。
そして、次の瞬間。
ジラは僕の頬を思いっきり殴った。
――って、なんで!?
不意打ちだったので避けることも出来ず、僕はまともにジラのパンチを喰らう。
「ジラ……?」
僕は戸惑うことしか出来ず、頬を抑えながらジラの様子をうかがう。
「ほら見ろ、俺が殴ったってパドは何もしないじゃないか。もしもパドが危険なヤツだったら、俺はパドの力で殺されてる」
無茶苦茶なようでいて、子どもなりの精一杯の正論だった。
さすがに村長も二の句が継げない様子だ。
「ずっと思ってたんだ。なんでパドは俺達と遊ばないのかって。
でも、1ヶ月前にようやく分かった。パドは俺達を傷付けたくなかったんだ。俺達と勇者ごっこしたら、俺達を傷付けてしまうって思ったから、ずっと1人でいたんだ。
俺はそんなことにも気がつかないで、パドのことを弱虫だ、自分勝手だって思っていて、でも、パドは俺なんかよりずっと、ずっと……」
ジラは両方の瞳からポロポロと涙を流し、それ以上言葉が出てこない様子だった。
ああ、そうだ。
ジラはこういうヤツなんだ。
頭が良いわけじゃないし、乱暴だけど、仲間思いのすごく良いヤツ。
病室からでることができなかった11年間は得ることのできなかった、僕の大切な大切な友達。
その最高の友達を、僕は今苦しめている。
だから、僕は言った。
「ジラ、ありがとう。だけど、もういいから」
「何がいいんだよ!?」
「村長の言っていることは間違ってないよ。僕はこの村を出ていく」
「……それがどういう意味か分かっているのかよ!?」
分かっている。
この世界で村という最低限のコミュニティを追い出されたらどうなるか。
たぶん、生きていくだけでもとても大変だ。
それでも、これ以上、村のことも、ジラのことも傷付けたくない。
ジラが叫ぶ。
「俺達、友達じゃないのかよ!?」
「友達だよ!! ずっと、ずっと友達だよっ!!」
「だったら……」
「だから、ジラには立派な村長になってほしい。僕が壊してしまったこの村を、ジラに託したい。ジラなら信頼できるから」
僕の言葉に、ジラは息をのむ。
「村長なんて、こんな、こんな風に、友達を追い出さなくちゃいけないなら、俺はそんなんになりたくねーよ!!」
言って、ジラは小屋から駆け出す。
「ジラっ!!」
僕は思わず立ちあがりそうになり、しかしそれを村長がとどめた。
「パドまちなさい。ナーシャ、ジラを頼む」
「はい」
僕の代わりにナーシャさんがジラを追った。
---------------
ナーシャさんがジラを追った後、僕らは改めて村長と話し始めた。
「村長、僕は村を出ます。僕はこの村が大好きで、だからこれ以上村を傷付けたくないから。たぶん、『闇』の狙いは僕だったと思うし。
でも、お母さんは村においてください。
今のお母さんは村の外で生きていける状態じゃないです。それに、お母さんには何の責任もありません」
「今のこの村には、働けない者を養う余裕はない」
「でも……」
さらに言いつのろうとした僕に、ブシカさんが言う。
「パド、村長はね、あんた達母子をいったん預かってほしいと私に言ったんだよ。そして、お母さんの治療を頼めないかと」
その言葉に、僕はハッとなる。
そうだ、お母さんの治療。
ブシカさんなら……
「おっと、期待を裏切るようで悪いがね。私は断った。というよりも、私にも彼女の治療は無理だ。どうしたらいいのか見当もつかない。
いや、厳密には1つ当てはあるが……まあ、実現不可能なことだから当てともいえないか」
「実現不可能?」
「この国の王家だけに伝わる解呪法ならば、あるいはと思う。だが、確実ではないし、なによりも相手は王家だ。どうにもならん」
ブシカさんの声に苦々しさが混じるのは、自分がお母さんを助けられないという自責の念なのか、それとも王家へ思うところがあるのか。
「だが、いずれにせよ、今の彼女の状況ではこの村に置いておいてもいずれ衰弱するだろう。私のところにくれば、少しは防げると思う」
――村長はお母さんを助けようと……
――でも、それならどうして追放なんて言い方を?
