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第1章
第16話 王国に来たセイラン
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鬼人のセイランと共に、王都軍のいる浜に着いた。ふたつに折れて沈んだ船の調査と積み荷の引き上げが本格的に行われていた。船の中などで亡くなった人も見つかり、身元調査などのために遺体が浜に並べられている。
セイランはその亡くなった人達を一人ずつ見て回り、一緒に来ていたという人を見つけたようだ。
この船の現状では仕方ないだろう。全体の半数ほどが亡くなったようだ。
幸いもう一人は怪我をして王都に運ばれたことが確認された。
「拙者はこの者の葬儀を行うため、港町へ行く。メアリィ殿、ユイト殿。世話になった」
ここで亡くなった人は、列車に乗せられて近くの港町で荼毘に付される事になる。
「その後はどうするの。国へ帰るの?」
「拙者らは王都に行く予定だった。遺骨を持ち、怪我をしたもう一人の所へ行こうと思う。その後はその者と相談し決めるつもりだ」
「そう。あまり気を落とさないでね」
「そうだよ。折角生き残れたんだから、その人の分まで頑張らないと」
「ああ、お二人には感謝の言葉しかない。この恩は忘れぬが、今はやらねばならぬ事が多い。ここで失礼する」
「何か困ったことがあれば、私のお店に来てくれたらいいから。あまり無理しないようにね」
セイランは何度も頭を下げて、軍用列車の方へと向かった。
海に沈んだ荷もできるだけ引き上げて、港町へ運ぶそうだ。当分はここと港町の間で列車を走らせるようで、王都へ帰るのは3日後だという。それまでの間、私達も荷物の運搬の手伝いをする事にした。
大変な救助活動になったけど、これもお仕事と思って頑張りましょう。
その4日後、私達はやっと王都に帰ってこれた。
「ごめんね、シンシア。1週間以上もお店を任せっぱなしで」
「いいえ。マルギルさんの何でも屋さんが手伝ってくれて、何とかなりましたから」
「ええっ、そうなの。後でお礼言っておかないとね」
マルギルさんには、私がお店を開くときから色々と気にかけてくれて、ほんと助かっている。
「それより、今回キイエ様が大活躍したって聞いてますよ」
「そうなのよ。雨の中遭難者を救助したり海に沈んだ積み荷を運んだり、大助かりだったわ」
「軍の人が来て追加の報奨金を出してくれるって言ってましたよ」
それを聞いてユイトが話に入ってくる。
「ええ、ほんと! ねえ、メアリィ。そのお金でキイエに何か美味しいものでも食べさせてあげたいんだけど」
「そうね、キイエ様の分はちゃんと支払わないといけないわね」
これでまた、お店の評判が上がるわね。キイエ様様だわ。
その3日後、あの人がやって来た。
「頼もう! 拙者は、セイランと申す。メアリィ殿にお目道り願いたい!」
お店の前で、そこら中に響き渡る大きな声を出している人がいる。
「社長、なんだか知らない鬼人の人がお店に来てるんですけど」
カウンターで案内していたシンシアが、慌てた様子で店の奥へと駆けてきた。
「ああ、あの鬼人さんね。応接室に通してくれる」
セイランは鉄の防具を着ていて、ガチャガチャと音を立てながら店に入って来た。腰には剣も差しているわね。何事かしら。
「お久しぶりね、セイラン。何か困った事でもあったの?」
「メアリィ殿には世話になったので、その恩を返そうと参った次第」
聞くと、王都の病院でもう一人のお供の人と再会できたそうだ。2週間後には怪我も回復し退院する予定で、その後すぐに帰国するという。その間、セイランは私のお店を手伝いたいと言っている。
「給料も無しでいいの?」
「勿論。メアリィ殿は命の恩人、お役に立ちたい。ユイト殿には拙者の身も心も捧げる所存。何なりと申されよ」
最近依頼が多くなって、手伝ってもらえるならありがたい事だわ。でも若い女の子が身も心も捧げるなんて言っちゃダメでしょう。
