22 / 101
第1章
第22話 料理人の女の子3 ミルチナ
しおりを挟む
「これが王都なの。おっきな城門ね。こんな大きな門、誰の為にあるのかしら」
王都の城門を大きな口を開けて見上げていると、同じ馬車に乗っていたおじいさんに笑われた。
「ホッ、ホッ、ホ。あんた王都は初めてかな」
「は、はい。東の小さな町から来たんです」
「お若いのに、お一人でか。ここまで大変じゃったろう」
「いえ、憧れの王都に行けると思ったら、これぐらいの旅、何でもないです」
「そうかい。夢があって来たんじゃろうな。これからも頑張るんじゃぞ」
そう、あたしは料理人。王都で一番の料理人になるという夢のために遠い田舎からここに来たんだ。これから修行して頑張らないといけない。
王都の中に入って馬車から降りたけど、これからどっちに行けばいいのか分からない。王都は広すぎる。中央付近の広場に面した料理店のはずなんだけど……。
荷物を持って辺りをウロウロと歩いていると、熊獣人の人が声を掛けてきた。体は大きかったけど人懐っこそうな優しい声だ。
「お嬢さん。どちらに行くのですか。迷われたのなら御案内しましょか」
「あたし、料理の修業のために王都に来たんです。宮殿前公園に面しているラフランシェと言うお店なんですが」
「ああ、それなら良く知っていますよ。でも今は従業員を募集していませんね。別の料理店を紹介しましょうか? この近くなんですよ」
そうなの? 確かに従業員を募集しているかまでは知らなかったわ。この人は良く知ってるみたいだし、王都を探し回るより紹介してもらった方が早いかもしれないわね。
その熊獣人の人に連れられて行ったお店は、キラキラなお店が建ち並ぶ大きな通りのお店だった。中で社長さんと言う人に会って、ここならすぐにでも働けると言われて契約書に自分の名前を書いた。近くの宿屋さんも紹介されて、そこに荷物を置いてゆっくりすることができた。
仕事はその日の夕方から。指定された時間に行って他の従業員の人と挨拶した。なんだか綺麗なお姉さんが沢山いたけどあたしの仕事場は裏手の厨房。
「おい、お前が今日入って来た新人か。まずはここの掃除からだ」
厨房内をキレイにするのは、料理人にとっては当たり前の事だ。言われた通り床の掃除から始める。その後は、あれを運べとかこれを持って来いとか言われて、その通りに仕事をした。
この厨房ではあたしの他に3人働いていたけど、料理を作ってるのは1人だけ。後の人はお菓子のような物を器に盛りつけているだけのように見える。そのまま朝まで働いてその日の仕事が終わった。
今日は慣れない仕事をして疲れたわ。宿屋に帰ると朝食を出してくれた。それを食べ終えると宿屋代として銀貨15枚を払うように言われた。
「そんなに高いんですか」
王都の物価は高いとは聞いていたけど、そんなに高いとは思わなかった。
「こんな広い部屋で食事も付くんだ。王都ではこれぐらい当たり前だ」
そう言われて、しぶしぶ宿代を支払った。お店の社長さんは1日働いて銀貨20枚、それを1週間後にまとめて払うと言っていた。それなら何とかなるかな。そう思って何日か働き続ける。
「今日は週末だ。客が多い。お前はこっちで仕事しろ」
そう言われて綺麗な服を着せられて、お客の給仕をしろと言われた。店内は厨房と違って煌びやか照明の元、大きなソファーに腰掛けた男の人の側に、従業員のお姉さんが座っている。そのテーブルに注文の品を運んでいく。
「おっ、かわいい子だね。新人さんかい」
「ええ、そうなの。1週間前に入った子よ」
「若いね~。こっちへ来てお酌してくれよ」
「ダメよ、この子は給仕で来てるんだから。お酒の注ぎ方も知らないのよ」
「いいさ、いいさ。さあ座って。俺が教えてやるよ」
なんだか分からない間に、ソファーに座らされて手や体に触られた。
「あ、あの。あたし……、そんなんじゃ……」
ソファーから立ち上がって、厨房の方へ逃げてきた。
