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第3章
第63話 セイラン帰国
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この町で2日間の魔獣討伐を終えて、宿で食事を摂る。明日の朝には列車に乗り王都へ帰る予定だ。
「お姉ちゃんは、やっぱり強いね」
「ユイト、そなたが弱いだけなのだぞ。もっとしゃんとしないとな」
イズホさんはユイトのすぐ横で、あれこれと教えていたみたいだけど、その程度であのユイトが上達するはずもない。
「イズホ殿の剣技は素晴らしいものがる。十分お強いではないか」
「じゃが、父上やその側近にはまだ勝てないからな。だから今、二刀流を勉強しておるところだ」
「慣れておらぬように見えたのはそのせいであったか。ゲンブ殿に比べ振りが少し鈍かったように見えた」
いやいや、あの剣捌きで魔獣を何匹も倒してるんだから十分でしょう。
「拙者に少し稽古をつけて下さらぬか」
「そうじゃな、ワレも二刀流に磨きをかけたいからな。おぬしとなら良い稽古ができるじゃろう」
セイランとイズホさんは剣の技術の事についてまだ話をしてるけど、私にはさっぱり分からないわ。
イズホさんのお陰で、今回の討伐数は過去最高だった。でも、あれだけ大きな魔法を森に叩きこんじゃうと、周りの人が迷惑するのよね。
魔獣を森から追い出すための魔法。イズホさんに頼むと大きすぎて、横の区域で討伐していた兵隊さんに怒られてしまった。
「小さな魔法は使い慣れてなくてな。初級魔法なんぞは、ほとんど使っとらんからな」
生活魔法に関しては一切使えないらしい。ダメじゃん、この人。
ミルチナはイズホさんの多彩な中級魔法に感心しきりだ。
「でも、あんな大きな魔法ばかり連発して、イズホさん、魔力切れにならないんですか」
「大丈夫、大丈夫。小さき頃、調子に乗って山を吹き飛ばして以降、魔力切れなど起こしておらんからな」
大丈夫じゃないよね。山を吹き飛ばすってどんなけなのよ。
「ねえ、お姉ちゃん。もうすぐセイランがいなくなるんだよ。代わりに一緒にいてくれないかな」
「おお、そうなのかセイラン」
「国元に帰らなければならぬ。何でも屋におれるのもあとわずか」
事情を説明して、今セイランの代わりに前衛で戦ってくれる人を募集していると話した。
「ユイト一人に前衛を任せるのは酷じゃな。仕方ない、少しワレが鍛えてやろう。しかしワレにも村での仕事がある。いつまでになるかは分からぬぞ」
「それでも、結構です。少し手伝っていただけますか」
これでグランに迷惑かけずに済みそうだわ。
それからユイトのお姉さんは暇を見つけてはセイランとユイトの訓練に付き合ってくれた。夜になってもセイランと稽古していたわね。余程気に入ったのかしら。
「セイラン、これは風の靴じゃ。お前にやろう」
「イズホ殿、良いのですか」
「お前にはジェットブーツよりその方が良いじゃろう。速度はブーツに比べ少し遅いが風魔法のみで走る事ができる。それに体の重心を知る練習にもなる。精進するが良い」
ユイトのお姉さんは、靴をセイランに贈って一旦村に帰るそうだ。
「村で父上と相談してから、また3日後に戻ってくる。ユイト、それまで怪我などせんようにな」
「うん、分かったよ。お姉ちゃんも気を付けてね」
ドラゴンのセミュー様にまたがり、空へと消えていく。今度来るときはちゃんと城門を潜って入って来て欲しいものだわ。
「それじゃ、セイラン。こっちに来てくれる。退職に関するお話をしましょう」
セイランは、今日でお店を辞めて明後日には船に乗って国へと帰る。シンシアと一緒に応接室で話をする。
「セイラン。今までありがとう」
「いや、恩人のためにした事。こちらこそ部屋を与えてもらい助かった」
シンシアがセイランに説明してくれる。
「社長とも相談したんだけど、今まで払っていた給料が少なすぎたようなのよ。その分を清算して、今払おうと思うの」
今までユイトと同じ給料を支払っていた。アルバイトを雇って分かったけど、それじゃあまりに安過ぎた。
シンシアに言って全額とは言わないまでも、それに見合うお金を用意してもらった。普通、退職金というのは支払わないものだけど、今回は精算分として払いたい。
「メアリィ殿、そのような気遣いは無用。国元より給金も出ているのでな」
「それはセイランが休みの日やお店の仕事が終わってから作っていた、報告書の事でしょう。お店の仕事には支障なかったし、それとこれとは別だと思うわ」
夜遅くまで部屋の灯りが点いていることがあった。頑張っているセイランに国からの給料があるのは当然だわ。
