上 下
98 / 101
第5章

第98話 村の仕事1

しおりを挟む
「お~い、ユイト。ユイトはおるか」

 あれ、この声はイズホさんかしら。お店の受付に行くと作業服を着たイズホさんが立っている。

「お久しぶりです。イズホさん」

「お~、メアリィか。ユイトはおるか」

「今、荷物運搬の仕事に出かけていて、もうすぐ帰って来ると思います」

 間もなくお昼だ。昼休憩には帰って来るだろう。

「そうか、ならここで待たせてもらおう」

 前は紅白の袴を着ていたけど、また違うお仕事にでも行くのかしら。

「ユイトに荷物運搬などさせて大丈夫か? あやつは力が無いじゃろう」

「最近は逞しくなってきましたよ。イズホさんが鍛えてくれたお陰ですね」

 ナイフしか扱えなかったユイトも、剣を扱うようになった。機動甲冑が無くてもショートソードと鉄の盾で戦う事もできる。

「今度、遠くまで仕事に行く事になってな。ユイトにはワレがしておる村での仕事の代わりをしてもらうつもりじゃ」

「えっ! じゃあ、ユイトここを辞めちゃうんですか!」

「いや、いや。そこまでの仕事ではない。村の中の仕事は父上達に頼んでおる。ユイトには外の仕事をしてもらいたい」

 良かったわ。ユイトがいないと私……。あ、いや、そんな事ないわよ。
少し動揺したのをごまかすように尋ねる。

「あ、あの。イズホさん遠くって、また人族の国まで行くんですか」

「今度はアルガルド大陸まで行かねばならん。まあ、ずっとではなく時には帰って来るんじゃがな」

 えっ、新大陸で仕事するの? 何それ。イズホさんってシャウラ村の人だよね。どこかの国の大使な訳ないし。

「ただいま、メアリィ。あれ、お姉ちゃん。どうしてこんなところにいるの?」

「わざわざ訪ねて来た姉に対して、その言い草はなんじゃ。ここに座れ」

 小言と一緒に、村での仕事をするようにとユイトに言い聞かせた。

「え~。ボクがセレンおばさんの所に行くの」

「そうじゃ、ワシにばかり任せずお前も村の仕事をせよ。ここからなら村よりは近いじゃろう」

 その後は仕事の話なんだろう、何だか難しそうな話をしている。

「メアリィよ。今回の仕事はあまり急がんが、ユイトに1日休みをやってくれ」

「はい、それぐらいならいいですよ」

「今後も、休みをもらう事になる。もしかしたら人族の国へ行き、ワシの代わりをしてもらう事もあるかもしれん」

 イズホさんって、人族の国で巫女さんをしていたって言っていたわね。巫女さんって男でもできるのかしら?

「ユイトにイズホさんがしていた仕事ってできるんですか」

 巫女さんって神事みたいな事をするとセイランが言っていたわ。そんな事がユイトにできるとは思えないんだけど。

「まあ、難しいやり取りはできんじゃろうが、今回はそれほどでもないからな。そうじゃ、もし休みが合うのならメアリィも一緒に行ってユイトの仕事を見てみるか」

 どんな仕事か理解すれば、休みの日数も相談して決められるだろうとイズホさんは言っている。確かにそれなら、こちらとしても休みの都合もつけ易くなる。

「じゃあ、メアリィ。今度の休み一緒に行こうよ」

 2日後の休みにキイエ様に乗せてもらって、セレンおばさんという人の家に行くことにした。


 休みの日。ユイトはイズホさんから預かった物を背中のリュックにいれてキイエ様に飛び乗る。

「さあ、メアリィ。行こうか」

 私の手を引いてキイエ様の後ろに乗せてくれた。まだ朝日が昇ったばかりの時間だけど、少し遠くまで行かないといけないらしく朝早くに出発する。

「ここからずっと北にある場所なんだ。魔の森の中だけど、それほど危険じゃないよ」

 魔獣のいる場所と聞いていたので、ローブを着てジェットブーツを履いてきている。鐘1つ程飛んで目的の場所に着いた。

「ほらあそこだよ。山腹にある木の無い場所。あそこに降りるね」

 そこは魔の森がある山の中。平らな部分だけ木が伐採されていてキイエ様が降りられるようになっている。

「こんなところに家があるの?」

 降り立った場所は何もない山の中腹。

「ここだよ。この扉から入るんだ」

 斜めの白い板が2枚繋がっているような場所をユイトが指差す。

「*/*&、セレン&%#。&%%メアリィ。&’’”$#」

 その前で、ユイトがなにか呪文のようなものを唱える。

「なに。どうしたの」

「挨拶したんだよ。さあ、中に入ろう」

 そう言って、ユイトは白い板を横に引いて入る隙間を作る。これは前にユイトが言っていた引き戸と言う扉ね。これが入口なのね。
中は暗く、ユイトがランプをつける。その先には急な階段が上に向かって伸びている。

「メアリィ。足元気を付けてね」

 そう言って私の手を引っ張ってくれた。真っ直ぐに伸びる階段は長く、急な山道を進んでいるようだった。
その先、ランプに照らされて入口にあったと同じ様な白い引き戸が現れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...