上 下
16 / 101
第1章

第16話 王国に来たセイラン

しおりを挟む
 鬼人のセイランと共に、王都軍のいる浜に着いた。ふたつに折れて沈んだ船の調査と積み荷の引き上げが本格的に行われていた。船の中などで亡くなった人も見つかり、身元調査などのために遺体が浜に並べられている。

 セイランはその亡くなった人達を一人ずつ見て回り、一緒に来ていたという人を見つけたようだ。
この船の現状では仕方ないだろう。全体の半数ほどが亡くなったようだ。

 幸いもう一人は怪我をして王都に運ばれたことが確認された。

「拙者はこの者の葬儀を行うため、港町へ行く。メアリィ殿、ユイト殿。世話になった」

 ここで亡くなった人は、列車に乗せられて近くの港町で荼毘だびに付される事になる。

「その後はどうするの。国へ帰るの?」

「拙者らは王都に行く予定だった。遺骨を持ち、怪我をしたもう一人の所へ行こうと思う。その後はその者と相談し決めるつもりだ」

「そう。あまり気を落とさないでね」

「そうだよ。折角生き残れたんだから、その人の分まで頑張らないと」

「ああ、お二人には感謝の言葉しかない。この恩は忘れぬが、今はやらねばならぬ事が多い。ここで失礼する」

「何か困ったことがあれば、私のお店に来てくれたらいいから。あまり無理しないようにね」

 セイランは何度も頭を下げて、軍用列車の方へと向かった。

 海に沈んだ荷もできるだけ引き上げて、港町へ運ぶそうだ。当分はここと港町の間で列車を走らせるようで、王都へ帰るのは3日後だという。それまでの間、私達も荷物の運搬の手伝いをする事にした。

 大変な救助活動になったけど、これもお仕事と思って頑張りましょう。

 その4日後、私達はやっと王都に帰ってこれた。

「ごめんね、シンシア。1週間以上もお店を任せっぱなしで」

「いいえ。マルギルさんの何でも屋さんが手伝ってくれて、何とかなりましたから」

「ええっ、そうなの。後でお礼言っておかないとね」

 マルギルさんには、私がお店を開くときから色々と気にかけてくれて、ほんと助かっている。

「それより、今回キイエ様が大活躍したって聞いてますよ」

「そうなのよ。雨の中遭難者を救助したり海に沈んだ積み荷を運んだり、大助かりだったわ」

「軍の人が来て追加の報奨金を出してくれるって言ってましたよ」

 それを聞いてユイトが話に入ってくる。

「ええ、ほんと! ねえ、メアリィ。そのお金でキイエに何か美味しいものでも食べさせてあげたいんだけど」

「そうね、キイエ様の分はちゃんと支払わないといけないわね」

 これでまた、お店の評判が上がるわね。キイエ様様だわ。


 その3日後、あの人がやって来た。

「頼もう! 拙者は、セイランと申す。メアリィ殿にお目道り願いたい!」

 お店の前で、そこら中に響き渡る大きな声を出している人がいる。

「社長、なんだか知らない鬼人の人がお店に来てるんですけど」

 カウンターで案内していたシンシアが、慌てた様子で店の奥へと駆けてきた。

「ああ、あの鬼人さんね。応接室に通してくれる」

 セイランは鉄の防具を着ていて、ガチャガチャと音を立てながら店に入って来た。腰には剣も差しているわね。何事かしら。

「お久しぶりね、セイラン。何か困った事でもあったの?」

「メアリィ殿には世話になったので、その恩を返そうと参った次第」

 聞くと、王都の病院でもう一人のお供の人と再会できたそうだ。2週間後には怪我も回復し退院する予定で、その後すぐに帰国するという。その間、セイランは私のお店を手伝いたいと言っている。

