神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第一部 ラクルス村編 第二章 禁忌の少女

6.漆黒の世界の腹黒き住人

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『じゃあ、助けてあげようか?』

 突如僕の頭の中に響いた声。
 無邪気なようで、それでいてあざ笑うかのような冷たさのある声。
 女性――いや、どちらかと言えば声変わり前の少年の声……?

「誰!?」

 僕は周囲を見回す。
 だが、それらしい存在は見当たらない。

『お兄ちゃんに力を与えられるモノだよ』
「力……?」
『そうさ。お兄ちゃんは今、自分に力があればって強く願っただろう? だからボクが与えてあげる。彼女を助けるための力を、さ』

 彼女――リラ。

 ――一体、これはなんだ?
 鷹男の毒にやられて意識が混濁して幻覚を聞いている?
 だけど、それにしてはリアルすぎる気がする。

『ほら、どうするんだい? 彼女を助けたいのか助けたくないのか。お兄ちゃんの本当の気持ちを言ってみなよ』

 まるで、数分前に僕がリラに言った言葉をそのまま返されたかのようなセリフだ。
 っていうか、何故僕のことをお兄ちゃんと呼ぶんだ?

「……助けられるなら、リラを助ける力が手に入るなら、ほしいよ」

 僕のその言葉に、満足気な声が響いた。

『いいよ』

 --------------- 

 次の瞬間、僕は漆黒の世界にいた。
 夜の森も暗かったが、ここには月明かりも星もない。
 ただただ真っ黒な世界。

 ――なんだ、ここは?

 1つだけ覚えがある。
 桜勇太としての人生を終えた後、魂だけがたどり着いた場所。
 混じりっけなしの真っ白な世界。
 ここはその真っ黒版だ。

 と。
 唐突に僕の目の前にある人物が姿を現した。

『やあ、ようやく会えたね。お兄ちゃん』

 僕はその姿に愕然となる。

 10歳前後の少年。見覚えのある顔と服。
 7年前、転生する直前、僕が最後に見た光景。
 両親を力強く抱きしめた弟――稔。

 目の前にいるのは、まさしく前世の僕の弟だった。

 ――いや、そんなわけない。

 冷静に考える。
 稔がこんなところにいるわけがないし、あれからもう7年以上経っているのだ。

『ふふふ、その通り。この姿はお兄ちゃんの記憶を元にしたかりそめに過ぎない。元々ボクには本来の姿なんてないんだ』

 だとしたら、ずいぶんと悪趣味だ。

『そうかい? お兄ちゃんが1番会いたい人の姿になってあげたつもりだったんだけど。なんなら別の姿にするか。そうだなぁ……』

 ヤツの姿が変わる。
 今度は前世のお母さんの姿。

『これならどう? それともこっちがいい?』

 前世のお父さんの姿、さらには今の両親や、ジラ、リラ、村長、テル、キド、スーン、お医者さん、看護婦さん……とボクの知っている人間の姿に次々と化けていく。

 その行動に、僕は不快感を強める。
 くそ、こんなことをやっている間にもリラはブルフに連れて行かれてしまうかもしれないのに。

『あ、それは大丈夫。そう、この世界は魂だけの世界。現世とは時間軸が異なるから、お兄ちゃんが元の世界に戻れば時間はそのまま。
 ゆっくり話をするのに便利でしょ。
 もっとも、話といっても空気を震わせて声を出すなんてできないけどね。この世界にはそもそも空気がないし』

 おねーさん神様と話した世界と同じってことか。

『おねーさん神様? ああ、例の下級神のことか』

 今度はその場でおねーさん神様――ガングロのあの姿に変身した。

 下級神?
 神に上級も下級もあるんだろうか。
 いや、確かに神様免許取り立てとか、部長がどうこうとか言っていたような気もするが。

『いやー、下級なだけでなく、ドジもいいところだよね。200%と200倍を間違えるとか。さすがにボクも久々に笑わせてもらったよ』

 言いながら、ヤツは再び稔の姿に戻る。

 やっぱり、彼女は僕に200%――つまり、2倍の力を与えようとして200倍の力を付与してしまったらしい。

『お兄ちゃんがもらったのは、力だけでなく魔力もだよ。それこそ神様からもらったチートだね』

 ――その姿で『お兄ちゃん』とかいうのやめてほしいんだけどな。

『えー、お兄ちゃんのイジワル』

 ――くっ。
 怒鳴りたいけど、この世界では怒鳴れない。

 ――いや、そもそも今気にすべきコトはそんなことじゃない。

『そう。その通り』

 何故魂だけがこんな世界に来てしまったのか。
 ひょっとして、僕はまた死んだのか?

『あはは、その心配はいらないよ。お兄ちゃんはまだ死んでいない。いや、7年前に死んでいるけど、パドとしては死んでいないよ。
 この世界に来てもらったのは、僕がお兄ちゃんに魔法をあげるため。
 それとここは現世と違う時間軸にあるから、ゆっくり話ができるしね』

 魔法。
 パドとして産まれて7年、実際には見たことがないけれど、やはりあるのか。

『見たことがない? お兄ちゃん、さっき魔法で攻撃されていたじゃん』

 ヤツはクスクスとおかしそうに笑う。
 魔法で攻撃? いつ?