「業績が上向いたのも、セイランが来てくれたお陰なのよ。お店の借金も返せたし感謝しているわ。このお金は心配をかけたご家族のためにも取っておいてくれないかしら」
「そこまで言われるのならば、家族への土産物代として少し受け取るとしよう」
金貨を何枚も用意していたけど、銀貨50枚程しか受け取ってもらえなかった。
「遠く離れる事になろうとも、メアリィ殿やユイト殿への拙者の感謝の気持ちは変わらぬ。また会える日を楽しみにしている」
「そうね。また会えるわよね」
新大陸は遠い。もう会う事はないだろう。それを知っているからセイランも国に帰れと言う知らせを聞いてから暗い顔をしていた。別れる時ぐらいは笑顔でいましょう。
「部屋の荷物整理をして、明日は国へ帰る準備をするのよね。手伝えることがあったら言ってね。当日は港まで、私がエアバイクで送っていくわ」
「かたじけないな、メアリィ殿。お言葉に甘えるとしよう」
セイランが王都を離れる朝、ユイトとミルチナがセイランを見送りに港まで行きたいと言ってきた。
「あなた達は、今日の仕事があるでしょう」
「それは明日ちゃんとするから、いいでしょうメアリィ」
「あたしも、明日頑張りますから、セイランの見送りに行きたいです」
「社長。仕事の段取りは私がしておきます。ユイト君達を連れて行ってくれませんか」
シンシアまでそう言うなら、仕方ないわね。
「それじゃ、あなた達もエアバイクで港まで付いて来なさい。遅れるんじゃないわよ」
サイドカーにセイランと荷物を積んで、一緒に港まで行く。港には新大陸行きの大きな貨物船が停泊していた。帆と蒸気機関で回る外輪を備え付けた蒸気帆船で、前に乗せてもらった貨物船の2倍以上もある大きさだ。今は運搬する荷物を積み終えて、乗客達を乗船させている最中だった。
「セイラン、気を付けてね」
「ああ、メアリィ殿も元気でな」
「セイランさん、お元気で。今度、デンデン貝を送りますね」
「ミルチナ殿、ありがとう。美味しい料理が食べれなくて残念だよ」
「セイラン、セイラン。今までありがとう」
「ユイト殿。今生の別れではないさ。また会えることもある」
「そうだ。ボクの遠見鏡を持って行ってよ。向こうで役立つかもしれないから」
「良いのか、ユイト殿。ではユイト殿と思って大事にしよう」
ユイトは泣いていたけど、笑顔で見送らないと。手を振ってセイランを見送る。
ドラの音と共に、アルガルド大陸に向けて船が出港して行く。これから30日近くの船の旅となる。無事新大陸に着いて欲しいと願う他ない。
「お姉ちゃんは、やっぱり強いね」
「ユイト、そなたが弱いだけなのだぞ。もっとしゃんとしないとな」
イズホさんはユイトのすぐ横で、あれこれと教えていたみたいだけど、その程度であのユイトが上達するはずもない。
「イズホ殿の剣技は素晴らしいものがる。十分お強いではないか」
「じゃが、父上やその側近にはまだ勝てないからな。だから今、二刀流を勉強しておるところだ」
「慣れておらぬように見えたのはそのせいであったか。ゲンブ殿に比べ振りが少し鈍かったように見えた」
いやいや、あの剣捌きで魔獣を何匹も倒してるんだから十分でしょう。
「拙者に少し稽古をつけて下さらぬか」
「そうじゃな、ワレも二刀流に磨きをかけたいからな。おぬしとなら良い稽古ができるじゃろう」
セイランとイズホさんは剣の技術の事についてまだ話をしてるけど、私にはさっぱり分からないわ。
イズホさんのお陰で、今回の討伐数は過去最高だった。でも、あれだけ大きな魔法を森に叩きこんじゃうと、周りの人が迷惑するのよね。
魔獣を森から追い出すための魔法。イズホさんに頼むと大きすぎて、横の区域で討伐していた兵隊さんに怒られてしまった。
「小さな魔法は使い慣れてなくてな。初級魔法なんぞは、ほとんど使っとらんからな」
生活魔法に関しては一切使えないらしい。ダメじゃん、この人。
ミルチナはイズホさんの多彩な中級魔法に感心しきりだ。
「でも、あんな大きな魔法ばかり連発して、イズホさん、魔力切れにならないんですか」
「大丈夫、大丈夫。小さき頃、調子に乗って山を吹き飛ばして以降、魔力切れなど起こしておらんからな」
大丈夫じゃないよね。山を吹き飛ばすってどんなけなのよ。
「ねえ、お姉ちゃん。もうすぐセイランがいなくなるんだよ。代わりに一緒にいてくれないかな」
「おお、そうなのかセイラン」
「国元に帰らなければならぬ。何でも屋におれるのもあとわずか」
事情を説明して、今セイランの代わりに前衛で戦ってくれる人を募集していると話した。
「ユイト一人に前衛を任せるのは酷じゃな。仕方ない、少しワレが鍛えてやろう。しかしワレにも村での仕事がある。いつまでになるかは分からぬぞ」
「それでも、結構です。少し手伝っていただけますか」
