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第2章

第49話 ライバル店2

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 みんな集まって食事をしながら、ライバル店の対抗策を考える。

「あの赤いエアウルフなんだけど、使役魔獣の登録前で檻に入れてないとダメな魔獣なんだって」

「じゃあ、キイエみたいに街中を歩ける訳じゃないんだね」

「2日後に試験があって、それに合格すれば檻から出してもいいらしいけど、普通のエアウルフがそんな試験に合格するとは思えないんだけど。ユイト。向こうのお店どうだった」

「今日も赤いエアウルフは檻の中で眠っていて大人しかったよ」

「お店の中の様子はどうだったの」

「繁盛してたよ。働いてる人は8人いて、みんな仕事に出てて僕が行った時は店長さんと受付の人しかいなかったんだ。依頼の料金が僕達より安いんだけど、2週間だけだって言ってた」

 なるほど開店直後だけ安くしてお客さんを呼び込んでいるのね。でも、最初から8人も従業員を雇うなんて初めて開いたお店にしては多いわね。

「今日来たお客さんは、その店にハーブの採取依頼を断られたって言ってました。それって酷いと思いませんか」

「そういえば、人探しもしてないって断っていたよ」

「それは利にならぬからしないだけでござらぬか。拙者もこの国で商売の事を学んできたが、利益の為にだけ働くと言う冷たい商売人が多いように思える」

 確かに、ペット探しや人探しというのは、人手が掛かる割に収入は少ない。王都では、利にならない事はしないと言う合理的な考えはある。だけど、するべき仕事をしないのは違うと思うわ。

「ボク達が休んでいた間、軍や役所からの仕事を中心にしてたみたいで、この先予約もあって忙しいって言ってた」

 確かに軍関係は割のいい仕事だわ。そればかりをやるつもりかしら。

「まだ向こうのお店がどんな商売をするか分からないけど、慌てることはないわ。私達には今までやって来た実績があるもの。今まで通りの仕事をしましょう」


 翌日もお客さんは少なかった。でも急な依頼や、馴染みのお客さんは来てくれた。

「メアリィちゃんのとこのお店が再開してくれて良かったよ。裏庭の石垣の修理を頼んだけど、仕上がりが悪くてね。少し安くてもあれじゃだめだね」

「ねえ、お姉ちゃん。猫のミケ君がいなくなったの。探してくれる」

 ちゃんと見てくれているお客さんはいるわ。このまま頑張ろう。そういえば明日、あの赤いエアウルフの試験があるわね。見に行ってみようかしら。

 翌日。軍の訓練施設で行われるという、使役魔獣の試験会場にユイトと一緒に行ってみる。街中で飼う魔獣だから、試験も公開していて誰でも見ることができる。余程の自信が無いと試験自体を受けることをしないと役所の人が言っていた。

 訓練施設のフェンスの向こう側、遠くに例の赤いエアウルフが座っている。試験官に言われて飼い主が首輪を引っ張って立たせた。あれが何でも屋の主人だろうか。

「なんだか無理やり引っ張っているね。あれだと只の魔獣に縄を付けて従わせてるだけにしか見えないよ」

 確かにユイトとキイエ様とは全然違う感じね。立っていたエアウルフがまた座ってしまった。主人がその顔に手をやり何か叫ぶと、エアウルフが突然飛び起きて風魔法を放った。なんだか興奮して飛び跳ねている。

 使役魔獣の試験はいかに魔獣が主人に従って行動できるかを見るものだ。これではダメだろう。見ている人も「やっぱり魔獣は恐いわね」と言っていた。

 案の定、試験は不合格となって、来週再試験が行われるそうだ。これに落ちると街でエアウルフを飼うことができなくなる。

「ユイト。キイエ様もあの試験を受けたの」

「キイエは前から登録してたけど、成人した時にボクがキイエの主人であると登録するためにこの試験を受けたんだ。その時は僕がキイエに『ちゃんと指示をしないか!』って怒られちゃった」

