神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第一部 ラクルス村編 第二章 禁忌の少女

11.命の意味は

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「じゃあ、私はどうしたらいいのよ……」

 人族と獣人の歴史を聞き終えて。
 リラは悲しみと憤りを交えた声で、言った。

「……私はやっぱり、呪われた子じゃない。お父さんが死んだのも、お母さんが死んだのも、パドやスーンを巻き込んだのも、全部私のせいじゃない」

 いや、それは違うだろう。
 確かに僕やスーンやジラを巻き込んだのはリラにも責任はあるだろうけど。
 リラのお父さんが殺されたのはリラのせいじゃない。
 まして、お母さんの死は無関係だ。

「私は産まれてきちゃいけない子だったのよ。私のせいで、みんな、みんな……
 私の命なんて、何の意味もない。なのに、私のせいで……」

 そう言って両手で顔を覆うリラ。

「リラ……」

 僕には何もできない。
 何も言ってあげられない。
 リラのせいじゃないと言うのは簡単だけど、たぶん、そんな言葉では彼女は救われない。
 そっと抱いてあげたくても、チートのせいでそれもできない。

 代わりにブシカさんが言った。

「もしも、あんたの命に何の意味も無いっていうならば、お父さんが殺されたことも、パドがあんたのために命をかけたことも、全部意味が無かったってことになるね」

 いや、ブシカさん。
 正論だけど、その言葉は今のリラには厳しすぎるんじゃ……

 リラは泣き叫ぶように問う。

「じゃあ、教えてよ。私の命の意味って何!?」

 だが、そのリラにブシカさんは鋭く言った。

「甘ったれるんじゃないよ。自分の命の意味なんていうのは、他人に教えてもらうもんじゃない。自分でみつけるもんだ」

 その言葉に、リラは押し黙る。
 確かにブシカさんの言葉は間違っていないと思う。
 間違っていないと思うけど……

「私はっ!!」

 叫び、立ち上がるリラ。
 そのまま小屋から駆け出していく。

「リラ!!」

 僕は叫ぶ。

「ブシカさん、なんで? あんな言い方したら……」
「私は私の言葉でリラに叱咤激励したつもりだよ。優しい言葉は、パドがかけてやりな。それはあんたの役目だ」

 ブシカさんはそう言って、視線で僕にリラを追うように促したのだった。

 ---------------

 小屋から飛び出したリラはすぐに見つかった。
 入り口近くでうずくまって泣いていたのだ。

「リラ……」

 ブシカさんは優しい言葉をかけてやれと言った。
 自分は厳しい言葉で叱咤激励したから、優しい言葉は僕の役目だと。
 でも、一体どんな言葉をかければいいのだろう。

 僕が迷っていると、リラの方がポツリポツリと話し出した。

「ブルフおじさんはね、私達子どもに、狩りのしかたを教えてくれる先生だったの。
 ナターシャおばさんはいつも陽気に笑っていて、母親のいない私のお母さん代わりだった。
 ファッコムおじさんは里で一番頼りになる人でね、昔山の中で遭難したときに助けてもらった。
 バウトお姉さんは、蝙蝠の羽でいつも私を抱きしめてくれた」

 襲ってきた4人の獣人達のことか。
 僕は単に襲ってくる敵くらいにしか思っていなかったけど、リラにとっては共に暮らしていた里の隣人でもあったのだ。

「みんな、良い人だと思っていたし、やさしかった。
 それなのに、私が半分人族だって分かったら……私がつい口を滑らせたら……
 それだけで、それだけのことで、お父さんは里の皆に殺された。
 昨日までの優しさが嘘のように、私は里を追われた」

 リラの言葉が胸に刺さる。
 それは僕がずっと恐れていたことだ。

 僕の隠し事がばれたら……
 前世の記憶やチートが知れ渡ったら、お父さんやお母さん、村長や村の大人たち、ジラやキドやテルやサンやスーンからも、恐れられ、村を追われるかもしれない。
 ずっとそうに恐れて暮らしてきた。

 お父さんとお母さんは僕を受け入れてくれた。
 村長も今のところは。

 だけど、リラは実際に昨日まで優しかった里の大人に、父親を殺され、自身も追われ、命を狙われたのだ。

「私なんて、産まれてこない方が良かったのよ」

 自分自身をのろう言葉。
 僕自身、なんども考えた言葉。

 病気の桜勇太がいなかったら、前世の両親や弟はもっと楽だったんじゃないか。
 チートや前世の記憶がある僕がいなければ、お父さんとお母さんはもっと仲良く暮らせたんじゃないか。
 何度も何度もそんなことを考えた。

 その言葉は自分自身へののろいだ。
 他の誰がそんなことはないと言っても、呪縛となって僕らを縛り付ける。

 このままじゃダメだ。
 彼女は本当にダメになってしまう。

 僕には、ブシカさんに言われたような優しい言葉なんて思いつかない。
 かといって、厳しい言葉を投げかけて立ち直らせることもできない。
 だまって抱き寄せることもできないとすれば、何ができるか。

『命の意味は他人に与えられるものじゃない』

 ブシカさんはそう言ったけど、本当にそうだろうか。
 あの崖の上で、お父さんに『お前が産まれたとき嬉しかった。前世の両親も同じだったと思う』と言われて、僕は救われた。
 僕の命にちゃんと意味があるんだと、そう思えた。

 ならば、僕がリラの命に意味を与えたとしても、いいんじゃないか?

