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第2章

第51話 新築祝い

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「今日はよく働いたわね。こんな時は、ユイトの村にあったオフロに入りたいわ」

 シャウラ村に行ってから、無性にオフロに入りたい時がある。あれは病みつきになってしまうわ。

「あら、オフロなら私の家にあるわよ」

「えっ、シンシアの家。オフロ付きなの」

「グランの実家にあったからって、新しい家にも付けたのよ。今日、私の家に来る?」

 さすが元お貴族様ね。オフロって貴族の家ならある物なのね。

「ええ、お邪魔するわ。ミルチナ、今日のお肉も持ってみんなで行きましょう」

 新築祝いも兼ねてシンシアの家で食事をしましょう。

 シンシアの実家から3つ道を隔た、工場に近い場所に新しい家はあった。一般的な家族が住む2階建ての綺麗な家だけど、大きなベランダもあって庭は広く少し豪華な家ね。

「グラン、ただいま。今日はメアリィ達を連れて来たの」

「やあ、メアリィ店長。俺達の結婚式の時は出席してくれてありがとう。今日は家を見に来たのか」

「ええ、それもあるけど、オフロがあるって聞いて入らせてもらおうと思って」

「そうか、それならすぐ準備しないとな。シンシアすまんがそれまで食事の準備をしておいてくれ」

「ええ、分かったわ」

 新婚旅行の話を聞いて少し不安になっていたけど、何だ、すごく息が合ってるじゃない。

「シンシア、オフロって毎日入ってるんじゃないの。何か今から準備するって裏庭に出て行ったけど」

「貴族の時は毎日入ってたようなんだけど、水と燃料代がすごく高くつくのよ。私の家では1週間に1度ぐらいね」

 作ったのは2人ぐらいが入れる小さなオフロにしたそうだけど、経費がすごくかかるようね。ユイトの家では毎日入っているって言ってたけど、やっぱり村と王都じゃ物価が違うのかしら。

「シンシアさん、台所借りますね。広くて綺麗な台所ですね。ユイトさん、早速お肉を焼きましょう」

 ミルチナとユイトで料理を作ってくれるみたいね。ニコニコと料理を作る二人はまるで新婚さんみたいだわ。でもこの家に新婚さんは2組も要らないわよ。

「ユイト。そこのお皿を人数分取ってちょうだい」

「ユイトさん。お肉切り分けるの手伝ってくれませんか」

「ユイト! フォークとナイフもよ。さっさとしなさい」

「ねえ、ユイトさん。味付けこれでいいですか」

 この子も張り合うわね。いつもは大人しいのに、こういうところは頑固なのね。
それを見かねたのかセイランがユイトを呼ぶ。

「ユイト殿、ユイト殿。こちらでオフロの掃除をしてもらえぬか。グラン殿だけでは大変なようだ」


 食事の準備ができた頃、グランも戻って来た。オフロが湧くまでまだ時間がかかるようで、その前にみんなで食事をする。

「改めて、グラン、シンシア。結婚おめでとう。乾杯しましょう」

 グラスに注がれたワインで乾杯する。

「やっぱり新築っていいわね」

「そうね。こんな家を建ててくれたグランには感謝しているわ」

「お庭も広いのね」

「そこにはいずれ、俺の工房を建てる予定なんだ」

 グランは、物作りをしたいとシンシアのお父さんの工場で働いているけど、将来は自分の工場を持ちたいと言っている。その研究をするための工房用に土地を空けているそうだ。

「将来の事も考えている立派な旦那様ね」

 その後、私達は慰安旅行で行ったユイトの村の事や、シンシア達は新婚旅行の事をお互い話して盛り上がった。

「そろそろオフロが沸いたようだ。狭いからな2人順番に入ってくれ」

「私は後でいいわ。シンシア、先に入って」

「そう。じゃあお先に。ミルチナちゃん一緒に入りましょうか」

「はい」

 シンシア達が洗い場に行ったのを見届けて、グランが私に話しかけてきた。

「なあ、メアリィ店長。聞いてくれないか。実はなシンシアを旅先で怒らせてしまったんだが、何が悪いのかよく分からなくてな」

「あなた、シンシアをほったらかして船の中を歩き回ってたって聞いたわよ」

「あれはだな、蒸気機関室を見せてくれると言うから、今後の参考にと見に行っただけで……」

「それに、高価なお土産ばかり買ったとか、シンシアにあれこれ命令したとか言っていたわよ。ちゃんとシンシアに謝ったの」

「そんな事でか? まあ、ちょっとは頼りがいのある所を見せようとはしたが、土産も父上と母上から頼まれていた物を買っただけで、それ用の金ももらっているんだがな」

「グラン殿。ちゃんとシンシア殿と話し合われたのか。女子おなごというのは態度だけではなく、ちゃんと言葉で言ってもらわねば分からぬものなのだぞ」

「そういうものなのか? まあ、今度ちゃんと話してみるよ」

「夫婦って難しいもんなんだね」

「まあ、ユイトには分からない事でしょうけど」

 私も分かってるわけじゃないけど、シンシアとグランにはいつも仲良くしてもらいたいわ。

「そうだわ、グラン。お詫びと言って、美味しい料理店に行ったらいいんじゃないかしら。でも貴族が行くような高いお店はダメよ」

「そうなのか。だが俺はここら辺りの事は詳しくないんだがな……」

「それなら宮殿前広場に面しているレストランなんかいいんじゃないかしら」

 グランには、私達が前に行った事のあるお店以外を探すように言っておく。

「そうか、ありがとう、メアリィ店長。これからもよろしく頼むな。また相談に乗ってくれ」

「ええ、いいわよ」

 親友のためですもの、私が力になれるならどんなことでも協力するわよ。

 その後、私とセイランでオフロに入らせてもらった。確かにユイトの家にあったような大きなオフロじゃなかったけど、二人なら十分は入れる湯船にシャワー設備も1つ付いていた。

「ここで二人一緒に入っているのかしら」

 そう思うと、なんだか恥ずかしくなってきた。ご夫婦なんだから恥ずかしがることもないはずよね。でも私なら無理なような気がするわ。

 私の結婚はまだまだ先だろうし、誰と結婚するかなんて分からないのに、こんな心配をしてもしょうがないわね。
今日はゆっくりオフロに浸かって疲れを癒しましょう。ほんと和むわ~。
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