「ほら、あんな初心な子をからかっちゃだめよ」
お店の方で、綺麗なお姉さんの声が聞こえた。
「こら、こんなところでサボってちゃダメだろう。さっさと店に出な」
「で、でも、あたし……」
「注文された品をテーブルに運ぶだけだ。さっさと行ってこい」
そう言われて、何とか仕事を続ける。できるだけ男の人に近づかず、お菓子の乗った器をさっと置いて帰ってくる。
なんとか朝まで仕事を終えたけど、こんな所はあたしが求めていた仕事場じゃない。
朝、社長さんに今日で辞めると言った。今日まで給料をもらって違う職場に行こう。
「君ねぇ。急に辞めると言われても困るんだよ。契約違反だよ」
「でも、こんな仕事、初めに言われませんでした」
「ちゃんとここに書いてあるんだよ」
そう言われても、あたしは簡単な読み書きしかできない。なにが書いてあるのかも分からない。
「でも、あたし辞めます」
「それなら、この1週間の給料は1日銀貨2枚だ。契約違反なんだから仕方ないだろう」
そんな事って……。でもここにいるよりもましだ。あたしは給料を受け取り宿屋へ戻る。部屋の荷物をまとめて宿を出て最初に行こうとしていた、宮殿前公園へと向かう。
この1週間で、王都に地理も分かるようになってきた。ここは西の端。目的の場所までは遠いけど歩いて向かうしかない。馬車に乗れば早いんだけど、乗り方が分からない。人に聞くのも怖い。この王都にはどんな人がいるか分からないもの。
昨夜、あんなことがあって、しかも徹夜で働いて疲れている。仕方がない、安そうな宿屋を見つけて寝ないと体がもたないわ。見つけた宿屋は銀貨5枚で泊まれた。食事を付けても銀貨6枚だそうだ。
今日はとにかくここで眠ろう。明日から、また頑張ればいい。
---------------------
【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
今回は、第20話前のミルチナ視点となっています。
次回もよろしくお願いいたします。
王都の城門を大きな口を開けて見上げていると、同じ馬車に乗っていたおじいさんに笑われた。
「ホッ、ホッ、ホ。あんた王都は初めてかな」
「は、はい。東の小さな町から来たんです」
「お若いのに、お一人でか。ここまで大変じゃったろう」
「いえ、憧れの王都に行けると思ったら、これぐらいの旅、何でもないです」
「そうかい。夢があって来たんじゃろうな。これからも頑張るんじゃぞ」
そう、あたしは料理人。王都で一番の料理人になるという夢のために遠い田舎からここに来たんだ。これから修行して頑張らないといけない。
王都の中に入って馬車から降りたけど、これからどっちに行けばいいのか分からない。王都は広すぎる。中央付近の広場に面した料理店のはずなんだけど……。
荷物を持って辺りをウロウロと歩いていると、熊獣人の人が声を掛けてきた。体は大きかったけど人懐っこそうな優しい声だ。
「お嬢さん。どちらに行くのですか。迷われたのなら御案内しましょか」
「あたし、料理の修業のために王都に来たんです。宮殿前公園に面しているラフランシェと言うお店なんですが」
「ああ、それなら良く知っていますよ。でも今は従業員を募集していませんね。別の料理店を紹介しましょうか? この近くなんですよ」
そうなの? 確かに従業員を募集しているかまでは知らなかったわ。この人は良く知ってるみたいだし、王都を探し回るより紹介してもらった方が早いかもしれないわね。
その熊獣人の人に連れられて行ったお店は、キラキラなお店が建ち並ぶ大きな通りのお店だった。中で社長さんと言う人に会って、ここならすぐにでも働けると言われて契約書に自分の名前を書いた。近くの宿屋さんも紹介されて、そこに荷物を置いてゆっくりすることができた。
仕事はその日の夕方から。指定された時間に行って他の従業員の人と挨拶した。なんだか綺麗なお姉さんが沢山いたけどあたしの仕事場は裏手の厨房。
「おい、お前が今日入って来た新人か。まずはここの掃除からだ」
