神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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【番外編】 魔女と新たなる弟子

【番外編6】世俗を捨てた薬師と禁忌の弟子

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 ブシカ――本名、アラブシ・カ・ミランテ。
 現在半ば世捨て人のごとく、ベトラー山脈中腹の小屋に住み着く薬師。
 パドやリラは疑っていたが、彼女は昔本当に王都の王城にて働いていた。

 彼女は有能な魔法使いであり、学術にすぐれた研究者であり、貴族や教会の子ども達の教師でもあった。
 だが、ある時彼女が仕えていたガラジアル・デ・スタンレード公爵が変死した。
 高度に政治案件が絡む謀殺が疑われ、自身の命も危険と判断したブシカは密かに王都を出た。
 もともと、王家や教会、貴族連中の欺しあいの世界にはウンザリしていたというのもある。

 大陸中をさまよい歩き、いつの間にやら浮浪者のようになっていた。
 流れ流れていつしか大陸の南の端までたどり着いた。
 それからずっと、ここで暮らしている。

 かつての王城での贅沢な暮らしを懐かしむ気持ちがゼロだとはいわない。
 だが、それ以上に醜悪な王家や貴族、教会の連中には悪い思い出が多い。

 この場所は良い。
 薬を調合して、村々や行商人に売る。時に、回復魔法でも人助けをする。
 王都と違ってこの地域では医療は貴重だ。金になるし、最低限の生活を送るには問題ない。
 王都の贅沢な食事よりも、静かなこの環境の方がブシカにとってはよっぽど貴重だった。

 ---------------

「お師匠様、アルベラ茸を取ってきました」

 そういって小屋に入ってきたのはリラ。
 1ヶ月前にブシカが迎え入れた弟子の少女だ。

 なぜリラを受け入れる気になったのか、ブシカ自身にもよくわからない。
 人族と獣人のハーフという呪われた出自に同情したのか、あるいは年を取って弱ってきた足腰の代わりか、それとも自分にまだ人恋しい気持ちが残っていたのか。

 いずれにせよ、弟子にしたからには厳しく教育するのがブシカの方針である。
 ブシカはリラが持ってきたキノコを手に取り観察する。

「あほう」

 一言発して、リラの頭をポカっと叩く。

「痛っ。何をするんですか、お師匠様」
「これはアルバカ茸だ。教えただろう? 傘の裏が青いのがアルベラ、赤いのがアルバカ」

 アルベラ茸を乾かして煎じれば熱冷ましになるが、アルバカ茸を同じようにやれば人間くらい即死さるほどの猛毒薬になる。

「あっ……ごめんなさい」

 シュンとなるリラ。

「でも、叩かなくてもいいじゃない」

 シュンとなったりプンプン怒ったり忙しい娘である。

「『いいじゃない』だ。師匠には敬語を使えといっているだろう。少なくともその点はパドの方がしっかりしていたよ。
 それに、だ。何度も言うようだが、薬師の仕事というのは1つ間違えれば人が死ぬ。アルベラ茸とアルバカ茸を間違えて処方してしまうなんていうのは代表例だ。2度も間違えたのに叩かれるくらいですんで、むしろ感謝してほしいね」

 実際問題、ブシカの教え方は乱暴である。
 パドの前世の世界で言うならば、体罰上等のスパルタ式といったところか。
 王城で貴族の諸子相手でも平気でポカポカ殴っていた。
 それだけに恨みも買っていたが。

「わかりました。じゃあもう1度探してきます」

 リラはそう言って小屋から出て行く。

(ま、逃げ出さないだけ見込みはあるかね)