『あはは、人間の身体に鳥やらコウモリやらの羽をつけただけで、空を飛ぶなんて物理法則を超越しているよ。しかも、催夢系の魔力を込めた羽を飛ばすなんて、魔法を使っているからこそできるのさ。
 ついでにいうと、アベックニクスが暴走したのも、角の生えた女獣人の仕業。自分たちがすぐに追撃できないから、自分の因子であるアベックニクスに追撃させたんだよ。
 お兄ちゃんのせいでそれが失敗に終わったから、今度は自分たちでラクルス村を訪ね、さらに追走したってわけ』

 獣人達は実は魔法を使っていたのか。

『獣人達は、獣の因子が目覚めた時点で自動的に魔法も使えるようになる。だから、本人達は魔法だと認識していないみたいだけどね』

 なるほど。
 鷹男やコウモリ女は自分の羽で飛んでいるつもりだけど、その実ある程度は魔法に頼っているわけだ。

『そう。お兄ちゃん頭良いっ!!』

 くう、コイツ、本当にむかつくなぁ。

『もう、さっきからヤツとかコイツとか、ひどいなぁ』

 だって、僕はお前の名前を知らないからな。
 間違っても稔なんて呼びたくないし。

『ああ、そうか。それもそうだよねぇ。今のボクには固有の名前がないんだけど……そうだなぁ、じゃあ、ルシフとでも呼んで』

 ルシフか。
 OK。
 で、ルシフさんよ。一体いつまでその姿でいるんだ?

『うーん、お兄ちゃんが嫌がっているのが面白いから、しばらくこのままでいようかなと』

 うわぁ、殴りたい。

『ははは、この世界でお兄ちゃんがボクを傷つけられる可能性なんて皆無だよ』

 くそっ。

『さて、それじゃあ、本題だ。お兄ちゃんはリラを助けたい。そして、ボクはお兄ちゃんを助けたい。ここまでOK?』

 ルシフが僕を助けたいというあたりが凄く怪しいけど。
 なんで、お前は僕を助けたいんだよ。

『そこは、ほら、兄弟の絆?』

 ふざけんな。
 お前は稔じゃない。

『あはは、じゃあこう言おう。
 他人を助けるのに理由なんているかな?』

 博愛の精神か。
 まことにすばらしいね。
 僕も大賛成だ。
 その言葉を発した相手が、ニヤニヤと嫌みったらしく意味ありげに笑っていなければだが。

『さっきから、お兄ちゃんの言葉の方がよっぽど嫌みったらしいと思うよ。
 ま、それはいいか。
 で、どうするの、お兄ちゃん。彼女を助けるためにボクの力を借りる? それとも、やめておく?』

 ――それは。

 目の前の相手は一欠片も信頼できない。
 だけど、その一方で、僕にはもうリラを救うすべがない。

 やりたいことがあって、でも自分にはその力がない。
 そして、目の前には手助けを申し出ている相手がいる。

 ならばどうするべきか。

 ――一応、話だけは聞いてやるよ。

『ふん、お兄ちゃんも素直じゃないなぁ。
 じゃあ、簡単に説明するね。
 ようするに、お兄ちゃんと彼女……えーっと、リラだっけ? 2人がのさ』

 ――は?

 ---------------

 それからさらにルシフと色々話した後、僕の魂は元の世界に帰還した。

 確かに時間は経っておらず、ブルフがリラに手を伸ばそうとしていた。
 僕は駆ける。
 よし、身体は動く。
 ルシフが言ったとおりに。
 リラのそばまで駆け寄り、ブルフよりも早くリラを抱き上げる。

「ほう、まだ動けるか」

 ブルフは感心しつつ、剣を抜く。

 よし、あとやることは、僕とリラが死んでみせること。
 僕は再び跳ぶ。

「どういうつもりだ? そちらは崖だぞ」

 そう、僕が跳んだのは崖の方向。
 逃げるならば逆方向に行くべきだ。

「……パド」

 僕の腕の中で、リラが細い声をだす。
 抱き上げる力加減を間違えて、彼女を骨折でもさせていないか不安だが、今はそれどころじゃない。

 僕は小声でリラに問う。

「リラ、僕を信じてもらえますか?」

 その僕の問いに、リラはすぐに頷いてくれた。
 ならば。

「リラは、渡さない」

 僕はブルフに向かっていった。

 背後の鷹男から羽は飛んでこない。
 これもルシフの言っていたとおり。
 羽の本数には限りがあるらしい。

 ブルフは僕らに剣を突きつけ尋ねる。

「ならばどうする?」

 僕はニヤリと笑った。

「渡すくらいなら、一緒に死ぬさ」

 そう言い切り、僕は
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