神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

文字の大きさ
上 下
34 / 201
第一部 ラクルス村編 第三章『闇』の襲来

3.お前は、絶対に許さないっ!!

しおりを挟む
 僕は右拳を『闇』の顔面にたたき込む。
『闇』を地面に押し倒し、めり込ませる。
 アベックニクスの時を遙かに超える大きさのクレーターができあがる。

 それでも、『闇』は砕けない。
 ニヤニヤした顔すら絶やさない。
 漆黒の顔に浮かぶ白い歯が浮かべる笑みがむかつく。

 僕はさらに左拳も振り上げ、『闇』の顔面に叩きつける。
 それでも『闇』は笑ったまま。

 違う。
 僕が見たいのはこんなヤツの笑顔じゃないっ!!

「やっと、やっと笑ってくれたんだぞ!! お母さんは、やっとっ!!」

 叫ぶ。
 叫んでさらに拳を繰り出し続ける。
 右拳、左拳、右、左、みぎ、ひだり、みぎ……

 感情の暴発に任せたまま、僕は『闇』の顔面を殴り続けた。
 クレーターがどんどん深く、大きくなっていく。
 もう、地上から5メートルは沈んだか。

 それなのに。
 チートを全て使って殴り続けているのに。

『闇』は笑顔をやめない。
 血の1滴も流さない。
 僕の攻撃の効果があるのかどうかもわからない。

 それがたまらなく、僕の感情を逆なでして。

「お前は、絶対に許さないっ!!」

 叫んだ僕の上半身に何かが巻き付く。
 ――!?

 ――『闇』の指?
 お母さんを貫いた時のように、ヤツの指が伸び、僕の体に巻き付いていた。
 そのまま僕は持ち上げられ、クレーターの外へと投げ飛ばされる。

 ――ちくしょうっ!!

 僕は心の中で毒づきながら、宙に投げ飛ばされた。

 ---------------

 僕が投げ飛ばされた先は、ちょうどテルやジラ達年少組が集まっていた辺りだった。
 皆腰が抜けたのか、その場で膝を突いたり倒れたりしている。

 ――いや、違う。
 腰が抜けたのではなく、立っていられなかったのだ。

 その理由は周囲を見回せば分かる。
 村の中央に開いたクレーター。それを中心に、村の家が倒れ、木が倒れ、たき火が吹き飛んでいた。
 地面も大きくひび割れしており、大人も子どももとても立っていられなかったのだ。

 その原因は――僕、だ。

 僕が感情にまかせたまま、『闇』をチートで殴りつけたから。
 まるで大地震でも起きたかのような被害を村に与えていた。

 テル達が転がる僕を遠巻きにする。

「パド……」

 僕に向けたキドの声には怯えが混じっていて。
 キドだけじゃない。
 テルもスーンも村長もアボカドさんもナーシャさんも、村中の皆が僕を困惑と恐れの入り交じった目で、遠巻きに見ている。

 それは、僕が産まれて7年ずっと恐れていた状況で。
 自分のチートのせいで村の皆から怖がられる、そんな恐ろしい想像が現実になっていて。

「う、うぅ、うぇぇぇぇん」

 サンが泣き出し、スーンがまるで僕からかばうように彼を抱きしめた。

 ――僕は。
 僕はなんてことを。

 お母さんを攻撃されて我を失って。
『闇』がやったより何倍も村に被害を出して。
 よく見てみれば、大人達の中には怪我を負った人もいる。
 もしかすると家の下敷きになった人もいるかもしれない。

 ――それに。

 お父さんとお母さんは!?
 僕が跳びたった時、その場にはお父さんと怪我をしたお母さんがいた。
 その場所の地面を崩したのは僕だ。

 見ると、お母さんを抱きかかえたお父さんが、僕が作った穴からはい出しつつあった。

 ――何をやっているんだ、僕は!?

 後悔に襲われる僕に、ジラが叫ぶ。

「パドッ!! まだだ。アイツっ」

 ジラが上空を指さす。
 上空1メートルほどの場所には『闇』が浮かんでいて、指を構えていた。

 ――まずいっ!!

『闇』の指が再び伸びる。
 今度の狙いは僕か。

 避けられるか!?
 いや、そもそも避けたら他の子達が危ない。

 ――だったらっ!!
 ――こうなったら仕方がない。

 あの日、ブシカさんに禁じられたけど。
 今は他に手がない。

 僕は魔法を――ルシフからもらった結界魔法を発動した。

 ---------------

 僕と、ジラ達を黒いバリアーが覆う。
 さすがの『闇』の指も、この結界魔法を貫く力はないらしくはじかれる。
 だが、闇は10本の指を振り回し、僕の作り出した漆黒の結界を叩き続ける。
 結界を叩かれるたびに、意識が遠のきそうになる。

 ブシカさんは言っていた。
 僕の体内には溢れるほどの魔力があるけれども、1度にたくさんの魔力を使えば身体の方が持たないと。
 闇の攻撃は苛烈で、油断したらすぐに結界を破られてしまいそうだ。
 叩かれるたびに僕は結界魔法へ送る魔力を高め、それ故にどんどん辛くなっていく。

 あの時、崖から飛び降りた直後のように、意識が飛びそうになる。

 ――ダメだ、今気絶するわけにはいかない。

 僕の後ろにはテルやジラ達がいる。
 結界魔法が破られたら、僕だけでなく彼らもお母さんと同じ目に遭うかもしれない。

 だけど、どうしたらいい?
 結界魔法を使えるうちは防御できるけど、こっちから攻撃できない。
 このままじゃいつか……そう遠くない間に、僕の魔力か体力か精神力が尽きる。

 そもそも、僕の拳はヤツには通じなかった。
 ダメージがあったのかすら怪しい。
 僕にはアイツを倒す方法がない。

 逃げようにも、結界魔法を張ったままでは動けない。
 結界を解いたらたぶん犠牲者が出る。

 この状態はこうちやくではなく、僕が追い詰められているんだ。

「くそぉっ!! どうしろっていうんだよぉっ!!」

 僕の叫び。
 それに答えるかのように。

『また、ボクの助けがほしいのかい、お兄ちゃん?』

 僕の頭の中に響いたのは、ルシフの声だった。

「ルシフ!?」
『助けてほしいんだろう、お兄ちゃん。だったらそう言いなよ。ボクが助けてあげるから』

 ルシフの甘く、ねっとりとした声。

 ブシカさんは言った。
 頼るべき相手を間違えてはいけないと。
 そして、ルシフは頼ってはいけない相手だ。

 ――だけど。

 じゃあ、他に誰を頼れというのか。
 村の大人達に『闇』と対抗する力なんてない。行商人のアボカドさんも同じだ。
 あるいはブシカさんなら何かアイツに対抗するすべを知っているかもしれないけど、今、この場にいない。

 今、僕が頼れるのは――

「わかった」

 僕はルシフに答える。

『うん? 何が分かったのかな、お兄ちゃん?』

 ルシフはうれしそうに言う。

「助けてくれよ。今すぐ」
『OKっ!!』

 ルシフがそう言うと、僕の意識はあの漆黒の世界へと再び迷い込んだのだった。
しおりを挟む
七草裕也の小説
【完結】異世界子育てファンタジー
『異世界で双子の勇者の保護者になりました』

【完結】SFロボットジュブナイル小説
『僕らはロボットで宇宙《そら》を駆ける』

あなたにおすすめの小説

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...