神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第一部 ラクルス村編 第一章 ラクルス村のパドくんはチートが過ぎて大変です

1.転生したけど……記憶消えてないじゃんっ!!

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 痛い!!
 痛いっ!!
 痛い痛い痛い痛い痛い痛ぁぁぁぁぁい!!!!!!

 気がつくと僕は頭を締め付けられていた。
 いや、本当に。
 縛られているというんじゃなくて、頭ぎゅぅっと握り絞られるみたいな。

 わけがわからない。
 何?
 いったい何が起きているの?
 今度は頭の先を誰かに掴まれて引っ張られている!?

 いや、痛いから。
 本当に痛いからっ!!
 死ぬぅぅぅっ!!

 ――あれ? 僕もう死んだんだっけ?

 地獄のような時間が終わり、僕は目を開けた。
 視界がぼんやりしている。
 そして誰かに抱かれている?
 なんだろう、体に違和感。
 自分の体格が以前と全然違うような……
 あと、体中にぬるぬるした液体がついているような。

 と。

「×○△▼……」

 なにやら声が聞こえる。
 が、聞いたことがない言葉だ。
 少なくとも日本語じゃない。
 確信は持てないけど英語でもないと思う。

 だんだんと視界が広がっていく。
 僕を抱いていたのは薄紅色の服を着たおばさんのようだ。
 彼女はにっこりとした笑顔を僕に向けている。

 少し首を横に向けてみると、別の女の人がつらそうに、でもうれしそうな笑顔をこちらにむけていた。
 その笑顔は僕に向けられていて……

 ああ、そうか、僕は今、生まれたんだ。
 ようやく記憶と現状がつながる。

 桜勇太として11年の生涯を終えた僕は、神様を名乗るガングロおねーさんの言葉通り転生したのだろう。
 そして、今、この瞬間に生まれた。
 横たわっている金髪の女性が僕を生んでくれた人。
 さっき締め付けられたように感じたのは出産だったんだ。
 出産は母親もつらいけど、赤ちゃんもつらいんだね。
 まあ、当たり前か。

 ……うん?
 僕は転生した。
 それはたぶん間違いない。
 でも、おかしいよ。
 おねーさんの言っていたことと違う。
 記憶消えてないじゃんっ!!
 僕は桜勇太としての記憶を持ったまま、この世界に転生したとしか思えない。 

 ――ふむぅ?
 なぜこんなことになった?

 正直僕には分からない。
 分からないが……あのガングロおねーさんのやったことだからなぁ。
 きっと、何かの手違いで記憶を消し忘れたんだろう。
 うん、あのおねーさんならやりそうだ。

 ――そういえば、最後におねーさん神様がなにか慌てていたような……

 神様のくせにいい加減だなぁと思う一方、うれしいとも思う。
 記憶を持ったまま、もう一度人生をやり直せるのかもしれない。

 ともあれ、生まれたからには少し体を動かしてみるか。
 僕は両手を動かしてみた。

 おお、動く動く。
 手を握って開いて、グーパーグーパー。
 自分で言うのも何だが、赤ん坊の小さなお手々が握って開いてするのはかわいい。

 次は――足。
 桜勇太の体では一度たりとも僕の意思で動かすことができなかった部位。
 動かせるのかな?
 正直怖い。
 おねーさんは今度は健康体、それも普通の2倍の力と魔力をくれるって言っていた。
 なら動かせるはず。

 だけど、記憶を消し忘れるくらいだ。
 もしかして、今回も下半身麻痺で生まれたなんていうこともあるかもしれない。

 それに――足を動かすってどうやるんだ?
 なにしろ動かしたことがなかったのだ。
 僕の魂はその方法を知らないのではないか。

 ――そう思ったけど。
 今は自然と理解できていた。
 理由は分からない。
 人間の本能なのかもしれない。
 たぶん、足を動かす方法は大丈夫。

 僕は足に力を入れようとして――

 ――やっぱり、怖い。
 もし動かせなかったら……
 この体でも足を動かせないって分かったら……

 でも。
 やってみくちゃ分からない。
 分からないままなら一生動かせない。

 僕は慎重に――ゆっくりと足に力を入れた。

 ――すると。
 僕の思った通りに足がピクっと動いた。
 
 よしっ!!
 動かせる。
 きっと、動かせる。

 僕は今度はもう少し大きく、足を前に出してみた。

 ――そして。

 足が前に……動いた!!
 足を動かせたよ!!