「僕は、リラに出会えて良かったよ」

 僕の言葉に、リラが顔を上げる。

「もし、リラが産まれてこなかったら、僕はリラに会えなかった。リラの命の意味なんて僕には分からないけど、でも、リラが産まれてきて、ラクルス村に逃げてきたから、僕はリラと出会えたんだ。
 僕は、リラと出会えて嬉しかった。だから、きっと意味があるんだよ。
 ううん、意味があると僕は思う。そして、僕がそう思う以上、やっぱり意味はあるんだ」

 ああ、もう、自分でも途中から何を言っているんだか分からなくなってきた。
 それでも、僕の言葉はリラに少しだけ届いたらしい。
 リラの瞳から涙が消え、少しだけ生気が戻る。

「リラ。今の僕はリラを抱き寄せることができない。きっと、チートで傷つけてしまうから。
 でも約束する。僕はこの力を操れるようになって、いつかリラを抱きしめるって。
 それを信じてもらえないかな?」

 後から冷静に考えてみれば、小っ恥ずかしいにもほどがある言葉だった。
 だが、今のリラには、役に立つ言葉だったらしい。
 は立ち上がり、にやっと不敵に笑う。

「ふん、チビのくせに何言っているのよ」

 その笑顔は、色々と無理をしているようにも見えたけれど。
 それでも、彼女は笑ってくれた。

「チビって、だから僕は転生者で……」
「それでも、今はチビでしょ。どうせまだアソコもツルツル……」
「ちょ、今はそういう話じゃないだろ!?」

 慌てて顔を真っ赤にして叫ぶ僕。

「ま、いいわ。いつまでも落ち込んでいても仕方ないもんね」

 リラはそういうと、小屋の中に戻っていった。

 ――立ち直った……のかな?
 よく分からないが、少なくとも少しは元気が出たらしい。

 ---------------

 小屋の中に戻ると、リラがブシカさんに頭を下げていた。

「お願いします。私をここに置いてください」

 その言葉に、ブシカさんは目を細める。

「いくらなんでも図々しいとは思わないのかい? リラ、あんたをここに置いて、私に何の得がある? 獣人達が本当に二度と襲ってこないかどうかもわからないわけだしね」
「なんでもやります。料理でも洗濯でも掃除でも、なんなら狩りでも薬草採取でも。
 私、生きたいんです」

 リラの言葉に、ブシカさんは「はぁ」っとため息。

「ブシカさん、僕からもお願いします」

 リラは生きる意思を取り戻してくれた。
 僕がその背中を押した結果でもある。
 だから、僕もできる限り協力したかった。

 ブシカさん、もう一度ため息。

「炊事洗濯は自分でできるよ。居候もメイドも求めちゃいない」

 そりゃあそうだよなぁ。
 でも、リラには他に行くところがない。
 テルグスの街に行こうとしていたみたいだけど、話を聞く限り人族の祖父母にも歓迎されないだろう。

「ただ、私はここで薬師をやっている。村々と物々交換したり、行商人に卸したり。
 最近腰も悪くなってきたし、内弟子なら1人居ても良いと思ってはいた」

 その言葉に、リラの顔がパッと明るくなる。

「じゃあ……」
「弟子としてなら置いてやらんでもないよ。もっとも、私の教えは厳しいし、根を上げるようならとっとと追い出すけどね」
「ありがとうございます」

 リラはそう言って頭を下げた。

「それと、パド」
「はい」
「あんたはラクルス村に戻りな」
「え、でも……」

 リラの方をちらっと見る。
 彼女をここに置いて、僕だけ村に戻って良いのだろうか?
 それに、村長や両親は僕を許してくれるだろうか?

「あんたが今やるべきことは、両親に自分の無事を知らせることだろう? 今こうしている間も、あんたの両親は悲しんでいるかもしれないんだよ」

 そうだ。
 お父さんやお母さんはきっと僕が死んだと思っている。
 ジラやキドやスーンや村長も責任を感じているかもしれない。
 自分の無事を知らせるのは僕の義務だ。

「でも、みんな僕のことを許してくれるでしょうか?」

 これだけ勝手なことをしでかしたのだ。
 きっと村長もお父さんも怒っている。
 やっぱり僕のチートは受け入れられないと思われたかもしれない。

「許してもらえるなんて期待はするな。許してもらえるまで謝って、それでも許してもらえなかったら相手を恨まず自分を省みろ。
 だが、このままでは村長達も、許す許さない以前の話だ」

 その通りだ。
 僕はちゃんと村に戻って、皆に無事を報告して、それから謝らなくちゃいけない。
 許してもらえなかったとしても、それが僕の責任であり、義務でもあるんだ。

「村までの地図と、ついでに3日分の食料は特別サービスしてやろう。まあ、何事もなければ2日で着くだろうけど」

 その言葉に、リラが言う。

「パド1人で行かせるの?」
「さすがにそこまで面倒みきれん」

 いや、十分だ。
 3日間寝かせてくれて、薬や食料、それに色々な知識ももらった。
 これ以上何かを求めたら、それこそ図々しい。

「大丈夫だよ、リラ。1人で帰れるから。
 ブシカさん、何から何まで本当にありがとうございます」

 僕は頭を下げた。
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