上 下
63 / 101
第3章

第63話 セイラン帰国

しおりを挟む
 この町で2日間の魔獣討伐を終えて、宿で食事を摂る。明日の朝には列車に乗り王都へ帰る予定だ。

「お姉ちゃんは、やっぱり強いね」

「ユイト、そなたが弱いだけなのだぞ。もっとしゃんとしないとな」

 イズホさんはユイトのすぐ横で、あれこれと教えていたみたいだけど、その程度であのユイトが上達するはずもない。

「イズホ殿の剣技は素晴らしいものがる。十分お強いではないか」

「じゃが、父上やその側近にはまだ勝てないからな。だから今、二刀流を勉強しておるところだ」

「慣れておらぬように見えたのはそのせいであったか。ゲンブ殿に比べ振りが少し鈍かったように見えた」

 いやいや、あの剣捌きで魔獣を何匹も倒してるんだから十分でしょう。

「拙者に少し稽古をつけて下さらぬか」

「そうじゃな、ワレも二刀流に磨きをかけたいからな。おぬしとなら良い稽古ができるじゃろう」

 セイランとイズホさんは剣の技術の事についてまだ話をしてるけど、私にはさっぱり分からないわ。

 イズホさんのお陰で、今回の討伐数は過去最高だった。でも、あれだけ大きな魔法を森に叩きこんじゃうと、周りの人が迷惑するのよね。
魔獣を森から追い出すための魔法。イズホさんに頼むと大きすぎて、横の区域で討伐していた兵隊さんに怒られてしまった。

「小さな魔法は使い慣れてなくてな。初級魔法なんぞは、ほとんど使っとらんからな」

 生活魔法に関しては一切使えないらしい。ダメじゃん、この人。
ミルチナはイズホさんの多彩な中級魔法に感心しきりだ。

「でも、あんな大きな魔法ばかり連発して、イズホさん、魔力切れにならないんですか」

「大丈夫、大丈夫。小さき頃、調子に乗って山を吹き飛ばして以降、魔力切れなど起こしておらんからな」

 大丈夫じゃないよね。山を吹き飛ばすってどんなけなのよ。

「ねえ、お姉ちゃん。もうすぐセイランがいなくなるんだよ。代わりに一緒にいてくれないかな」

「おお、そうなのかセイラン」

「国元に帰らなければならぬ。何でも屋におれるのもあとわずか」

 事情を説明して、今セイランの代わりに前衛で戦ってくれる人を募集していると話した。

「ユイト一人に前衛を任せるのは酷じゃな。仕方ない、少しワレが鍛えてやろう。しかしワレにも村での仕事がある。いつまでになるかは分からぬぞ」

「それでも、結構です。少し手伝っていただけますか」

 これでグランに迷惑かけずに済みそうだわ。


 それからユイトのお姉さんは暇を見つけてはセイランとユイトの訓練に付き合ってくれた。夜になってもセイランと稽古していたわね。余程気に入ったのかしら。

「セイラン、これは風の靴じゃ。お前にやろう」

「イズホ殿、良いのですか」

「お前にはジェットブーツよりその方が良いじゃろう。速度はブーツに比べ少し遅いが風魔法のみで走る事ができる。それに体の重心を知る練習にもなる。精進するが良い」

 ユイトのお姉さんは、靴をセイランに贈って一旦村に帰るそうだ。

「村で父上と相談してから、また3日後に戻ってくる。ユイト、それまで怪我などせんようにな」

「うん、分かったよ。お姉ちゃんも気を付けてね」

 ドラゴンのセミュー様にまたがり、空へと消えていく。今度来るときはちゃんと城門を潜って入って来て欲しいものだわ。

「それじゃ、セイラン。こっちに来てくれる。退職に関するお話をしましょう」

 セイランは、今日でお店を辞めて明後日には船に乗って国へと帰る。シンシアと一緒に応接室で話をする。

「セイラン。今までありがとう」

「いや、恩人のためにした事。こちらこそ部屋を与えてもらい助かった」

 シンシアがセイランに説明してくれる。

「社長とも相談したんだけど、今まで払っていた給料が少なすぎたようなのよ。その分を清算して、今払おうと思うの」

 今までユイトと同じ給料を支払っていた。アルバイトを雇って分かったけど、それじゃあまりに安過ぎた。
シンシアに言って全額とは言わないまでも、それに見合うお金を用意してもらった。普通、退職金というのは支払わないものだけど、今回は精算分として払いたい。

「メアリィ殿、そのような気遣いは無用。国元より給金も出ているのでな」

「それはセイランが休みの日やお店の仕事が終わってから作っていた、報告書の事でしょう。お店の仕事には支障なかったし、それとこれとは別だと思うわ」

 夜遅くまで部屋の灯りが点いていることがあった。頑張っているセイランに国からの給料があるのは当然だわ。

「業績が上向いたのも、セイランが来てくれたお陰なのよ。お店の借金も返せたし感謝しているわ。このお金は心配をかけたご家族のためにも取っておいてくれないかしら」

「そこまで言われるのならば、家族への土産物代として少し受け取るとしよう」

 金貨を何枚も用意していたけど、銀貨50枚程しか受け取ってもらえなかった。

「遠く離れる事になろうとも、メアリィ殿やユイト殿への拙者の感謝の気持ちは変わらぬ。また会える日を楽しみにしている」

「そうね。また会えるわよね」

 新大陸は遠い。もう会う事はないだろう。それを知っているからセイランも国に帰れと言う知らせを聞いてから暗い顔をしていた。別れる時ぐらいは笑顔でいましょう。

「部屋の荷物整理をして、明日は国へ帰る準備をするのよね。手伝えることがあったら言ってね。当日は港まで、私がエアバイクで送っていくわ」

「かたじけないな、メアリィ殿。お言葉に甘えるとしよう」


 セイランが王都を離れる朝、ユイトとミルチナがセイランを見送りに港まで行きたいと言ってきた。

「あなた達は、今日の仕事があるでしょう」

「それは明日ちゃんとするから、いいでしょうメアリィ」

「あたしも、明日頑張りますから、セイランの見送りに行きたいです」

「社長。仕事の段取りは私がしておきます。ユイト君達を連れて行ってくれませんか」

 シンシアまでそう言うなら、仕方ないわね。

「それじゃ、あなた達もエアバイクで港まで付いて来なさい。遅れるんじゃないわよ」

 サイドカーにセイランと荷物を積んで、一緒に港まで行く。港には新大陸行きの大きな貨物船が停泊していた。帆と蒸気機関で回る外輪を備え付けた蒸気帆船で、前に乗せてもらった貨物船の2倍以上もある大きさだ。今は運搬する荷物を積み終えて、乗客達を乗船させている最中だった。

「セイラン、気を付けてね」

「ああ、メアリィ殿も元気でな」

「セイランさん、お元気で。今度、デンデン貝を送りますね」

「ミルチナ殿、ありがとう。美味しい料理が食べれなくて残念だよ」

「セイラン、セイラン。今までありがとう」

「ユイト殿。今生の別れではないさ。また会えることもある」

「そうだ。ボクの遠見鏡を持って行ってよ。向こうで役立つかもしれないから」

「良いのか、ユイト殿。ではユイト殿と思って大事にしよう」

 ユイトは泣いていたけど、笑顔で見送らないと。手を振ってセイランを見送る。

 ドラの音と共に、アルガルド大陸に向けて船が出港して行く。これから30日近くの船の旅となる。無事新大陸に着いて欲しいと願う他ない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...