「いや、ユイト殿には拙者の全てを見られておる。遠慮することはないぞ」
「ユイト君、あなたそんな事したの!」
「シンシアさん、違いますよ。体が冷えないように服を脱いでもらって拭いただけですよ」
「拙者も夢うつつではあったが、ユイト殿に体中を擦ってもらい、気持ち良かったことは覚えておるぞ」
「ユイト。私が浜で小枝を拾っていた間にそんなことしてたの。最低ね」
「ユイト君がそんな人だったなんて……。軽蔑するわ」
「ええ~。ボクそんなことしてないよね。セイランさん」
「良いではないか、良いではないか。ユイト殿は命の恩人だからな」
大声で笑いユイトの肩を抱くセイラン。まあ、いいわ。セイランに何でも屋で働いてもらうのはいいとして、どんな特技があるか聞いてみた。
「拙者は国元で、日頃から魔獣を倒している。魔法はそれほど得意ではないが、剣であれば他の者に後れは取らんぞ」
それなら十分戦力になりそうね。
「まったくのタダ働きと言うのも気が引けるわね。狭いけど屋根裏部屋で良ければ空いているから、そこで寝泊まりしたらどうかしら。食事などはこちらで用意するわよ」
「そうか、それは助かるな。王都では右も左も分からぬゆえ。宿から通う手間も省けて良いな」
「じゃあ、今日はシンシアと一緒に部屋の掃除や荷物を運び込んでおいてくれるかしら。仕事は明日からにしましょう」
そう言い残して、私とユイトは午後からの仕事に出かけた。その日の夕方は、みんなでセイランの歓迎会をする。
「セイランは一人で魔獣を倒したことがあるんだって。すごいな~」
まだユイトは一人で魔獣を倒す事ができない。セイランのような戦士にあこがれるのだろう。
「ああ、国では魔獣が多くてな。常日頃らから魔獣と戦っているのでな」
「それでお店に来た時、あんなすごい防具を付けていたのね。びっくりしちゃったわ」
「何でも屋は危険な仕事もしていると聞いた。すぐにでも仕事ができるようにと準備してきたからな」
最初シンシアに連れられて、お店に来たセイランは完全武装だったわね。
「魔獣討伐だとユイトだけじゃ、まともに戦えないのよ。前衛で戦ってくれると助かるわ」
「酷いな~、メアリィ。ボクだって強くなったんだから、ちゃんと戦えるよ」
「じゅあ今度、熊の魔獣と一人で戦ってよね」
「え~! それは無理だよ~」
ほらね、シンシアにも笑われてるじゃない。あんたが弱いのはみんな知っているわよ。
「神龍族のキイエ殿は魔獣討伐に参加せぬのか。あのお方なら一網打尽にしてくれると思うが」
「キイエ様は強力過ぎて、全て燃やし尽くしてしまうの。毛皮とか魔石の回収ができないのよ」
「なるほどな。ただ倒すだけではダメなのだな」
セイランは王国に見聞を広げるために来たと言っている。しかしお共を一人亡くし、もう一人は怪我をして、それが果たせないまま帰国するらしい。
「特に魔道具について知りたかったのだがな。輸入している魔弾銃はすごい威力なのだが高価でな。その扱い方や運用方法も見てみたかったのだが……」
「魔弾銃ならユイトが最近使うようになってきたから、実際に使ってみたらいいんじゃない」
「いやいや、そのような高価な物を貸していただく訳には。近くで使っている所を見せていただくだけで結構」
「ボクは別に使ってもらっていいけど。機会があれば討伐の時に使ってみてよ」
「かたじけないな、ユイト殿。折を見て使えそうなら貸していただくとしよう」
短い間になるけど、セイランが手伝ってくれるのは、ありがたいわ。溜まっていた依頼もこなしていけそうね。明日からのセイランに期待しましょう。
セイランはその亡くなった人達を一人ずつ見て回り、一緒に来ていたという人を見つけたようだ。
この船の現状では仕方ないだろう。全体の半数ほどが亡くなったようだ。
幸いもう一人は怪我をして王都に運ばれたことが確認された。
「拙者はこの者の葬儀を行うため、港町へ行く。メアリィ殿、ユイト殿。世話になった」
