天倶小学校新聞部 ~ちびっ子天狗と七不思議のヒミツ~

ななくさ ゆう

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第2話 天倶町七不思議のヒミツ!?

2-4 泣き声の聞こえる祠と動き回るお地蔵様とありえないラーメン

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 天倶公園は天倶町の中心部にある児童公園だ。
 そこまで広いわけではないが、一とおりの遊具もそろっているので天倶小の児童には人気だ。
 深織と楓林は天倶公園に集合した。

「残る不思議は『怪奇現象の映るレンタルビデオ』『泣き声の聞こえる祠』『動き回るお地蔵様』『夜な夜なお墓に漂う鬼火』『ありえないラーメン』の五つね。どれから調べようかしら?」
「それぞれの場所はどこだ?」
「『怪奇現象の映るレンタルビデオ』と『ありえないラーメン』は天倶商店街。『動き回るお地蔵様』はここからすぐ近くのビルのそば。『泣き声の聞こえる祠』もその近くね。『夜な夜なお墓に漂う鬼火』は天倶寺よ。厳密には天倶寺に併設された墓地だけど」
「なら、順番は決まっているようなもんだな。まずは『泣き声の聞こえる祠』と『動き回るお地蔵様』だ。その後、『怪奇現象の映るレンタルビデオ』と『ありえないラーメン』で、最後が『夜な夜なお墓に漂う鬼火』でいいんじゃね?」
「この近くから調べるってことね」
「それもあるけど、そもそも天倶寺の鬼火は夜の話だろ。だったら今調べても意味ないじゃん」
「そりゃそうね」

「それに、給食食べたばっかりで、まだ腹減ってないからな。ラーメンなんて食いたくないし商店街は後回しでいいだろ」
「そう? 私はラーメンの一杯や二杯、今すぐでも食べられるけど」

 そう言うと、楓林はあきれ顔になった。

「アンタって実は大食いキャラだな。昨日も夜中にドーナッツをつまみ食いしたんだろ?」
「またおばあちゃんの心を読んだの?」
「心を読むまでもなくばあちゃんの幽霊が言ってるよ。孫の健康のために叱ってやってほしいって」
「マジ?」
「マジマジ。つーか、よく太らないな」
「へへへ、褒めないでよ」
「褒めてねーし」

 そんな会話を交わしつつ、二人は公園から出発した。



 深織と楓林がやってきたのは『動き回るお地蔵様』の現場。
 お地蔵様が設置されているのは、ビルを建設中の工事現場の脇だった。
 楓林が深織に確認した。

「この地蔵が動き回るのか?」
「らしいわね」

 お地蔵様は小さめサイズ。全身一メートルもないだろう。
 楓林がお地蔵様をじっくり眺めた。

「うーん、特に霊気とかは感じないぜ。こう言っちゃなんだけど、普通の地蔵だよ」
「お地蔵様って仏像の一種よね?」
「正確には菩薩の一つ。たしか釈迦が亡くなった後、弥勒菩薩が現れるまでの救済者だったかな」
「へー、よく知っているわね」
「これでも天狗の末裔だからな」

 人通りがそれなりにある場所で、あっさり天狗の末裔を名乗る楓林。

「前から思っていたけど、楓林くんて天狗の末裔だって話を隠そうとしないわよね」
「別にオイラは隠したいわけじゃないよ」
「優占さんは隠せって言っていたじゃない」
「父ちゃんは、オイラが虐められるんじゃないかって心配しているんじゃね?」
「なるほど」

 たしかに小学三年生が『自分は天狗の末裔だ』なんて言ったら、変な子扱いされて虐められるかもしれない。
 深織は「話を戻すけど」と言ってから楓林に聞いた。

「菩薩の像だっていうなら、霊気くらいありそうなもんじゃない?」
「いや、名のあるお寺とかの地蔵ならともかく、こんな誰が彫ったかもわからない地蔵に、菩薩様も一々関わってらんないだろ」
「ま、そうかもね。だとすると、動くっていうのはデマ?」

 などと話していると、背後から男の声がした。

「君たち、そのお地蔵様がどうかしたのかい?」

 深織が振り返ると、そこにいたのは工事現場の作業員だった。

(この人なら、お地蔵様が動いたか知っているかも)

