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第2章

第43話 稽古

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 討伐を終えて、ユイトの家に帰る馬車の中、ユイトのお父さんに聞いてみる。

「今日の討伐すごかったです。あの飛行機って何機ぐらいあるんですか」

「そうだな。あんたらを乗せた人員輸送用のも含めると45機だな。戦車は152輌あるぞ」

すごいわね。王都にいる軍隊より規模は小さいのでしょうけど、この村を守る分には十分すぎる戦力ね。

「だがな、戦車は2人乗らねえと動かせなくてな人員が足りないんだ。そこで一人でも動かせるものをと開発したのが機動甲冑だ」

 ユイトが乗っていたキャタピラーで動くタイプと、魔力で高速移動するタイプがあるそうだ。多くの魔道部品と魔石を組み込んで手足を動かしているらしい。

「すると、あの甲冑も魔道具という事ですか?」

 魔道具なら王都で管理して、販売もされているはずだけど、あんなのは防具屋でも見たことがない。

「蒸気機関や電気モーターの動きを良くする魔道補助具だな」

 魔道部品を使って関節部分に反発する魔力をコーティングして、摩擦を軽減して動かしているらしい。だから本来の動きを補助する魔道補助具になるそうだ。理論的な事も教えてくれたけど魔道具理論と同じく難解で、私には理解できなかった。

「魔術協会には登録してないが、王都には今何台あるか報告をしている。戦車が何輌で飛行機が何機あるのかうるさく聞いてくるんでな。これも村長の仕事と思っているが煩わしいものだな」

 王都としてもこれだけの戦力を一つの村が持っていれば、気にもなるんだろう。まさかこの村が王都に攻め込んでくる事も考えているんだろうか。


 今度はセイランが、ユイトのお父さんに話し掛けた。

「ゲンブ殿は、自警団の団長であらせられる。時間があれば拙者に稽古をつけて下さらぬか」

「鬼人族のあんたに、稽古か……。俺は集団で戦うことに長けているが、鬼人は1対1が得意だったな。夕食まではまだまだ時間がある。俺も鬼人とやり合うのは初めてだ、帰ったら庭で手合わせしてみるか」

「ありがたき幸せ」

 セイランはユイトのお父さんと稽古できるのが嬉しいのか、腰の刀を握り前を向いて気合を入れている。

「あ、あの。私も稽古してもらえませんか」

 自警団の魔術師の戦い方はすごかった。私もあんな戦い方を教えてもらいたい。

「メアリィさんは魔術師だったな。それならジェットブーツを使った戦い方がいいだろう。少し修練をせんといかんが、セシルに教えてもらってくれ。セシル頼めるか」

「はい、承知いたしました」

 ダークエルフ族のセシルさんは剣だけでなく魔法も得意だそうだ。この人は只のメイドさんじゃないのね。護衛のためにあの家に居るのかしら。

 何でも屋では魔術師は私ひとりだ。この村の魔術師のように戦うには速く走るための魔道具であるジェットブーツを使うのがいいとセシルさんが言う。
それを使えば、私もあの戦場でエアバイクに乗って戦っていた魔術師のように戦えるかもしれないわ。

 家に帰ると早速、ユイトのお父さんとセイランが庭で稽古をするそうだ。

「木刀で稽古をしよう。腰に差している刀と似た物を選んでくれ」

 稽古用の木の剣が何種類も木の箱に入って並んでいたけど、刀と同じような細身の剣もあるわね。王国ではセイランが持っている刀は初めて見たけど、この村では刀を使う人もいるんだろうか。

 セイランが木刀を選び、ユイトのお父さんも片刃の木の剣を持って向き合う。

「ゲンブ殿、よろしくお願いいたす」

 二人礼をして向き合う。セイランは木刀を両手で構え、団長さんは片手で剣を下に向けて構える。

「いつでもいいぜ。かかって来てくれ」

 団長さんは無防備なように見えるけど、セイランは中々斬り込もうとしない。

「それなら、こちらから行こうか」

 団長さんが動いた。速い。あっという間に間合いを詰めて剣を下から上に向けて振り抜く。セイランは防御して後ろに下がったけど、なおも団長さんが仕掛けてセイランは防戦一方だわ。

「あのセイランが押されるなんて」

 防ぐだけではだめだと、セイランも攻撃を繰り出してるけど、片手で簡単に受け止められている。団長さんは腰に刺したもう一本の短い木刀を手にし二刀流の構えになった。

 セイランの打ち込む剣を片手で受け、もう一方の剣で鎧を着けた胴へと斬りつける。腕や足にも狙いつけたように当てていく。

 しばらくして動きが止まり、互い向き合い礼をする。終わったようね。セイランの完敗だわ。1対1での戦いでセイランが負けるなんて……。

「ゲンブ殿。ありがとうございました」

「あんたの剣筋は、なかなか良いものがある。だが剣に重さが感じられなかったな。腕力と言うものではないんだが、一太刀、一太刀に気迫がこもってない感じだな」

 セイランはユイトのお父さんの言葉を聞き漏らさないように真剣に聞き入る。

「ちょっと木刀を右に構えてくれるか」

 セイランが両手で体の右側に木刀立てて構える。ユイトのお父さんが木の剣を両手で持ち、踏み込みながらセイランに打ち込む。

 木と木がぶつかり合う甲高い音がして、剣を受け止めたセイランは腕を降ろし、その手から木刀が滑り落ちる。焦点の定まらない顔で立ち尽くすセイラン。

 手が痺れたのかしら。でも様子が変ね、何が起きたのか私には分からなかった。突然座り込んで、額を地面につけたセイランがユイトのお父さんに言う。

「未熟な拙者に奥義を見せていただき、ありがとうございました! ご教授、感謝いたす!」

「そんな大したもんじゃねえよ。さあ立ちな。今のが分かるなら、あんたはまだ強くなれる」

 セイランは地面に額をつけたまま、感謝の言葉をユイトのお父さんに伝えていた。何か得るものがあったようね。
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