その僕の内心の疑問に答えるように、ブシカさんは言う。
「村の人間達は今、心も体も追い詰められている。理不尽な状況に潰されかけている。
その状況はやがて怒りとなって村を支配する。群集心理というのはそういものだ。
その時、矢面に立つのはお前と村長だ。だから、あらかじめ追放という形でお前を罰し、村から遠ざけるつもりなのさ。村人の怒りを自分一人で受け止めるためにね」
僕は村長の顔を見る。
村長はしかめっ面のまま、ブシカさんに言う。
「ブシカ殿、それは買いかぶりというものですよ」
「そうかね。お前さんは恨み役を買って出ているのだろう? パドにも、サーラにも、自分の孫にもその恨みが向かないように。
かといって、恨みの感情まで押さえつけたら、村民達の生きる力が完全になくなってしまうとわかっている。
だから、孫に罵られてまでもこういう形で決着を付けようとしている」
村長は「ふぅ」っとため息。
「ワシはそこまで人間ができてはいませんよ。だが、もしワシがそう考えているなら……ブシカ殿の推論は他言無用に願いたいと思うでしょうな」
村長の言葉に、今度はブシカさんがため息。
「やれやれ、本当に不器用な男だね。
それはそうと、私からも1つ聞きたいんだがね。
確かにこの村には働けない者を置いておく余裕はないかもしれない。だが、村の復興のためにはパドの力は大いに役立つと思うんだが、村長として彼を追い出して、本当にいいのかい?」
「それは考え方次第でしょうな。ですが、今の村にとってはパドの強力な力よりも、村の団結の方が大切だと、ワシは判断しました」
「わかった。ならばパドとサーラは私が預かろう」
ブシカさんはそう言った。
「ありがとうございます」
僕は村長とブシカさんに心からそう言った。
そんな僕に、ブシカさんは鼻を鳴らす。
「ふん、パド、言っておくが私も無駄飯ぐらいをおいておくつもりはないからね。お前にはお母さんの分も含めて2人分――いや、やっかいごとに巻き込まれた分も含めて10人分は働いてもらうよ。
リラは女の子だから少しは手加減したが、お前はそれこそ奴隷のごとくこき使うからね」
う、うわ。
ブシカさん目、マジだ。
――と、ここまで話が進んだところで。
「待ってください」
声を上げたのはお父さんだった。
「村長のお気持ちも、ブシカさんのご厚意もよく分かりました。ですが私はパドの父親です。パドとサーラが村から追放されるというならば、私も共に参ります」
――お父さん……
僕はうれしくて涙が出そうになった。
だが。
「ダメだ」
村長は言い切った。
「何故です?」
「今の村には男手はいくらあっても足りん。特に弓の名手のお前を失うわけにはいかん」
「ですが……」
言いつのるお父さんを、僕が説得する。
「お父さん、ありがとう。でも、お父さんは村に残って。僕が壊してしまった村を治す手伝いをして」
「……パド」
「お母さんのことは、僕が護るから」
お父さんは目をつぶる。
じっと考えて。
考えて考えて。
そして、やがて言った。
「分かった。お母さんのことは任せたぞ」
「うん。村のことは任せたからね」
お父さんと僕はそう言って、笑い合った。
村長と向かい合わせに僕とお父さんが座り、横にブシカさんとナーシャさんが座る。
村長は深刻なそうな顔。
ナーシャさんは悲しそうで、ブシカさんは苦い顔。
それで、僕はこれから告げられることが、きっととても辛い話なのだろうと想像した。
「パド、体調はもう大丈夫か?」
村長に問われ、ぼくは「はい」と頷いた。
「そうか。ならば村長としての決定を話す」
村長はそこで言葉を区切った。
「パド、ならびにサーラを村から追放する」
その言葉に、お父さんの顔が蒼白に、僕の頭が真っ白になった。
---------------
しばしの沈黙。
そして、お父さんが口を開く。
「それは、どういうことでしょうか?」
「言葉通りの意味だ。前に言ったはずだ。もしもパドの力が村にとって致命的な事態をもたらしたら村長として別の判断をしなければならなくなる、と」
致命的な事態。
村の家々が倒壊し、たくさんの怪我人が出て、冬を越せるかどうかも分からない。
村長の言うとおり、僕が力を振るったために、ラクルス村は致命的な事態に陥った。
お父さんが僕をかばうように言う。
「ですが、あの謎の存在――仮に『闇』と呼びますが――パドの行動は『闇』を倒すためのものです」
「それはもちろん分かっている。だが、そもそもどうして『闇』はこの村を襲ったのか。アレは最初にサーラを襲い、次にパドを襲った。あるいはパドが力を持つが故にアレがやってきたとも考えられる」
「それは想像に過ぎません」
「無論その通りだ。だが、村を破壊したのがパドの力だったことは事実だ」
村長の言うとおりだ。
それに、何故『闇』が襲ってきたのかという理由は、実は僕の中で1つ推論が出来上がりつつある。
もし、その推論が正しいならば、確かに村のためには僕は消えたほうがいい。
だけど――
――と、その時だった。
「ふざけんなよっ!!」
叫び声と共に、ジラが乱入してきたのだった。