「給料も無しでいいの?」

「勿論。メアリィ殿は命の恩人、お役に立ちたい。ユイト殿には拙者の身も心も捧げる所存。何なりと申されよ」

 最近依頼が多くなって、手伝ってもらえるならありがたい事だわ。でも若い女の子が身も心も捧げるなんて言っちゃダメでしょう。

「いや、ユイト殿には拙者の全てを見られておる。遠慮することはないぞ」

「ユイト君、あなたそんな事したの!」

「シンシアさん、違いますよ。体が冷えないように服を脱いでもらって拭いただけですよ」

「拙者も夢うつつではあったが、ユイト殿に体中を擦ってもらい、気持ち良かったことは覚えておるぞ」

「ユイト。私が浜で小枝を拾っていた間にそんなことしてたの。最低ね」

「ユイト君がそんな人だったなんて……。軽蔑するわ」

「ええ~。ボクそんなことしてないよね。セイランさん」

「良いではないか、良いではないか。ユイト殿は命の恩人だからな」

 大声で笑いユイトの肩を抱くセイラン。まあ、いいわ。セイランに何でも屋で働いてもらうのはいいとして、どんな特技があるか聞いてみた。

「拙者は国元で、日頃から魔獣を倒している。魔法はそれほど得意ではないが、剣であれば他の者に後れは取らんぞ」

 それなら十分戦力になりそうね。

「まったくのタダ働きと言うのも気が引けるわね。狭いけど屋根裏部屋で良ければ空いているから、そこで寝泊まりしたらどうかしら。食事などはこちらで用意するわよ」

「そうか、それは助かるな。王都では右も左も分からぬゆえ。宿から通う手間も省けて良いな」

「じゃあ、今日はシンシアと一緒に部屋の掃除や荷物を運び込んでおいてくれるかしら。仕事は明日からにしましょう」

 そう言い残して、私とユイトは午後からの仕事に出かけた。その日の夕方は、みんなでセイランの歓迎会をする。

「セイランは一人で魔獣を倒したことがあるんだって。すごいな~」

 まだユイトは一人で魔獣を倒す事ができない。セイランのような戦士にあこがれるのだろう。

「ああ、国では魔獣が多くてな。常日頃らから魔獣と戦っているのでな」

「それでお店に来た時、あんなすごい防具を付けていたのね。びっくりしちゃったわ」

「何でも屋は危険な仕事もしていると聞いた。すぐにでも仕事ができるようにと準備してきたからな」

 最初シンシアに連れられて、お店に来たセイランは完全武装だったわね。

「魔獣討伐だとユイトだけじゃ、まともに戦えないのよ。前衛で戦ってくれると助かるわ」

「酷いな~、メアリィ。ボクだって強くなったんだから、ちゃんと戦えるよ」

「じゅあ今度、熊の魔獣と一人で戦ってよね」

「え~! それは無理だよ~」

 ほらね、シンシアにも笑われてるじゃない。あんたが弱いのはみんな知っているわよ。

「神龍族のキイエ殿は魔獣討伐に参加せぬのか。あのお方なら一網打尽にしてくれると思うが」

「キイエ様は強力過ぎて、全て燃やし尽くしてしまうの。毛皮とか魔石の回収ができないのよ」

「なるほどな。ただ倒すだけではダメなのだな」

 セイランは王国に見聞を広げるために来たと言っている。しかしお共を一人亡くし、もう一人は怪我をして、それが果たせないまま帰国するらしい。

「特に魔道具について知りたかったのだがな。輸入している魔弾銃はすごい威力なのだが高価でな。その扱い方や運用方法も見てみたかったのだが……」

「魔弾銃ならユイトが最近使うようになってきたから、実際に使ってみたらいいんじゃない」

「いやいや、そのような高価な物を貸していただく訳には。近くで使っている所を見せていただくだけで結構」

「ボクは別に使ってもらっていいけど。機会があれば討伐の時に使ってみてよ」

「かたじけないな、ユイト殿。折を見て使えそうなら貸していただくとしよう」

 短い間になるけど、セイランが手伝ってくれるのは、ありがたいわ。溜まっていた依頼もこなしていけそうね。明日からのセイランに期待しましょう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)

排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日 冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる 強いスキルを望むケインであったが、 スキル適性値はG オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物 友人からも家族からも馬鹿にされ、 尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン そんなある日、 『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。 その効果とは、 同じスキルを2つ以上持つ事ができ、 同系統の効果のスキルは効果が重複するという 恐ろしい物であった。 このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。      HOTランキング 1位!(2023年2月21日) ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...