 20年の間に弟子を取ったのは、なにもリラが初めてではない。
 これまでにもブシカに弟子入りを志願した者は3人ほどいる。

 そのうちの2人は大人にもかかわらず3日ともたなかった。残り1人はリラと同じくらいの年の少年で、こちらは半月はもったがいずれにせよ、逃げ出してしまった。

 それに比べれば1ヶ月耐えているリラはそれだけでも評価すべきだろう。
 彼女には他に行く場所がないという事情もあるにせよ。

 ……などと考えていた時。

「お師匠様っ!!」

 リラが慌てまくった様子で小屋に駆け込んできた。

「なんだい、一体?」
「なんかよく分からない黒いのが空を飛んでいる」

 ――さっぱり意味が分からなかった。

 ---------------

 結論を言えば、リラが見たのはラクルス村を襲撃し、パドによって倒された『闇』である。
 もっとも、この時点では彼女たちはそう認識はできない。
 ブシカが小屋から出たときには、すでに上空には何もなかったのだ。

「真っ黒な人が向こうに飛んでいった」

 ほとんど意味不明としか言い様がないことを言いつのるリラ。

(テングラ草の花粉でも嗅いだんじゃないだろうね?)

 幻覚作用のあるテングラ草はこの辺りにはあまり生えていないはずだが、そういう可能性を疑いたくなるほど要領を得ない説明だ。
 ブシカが困惑していると、今度は地面が大きく揺れた。

「一体、なんだい、これは!?」

 地震というものがあるという知識はあった。
 しかし、大陸中央部ならともかく、ペドラー山脈近隣ではまず起きない。
 少なくとも、有史500年、この地方をこんな地震が襲ったことはないはずだ。

 地面の揺れは断続的に続く。
 しばらくして、ようやく揺れが収まる。

 ――と。

 ブシカの背に強烈な寒気が走る。

(なんだい、これは。とてつもなく邪悪な魔力? いや、邪悪と言うよりは……)

 ブシカは小屋に駆け込み、水晶玉を持ち出す。

「お師匠様?」

 いぶかしがるリラだが、かまっている場合ではない。
 先ほどの魔力が発言した場所を占う。

(……やはり、そうか)

 リラが指さした黒い人影が飛んでいった方向。
 今、強烈な魔力の反応があった場所。

 ――ラクルス村。
 パド少年の村だ。

 ---------------

「ラクルス村……パドに何かあったの!?」
「さあね。分からないよ。分からないから行ってみると言っているんだ」

 正直、半ば世捨て人として暮らしているブシカにしてみれば、わざわざやっかいごとに首を突っ込みたくはない。
 だが、『闇』の人影、連続的に起きた地面の揺れ、そして謎の魔力。
 嫌な予感がして仕方がない。
 この辺りのは自分以外に宮廷学者級の識者も、魔法使いもいないだろう。
 ならば、調べられるのは自分だけだ。

「私も行くわ」

 リラがそう言い出すのは分かっていた。
 その顔にはパドが心配だと書かれているかのようだ。
 先日行商人のアボカドに託した手紙には、こっぱずかしい表現を使って愛慕を伝えていたくらいだし。

 だが、同行を認めるわけにはいかない。

「ダメだ」
「どうしてよ?」
「どうしてって、自分の立場を思い出してごらん」

 人族と獣人のハーフであるリラは、獣人の里を追われラクルス村に転がり込んだ。
 色々あって、そこからパドと共に逃げ出したわけだが……

「もし、獣人に見つかったらどうなると思うんだい? だいたい、ラクルス村の大人達はリラにいい感情を持っていないかもしれないよ」
「そうかもしれないけど、怪我人がいたら手伝いは必要でしょう?」

 それは、まあその通りなのだが。

「それに、お師匠様ひとりで山歩きなんて危ないでしょう? 昨日だって石につまずいて骨折したじゃないですか」

 老化現象を弟子にハッキリ指摘されたくない。
 それに骨折はすぐに魔法で癒やした。

(とはいえ、確かに助手が必要かもしれないね)

 先ほど水晶玉に映ったのは魔力の流れだけではない。
 ラクルス村の家々が倒れ、地面に大きな穴が出来上がっている姿だった。
 生物までは映し出せないので、人々がどうなっているかハッキリとは分からなかったが、2桁単位で怪我人がいてもおかしくない。

「わかった。じゃあ、準備してすぐにでかけるよ」

 その言葉に、リラの顔がパァッと輝いたのだった。
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七草裕也の小説
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