 前世では自分の意思では一切動かなかった足だ。
 嬉しくなって、足をあっちにブラブラこっちにブラブラと動かしまくる。
 そんなことをやっていると、勢い余って抱いてくれていたおばさんのお腹を蹴飛ばしてしまった。

 といっても、ほんの軽くだ。
 まして赤ん坊の力。痛いわけもないだろうし、ゆるしてくれるかな。

 そう思ったのだが。
 僕を抱いていたおばさんが苦しげな声を上げた。

「ぐ、ぐふっ」

 おばさんから力が抜けていき……
 おばさんはその場にうずくまり、僕を床に置く。
 
 そして、そのまま彼女は気を失った。

 ---------------

 生まれたばかりの僕の足が軽く当たっておばさんが倒れた。

 ――後から思えばこれが、僕の呪いチートが最初に発揮された瞬間だった。

 だが、その時の僕はそんなことには気がつかなくて――

 産後の体でお母さんが慌てて起きようとして、でも起きられなくて何事かを扉の向こうに叫ぶのを、ただ黙って床に横たわったままで見聞きしているしかなかった。

 すぐにドタドタと大人が数人駆け込んできて、僕をひげづらのたくましい男が抱きかかえてくた。
 倒れたおばさんは他の人たちが部屋の外へと運んでいく。

 ――どうしたんだろう、あのおばさん? 大丈夫かな?

 僕はそんなことをのんびり考えていた。
 一方、ひげ面は僕を抱きかかえたまま、お母さんとなにやら会話している。
 言葉が分からないが、少し興奮状態のお母さんにひげ面がお母さんに優しく声をかけているようだ。
 ……ひょっとしてこのひげ面が僕のお父さんなのだろうか?
 年齢的にはお母さんよりも上みたいだけど。

 さて、そこまで考えたら少し眠気を感じた。
 赤ん坊は眠るのが仕事だからね。
 でも、テレビドラマでは赤ん坊が生まれたら何かやっていたような……

 そうそう、赤ん坊は生まれてすぐ泣かなくちゃいけない。
 泣かない赤ん坊は病弱と見なされる。
 場合によっては、赤ん坊の足を持って逆さにしてお尻をペンペン叩いてでも泣き声を上げさせるんだっけ?

 うん。
 お尻ペンペンはいやだな。
 前世では麻痺していたからお尻を触られても感覚がなかったけど、この体なら痛いだろう。
 無意味に叩かれたくはないし。
 ……うん、とりあえず一声あげておくか。

「おんぎゃあぁ」

 僕は大きな産声を上げた。
 ひげ面とお母さんがそれをみて喜んだ。

 桜勇太として生まれたとき、僕は産声を上げる力もない未熟児だったらしい。
 でも、今回は大きな声で産声をお母さんに聞かせることができた。
 それだけで、僕はとても嬉しく思った。

 ひげ面の男が僕をぎゅっと抱きしめてくれる。

「きゃはははっ」

 思わず笑ってしまう。
 前世ではお父さんやお母さんに抱っこされることすら許されなかった僕は、このとき確かに幸福を感じていた。

 うん、このひげ面は僕のお父さんだ。
 根拠はないけど、そうだと思う。
 ここからはお父さんと呼ぼう。

 お父さんは僕を床近くまで下ろす。
 どうしたんだろう?
 と、思ったらなにやらぬるいお湯に体がつかる。
 木のたらいにお湯が浸っているみたいだ。

 ……そうか、お湯で体を洗ってくれるんだ。
 僕は前世でお風呂に入ったことがない。
 体は毎日お湯や消毒薬で拭かれたけど、こうやってお湯につかるのは初めてだ。
 抵抗力のない桜勇太はお湯に浸かることすら許されなかった。

 やさしくお父さんが僕の体を洗ってくれる。
 うん、気持ちいい。
 すごく、気持ちいい。
 お湯で体を洗うのって、こんなに気持ちいいものだったのか。

「きゃっきゃっ」

 僕はちょっとうれしくなって、少し手を動かした。
 ちょっとだけ、お湯をパシャパシャやるつもりだったのだ。

 が。
 ものすごい水しぶきが起きてお父さんの顔にかかる。
 ――水じゃなくてお湯しぶきか?
 いや、そんなことはどうでもよくて。

 しかも、木のたらいの底が砕けている。

 ……

 …………

 ………………

 ……なに? これ?

 お父さんはしばし呆然として――
 しかし、それでも濡れた僕の体を布で拭いてくれた。
 お父さんは布に包まれた僕をお母さんに手渡す。

 そんな中、僕はおおねーさん神様が最後に慌てながら言っていた言葉を思い出す。

『あれ? ヤバイ、200%に設定したつもりが200倍になってね?』

 それはつまり――

 ああ、でも、もう眠くて仕方がない。
 生まれたばかりの赤ちゃんの脳はずっと考えごとを続けられないのだ。
 お母さんのその心地よい暖かさの中で、僕は幸せな眠りについたのだった。
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七草裕也の小説
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