転生ヴァンパイア様-外伝 ~先代魔王の国~

水瀬 とろん

文字の大きさ
上 下
13 / 14

第13話 王国内乱

しおりを挟む
 南部地方が独立して二十年余り、平和な時代が続き初代の王も位を息子に譲るそうだ。

「この眷属の里も人口が少なくなってきましたわね」
「子供が生まれないからな。仕方のない事だ」
「わたくしの研究が進まなくて、申し訳ありません」
「ピキュリアのせいではないさ。この世界の科学レベルでは難しい事なのだろう」

 眷属の寿命は六十歳程と前の世界に比べれば短い。獣人の寿命も同じようなものだが、魔素の影響か眷属は病気になりやすいようだ。
 メディカントは冒険の末、旅先で亡くなったと聞いている。残った眷属には健康でいてもらいたいのだがな。

「リカールスの病状はどうだ?」
「今のところ、小康状態です。一ヶ月ほど養生すれば元気になると思いますよ」

 長寿の元妖精族だったピキュリアは今でも元気なようだが、リカールスは病気がちになっている。ヴァンパイアの血を分け与えているが思わしくない。

「すみません、魔王様。また病気になってしまって……」
「気にする事はない。ゆっくり休めば治るとピキュリアも言っているしな」
「はい、ありがとうございます」

 リカールスの見舞いの後、王都にいる眷属から手紙が届いたとピキュリアに言われた。

「どうも東の地域がきな臭い動きをしているようですわ、その動きに鬼人族が絡んでいると」
「南の町の冒険者ギルドからも、そのような情報が入っていたな」
「はい、東から西へと非難している住民もいるそうですわ」

 王が代替わりしたこの時期に、鬼人族の国が何か仕掛けてくるかもしれんな。

「この里の防衛装備は充実していますが、眷属の数が少ないですから少し心配ですね」

 眷属と冒険者によってこの里は守られているが、国として大規模に攻められた場合、抗する事は難しい状態だ。そんな時はこのアルメイヤ王国の王国軍に守ってもらう事になるのだが……。
 王とも連絡を取り合っているが、最近は国内も少し乱れているようだな。親が優秀だからと言って子も優秀だとは限らないか。今の王は少し力量不足のようだ。

 ――その一ヶ月後。里に急報が舞い込んだ。

「魔王様! この東地方がノルキア帝国と名乗って独立を宣言しました!!」

 王家の争いに敗れた次男が、自分の勢力圏であるクマ族を中心とする王国の東側。その三分の一の領地を手中に収め独立させたようだな。
 確かに次男のほうが優れていたようには見えたが、浅はかな事をする。隣国の鬼人族が裏で糸を引いているのは明らかだ。
 簡単に口車に乗って、自らの国を危機に落とし入れてしまうとは馬鹿な王子だ。

 このまま内乱に突入すると、この里も危なくなってくる。

「ピキュリア、眷属を集めてくれ」

 集会場にみんなを集めて今後の事について相談をする。

「今この里は、独立を宣言したノルキア帝国に包囲された状態だ。ここで戦うか里を捨てて逃れるか皆で決めよう」

 ピキュリアがみんなの前で現状を説明する。

「ここは独立を宣言した支配地域とは言え、南隣の町もまだ独立国の手が及んでいません。すぐに敵が攻め込んで来ることはないでしょう」

 とは言え、戦闘になれば東の隣国である鬼人族が戦闘に加わってくるはずだ。この内乱を勝利させ、新しいノルキア帝国に影響を及ぼすのが鬼人族の狙いだからな。
 鬼人族からすれば、国境のすぐ隣にある軍事規模の大きなこの里が邪魔になるはずだ。

「ここに居れば戦闘は避けられないと思います。アルメイヤ王国に逃れたいという者はすぐにでも避難した方がいいでしょう」
「ワシはもう歳だ。死ぬならこの里で死にたい」
「ここに残れば、魔王様の邪魔になるだけだろう。みんなで避難した方がいいんじゃないか」
「いや、この里をみすみす渡すなど我慢ならん。わしはここで戦い抜くぞ」

 徹底して戦うと言う者もいる。ここは第二の故郷だからな。

「ピキュリアはどう思う」
「避難するのであれば、南の町の獣人達と一緒に行動すべきです。冒険者と共に西に避難する者達がいると思いますので。戦うのであっても、この地は守りに弱く他の場所で戦う事になるでしょう」