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会議の場に乱入したジラを、村長が一瞥する。
「ジラ、今は大人の話をしている。子どもが口を挟むな」
「子どものパドをよってたかって大人が虐めておいて、なに言っているんだ!」
「ジラ、ワシは村長として村の未来の話をしているのだ」
「村の未来のためにはパドを追い出すっていうのかよ!?」
「そうだ。必要とあればそういう決定をするのが村長であるワシの役目だ。そして、次期村長にお前がなるというならば、いずれお前の役目になる」
村長のその言葉に、ジラが両手の拳を握りしめる。
「パドは村を護ったんだ。片手を失って、お母さんを殺されかけて、それでも村を護ってくれたんだ。それなのに、何が村のためだよ!?」
「だが、パドの力は危険だ」
その言葉に、ジラは拳を振り上げる。
泣きそうな怒り顔を村長に向け、そして、僕に向き直る。
そして、次の瞬間。
ジラは僕の頬を思いっきり殴った。
――って、なんで!?
不意打ちだったので避けることも出来ず、僕はまともにジラのパンチを喰らう。
「ジラ……?」
僕は戸惑うことしか出来ず、頬を抑えながらジラの様子をうかがう。
「ほら見ろ、俺が殴ったってパドは何もしないじゃないか。もしもパドが危険なヤツだったら、俺はパドの力で殺されてる」
無茶苦茶なようでいて、子どもなりの精一杯の正論だった。
さすがに村長も二の句が継げない様子だ。
「ずっと思ってたんだ。なんでパドは俺達と遊ばないのかって。
でも、1ヶ月前にようやく分かった。パドは俺達を傷付けたくなかったんだ。俺達と勇者ごっこしたら、俺達を傷付けてしまうって思ったから、ずっと1人でいたんだ。
俺はそんなことにも気がつかないで、パドのことを弱虫だ、自分勝手だって思っていて、でも、パドは俺なんかよりずっと、ずっと……」
ジラは両方の瞳からポロポロと涙を流し、それ以上言葉が出てこない様子だった。
ああ、そうだ。
ジラはこういうヤツなんだ。
頭が良いわけじゃないし、乱暴だけど、仲間思いのすごく良いヤツ。
病室からでることができなかった11年間は得ることのできなかった、僕の大切な大切な友達。
その最高の友達を、僕は今苦しめている。
だから、僕は言った。
「ジラ、ありがとう。だけど、もういいから」
「何がいいんだよ!?」
「村長の言っていることは間違ってないよ。僕はこの村を出ていく」
「……それがどういう意味か分かっているのかよ!?」
分かっている。
この世界で村という最低限のコミュニティを追い出されたらどうなるか。
たぶん、生きていくだけでもとても大変だ。
それでも、これ以上、村のことも、ジラのことも傷付けたくない。
ジラが叫ぶ。
「俺達、友達じゃないのかよ!?」
「友達だよ!! ずっと、ずっと友達だよっ!!」
「だったら……」
「だから、ジラには立派な村長になってほしい。僕が壊してしまったこの村を、ジラに託したい。ジラなら信頼できるから」
僕の言葉に、ジラは息をのむ。
「村長なんて、こんな、こんな風に、友達を追い出さなくちゃいけないなら、俺はそんなんになりたくねーよ!!」
言って、ジラは小屋から駆け出す。
「ジラっ!!」
僕は思わず立ちあがりそうになり、しかしそれを村長がとどめた。
「パドまちなさい。ナーシャ、ジラを頼む」
「はい」
僕の代わりにナーシャさんがジラを追った。
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ナーシャさんがジラを追った後、僕らは改めて村長と話し始めた。
「村長、僕は村を出ます。僕はこの村が大好きで、だからこれ以上村を傷付けたくないから。たぶん、『闇』の狙いは僕だったと思うし。
でも、お母さんは村においてください。
今のお母さんは村の外で生きていける状態じゃないです。それに、お母さんには何の責任もありません」
「今のこの村には、働けない者を養う余裕はない」
「でも……」
さらに言いつのろうとした僕に、ブシカさんが言う。
「パド、村長はね、あんた達母子をいったん預かってほしいと私に言ったんだよ。そして、お母さんの治療を頼めないかと」
その言葉に、僕はハッとなる。
そうだ、お母さんの治療。
ブシカさんなら……
「おっと、期待を裏切るようで悪いがね。私は断った。というよりも、私にも彼女の治療は無理だ。どうしたらいいのか見当もつかない。
いや、厳密には1つ当てはあるが……まあ、実現不可能なことだから当てともいえないか」
「実現不可能?」
「この国の王家だけに伝わる解呪法ならば、あるいはと思う。だが、確実ではないし、なによりも相手は王家だ。どうにもならん」
ブシカさんの声に苦々しさが混じるのは、自分がお母さんを助けられないという自責の念なのか、それとも王家へ思うところがあるのか。
「だが、いずれにせよ、今の彼女の状況ではこの村に置いておいてもいずれ衰弱するだろう。私のところにくれば、少しは防げると思う」
――村長はお母さんを助けようと……
――でも、それならどうして追放なんて言い方を?