 村近くの大きな町での試験だったそうだけど、ユイトがキイエ様に怒られながら試験を受けている様子が目に浮かぶわね。

 お店に帰ってみんなに今日の事を話す。

「メアリィ殿。来週にはあの赤いエアウルフは店先から居なくなると言う事だな」

「多分そうなるわね」

 ミルチナもあきれた様子だ。

「あたし達に対抗するためってだけで、人に慣れてもいない魔獣を連れてくるなんて」

「なんだか、あのエアウルフ。薬で操られているような感じだった」

 ユイトがなんだか妙な事を言いだした。

「ボクが見に行った時、あのエアウルフはいつも檻の中で眠っていた。今日も元気がなかったようだったけど、鼻先に手を当てたとたん興奮しだしたんだ」

「確かにそうね。言葉や仕草で命令しているようには見えなかったわね」

「ユイトさん。そんな事できるんですか」

「狼は臭いに敏感だからね。眠らせたり、興奮させたりする薬草はあるよ」

 薬草で魔獣を操るなんて、そんなの使役魔獣でも何でもないじゃない。人の役に立てるために魔獣を飼い馴らして、狩りの手伝いや荷物を運ぶのが使役魔獣でしょう。試験に受かるために薬を使うなんて。

 翌日、文句を言ってやろうとライバル店に行くとエアウルフは店の前に居なかった。聞くと来週の再試験のために王都の外で訓練をしているとの事だった。

「多分、前の試験をみんなに見られて、店の前にエアウルフを置くのは逆効果だと思ったんじゃないかな」

 ユイトの言う通りね。恐い魔獣がいると噂が広まればお客は寄り付かなくなるものね。そして、その翌日。あの事故が起きた。

 ◇

 ◇

 俺はエアウルフの調教を行うため王都の外の平原に来ている。馬車に乗せた檻からエアウルフを出して薬を嗅がせる。まず風魔法を使わせて、その後俺の指示で魔法を使わなければ試験には合格できる。薬師から買った薬を使ったが、エアウルフは寝たままで立とうともしない。

「やっぱり薬だけじゃ難しいんじゃないですかね。薬師もそんな事言ってましたし」

「今さら止められるか。この前はちゃんとできたんだ、今度こそ合格するんだよ」

 もう一人の従業員に首輪に繋げたリードを持たせておいて、少し強い薬を嗅がせる。すると急にエアウルフが暴れ出した。

「おい、しっかりとリードで押さえろ」

 だが抑えきれない。それどころか従業員の肩に噛みついた。仕方ない万が一のために持ってきた魔弾銃で攻撃するがあっさりと躱された。

「こいつこんなに素早かったのか」

 捕まえたエアウルフの中でも一番大人しい奴を連れて来たはずだが、野生そのものじゃないか。俺も襲われ肩と背中を怪我して魔弾銃も破壊された。エアウルフは街道に出て馬車を襲っている。城門から衛兵たちが駆けつけたが、興奮したエアウルフを抑えられない。

 街道に誰かが出てきた。あれは何でも屋の女店長か。すると俺の頭上を大きな影が飛び去った。街道で暴れているエアウルフをドラゴンが足で押さえつける。

「本当にドラゴンが居たのか……」

 あのドラゴンにかかれば俺達のエアウルフなど赤子同然だ。風魔法で攻撃しているが鱗で跳ね返されている。その内、魔力切れになったのかエアウルフが大人しくなった。

 これで俺も終りだな。死人が出ていなければいいんだが……。そして俺は意識を失った。

 ◇

 ◇

 その後の調査で、エアウルフの赤い毛は偽物で、普通のエアウルフに顔料で赤く塗ったものだと分かった。可愛そうだけど殺処分されて、店主は事故の責任を追及されて裁判になっている。幸い死人は出なかったけど重い罰が与えられるでしょう。

「仕方ないわね。自分で引き起こした事なんだから」

「でも、あのエアウルフ。可愛そうですね」

「人に危害を加えた魔獣ゆえ、仕方なき事。ミルチナ殿が気に病む事もなかろう」

「それにしても、嫌な商売人だったわね。余所の町から来た人みたいだけど」

 王都で儲けようと来たようだけど、商売だからと言って、何をやってもいいという訳じゃないんだから。

「さあ、シンシアが帰って来るまでもう少しあるわ。忙しくなるけどみんな頑張ってね」

 あれからお客さんも戻ってきてくれた。さあ、明日からも頑張りましょう。
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