 国の大軍相手では、どのみちこの里は放棄するほかないようだな。
 それを聞き皆で話し合った結果、この里を放棄し避難する事になった。

「だが避難するまでここで、敵を抑えておく必要があるだろうな」
「確かに、敵は東から攻めてきますので、その防波堤は必要かもしれませんが、それを魔王様がすると……」

 王国へ逃れる街道は西への一本だけ。南と東から延びる街道を塞げば、安全に王国へと逃れる事ができる。

「皆が逃げるまで敵を押し留めるつもりだ」
「あなたは、そう言う方でしたわね。それではわたくしも残りますわ」
「魔王様。私も残らせてください」
「リカールス。お前は病気だ。皆と避難してくれ」
「もう、大丈夫です。私は最期まで魔王様と一緒ですから」

 確かに病状は安定して寝込むことはなくなっている。だが……と言ったが、リカールスは俺の傍に居ると言い張る。こいつも、こういうところは頑固だからな。
 結局俺達三人が残り、他の眷属は南の町の獣人達と一緒に、冒険者に守られながら王国に避難する事になった。

「ではピキュリアよ、できるだけ敵を引き付ける作戦を練ってくれるか」
「はい、お任せください」

 俺達は近くにある、かつての魔王城に兵器を移動させ戦力を集中する。

「ここから攻撃すれば、いやでも目立ちますからね」

 ピキュリアが予想した通り、南から帝国が、東から鬼人族が同時に攻め込んできた。多分、双方で密約でもしているのだろう。この二つの大軍をここで抑えねばならない。

「ワッハッハ! 貴様ら虫けらにこの城が落とせるのか。ここはかつて魔族が皇国軍を殲滅した土地だ。貴様らも同じ運命をたどれ」

 迫撃砲や俺の魔術で攻撃しつつ、南から迫る軍の上を飛び回り言い放つ。まあ、これは情報戦だ。だが効き目は大いにある。南から進軍してきた獣人達の動きが鈍くなっている。
 こちらはたったの三人だが、気取られないように長距離迫撃砲を撃ち続ける。里にいる少人数でも運用できるようにと迫撃砲は以前より改造されている。自動で装填から発射までできるようになっているから三人でも運用は可能だ。

「次は飛行艇を飛ばして、東の後方に固まっている部隊を狙いましょう」

 東から鬼人族の部隊が押し寄せている。そこに爆薬を乗せた飛行艇を俺が操縦し、敵のいるど真ん中で自動操船に切り替えて墜落させる。飛行艇を浮かせている水素も一緒に巨大な爆弾として使う事になる。

 鬼人族も飛行艇の存在は知っているだろうが、それが空から落ちて来て爆発するとは思っていないのだろう。空に向かい魔法攻撃する地上部隊を巻き込んで巨大な火柱が上がる。これで鬼人族側も進軍が止まったようだな。


---------------------
【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。

【設定集】を更新しています。(主に地図の更新)
小説の参考になさってください。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

『転生したら「村」だった件 〜最強の移動要塞で世界を救います〜』

ソコニ
ファンタジー
29歳の過労死サラリーマン・御影要が目覚めたのは、なんと「村」として転生した姿だった。 誰もいない村の守護者となった要は、偶然迷い込んできた少年リオを最初の住民として迎え入れ、徐々に「村」としての力を開花させていく。【村レベル:1】【住民数:0】【スキル:基本生活機能】から始まった異世界生活。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

気づいたら美少女ゲーの悪役令息に転生していたのでサブヒロインを救うのに人生を賭けることにした

高坂ナツキ
ファンタジー
衝撃を受けた途端、俺は美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生していた!? これは、自分が制作にかかわっていた美少女ゲームの中ボス悪役令息に転生した主人公が、報われないサブヒロインを救うために人生を賭ける話。 日常あり、恋愛あり、ダンジョンあり、戦闘あり、料理ありの何でもありの話となっています。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

不死身のバンパイアになった俺は、廃墟と化したこの世界で好きに生きようと思います

珈琲党
ファンタジー
人類が滅亡した後の世界に、俺はバンパイアとして蘇った。 常識外れの怪力と不死身の肉体を持った俺だが、戦闘にはあまり興味がない。 俺は狼の魔物たちを従えて、安全圏を拡大していく。 好奇心旺盛なホビットたち、技術屋のドワーフたち、脳筋女騎士に魔術師の少女も仲間に加わった。 迷惑なエルフに悩まされつつも、俺たちは便利で快適な生活を目指して奮闘するのだった。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...