上 下
68 / 101
第3章

第68話 帝国貴族3

しおりを挟む
 翌日。ご子息のミカシェル様と馬車に乗り領地、いえ、管理地区の町を見せてもらった。ここに来るまで旅してきた町より小さな町だったけど、活気があり人が多いのは同じだった。この他にも3つの町があるそうだ。

 この地区は王都から離れた辺境地域。近くには魔の森が広がり、4つの町合同で昔のような魔獣討伐も行っていると言う。
こういうところは帝国と似ているわね。

「自分はこの町と両親が好きです。今回の結婚話も両親がこの私のために、箔を付けようと考えての事。あなたの事情は知りませんが、最初から結婚するつもりでいました」

 この子は、よく分かっているわね。双方の家同士に利があると考えての結婚。親がそう決めたならそれに従えばいいだけの事。それが貴族というもの、お互いの気持ちなど後から何とでもなる。

「おじいさまと両親は平民の出です。功績を打ち立てたおじいさまが一代男爵になり、その後も両親がこの地で功績を残し続けて子爵位を授かりました」

 なるほど、だから貴族らしからぬ服や行動をしているのね。

「自分は生まれた時から貴族です。立派な貴族となるべく両親は教育してくれました。その思いに報いるためにも、あなたの力が必要なのです。会ったばかりでありますが、自分と結婚してくれませんか」

「わたくしもあなたのその考えの方が好きです。貴族としての務めを果たすためと言うのならば、私も協力しましょう」

 この方が合理的で早いではないか。ご両親より貴族らしい考え方だわ。
それならば私もこの国の事を知らなければならない。帝国と王国が国交を断絶してから以降の事を私は全く知らない。民主革命からの歴史、この国の制度や技術など勉強しなければ役立つこともできなくなる。

 その日以降、ミカシェル様にこの国に関する事を教えてもらい、子爵ご夫妻にも結婚の意を示し式の準備を進めてもらう。ご両親はすごく喜び、私のような娘を持てることを誇りに思うと言ってもらった。

 式までの間は書物も取り寄せていただき、この国の事を勉強する日々を送る。

「ミカシェル様は、元帝国貴族の方と会った事はおありなのですか」

「帝都でのパーティー会場でリザードマンの貴族を見かけることはあったけど、親も含めて声をかけた事はないんだ」

 まだ成人式もしていない下級貴族の息子が声をかける事はできないでしょうね。親御さんにしても声をかけると言う事は、情報を交換すると言う事。後ろ盾もなく貴族での親類もいないロヴァーユ家にさしたる情報はない。

 元帝国貴族で亡命してきた者達、帝国を裏切った者達だと思っていた。けれど衰退する帝国の将来を予見して、子孫のためこの王国に活路を見いだした勇気ある開拓者なのかもしれない。今の帝国と王国の現状を見るとそう思えてしまう。

 王国の事を勉強して分かったことがある。王国は帝国に比べるまでもなく発展している。制度も民主連邦国の制度を取り入れてはいるけど、貴族間の関係は前とあまり変わらず古いままだ。この点では帝国での貴族としての経験が活きるはずだわ。
これなら私にもやり様はあるわ。

 私は結婚式に向けて周到な準備をしていく。
私達の結婚式にも興味を持った貴族が来てくれるそうだ。人脈を作るチャンスになるかもしれないわ。

「ミカシェル様、今いる元帝国貴族たちの家系を調べてくれませんか」

 主だった元帝国貴族に私が知っている名前は2つしかなかった。婿養子などで帝国当時の家の名前が変わっているのだろう。王国では帝国での家名など無用の長物でしかない。でもその初代の名は記憶されているはず。そこから話を振る事はできるだろう。

 そして私自身の事。帝国の家の内情、私を売ったことを知られる訳にはいかない。
ヘルベス商会に結婚する事を知らせ、親の承諾書と結婚式への参加を打診する。もとより準備していたのか、返事は早かった。思った通り両親は遠方のため来れないと連絡してきた。

