神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第一部 ラクルス村編 第一章 ラクルス村のパドくんはチートが過ぎて大変です

8.戦い終わって、問題山積み

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 僕がアベックニクスを倒した後。

「やったなパド。お前、すごかったんだな」

 興奮して僕を称え、駆け寄ってくるジラ。

 それとは裏腹に、テルとキド、それに僕の表情は固かった。
 ジラはそんな僕らの様子が不思議らしい。

「なんだよ、どうしたんだよ?」

 さすがに僕ら3人の様子がおかしいと気づいたのか、ジラも顔をしかめる。
 そんなジラに、テルが言う。

「ジラ。パドの力のことは誰にも言うな」
「はぁ? なんでだよ」
「いいからっ! 絶対に言うな!! キドもだ」

 リーダーのテルに強く怒鳴られ、ジラは不満げな顔を浮かべつつも押し黙る。

「パド、色々尋ねたいことはあるが、全部後回しだ。まず、アベックニクスを倒したのは俺とキド。大人達にはそう説明する。いいな?」

 テルの言葉に不満げなのはジラ。

「なんだよそれ、パドの手柄横取りするつもりかよ?」

 ジラは僕のために言ってくれているのだろう。だが、分かっていない。
 僕はジラに言う。

「ジラ、すみませんがテルの言うとおりにしてください」
「はぁ? 何でだよ?」

 ジラは純粋に僕の力を歓迎している。
 勇者様に憧れる少年は、僕のことすごいと言ってくれている。

 だけど、それは彼がまだ幼いからだ。
 もう少し生きた人間は、もっと色々なことを考える。
 僕の力のリスクとメリット。
 その力の正体。
 単に『すごい力だ、すげー』とはならない。
 この村の大人達はやさしいいい人ばかりだけど、小さなコミュニティにはあまりにも異質なモノを受け入れる土壌はない。

 横からキドが口を挟んだ。

「ジラ、もし大人達にこんな力を持っていると知られたら、パドは村にいられなくなる」
「そんなっ……」

 口ごもり、何かを言いたげにして、だけどジラはそれ以上何も言い返せない様子だった。
 彼も村長の孫。テルやキドの言いたいことが理解できないわけではないのだろう。

「……わかったよ」

 だから、最終的にはジラも頷いてくれた。

「だけど、この状況でその嘘が通じるかは知らねーぞ」

 頭蓋骨が粉々になって倒れているアベックニクスや、僕が開けた2つの大穴を示すジラの言葉は、確かに正論だった。

 ---------------

 その後、程なく村の男衆がやってきた。
 僕やキド、テルのお父さん、それにジラの祖父である村長もその中にいた。
 
 マリーンが村にたどり着くまでもなく、アベックニクスの咆哮は村まで届いていて。
 月始祭前の狩りに出ようとしていた男達を中心に川原に向かったのだ。マリーンとは村の入り口付近ですれ違い、事情を聞いたらしい。

 大人達を案内してきたのはサンだった。
 泣き虫だと思っていたけど、彼も男の子なのだ。

 大人達が戦いの結果を見てどう判断したかは分からない。
 テルとキドが倒したという説明を鵜呑みにはしていないだろう。僕ならば絶対に信じない。

 だが村長は、血まみれの子ども達を尋問するようなことはしなかった。
 お父さん達に僕らを村に連れ帰るよう命じ、お父さん達や僕らもそれに従う。
 村長をはじめとして、僕とキドとテルの父親以外の大人達はその場に残った。
 アベックニクスの死体の始末や、僕らが途中だった水くみのつづきをしなくてはいけないのだ。

 村の入り口では女性達が待っていた。
 テルとキド、それにサンの母親が泣きながらそれぞれを抱擁した。

 サンは母親の腕の中で大泣き。
 テルは肩口の傷が思った以上に深かったらしく、張り詰めていた気持ちが切れてその場で意識を失ってしまった。
 キドもクタクタの様子で、3人ともそれぞれの家に戻る。
 母親のいないジラは、姉のナーシャさんに抱擁されそうになり、恥ずかしそうに押し返していた。素直じゃないなぁ。

 僕のお母さんもその場にいて、でもやっぱりその瞳は冷たいままで、もちろん僕を抱き寄せたりもしない。
 お母さんはやっぱり僕を嫌っている。

 ――だけど。

「無事なら良かったわ」

 お母さんはボソリと、それでも少なくとも祝福する言葉を言ってくれた。

「はい。ご心配をおかけしました」

 僕の言葉に、お母さんはそれ以上は何も言わず、後ろを向いた。
 それでも、僕はちょっとだけうれしかった。

 ---------------

 ひとしきり、無事を確認した後、皆がそれぞれの家に向かう。
 お母さんが先に家に入り、僕もそれに続こうとしたとき、お父さんが僕の頭に手を置いて言った。

「よく皆を護ったな、パド」
「アベックニクスを倒したのはテルとキドですよ」
「……そうか、そうだったな」

 お父さんはそう言った。
 ……たぶん、納得はしていない様子で。

 お父さんにだけは本当のことを言うべきなのかもしれない。
 そう思っても、どうしても言えない。

 7年前、お母さんが僕に見せた恐怖の表情。
 今日、テルとキドが見せた困惑顔。

『こんな力を持っていると知られたら、パドは村にいられなくなる』

 キドの言葉はたぶん事実で。
 そして、お母さんとお父さんの関係が壊れたのも、僕がこんな力を持っていたからで。
 もしもお父さんに僕の力を知られたらどうなるのか恐ろしくて。

