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第5章

第95話 料理コンテスト4

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「さて、ワシはこの料理か」

 5番の番号が書かれた料理。まずはこの前菜を食べて点数を付けなければならない。
同じ料理がテーブルの反対側にも置かれている。それは別の審査員が審査をする。

 常連の参加者は若い番号になる傾向がある。1番の料理はおそらくこの料理よりも優れているのだろう。ワシは下位の料理を食べることになる。

 点数をつけて次のテーブル10番の料理を食べる。一次通過者は30チーム、その内の6チームをワシともう一人が担当することになる。

 二次予選はコース料理。前菜からスープ、メインは魚料理か肉料理、そして最後にデザート。通常あるパンやカーファなどの飲み物は省かれているが、次々に出される各6チームの味を覚えておいてコース料理として成立しているかも審査基準に入る。

 最初の前菜は皆、同じようなものだった。最後のチームの料理が少し気になったが、甲乙つけがたい。

 次のスープ、ここからが本番だろう。あっさりしたスープでメインを引き立たせるか、スープ独自で勝負してくるかチームによって分かれてくるところだろう。

 なるほど、それぞれが工夫を凝らして作っている。ここまであっさり系が4つで味の濃いポタージュが1つだったな。最初に飲んだキノコ入りのあっさりしたものが一番良いか。やはり後になるほど味が落ちてくるな。常連は強いと言ったところか。

「んん。何だこれは」

 ポタージュよりもどろりとした白いスープが深い皿に注がれている。その中に大きな根野菜と四角い肉が浮かぶ。乳の香りが強いな。臭みを消しきれていないのかと思ったが、これは違うな。乳とは別の香りがする。小麦でとろみを出していて、スープと呼ぶにしては大きすぎる野菜と肉。

 料理の説明書きには、乳とバターによるシチューと書いてあるが。

「こんな料理は見たことが無いな。初めてコンクールに参加する料理人か?」

 定番の料理とは違う品。料理人を見ると若い羊族の娘と何族か分からない男が今も忙しそうに次の料理を作っている。

「見たことのない料理人だな」

 まずは食べてみなくては分からんか。一口スープを口に運ぶ。確かに濃いスープだがそれぞれの味は感じ取れる。乳にバター、それにチーズだな。それぞれが濃厚な味わいだが玉ねぎと一緒に溶かし込んで調和している。それと表面に浮いている粉チーズとハーブもいいアクセントになっている。

 そこに2種類の大きな赤と白の野菜。緑のハーブと色合いも良いが、肝心の味はどうだ。赤の野菜は甘く口に入れると溶けるように柔らかい。よく野菜の甘みを引き出している。白い野菜はほくほくとして触感がいいな。スープと絡みこれまた美味いじゃないか。

 そしてこの肉、脂身が赤身の間に挟まった四角い形。牛魔獣の肉で脂身が多いようだがバラ肉ではないな。一口食べ、その脂身の美味さに驚いた。最高級の牛の肉だろうが臭みが全くなく、赤身の旨味と甘みのある脂身の肉が口の中でとろける。

 肉の下処理、部位の選別、煮込むタイミングや時間。その全てが完璧でないとこのような肉はできないだろう。最初のチームのスープに入っていたキノコがここにもあるが、この濃いスープの中にあってもしっかりとキノコの味と香りがする。どのようにして味を濃縮させ味を引き出しているのか分からない。

「何なのだ、このスープは」

 スープと言うよりメインディッシュに近いじゃないか。もう一口肉と野菜を食べる。しまった、つい夢中になって何口も食べてしまった。満腹になっては後の審査に支障をきたす。

 これは特等評価をしなければならんな。最高点以上に際立つ美味さがある場合、その特徴を点数表に書き込む。同点であればこの評価により順位が決まる。

 次はメインディッシュだ。皆、肉料理を選んでいるようだな。今回は肉か魚かを選んで出す事になっている。しっかりとした味付けのできる肉料理が好まれる。だからと言って味が濃ければ良いというものではない。最初のチームはそれが分かっているな。

 最後のチームだ。このチームは魚料理か。なるほど先ほどのスープと合わせるにはこの赤魚が良いという訳だな。

 皿の端から端まである大きな魚のムニエル。通常は魚を輪切りにして骨を外すが、これは頭を落として背骨から水平にさばいて身に骨を残していない。魚の形をそのまま残こす何と繊細なさばき方だ。

 表面に降られた小麦と共に皮を焦がしていて香ばしく、中はしっとりと焼き上げて旨味を閉じ込めている。微妙な焼き加減と味付けで、魚の旨さを引き出しておるな。

「このソースはなんだ」

 魚ではない別の海の生き物……。これはエビ、それと何かの肝が混ざっている複雑な味だ。
ふと向かい側の料理を見た。同じチームが作った2人目の審査員用の料理だ。その魚はこれよりも小さめの物だった。

「すまんが、そちらの魚も食べさせてくれるか」

 向いの審査員に断りを入れて食べてみる。魚は個体によって大きさ、身の付き方が違ってくる。それが魚料理の難しいところだ。だが食べた魚は同じように中はしっとりとして美味い。魚の大きさによって焼き加減などを変えてこの味を引き出しているのか。

 もう一人の審査員もワシが食べていた皿の魚を食べて頷いている。使っている油やバターも市販品ではないようだが高級品以上の物で雑味がなく香りがいい。これほど繊細な料理は食べたことが無い。

 次はデザートだが、早く最後のチームの物が食べたい。他のチームの点を急いで付けて、最後のチームのテーブルに着く。

「この真ん中のクリーム色の菓子はなんだ」

 こんもりと盛り上がったゼリーのような物。その周りには色とりどりの果物が添えてある。今流行のソフトクリームではないようだが……。

 説明にはプリンと果実の盛り合わせと書かれているが、この真ん中がプリンというものらしいな。小さなスプーンを差し入れると何の抵抗もなく入っていき、すくい取ると重量のある菓子がプルンと震える。

 口に入れるとその滑らかな触感と共に、濃厚な乳の香りとコクのある甘い味。味の薄いゼリーとは全然違うものだ。

「どうやって固めているのだ」

 これは固めるために、草や獣から取った別の物を入れているんじゃない。使っている材料だけで固めているはずだ。でなければ、これほど風味のある濃厚な味わいは出せないだろう。

 周りにあるみずみずしい果物の酸味も美味しい。そして冷たくないクリームは甘さを押さえていて、全体で一つの作品となっている。

 見たことの無い料理だったが、奇抜な創作料理ではない。完成された料理を研ぎ澄まして自分のものとしている。王都の中で、これほどの料理を出している店にワシは行ったことがない。

「すまんが君達はどこの店の料理人かね」

「あたしはまだお店を持っていないんです。今は何でも屋で働いています」

「何でも屋?」

 料理店の店員でも個人経営の料理長でもない者があの料理を作ったのか。あの料理を食べることができたのは王都の中でワシともう一人の審査員だけなのだな。何という幸運だ。

 二次審査に受かってもらいたいが、受かってもワシは本選の審査員じゃない。もうあの料理を食べられない。
だが応援はしよう。この若き料理人の将来が楽しみじゃわい。
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