 ヘルベス商会は、あくまで王国貴族からの依頼があって、知人の帝国貴族の令嬢を紹介した事になっている。

 それに話を合わせる。ヘルベス商会は私の家の内情を漏らすつもりはないのだろう。皇帝の血筋という商品価値を落とすことを商人がするはずはない。


 結婚式当日は情報戦となる。

「お綺麗な新婦殿だな。帝国の貴族と聞いていたがリザードマンではないのだな」

 披露宴で、私達を見守るお義父様たちに声をかけてくる招待客。

「母方の家系が古くからある豹族の家系なのですよ。父方が皇帝に連なるリザードマンの家系なのです」

「今の帝国皇帝はどのような方なのですかな。もし知っておられたら教えていただきたいのですが」

「フロレアは帝都で皇帝陛下をお見掛けした事があるそうで、武系の家系らしく体躯の大きな威厳のある方だったと言っておりました」

「ほう、あの新婦は皇帝陛下に謁見できるような方なのですか」

 私の家系や、帝都の様子などはお義父様とお義母様にお話してある。招待客に話して興味を持ち私に話しかけてくる者の素性をこちらからも探る。

「まあ、昔はシグヌス領の領主をされておられたのですか。今は帝国領ではありませんが帝国の為に戦ってもらった貴族家と聞いています」

 父上がよく昔の帝国の地図を見ながら「昔はこんなに大きかったんだぞ」と話していた。その地図を思い浮かべながら話をする。

 ここの招待客は、まったく知らない国の話に興味があるようね。私はさびれた帝国の様子や内情などを知られないように上手く話す。

 結婚式と披露宴が終わり、夫となったミカシェルと相談する。

「フロレア。今日来てくれたのは、元帝国貴族の傍系の者が多いようだね」

「そうね。高い地位に就いている貴族に連なる方はいないようね。でも知り合いだと言う方はいたわ」

「まずは、その者達から近づいていこう」

「昔の帝国貴族に強い興味を持った方もいたわね。わたくしを敬っていたわよ」

「たぶん、祖先の武勇伝なんかを聞いて育った者なのだろうね。でも元帝国貴族に反感を持つ者も多いから気を付けた方がいいよ」

 亡命し王国では何の力もない者が、政治力を使い王国貴族となってのし上がっていった元帝国貴族達。それを苦々しく思う連中も多いのだろう。

 今は伯爵家となっているアリントン家か、辺境伯のセリビア家のどちらかと繋がりを持ちたい。

「まだまだ先は長いさ。あまり焦らずにいこう」

「そうね。慎重に事を運ばないと、追い落とされる事もあるわ。でも、あなたとなら上手くやっていけそうな気がするわ」

「前にも言ったけど、自分はこの町と家族が好きだ。それを守り抜いていく。そこにフロレア、君も入って欲しい。ゆっくりでいいから本当の家族になってくれないか」

 最初はこの家を利用すれば、私の生きる道があると思っていたけど。

「ええ、わたくしをあなたの大切なものの一つに加えてください。愛していますわ。ミカシェル様」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。 ※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。 ※2020-01-16より執筆開始。

転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。

Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった後、異世界に転生した高校生、鬼島迅。 そんな彼が生まれ落ちた家は、貴族。 しかし、その家の住人たちは国内でも随一、乱暴者というイメージが染みついている家。 世間のその様なイメージは……あながち間違ってはいない。 そんな一家でも、迅……イシュドはある意味で狂った存在。 そしてイシュドは先々代当主、イシュドにとってひい爺ちゃんにあたる人物に目を付けられ、立派な暴君戦士への道を歩み始める。 「イシュド、学園に通ってくれねぇか」 「へ?」 そんなある日、父親であるアルバから予想外の頼み事をされた。 ※主人公は一先ず五十後半の話で暴れます。

いじめられて死のうとしていた俺が大魔導士の力を継承し、異世界と日本を行き来する

タジリユウ
ファンタジー
 学校でのいじめを苦に自殺を図ろうとする高校生の立原正義。だが、偶然に助かり部屋の天井に異世界への扉が開いた。どうせ死んだ命だからと得体の知れない扉へ飛び込むと、そこは異世界で大魔導士が生前使っていた家だった。  大魔導士からの手紙を読むと勝手に継承魔法が発動し、多大な苦痛と引き換えに大魔導士の魔法、スキル、レベルを全て継承した。元の世界と異世界を自由に行き来できるようになり、大魔導士の力を継承した正義は異世界と日本をどちらもその圧倒的な力で無双する。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

外れスキルと馬鹿にされた【経験値固定】は実はチートスキルだった件

霜月雹花
ファンタジー
 15歳を迎えた者は神よりスキルを授かる。  どんなスキルを得られたのか神殿で確認した少年、アルフレッドは【経験値固定】という訳の分からないスキルだけを授かり、無能として扱われた。  そして一年後、一つ下の妹が才能がある者だと分かるとアルフレッドは家から追放処分となった。  しかし、一年という歳月があったおかげで覚悟が決まっていたアルフレッドは動揺する事なく、今後の生活基盤として冒険者になろうと考えていた。 「スキルが一つですか? それも攻撃系でも魔法系のスキルでもないスキル……すみませんが、それでは冒険者として務まらないと思うので登録は出来ません」  だがそこで待っていたのは、無能なアルフレッドは冒険者にすらなれないという現実だった。  受付との会話を聞いていた冒険者達から逃げるようにギルドを出ていき、これからどうしようと悩んでいると目の前で苦しんでいる老人が目に入った。  アルフレッドとその老人、この出会いにより無能な少年として終わるはずだったアルフレッドの人生は大きく変わる事となった。 2024/10/05 HOT男性向けランキング一位。

神獣に転生!?人を助けて死んだら異世界に転生する事になりました

Miki
ファンタジー
学校が終わりバイトに行く途中、子供を助けて代わりに死んでしまった。 実は、助けた子供は別の世界の神様でお詫びに自分の世界に転生させてくれると言う。 何か欲しい能力があるか聞かれたので希望をいい、いよいよ異世界に転生すると・・・・・・ 何故か神獣に転生していた! 始めて書いた小説なので、文章がおかしかったり誤字などあるかもしてませんがよろしくお願いいたします。 更新は、話が思いついたらするので早く更新できる時としばらく更新てきない時があります。ご了承ください。 人との接し方などコミュニケーションが苦手なので感想等は返信できる時とできない時があります。返信できなかった時はごめんなさいm(_ _)m なるべく返信できるように努力します。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

処理中です...