転生ヴァンパイア様-外伝 ~先代魔王の国~

水瀬 とろん

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第14話 魔王城の戦い

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 南と東からの軍団をこの魔王城で受け止め、戦闘は激しくなっていく。獣人族と鬼人族の部隊を相手に、何日にも渡る攻防が繰り返された。

「魔王様。飛行艇はこれで最後です」
「砲弾も残りが少なくなってきました」
「構わん。全てを投入して、前方の部隊の足を止めるぞ」

 俺達だけでよくここまで持ちこたえている。とは言え兵力は敵の方が遥かに上。徐々に被害がこの魔王城にまで及んできた。

「ピキュリア、リカールスと共に城の地下へと行け」
「魔王様は!」
「俺は最後のあがきをしてくる」

 そう言って空へと舞い上がり、城に攻め込んでくる軍団に言い放つ。

「よくぞこの魔王城まで辿りついたな、褒めてやるぞ。だがそう安々とこのヴァンパイアである魔王を倒せると思うなよ」

 上空より、火、水、風、土の全属性の魔術を叩きこむ。地上の兵団から迎撃の魔術が俺に向かって飛んで来るが、空を飛び回り避けつつ最大級の魔法攻撃を続ける。
 魔術が飛び交う激しい戦場。だが数で圧倒する帝国軍と鬼人族の軍に徐々に押される。後ろでは魔王城が燃え、崩れ落ちていくのが見えた。

 ここまでか……。

 地上からの集中攻撃により翼が傷つき、俺は森へと真っ逆さまに落下していく。それを見た両軍の兵士が勝利の雄叫びを上げる。
 これで魔王城最後の戦いが終結した。崩れ落ちた魔王城の周りには、おびただしい兵士の死体と、生き残り疲れ果てた兵達の姿があった。

 ◇
 ◇

「お母様。ここまで来ていただき、ありがとうございます」
「そちらの方がリカールスさんですね。どうぞこちらへ、光魔法で治療をいたしましょう」

 魔王城の北の森。馬を連れた妖精族四人の者達と落ち合う。

「魔王様ですね。娘が大変お世話になっております」
「いや、俺の方がいつも助けられているよ。これを北に行くと妖精族の国に抜けられると聞いているが……」
「はい、私どもが道案内いたします。ここより北の山脈、その谷沿いに馬で行ける峠道がございます。一部飛んだ方が楽な箇所もありますが、魔王様の翼が傷ついておられますが大丈夫でしょうか」
「大丈夫だ、すぐに回復する。山に着く頃には二人を抱えて飛ぶことができるさ」

 北の山脈を越え妖精族の国に逃れるために、わざわざピキュリアの家族の者にここまで来てもらった。

「ここまで時間を稼げば、眷属の皆さんも王国まで逃げられるでしょう」
「ああ、上等だよ。さすが軍師ピキュリアの作戦だ」

 これなら西へ逃れる眷属達が追いつかれる事もあるまい。
 俺達も来てくれた妖精族に従い、馬に乗り北の道を駆けていく。



 ――妖精族の国に逃れて、十年の月日が過ぎ去った。

「とうとう、眷属もわたくし一人となってしまいましたね」
「君には今まで苦労をかけ続けてしまったな。ピキュリア」
「リカールスも最期に言っていたでしょう。今まで愛してくれて幸せだったと。わたくしも同じですわ」

 この妖精族の大地でひっそりと三人で暮らした。無事王国に逃れた眷属や領主だった者達も寿命で死んでいったと聞いている。

「悔いがあるとしたら、魔王様の子供を産めなかったことですわね。申し訳なく思っています」
「何を言う。今まで俺の傍でいてくれただけでも充分だ」

 四年前にリカールスが逝き、今またピキュリアまでも……。

「俺が今までしてきたことは、本当にこれで良かったのか?」
「魔王様。そのような悲しい顔はおやめください。あなた様のお陰で助かった眷属は沢山いますわ」
「だが、結局君達全てを失くすことになった」
「それは仕方のない事。あなた様のように不死ではいられないのですから」

 ベッドで横になるピキュリアが俺の頬に手を伸ばす。

「あなたを愛した私の人生は、充実した素晴らしいものでしたわ。最期に魔王様の笑顔が見たいです」

 頬に触れられたピキュリアの手を慈しみながら、俺の手を重ねて泣き笑いのような笑顔を作る。

「魔王様。この先もあなた様を愛してくれる眷属は現れるでしょう。その方と幸せになってくださいませ」
「そんな事は言うな。俺が愛するのはお前達だけだ」
「ああ、魔王様……あなたの顔も見えなくなってきました。わたくしを抱いてくださいませんか」

 顔を近づけ、両手でそっといだく。

「魔王様……今までありがとうございました。わたくしは……わたくしは幸せでした……魔王様」

 笑顔を見せてくれと言ったピキュリアの最期を看取り、この世の全てが終わったかのように俺は号泣した。
 涙が枯れ果てた後、ピキュリアの墓をリカールスの隣に建てて俺は飛び立つ。

 向かった先は最初にこの地に降りた洞窟。ここにはリカールスとピキュリアと過ごした痕跡がまだ残っている。
 その残滓ざんしと共に暮らす。俺がしてきたことが本当に良かったのかと自分に問いながら……。

 その後、新たな眷属を作る事もなくこの洞窟で独りの時を刻む。この異世界で眷属を作っても俺より早く死んでしまう。
 この世界で生きる事すら困難な眷属。そんな不幸な者達を俺が生み出していいものなのか? その眷属のためにまた大陸を征服しようと、この異世界の住民達を殺すことが俺に許されるのか?
 眷属である二人を、あんなにも愛してしまった事が間違いだったのか……。

 俺の疑問に答えてくれる者はいない。百年以上の時を費やして悩む俺は精神を病んでしまったのかもしれない。
 そして神に願った。

「俺を殺してくれ」



---------------------
【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございました。
お気に入りや応援、感想など頂けるとありがたいです。

本編『転生ヴァンパイア様の引きこもりスローライフ。お暇なら国造りしませんか』
も引き続きよろしくお願いいたします。
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