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第2章

第54話 森の魔女2

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「あなたは魔術師ね。どれくらいの魔力量があるの」

「シールドを3枚張るので精一杯です」

「それなら攻撃に専念しなさい。この杖を貸すわ。予備の魔石付きの杖よ。少しは魔力消費を抑えられるわ」

 その子に杖を渡して下に降りる。

「我れの力も必要か」

「キイエ様の手を借りる程ではありませんわ」

 この程度でドラゴン族に手助けしてもらったとなれば、エルフの里で笑い者になってしまいますわ。

「太陽方向、黒熊2、右からフレイムドッグ6です。後方から牛の魔獣2とその奥にムカデ魔獣1です」

 木の根元で小さな女の子が声を張り上げる。

「リリアベーヌさんは後方をお願いできますか」

「ええ、いいわよ」

「ユイト、セイラン前へ。先にブラックベアーを倒して!」

 この魔術師さんが戦闘のリーダーかしら。どんな戦いをするのか、少し見せてもらいましょうか。右側面に氷のシールドを作っておいてあげるわ。
私は木の根元から動かず、一番小さな女の子を守りながら、水牛魔獣1頭が森から出てきたところを打ち抜く。

 人族の子が乗っているのは動く甲冑なのね。森のすぐ近くで大きな剣を振り回して戦っているわ。
それに鬼人さんも、もう1匹の黒熊に一人で斬り掛かっているわね。魔法を避けながら近づいて一撃で切り裂いたわ。すごい剣技ね。

 こちらももう1頭の水牛の頭を打ち抜いた。後はムカデの魔獣らしいけど、暗くてよく見えないわね。

「ムカデ、左に移動しています」

「ユイトとセイランは右に移動してフレイムドッグの側面から攻撃よ」

 フレイムドッグが森から顔をだした途端、魔術師の子が足から炎を出してすごい勢いで森に向かった。何よ、あれは。
火の魔法をローブで防ぎながら、接近して魔法を撃ちこんでいる。俊敏なフレイムドッグもあれだけ接近されると避けられないようね。

 その右手にムカデの魔獣ね。森の木の上にまで頭を上げて獲物を狙う体制になったわ。

「今ね」

 氷の槍を無数に頭に浴びせる。毒のあるシッポは岩魔法で潰してしまいましょう。
魔術師さん達も森から出てきた魔獣は倒せたようね。

「ありがとうございました。リリアベーヌさん」

「あなた達も、なかなかいい連携だったわよ」

「左の森の中、狼の群れが15から20匹います」

 小さな女の子がまた魔獣を発見したようね。まだ後ろにも熊の魔獣が5、6頭いるわ。

「狼の魔獣は平原に出さないようにして、ここから打ち抜きなさい。5匹ほど倒せば退散するでしょう。魔術師さん、あなたできるわね」

「はい、やってみます」

 私は後方の熊を狙い打ちましょう。森を騒がせたから、これぐらいの数は仕方無いわね。この子達と協力して魔獣を倒していき、やっと森が静かになったみたいね。

 魔術師の子達が木の周りに集まって来た。

「ミルチナ。もう森の中に魔獣はいない?」

「ええ、大丈夫です。今のうちに魔獣の回収をしましょう」

「あの水牛魔獣を1頭だけここに運んで。あとは森の中に放り込んでおけば、他の魔獣が始末してくれるわよ」

「じゃあ、魔石だけでも」

 まあ、何でも屋さんだから、魔石を換金したいのでしょうね。私は食料さえあればそれでいいわ。

「この牛の魔獣は、どこで解体するんですか」

 あの大きな牛の魔獣を、走る甲冑でここまで運んできたのね。その力は背中の蒸気機関で生み出しているのかしら、なかなかの造りだわ。

「この扉を入った螺旋階段の中央に水が出る場所があるわ。魔獣を引っ掛ける鉤フックもあるからそれを使ってちょうだい」

 さすが何でも屋さんね。解体までしてくれるなんて助かるわ。

「ユイト君だっけ、あなたが乗っていた鉄の甲冑、少し見せてもらってもいいかしら」

「ええ、結構ですよ」

 この甲冑は魔道具かしら、でもこんなの見たことないわね。足についているキャタピラーを蒸気機関で動かしている。それとこの腕の関節に魔道部品と小さな魔石を使ってるのね。回転部の摩擦軽減かしら、複雑な作りだわ。

「リリアベーヌさん。魔法の杖、ありがとうございました。すごく使いやすかったです」

「そう、それは良かったわ」

 魔術師さんと、鬼人の剣士さんと一緒に上の家へと階段を登る。

「あなた達、思ったより戦えるわね。そのブーツは魔道具なのかしら」

「ええ、ユイトの家に行った時にもらった物なんですよ」

 王都で売っている物かと思ったけど違うようね。少し見せてもらったけど小型の火魔法ジェットがブーツの角度によって4つ別々に方向を変えている。魔法を使わずにこんな制御ができるなんて、ただの魔道具とは違うわね。

「リリアベーヌさんも魔道具には詳しいんですか」

「ええ、大学で博士号を取っているわ。学んだ中では一番面白かったわね」

 魔道具は道具そのものよりも、その動作理論が大事だ。魔法の真髄に触れるような理論も幾つかあったわ。王国は魔道具に関しては大陸一と言ってもいいわね。

「そういえばあなたの剣も尋常じゃない切れ味だったわね。鬼人族の剣技なのかしら」

「この刀は、魔剣、水紋刀。テツジ刀匠の手によるもの。拙者はそれを使わせてもらっているだけのこと」

 魔剣! そんなものが実在するの? 少し見せてもらったけど、刀に魔法の水が纏わりついていたわ。その水で斬るって言ってたけどそんな魔法技術、エルフの里でも聞いた事はないわ。

「あなた達、只者じゃないわね」

 二人と話していると、下で解体が終わったと、人族の男の子と小さな女の子が上がって来た。もう夕方だし、この子達には今日ここで泊まってもらいましょう。
すると夕食も作ってくれると言うので台所に案内した。

 作ってくれた肉料理はすごく美味しかった。私がいつも料理する同じお肉なのに、こんなに違うなんて。

「あなた達、只者じゃないわね」

 これは、本当に美味しいわ。この小さな女の子、ずっとここに居てくれないかしら。

 さて、食事も終わったけど、この家にベッドは1つしかない。各階の研究室には大きなソファーがあるわ。この子達には悪いけど、今夜はそこで寝てもらいましょう。
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