厨房内をキレイにするのは、料理人にとっては当たり前の事だ。言われた通り床の掃除から始める。その後は、あれを運べとかこれを持って来いとか言われて、その通りに仕事をした。
この厨房ではあたしの他に3人働いていたけど、料理を作ってるのは1人だけ。後の人はお菓子のような物を器に盛りつけているだけのように見える。そのまま朝まで働いてその日の仕事が終わった。
今日は慣れない仕事をして疲れたわ。宿屋に帰ると朝食を出してくれた。それを食べ終えると宿屋代として銀貨15枚を払うように言われた。
「そんなに高いんですか」
王都の物価は高いとは聞いていたけど、そんなに高いとは思わなかった。
「こんな広い部屋で食事も付くんだ。王都ではこれぐらい当たり前だ」
そう言われて、しぶしぶ宿代を支払った。お店の社長さんは1日働いて銀貨20枚、それを1週間後にまとめて払うと言っていた。それなら何とかなるかな。そう思って何日か働き続ける。
「今日は週末だ。客が多い。お前はこっちで仕事しろ」
そう言われて綺麗な服を着せられて、お客の給仕をしろと言われた。店内は厨房と違って煌びやか照明の元、大きなソファーに腰掛けた男の人の側に、従業員のお姉さんが座っている。そのテーブルに注文の品を運んでいく。
「おっ、かわいい子だね。新人さんかい」
「ええ、そうなの。1週間前に入った子よ」
「若いね~。こっちへ来てお酌してくれよ」
「ダメよ、この子は給仕で来てるんだから。お酒の注ぎ方も知らないのよ」
「いいさ、いいさ。さあ座って。俺が教えてやるよ」
なんだか分からない間に、ソファーに座らされて手や体に触られた。
「あ、あの。あたし……、そんなんじゃ……」
ソファーから立ち上がって、厨房の方へ逃げてきた。
「ほら、あんな初心な子をからかっちゃだめよ」
お店の方で、綺麗なお姉さんの声が聞こえた。
「こら、こんなところでサボってちゃダメだろう。さっさと店に出な」
「で、でも、あたし……」
「注文された品をテーブルに運ぶだけだ。さっさと行ってこい」
そう言われて、何とか仕事を続ける。できるだけ男の人に近づかず、お菓子の乗った器をさっと置いて帰ってくる。
なんとか朝まで仕事を終えたけど、こんな所はあたしが求めていた仕事場じゃない。
朝、社長さんに今日で辞めると言った。今日まで給料をもらって違う職場に行こう。
「君ねぇ。急に辞めると言われても困るんだよ。契約違反だよ」
「でも、こんな仕事、初めに言われませんでした」
「ちゃんとここに書いてあるんだよ」
そう言われても、あたしは簡単な読み書きしかできない。なにが書いてあるのかも分からない。
「でも、あたし辞めます」
「それなら、この1週間の給料は1日銀貨2枚だ。契約違反なんだから仕方ないだろう」
そんな事って……。でもここにいるよりもましだ。あたしは給料を受け取り宿屋へ戻る。部屋の荷物をまとめて宿を出て最初に行こうとしていた、宮殿前公園へと向かう。
この1週間で、王都に地理も分かるようになってきた。ここは西の端。目的の場所までは遠いけど歩いて向かうしかない。馬車に乗れば早いんだけど、乗り方が分からない。人に聞くのも怖い。この王都にはどんな人がいるか分からないもの。
昨夜、あんなことがあって、しかも徹夜で働いて疲れている。仕方がない、安そうな宿屋を見つけて寝ないと体がもたないわ。見つけた宿屋は銀貨5枚で泊まれた。食事を付けても銀貨6枚だそうだ。
今日はとにかくここで眠ろう。明日から、また頑張ればいい。
---------------------
【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
今回は、第20話前のミルチナ視点となっています。
次回もよろしくお願いいたします。
10
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる