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第1章
第20話 料理人の女の子1
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「シンシア、ここの料理美味しかったわね」
「この王都でも評判のお店だもの、なかなか予約が取れなくて苦労したのよ」
王都の宮殿前公園に面している、高級料理店にシンシアと来ている。たまにはこういう贅沢もいいものだわ。そう、たまによ。高級料理店と言うだけあってそれなりのお値段だものね。
夜の帳も下り、暗くなった裏口の方から誰かが言い争っている声が聞こえた。何か揉めているのかなと思って路地から裏口を眺めると、女の子が頭を下げているのが見えた。
「お願いします。ここで働かせてください」
「あんたもしつこいね。従業員の募集はしてないんだよ」
「給仕でもお皿洗いでも、何でもしますからお願いします」
「人は足りてるんだ。あんたも有名店で働いたという履歴が欲しいだけだろう。うちは腕のいい料理人しか雇わんよ」
「そんな事言わず、お願いです。他に行くところが無いんです」
「そんなのは知らんよ」
どうも、この店で働きたかったのだろう。断られてトボトボと路地をこっちに向かって歩いてくる。
「あなた、大丈夫?」
「あ、あの。あなたは誰ですか」
怯えた様子で、あからさまにこちらを警戒している。こんな私を見て悪い勧誘か何かだと思ったのかしら、失礼ね。
私より小さな羊獣人の女の子。ピンクのクルクルパーマの髪が肩まで伸びていて、1周回り切っていない太い角が頭の横から生えている。
「あ、あたしには構わないでください」
そう言って立ち去ろうとした女の子のお腹が鳴った。
「あなた、お腹空いているのね」
身なりも綺麗とは言えない、王都に出てきたばかりといった感じだわ。
「私のお店に来なさい。ちょうど余ってるご飯があるから御馳走するわよ」
私が外食することを知らなかったユイトが、私の分の夕食を作ってしまって、明日の分として残してある。あれならすぐにでも食べられるだろう。
「そんな事言って、また変なお店に連れて行くんでしょう」
「大丈夫よ。このお姉さんが経営している何でも屋さんなのよ。一緒にいらっしゃいな」
シンシアが優しく声を掛ける。
「何でも屋?」
興味を持ってくれたのか、シンシアの笑顔に誘われたのか一緒にお店まで行くことになった。
「メアリィ、お帰り。あれ、その子は」
「ユイト。私の分の夕食を温め直してくれるかしら」
ユイトに事情を説明して、温め直してもらった料理をテーブルに置く。
「さあ、お食べなさい。パンはさっきのお店みたいなフカフカじゃないけど、美味しいわよ」
お肉と野菜たっぷりの暖かいスープ。魔獣の肉を使ったコロコロステーキと無発酵パン。レストランの料理とは違うだろうけど美味しい家庭料理だ。
最初はモジモジとこちらを気にしながら食べていたけど、ひと口ふた口食べていくうちに目の色が変わってきた。
「これ、美味しいです。何ですかこれは……」
そのうちガツガツと食べだした。
「このスープもお肉も美味しいです。このハーブの香りがまたいいですね」
「スープとパンならお代わりがあるよ」
ユイトがお代わりのスープを注いであげる。余程お腹が空いていたのね、お代わりも平らげてやっと落ち着いたみたいだ。
「こんな美味しい食事をいただき、ありがとうございました」
「ところであなた、泊まるところはあるの? 今夜はここに泊まっていったら」
「あの、そんなに親切にされても……。あたしお金持ってませんよ」
「それなら、なおさら泊まっていきなさい。困っている時はお互い様よ」
少し事情を聞いたら、小さな町から料理人を目指してこの王都に出てきたそうだ。最初に働いた所がまともなお店じゃ無かったらしく1週間働いて辞めたらしい。その時の給料も少ししか払ってもらえず、あまりお金がないと言っている。
「それは可哀想だね。ボクの部屋のベッドを使ってよ。ボクは床で寝るから」
「ユイト、あんたの部屋に入れるつもりなの!」
「だってセイランは体が大きいから一緒に寝れないし、メアリィの部屋は物が散らかっていて人を入れられないじゃない」
「失礼ね。今はちょっと荷物が多いだけよ」
この前ユイトには、資料を部屋に持ってきてもらった時、私の部屋の現状を見られている。そんな汚れてはいないわよ、ちょっと調べ物をしてて本なんかを出しっぱなしにしているだけよ。それだけなんだから。
「あの~、あたし。この方の……ユイトさんの部屋でいいです。料理のお話も聞きたいですし」
モジモジとしながら、女の子が言った。さっきの料理がおいしかったとはいえ、それはダメでしょ。
「あのね、前にセイランが使っていた屋根裏部屋が空いているの。狭いけどちゃんとベッドもあるのよ。今夜はそこで泊まっていって」
今日のところはゆっくり寝てもらって、今後の事はまた明日考えればいいと言って、この子には屋根裏部屋で寝てもらうことにした。
翌朝。昨日の子を起こしに屋根裏へと上がる。
「朝よ、起きなさい。下で食事の用意をしているから早く降りてらっしゃい」
1階の食堂でみんな揃って朝食にする。
「ところで、あんた。名前聞いてなかったわよね」
「あの、あたしは、ミルチナって言います」
小さな声でモジモジと話す。
「ミルチナ。今日はあなたが最初に働いたという地区の役所に行ってもらうわ。役所は行った事ないんでしょう」
「役所ですか……。はい、行ってないです」
多分そうだと思ったわ。王都に来て役所に行かずに道端で誰かに勧誘されて働いたのだろう。役所が変な店を紹介するはずはない。その辺りの事情もはっきりとさせた方がいいだろう。
「私達は今日も依頼の仕事があるから、シンシアと一緒に役所に行って」
「シンシアさん?」
「昨日いた、もう一人の美人さんよ」
「ああ、あの笑顔のステキな人ですね」
私が怖い顔で悪かったわね。
「もうすぐしたら出社してくるから、後はよろしくね」
この街の事ならシンシアに任せた方がいいわ。私達は自分達のお仕事を頑張りましょう。
「この王都でも評判のお店だもの、なかなか予約が取れなくて苦労したのよ」
王都の宮殿前公園に面している、高級料理店にシンシアと来ている。たまにはこういう贅沢もいいものだわ。そう、たまによ。高級料理店と言うだけあってそれなりのお値段だものね。
夜の帳も下り、暗くなった裏口の方から誰かが言い争っている声が聞こえた。何か揉めているのかなと思って路地から裏口を眺めると、女の子が頭を下げているのが見えた。
「お願いします。ここで働かせてください」
「あんたもしつこいね。従業員の募集はしてないんだよ」
「給仕でもお皿洗いでも、何でもしますからお願いします」
「人は足りてるんだ。あんたも有名店で働いたという履歴が欲しいだけだろう。うちは腕のいい料理人しか雇わんよ」
「そんな事言わず、お願いです。他に行くところが無いんです」
「そんなのは知らんよ」
どうも、この店で働きたかったのだろう。断られてトボトボと路地をこっちに向かって歩いてくる。
「あなた、大丈夫?」
「あ、あの。あなたは誰ですか」
怯えた様子で、あからさまにこちらを警戒している。こんな私を見て悪い勧誘か何かだと思ったのかしら、失礼ね。
私より小さな羊獣人の女の子。ピンクのクルクルパーマの髪が肩まで伸びていて、1周回り切っていない太い角が頭の横から生えている。
「あ、あたしには構わないでください」
そう言って立ち去ろうとした女の子のお腹が鳴った。
「あなた、お腹空いているのね」
身なりも綺麗とは言えない、王都に出てきたばかりといった感じだわ。
「私のお店に来なさい。ちょうど余ってるご飯があるから御馳走するわよ」
私が外食することを知らなかったユイトが、私の分の夕食を作ってしまって、明日の分として残してある。あれならすぐにでも食べられるだろう。