 深織はさっそく取材することにした。

「すみません。ちょっとお聞きしたいんですけど、このお地蔵様って最初からここにありましたか? 動いたりしていませんか?」

 すると、作業員はあっさり教えてくれた。

「うん、動いているよ」
「本当ですか!?」

 まさか、本当にお地蔵様が勝手に動いたのだろうか。

「動いているっていうか、何度か動かしたよ」
「え、それはどういう意味でしょうか?」
「以前はあっちの方にあったんだけど、工事の車や機材の出し入れで傷つけそうだったからね。これまでに五回くらい動かしているよ。工事が終わったら最初の場所に戻す予定だけど、それがどうかしたかな?」

 その話を聞いて、深織と楓林の顔が引きつった。

「……いえ、なんでもないです。ありがとうございました」
「そうそう、安全第一で作業しているけど、子どもがむやみに工事現場に近づかないようにね」
『はーい』

 深織と楓林が力なくそう返事すると、作業員は「じゃあね」と立ち去った。
 その後ろ姿を見送りつつ、深織と楓林はため息をついた。

「つまり、お地蔵様が勝手に動いたんじゃなくて……」
「工事の人が動かしただけってことだな。ったく、どうしたらこれが七不思議なんて噂になるんだよ」



 続いて二人がやってきたのは『泣き声の聞こえる祠』の現場だ。
 ビルが立ち並ぶ中、ひょっこり立っていた祠は、むしろかわいらしい印象を受けた。

 ……のだが。

「オイラが思うに、これってビル風が泣き声に聞こえただけじゃね?」

 楓林の推測に深織も賛成だ。
 今も祠のすぐ近くのビルとビルの間で強風が吹き荒れている。泣き声っぽいと言われればそう聞こえなくもない。
 ビル風の仕組みはネットか図書室で調べないと深織にもわからないが、普通によくある科学現象だ。

 楓林は肩をすくめて言った。

「次行こ、次」
「そうねー」



 続いて商店街にある『ありえないラーメン』を提供するというラーメン屋さんにやってきた。
 店に入ると元気な声がした。

「いらっしゃいませ! ……って深織部長じゃないですか」

 出迎えてくれたのは新聞部四年生の関口せきぐちマリだった。

「なんで、マリちゃんがここにいるのよ?」
「だってこのお店、私のパパが経営していますから」
「え、そうなの?」
「はい。パパが脱サラして、半年前に開店しました。まだ経営が苦しいんで、アルバイトを雇う余裕もないんです。だから私が配膳とか皿洗いとか手伝っているんですよ」
「それは偉いわね。でもお母さんは?」
「ママは役所勤めですから」
「あー、そういえばそうだっけ」

 楓林もマリも、天倶商店街の子どもたちはたくましい。
 マリが楓林を見て言った。

「ところで、なんで楓林くんが一緒なんですか?」
「マリちゃん、彼のことを知っているの?」
「今度の運動会、三年生と四年生は合同でダンスやりますから。今日も体育の時間に一緒に練習しました」
「なるほど」
「部長と楓林くんってお似合いのカップルですね」

 深織と楓林はあわてた。

「ちょっ、やめてよ!」
「オイラとコイツがカップルとか、悪質なデマ流すんじゃねーよ!」

 声をそろえて叫んだが、楓林の言い方にも気になる点があった。

「ちょっと、私とカップルだと悪質なデマってどういう意味よ?」
「そのまんまの意味だよ」

 言い合う深織と楓林に、マリはニッコリ笑った。

「部長と楓林くんって仲がいいんですね」
「ちょっと、マリちゃん!」

 深織が抗議の声を上げると、マリは「冗談ですよ」と笑った。
 いずれにしても、身内が関係者なら取材も手っ取り早い。

「ところで、マリちゃんに質問なんだけど、『ありえないラーメン』に心当たりはあるかしら?」
「もちろんです!」
「え、本当に?」
「食べてみますか?」
「そうね。お願いするわ。もちろんお金は払うから」
「ありがとうございます! パパ、ありえないラーメン二丁! 私の先輩と後輩だからオマケしてあげて!」



 八分後。
 深織と楓林の前にド~~ンと『ありえないラーメン』が置かれた。
 マリの父がニカッと笑って言った。

「マリのお友達が来店してくれるとはうれしいね! いつもマリが世話になっているな」
「いえ、こちらこそマリちゃんにはお世話になっています」

 そんな社交辞令を交わしている横で、楓林が顔を引きつらせていた。

「これが『ありえないラーメン』かよ」

 マリの父は「ガーッハッハ、そのとおり」と豪快に笑った。

「麺四五〇グラム、厚切りチャーシュー十枚、野菜マシマシ、煮卵三個、背脂超増量! さらにドデカウィンナー二本付き! これでお値段九九〇円ポッキリ! 今日はマリの知り合いだからオマケで八〇〇円だ! まさに『ありえないラーメン』だろう?」