その僕の内心の疑問に答えるように、ブシカさんは言う。
「村の人間達は今、心も体も追い詰められている。理不尽な状況に潰されかけている。
その状況はやがて怒りとなって村を支配する。群集心理というのはそういものだ。
その時、矢面に立つのはお前と村長だ。だから、あらかじめ追放という形でお前を罰し、村から遠ざけるつもりなのさ。村人の怒りを自分一人で受け止めるためにね」
僕は村長の顔を見る。
村長はしかめっ面のまま、ブシカさんに言う。
「ブシカ殿、それは買いかぶりというものですよ」
「そうかね。お前さんは恨み役を買って出ているのだろう? パドにも、サーラにも、自分の孫にもその恨みが向かないように。
かといって、恨みの感情まで押さえつけたら、村民達の生きる力が完全になくなってしまうとわかっている。
だから、孫に罵られてまでもこういう形で決着を付けようとしている」
村長は「ふぅ」っとため息。
「ワシはそこまで人間ができてはいませんよ。だが、もしワシがそう考えているなら……ブシカ殿の推論は他言無用に願いたいと思うでしょうな」
村長の言葉に、今度はブシカさんがため息。
「やれやれ、本当に不器用な男だね。
それはそうと、私からも1つ聞きたいんだがね。
確かにこの村には働けない者を置いておく余裕はないかもしれない。だが、村の復興のためにはパドの力は大いに役立つと思うんだが、村長として彼を追い出して、本当にいいのかい?」
「それは考え方次第でしょうな。ですが、今の村にとってはパドの強力な力よりも、村の団結の方が大切だと、ワシは判断しました」
「わかった。ならばパドとサーラは私が預かろう」
ブシカさんはそう言った。
「ありがとうございます」
僕は村長とブシカさんに心からそう言った。
そんな僕に、ブシカさんは鼻を鳴らす。
「ふん、パド、言っておくが私も無駄飯ぐらいをおいておくつもりはないからね。お前にはお母さんの分も含めて2人分――いや、やっかいごとに巻き込まれた分も含めて10人分は働いてもらうよ。
リラは女の子だから少しは手加減したが、お前はそれこそ奴隷のごとくこき使うからね」
う、うわ。
ブシカさん目、マジだ。
――と、ここまで話が進んだところで。
「待ってください」
声を上げたのはお父さんだった。
「村長のお気持ちも、ブシカさんのご厚意もよく分かりました。ですが私はパドの父親です。パドとサーラが村から追放されるというならば、私も共に参ります」
――お父さん……
僕はうれしくて涙が出そうになった。
だが。
「ダメだ」
村長は言い切った。
「何故です?」
「今の村には男手はいくらあっても足りん。特に弓の名手のお前を失うわけにはいかん」
「ですが……」
言いつのるお父さんを、僕が説得する。
「お父さん、ありがとう。でも、お父さんは村に残って。僕が壊してしまった村を治す手伝いをして」
「……パド」
「お母さんのことは、僕が護るから」
お父さんは目をつぶる。
じっと考えて。
考えて考えて。
そして、やがて言った。
「分かった。お母さんのことは任せたぞ」
「うん。村のことは任せたからね」
お父さんと僕はそう言って、笑い合った。
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