神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第一部 ラクルス村編 第一章 ラクルス村のパドくんはチートが過ぎて大変です

11.お母さんの笑顔

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「お母さん、お話があります」

 崖の上でお父さんとお互いの秘密を明かし合った後。
 僕らは家に帰ってからお母さんに僕の秘密を話すことにした。

 お父さんと違って、お母さんはすでに僕のことを怖がっている。
 そんな状態で、さらに前世や呪いチートのことを話したらもっと状況は悪くなるかもしれない。

 でも、お父さんは言ったんだ。

「俺はサーラにも謝らなくちゃいけない。お前が産まれた日、サーラの言葉を信じてやることができなかった。サーラは1人で得体の知れない恐怖におびえていたのに」

 お父さんの言葉はもっともだと思う。
 そして、謝らなくちゃいけないのは僕もだ。

 僕がきちんと話をしていればお母さんは、少なくとも1人で恐怖におびえる必要なんてなかったのだから。
 その結果、僕が家や村を追い出されたとしてもだ。

「サーラ、これは重要なことだ。頼む、話を聞いてくれ」

 お母さんは小さく頷いた。

 ---------------

 家の小さな机を囲んで。
 僕たちは家族3人で話をすることになった。
 前世でも今世でも、こうやって家族で向かい合って真剣な話し合いをするのは初めてだ。
 緊張する一方で、どこか『嬉しいな』と感じている自分がいるのが不思議だ。

「最初に言わなくちゃいけないのは、僕が産まれた日のことです。
 あの日お母さんが見た、立ち上がった僕の姿は幻なんかじゃありません」

 僕の言葉に、うつむいていたお母さんは顔を上げた。

「どういうこと?」

 お母さんに聞かれ、僕は話し出す。
 前世のこと、転生のこと、チートのこと。
 お母さんは黙ったまま、それでも確かに聞いてくれた。

 そして、お父さんと僕はお母さんに謝罪の言葉を言う。

「……だから、俺はサーラに謝らなくてはならない。
 お前は幻を見たわけじゃない。あの日、俺に必死に訴えていたことは事実だったんだ。
 俺はそれを信じることができなかった。妻の言葉を切り捨てたんだ。心から申し訳なかったと思う。すまない」
「僕も、お母さんが苦しんでいるのを知っていたのに、ずっと秘密にしていました。本当にごめんなさい」

 僕たち2人の話を最後まで聞き終えて、お母さんは両手を膝の上でギュッと握りしめた。

 そして語り出す。
 お母さんの本当の気持ちを。

「私、ずっと自分の頭がおかしくなったんじゃないかと思っていた。
 赤ん坊が立ち上がるなんて、普通ありえない。みんなが私の見間違いだと言うのも当たり前だと思ったから。
 でも、自分の見たことが幻だとはどうしても思えなくて。だから、きっと私は心を病んでいるんだって思っていた」

 淡々と。
 でもしっかりとした口調で。
 お母さんは自分の想いを僕らに話してくれた。

「違います。お母さんが見たのは幻なんかじゃありません」
「ええ、そうだったのね。
 でも、私はずっと自分の心が信じられなかった。それで、パドのことも、バズのことも受け入れられなくなったの。
 だって、心のおかしい女が子育てしたり、もう1人子どもを作ったりなんてするべきじゃないと思ったから」

 その言葉が僕の心にズンと突き刺さる。

 僕はなんてバカだったんだ。
 なんてくだらない思い込みをしていたんだ。
 家族と幸せになりたいなんて思っていながら、どうしてこんなとんでもない大間違いをしていたんだ。

 お母さんは僕を恐れ、嫌っているのだと思っていた。
 それで、僕と話をしたがらないのだと。
 だからこそ、お父さん以上にお母さんには秘密を明かしたくなかった。

 だけど違った。
 お母さんはずっと自分自身を信じられなかったんだ。
 お母さんが恐れていたのは、ということだった。
 自分は頭がおかしいから子育てをしてはいけないんじゃないかってずっと悩んでいた。

 全部僕のチートのせいで。

 いや違う。
 チートのせいなんかじゃない。
 僕がだ。

「ごめんなさい、お母さん、本当にごめんなさい」

 僕は、お父さんと話したときとは違った意味で涙をボロボロ流した。

「パド、私こそごめんなさい。7年間、母親としてするべきことを、ずっとしなかった。本当にごめんなさい。あなたが苦しんでいたのに、母親として気づけなかった」

 お母さんはそう言って僕を抱きしめてくれた。

「僕は……ここにいてもいいんですか?」
「当たり前じゃない!! あなたは私とバズの子どもよ」
「本当に? 僕は前世の記憶を……」
「前のご両親ができなかった分も、私たちがあなたを幸せにしてみせる」
「お母さん……」

 お母さんは僕を力一杯抱きしめてくれた。
 僕も同じようにしたいけど、自分の力を考えるとできないのが悔しい。

「そうだぞ、パド、色々あったけど、俺たち3人は家族だ。これから、1つずつ家族の形を作っていけばいい」

 お父さんも言う。

「はい」
「パドの秘密が分かった以上、俺も、もう二度と浮気なんてしない。誓うよ」
「はい……」

 ……って、え?

「……浮気は僕の秘密と関係なくないですか?」

 僕は涙もそこそこに、思わずツッコむ。

「そうね、それは関係ないわね」

 お母さんも同意する。

「っていうか、浮気は100%お父さんが悪いですよね」
「ええ、間違いなくそうね」

 僕とお母さんは涙を拭きながらジト目でお父さんを見る。

「え、いや、なに? この話し合い、最後はそういう流れなのか!?」

 慌てるお父さん。

「いや、だって……」
「ねぇ?」
「浮気はダメですよね」
「それをパドの秘密のせいにするとか……。さすがに男らしくないとしかいいようがないわ」

 僕とお母さんが口々に言う。

「ちょ、いや、あの、確かにそうだけど、でも、そこには男としての肉体的な欲望とか、そういう……」

 お父さんがひたすら言い訳を続ける。

「肉体的な欲望って……子どもの前で何を言っているのよ」
「いや、だって、パドは前世の記憶を持っているわけで……」

 とがめるお母さんにお父さんがさらにイイワケする。

「前世って言っても11歳で死にましたから、そんな欲望持ったことないです」
「うっ」
「そもそも肉体的な欲望って……もう、妻として聞いているだけで恥ずかしいわね」
「ううっ!?」

 引きつった顔で文字通り、椅子ごと後ずさるお父さん。

「そうそう、お母さん。お父さんってば結婚前日に崖の上から街に向かって……」
「うわぁぁぁぁ、それは秘密って言っただろう!?」
「でも、お母さんには僕の秘密も話したんですから、お父さんの秘密も話していいと思います」
「いや、パド、それ、どういう理屈!?」

 お父さんが慌てるが、もちろん僕は知ったことではない。

「何々? 結婚前日に何があったの?」
「崖の上から都に向かっておしっこして世界を征服した気分に浸ったそうです」
「……はぁ?」
「どうも、昔は冒険者にあこがれていたらしくて、結婚への踏ん切りのためだったとか」

 僕がそこまで言うと、お母さんは声を上げて笑い出した。

「なによそれ、おかしい。バカみたいっ」

 お母さんは心の底から楽しそうに笑った。
 それは、産まれて7年間、一度も見たことがなかったお母さんの笑顔だった。

「バカみたいって、男の夢をお前は……」

 お父さんの言葉にも、お母さんは笑顔のままで。
 つられて僕も笑って。

 だから、僕もお母さんと一緒に笑って。
 7年分――いや、18年分、笑いまくって。

 笑って、笑って、笑い疲れて。
 この笑顔をずっと大切にしたいって思って。

 だから、僕はこのときこう思ったんだ。

『僕たちの家族はきっとこれから幸せになれる』

 その後僕の家族に訪れる残酷な運命なんて想像もせずに。
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七草裕也の小説
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