 ドデカいどんぶりからこぼれそうなスープ。はみ出すチャーシュー、大量の背脂。
 深織は目を輝かせて箸を手に取った。

「うわぁ、おいしそう! いっただきまーす」

 早速チャーシューを口には運ぼうとした深織に、楓林が「おいっ!」とツッコミを入れた。

「これのどこが七不思議なんだよ!?」
「そういえばそうねぇ」

 ラーメンの魅力に忘れていたが、たしかにもはや怪奇現象でもなんでもない。
 すると、二人の話を聞いていたマリが「あー、もしかして……」と説明しだした。

「実は一昨日、副部長に相談されたんですよね」
「伊都子ちゃんに?」
「ええ。そろそろ部長が『スクープがほしい』って騒ぎ出すだろうから、『天倶町七不思議』を考えているんだけど、どうしても不思議な噂が六個しか見つからないって。で、ウチの『ありえないラーメン』を教えたんです」
「あー、そういうことね」

 深織は納得して、ラーメンを食べはじめた。
 一方、楓林はうんざりした顔。

「なんだよそれ……つーか、給食食べて三時間くらいしか経っていないのに、こんなの食えるかよ」

 深織は首を捻った。

「えー、そう? 遅めの三時のおやつにぴったりじゃん。コッテリしていて、とっても食べごたえがあるわよ」
「どーみてもおやつの量じゃねーだろうが!」
「うーん、たしかにちょびっと多いかな? でもおいしいわよ」

 深織がそう言うと、楓林も諦めたように食べはじめた。



 五分後。
 楓林が驚愕に目を見開いていた。

「マジかよ……アンタ」

『ありえないラーメン』を食べ終わった深織は小首をかしげた。

「うん? 何が?」
「なんで、たった五分でこんなの食い切れるんだよ!?」

 ちなみに楓林は野菜三分の一とチャーシュー一枚しか食べておらず、麺までたどり着いていないようだ。

「楓林くんって食べるの遅いわねぇ。早くしないと、せっかくの麺がのびてスープも冷めちゃうわよ」
「ざけんなっ! ギブだ、ギブアップ! これ以上食えるか!」
「あらら、お腹でも壊してるの?」
「壊れているのはアンタの胃袋だ!」
「そう? 食べないならもらうわね」

 深織は楓林の食べ残した『ありえないラーメン』を食べはじめた。

「うーん、おいしい♡ こりゃいくらでも食べられるわ。常連になっちゃいそう」

 マリはうれしそうに言った。

「ありがとうございます。部長」



 さらに五分後。深織は二杯の『ありえないラーメン』を堪能してから店を出た。
 楓林があきれたように言った。

「アンタ、化け物かよ」
「えー、なんでよ? 楓林くんもちゃんと食べないと大きくなれないわよ。天狗の末裔なんでしょ?」
「天狗関係ねーだろ! アンタこそ、先祖は大食い妖怪だったんじゃねーのか!?」
「そうかなぁ……」

 たしかに伊都子からも『部長ってすっごい食べるっすよね』と言われたことはあるが……深織としてはこれでも腹八分目なのだからしかたがない。

「さて、七不思議も残るところあと二つね」

 残すは『怪奇現象の映るレンタルビデオ』と『夜な夜なお墓に漂う鬼火』だ。
 楓林が若干疲れた様子で言った。

「なーんか、残り二つもくだらねーオチがついて終わりそうな気がするんだが」
「言わないでよ、私もそんな気がしてきたんだから」
「じゃあ、もう七不思議の取材なんて終わりにしようぜ?」
「やーよ。最後まで調べないと気になるもん。ちゃんと最後まで取材するわよ」

 オチがどうあれ、ここで取材を放り出すのは心残りだ。

「はいはい、しゃーないなぁ。じゃ、『天狗の占い屋』に行くぞ」
「え、レンタルビデオ屋さんじゃなくて?」
「まーな。父ちゃんが今日の午前中に噂のビデオを借りてくれたから」
「そうなんだ」
「ああ。父ちゃん、あの店の会員証を持っているらしいから」

 かくして、深織は楓林とともに『天狗の占い屋』へと向かった。
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