これでグランに迷惑かけずに済みそうだわ。
それからユイトのお姉さんは暇を見つけてはセイランとユイトの訓練に付き合ってくれた。夜になってもセイランと稽古していたわね。余程気に入ったのかしら。
「セイラン、これは風の靴じゃ。お前にやろう」
「イズホ殿、良いのですか」
「お前にはジェットブーツよりその方が良いじゃろう。速度はブーツに比べ少し遅いが風魔法のみで走る事ができる。それに体の重心を知る練習にもなる。精進するが良い」
ユイトのお姉さんは、靴をセイランに贈って一旦村に帰るそうだ。
「村で父上と相談してから、また3日後に戻ってくる。ユイト、それまで怪我などせんようにな」
「うん、分かったよ。お姉ちゃんも気を付けてね」
ドラゴンのセミュー様にまたがり、空へと消えていく。今度来るときはちゃんと城門を潜って入って来て欲しいものだわ。
「それじゃ、セイラン。こっちに来てくれる。退職に関するお話をしましょう」
セイランは、今日でお店を辞めて明後日には船に乗って国へと帰る。シンシアと一緒に応接室で話をする。
「セイラン。今までありがとう」
「いや、恩人のためにした事。こちらこそ部屋を与えてもらい助かった」
シンシアがセイランに説明してくれる。
「社長とも相談したんだけど、今まで払っていた給料が少なすぎたようなのよ。その分を清算して、今払おうと思うの」
今までユイトと同じ給料を支払っていた。アルバイトを雇って分かったけど、それじゃあまりに安過ぎた。
シンシアに言って全額とは言わないまでも、それに見合うお金を用意してもらった。普通、退職金というのは支払わないものだけど、今回は精算分として払いたい。
「メアリィ殿、そのような気遣いは無用。国元より給金も出ているのでな」
「それはセイランが休みの日やお店の仕事が終わってから作っていた、報告書の事でしょう。お店の仕事には支障なかったし、それとこれとは別だと思うわ」
夜遅くまで部屋の灯りが点いていることがあった。頑張っているセイランに国からの給料があるのは当然だわ。
「業績が上向いたのも、セイランが来てくれたお陰なのよ。お店の借金も返せたし感謝しているわ。このお金は心配をかけたご家族のためにも取っておいてくれないかしら」
「そこまで言われるのならば、家族への土産物代として少し受け取るとしよう」
金貨を何枚も用意していたけど、銀貨50枚程しか受け取ってもらえなかった。
「遠く離れる事になろうとも、メアリィ殿やユイト殿への拙者の感謝の気持ちは変わらぬ。また会える日を楽しみにしている」
「そうね。また会えるわよね」
新大陸は遠い。もう会う事はないだろう。それを知っているからセイランも国に帰れと言う知らせを聞いてから暗い顔をしていた。別れる時ぐらいは笑顔でいましょう。
「部屋の荷物整理をして、明日は国へ帰る準備をするのよね。手伝えることがあったら言ってね。当日は港まで、私がエアバイクで送っていくわ」
「かたじけないな、メアリィ殿。お言葉に甘えるとしよう」
セイランが王都を離れる朝、ユイトとミルチナがセイランを見送りに港まで行きたいと言ってきた。
「あなた達は、今日の仕事があるでしょう」
「それは明日ちゃんとするから、いいでしょうメアリィ」
「あたしも、明日頑張りますから、セイランの見送りに行きたいです」
「社長。仕事の段取りは私がしておきます。ユイト君達を連れて行ってくれませんか」
シンシアまでそう言うなら、仕方ないわね。
「それじゃ、あなた達もエアバイクで港まで付いて来なさい。遅れるんじゃないわよ」
サイドカーにセイランと荷物を積んで、一緒に港まで行く。港には新大陸行きの大きな貨物船が停泊していた。帆と蒸気機関で回る外輪を備え付けた蒸気帆船で、前に乗せてもらった貨物船の2倍以上もある大きさだ。今は運搬する荷物を積み終えて、乗客達を乗船させている最中だった。
「セイラン、気を付けてね」
「ああ、メアリィ殿も元気でな」
「セイランさん、お元気で。今度、デンデン貝を送りますね」
「ミルチナ殿、ありがとう。美味しい料理が食べれなくて残念だよ」
「セイラン、セイラン。今までありがとう」
「ユイト殿。今生の別れではないさ。また会えることもある」
「そうだ。ボクの遠見鏡を持って行ってよ。向こうで役立つかもしれないから」
「良いのか、ユイト殿。ではユイト殿と思って大事にしよう」
ユイトは泣いていたけど、笑顔で見送らないと。手を振ってセイランを見送る。
ドラの音と共に、アルガルド大陸に向けて船が出港して行く。これから30日近くの船の旅となる。無事新大陸に着いて欲しいと願う他ない。
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