「そんな事言って、また変なお店に連れて行くんでしょう」
「大丈夫よ。このお姉さんが経営している何でも屋さんなのよ。一緒にいらっしゃいな」
シンシアが優しく声を掛ける。
「何でも屋?」
興味を持ってくれたのか、シンシアの笑顔に誘われたのか一緒にお店まで行くことになった。
「メアリィ、お帰り。あれ、その子は」
「ユイト。私の分の夕食を温め直してくれるかしら」
ユイトに事情を説明して、温め直してもらった料理をテーブルに置く。
「さあ、お食べなさい。パンはさっきのお店みたいなフカフカじゃないけど、美味しいわよ」
お肉と野菜たっぷりの暖かいスープ。魔獣の肉を使ったコロコロステーキと無発酵パン。レストランの料理とは違うだろうけど美味しい家庭料理だ。
最初はモジモジとこちらを気にしながら食べていたけど、ひと口ふた口食べていくうちに目の色が変わってきた。
「これ、美味しいです。何ですかこれは……」
そのうちガツガツと食べだした。
「このスープもお肉も美味しいです。このハーブの香りがまたいいですね」
「スープとパンならお代わりがあるよ」
ユイトがお代わりのスープを注いであげる。余程お腹が空いていたのね、お代わりも平らげてやっと落ち着いたみたいだ。
「こんな美味しい食事をいただき、ありがとうございました」
「ところであなた、泊まるところはあるの? 今夜はここに泊まっていったら」
「あの、そんなに親切にされても……。あたしお金持ってませんよ」
「それなら、なおさら泊まっていきなさい。困っている時はお互い様よ」
少し事情を聞いたら、小さな町から料理人を目指してこの王都に出てきたそうだ。最初に働いた所がまともなお店じゃ無かったらしく1週間働いて辞めたらしい。その時の給料も少ししか払ってもらえず、あまりお金がないと言っている。
「それは可哀想だね。ボクの部屋のベッドを使ってよ。ボクは床で寝るから」
「ユイト、あんたの部屋に入れるつもりなの!」
「だってセイランは体が大きいから一緒に寝れないし、メアリィの部屋は物が散らかっていて人を入れられないじゃない」
「失礼ね。今はちょっと荷物が多いだけよ」
この前ユイトには、資料を部屋に持ってきてもらった時、私の部屋の現状を見られている。そんな汚れてはいないわよ、ちょっと調べ物をしてて本なんかを出しっぱなしにしているだけよ。それだけなんだから。
「あの~、あたし。この方の……ユイトさんの部屋でいいです。料理のお話も聞きたいですし」
モジモジとしながら、女の子が言った。さっきの料理がおいしかったとはいえ、それはダメでしょ。
「あのね、前にセイランが使っていた屋根裏部屋が空いているの。狭いけどちゃんとベッドもあるのよ。今夜はそこで泊まっていって」
今日のところはゆっくり寝てもらって、今後の事はまた明日考えればいいと言って、この子には屋根裏部屋で寝てもらうことにした。
翌朝。昨日の子を起こしに屋根裏へと上がる。
「朝よ、起きなさい。下で食事の用意をしているから早く降りてらっしゃい」
1階の食堂でみんな揃って朝食にする。
「ところで、あんた。名前聞いてなかったわよね」
「あの、あたしは、ミルチナって言います」
小さな声でモジモジと話す。
「ミルチナ。今日はあなたが最初に働いたという地区の役所に行ってもらうわ。役所は行った事ないんでしょう」
「役所ですか……。はい、行ってないです」
多分そうだと思ったわ。王都に来て役所に行かずに道端で誰かに勧誘されて働いたのだろう。役所が変な店を紹介するはずはない。その辺りの事情もはっきりとさせた方がいいだろう。
「私達は今日も依頼の仕事があるから、シンシアと一緒に役所に行って」
「シンシアさん?」
「昨日いた、もう一人の美人さんよ」
「ああ、あの笑顔のステキな人ですね」
私が怖い顔で悪かったわね。
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