 それに、どうしてそんな力を持っているんだと聞かれたら、きっと転生のことも言わなくちゃいけなくなる。
 そこだけごまかして話せるほど、気の利いた会話が自分にできるとは思えなかった。

 僕が前世の記憶を持っているなんて知られたら……

 もしかしたら、お父さんに『この家を出て行け』て言われるかもしれない。
 村長に『村から出て行け』って言われるかもしれない。
 大人達に石を投げられて追われるかもしれない。

 考えれば考えるほど泣きたくなるほど恐ろしくて。
 だから僕は自分の力について何も言えず、家に入ると別の話題を出した。

「そういえば、あの女の子はどうなったんですか?」

 もう1つの気がかりだった、川原で見つけた謎の少女について聞く。
 お父さんによると、彼女は今、村長の家に置かれているらしい。
 アベックニクスの騒動で慌てていたのでお父さんも詳細は聞いていないが、おそらくまだ意識が戻っていないとのこと。
 相当衰弱していたらしいので、もしかしたらどこの誰かも分からないまま目覚めないかもしれない。
 前世と違って点滴なんて技術はないから、意識が戻らなければ水や栄養を摂ることもできない。後は彼女の体力次第だろう。

 ---------------

 それからしばらくして、ナーシャさんがやってきた。

「バズ、ちょっといいかしら? 村長が呼んでいるわ」

 ナーシャさんはジラのお姉さん。つまり村長のもう1人の孫だ。
 今年17歳の彼女は老齢にさしかかった村長の補佐をしている。
 ジラは自分が次期村長だと思っているようだが、ナーシャさんか、あるいはナーシャさんが結婚すればその相手が次期村長になる可能性も高いかもしれない。

「わかった」

 お父さんはうなずき、家を出る。
 残されたのは僕とお母さん。
 お母さんは相変わらず無表情で気まずい。

 ---------------

 お父さんが戻ってきたのは、たぶん1時間くらい経ってからのことだったと思う。
 この村には時計がないから正確ではないけど。

「お父さん、どうでした?」
「うん? ああ、あの女の子ならまだ意識が戻らないみたいぞ」

 そっかぁ。
 ……って、いやいや、それも気になるけれども。

「そうじゃなくて、村長はなんて?」
「それは……」

 お父さんは言いよどむ。
 説明が難しいというよりも、口に出したくないという表情だ。
 やっぱり、アベックニクスを倒した時の話は問題になったのだろうか。
 あの状況を見れば、あきらかに普通の状況じゃないのはわかったはずなんだから。

 どうしよう。
 お父さんに全て告白する?
 だけど。

 僕が迷い悩んでいると、お父さんが意を決したように言う。

「パド、お前、明日ちょっと俺に付き合え」
「え? 狩りですか?」

 明後日は月始祭。
 月に1度、村人皆でお肉を食べる日。
 そのためには狩りが必要で、でも今日はそれどころじゃなかった。

 だから、きっと明日狩りに行くんだろうと思ったのだ。
 とはいえ、狩りへの参加は15歳以上と決まっていたはずだけど。

「違う違う。狩りは必要ない」
「月始祭はやらないんですか?」
「いや、アベックニクスだけで十分だろ」

 あ、そうか。
 牛1頭と同じくらいの量の肉が手に入ったのだ。
 今月は狩りなんて必要ないかもしれない。

 ……鱗に覆われたアベックニクスが食用になるかは知らないけど。

「じゃあ、畑仕事ですか?」
「違う。ちょっと村の外に出かける」
「村の外に?」

 ラクルス村の住人はあまり外部と接触しない。
 閉鎖的というよりは、隣村すら1日かかるような距離だしほとんど用事も無いからだ。
 たまに複数の村で会合はあるみたいだけど、村長と、あとは結婚適齢期の希望者がお見合い目的で参加するくらいだ。

「ああ、そうだ。といっても、そんなに遠くじゃない」

 隣村ですらないってことか。

「でも、水くみしないと」
「あんなことがあったばかりだ。子どもを川にはやれない。テルも明日は安静にしておくべきだろうしな。他の子もショックを受けているし、明日は水くみ洗濯は大人達でやるそうだ」

 なんだかわけが分からない。
 水くみに大人の手が割かれるなら、それこそ人手不足だと思うんだけど……
 でも、お父さんの顔は真剣だ。

「またアベックニクスが出たら?」
「さすがに何頭もやってくるとは思わないし、あの巨体がやってこれる場所でもないが、仮に出会ったら父さんがやっつけるさ。もちろん、村長にはちゃんと許可を取っているぞ」

 断れる雰囲気じゃない。
 そもそも、断りたい理由もそんなにないし。

「……わかりました」

 僕はそう頷いたのだった。

「でも出かけるってどこに行くんですか?」

 僕の質問に、お父さんはニヤリといたずらっ子のような笑顔を浮かべた。

「お父さんの秘密の場所さ」
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七草裕也の小説
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