ここで亡くなった人は、列車に乗せられて近くの港町で荼毘に付される事になる。
「その後はどうするの。国へ帰るの?」
「拙者らは王都に行く予定だった。遺骨を持ち、怪我をしたもう一人の所へ行こうと思う。その後はその者と相談し決めるつもりだ」
「そう。あまり気を落とさないでね」
「そうだよ。折角生き残れたんだから、その人の分まで頑張らないと」
「ああ、お二人には感謝の言葉しかない。この恩は忘れぬが、今はやらねばならぬ事が多い。ここで失礼する」
「何か困ったことがあれば、私のお店に来てくれたらいいから。あまり無理しないようにね」
セイランは何度も頭を下げて、軍用列車の方へと向かった。
海に沈んだ荷もできるだけ引き上げて、港町へ運ぶそうだ。当分はここと港町の間で列車を走らせるようで、王都へ帰るのは3日後だという。それまでの間、私達も荷物の運搬の手伝いをする事にした。
大変な救助活動になったけど、これもお仕事と思って頑張りましょう。
その4日後、私達はやっと王都に帰ってこれた。
「ごめんね、シンシア。1週間以上もお店を任せっぱなしで」
「いいえ。マルギルさんの何でも屋さんが手伝ってくれて、何とかなりましたから」
「ええっ、そうなの。後でお礼言っておかないとね」
マルギルさんには、私がお店を開くときから色々と気にかけてくれて、ほんと助かっている。
「それより、今回キイエ様が大活躍したって聞いてますよ」
「そうなのよ。雨の中遭難者を救助したり海に沈んだ積み荷を運んだり、大助かりだったわ」
「軍の人が来て追加の報奨金を出してくれるって言ってましたよ」
それを聞いてユイトが話に入ってくる。
「ええ、ほんと! ねえ、メアリィ。そのお金でキイエに何か美味しいものでも食べさせてあげたいんだけど」
「そうね、キイエ様の分はちゃんと支払わないといけないわね」
これでまた、お店の評判が上がるわね。キイエ様様だわ。
その3日後、あの人がやって来た。
「頼もう! 拙者は、セイランと申す。メアリィ殿にお目道り願いたい!」
お店の前で、そこら中に響き渡る大きな声を出している人がいる。
「社長、なんだか知らない鬼人の人がお店に来てるんですけど」
カウンターで案内していたシンシアが、慌てた様子で店の奥へと駆けてきた。
「ああ、あの鬼人さんね。応接室に通してくれる」
セイランは鉄の防具を着ていて、ガチャガチャと音を立てながら店に入って来た。腰には剣も差しているわね。何事かしら。
「お久しぶりね、セイラン。何か困った事でもあったの?」
「メアリィ殿には世話になったので、その恩を返そうと参った次第」
聞くと、王都の病院でもう一人のお供の人と再会できたそうだ。2週間後には怪我も回復し退院する予定で、その後すぐに帰国するという。その間、セイランは私のお店を手伝いたいと言っている。
「給料も無しでいいの?」
「勿論。メアリィ殿は命の恩人、お役に立ちたい。ユイト殿には拙者の身も心も捧げる所存。何なりと申されよ」
最近依頼が多くなって、手伝ってもらえるならありがたい事だわ。でも若い女の子が身も心も捧げるなんて言っちゃダメでしょう。
「いや、ユイト殿には拙者の全てを見られておる。遠慮することはないぞ」
「ユイト君、あなたそんな事したの!」
「シンシアさん、違いますよ。体が冷えないように服を脱いでもらって拭いただけですよ」
「拙者も夢うつつではあったが、ユイト殿に体中を擦ってもらい、気持ち良かったことは覚えておるぞ」
「ユイト。私が浜で小枝を拾っていた間にそんなことしてたの。最低ね」
「ユイト君がそんな人だったなんて……。軽蔑するわ」
「ええ~。ボクそんなことしてないよね。セイランさん」
「良いではないか、良いではないか。ユイト殿は命の恩人だからな」
大声で笑いユイトの肩を抱くセイラン。まあ、いいわ。セイランに何でも屋で働いてもらうのはいいとして、どんな特技があるか聞いてみた。
「拙者は国元で、日頃から魔獣を倒している。魔法はそれほど得意ではないが、剣であれば他の者に後れは取らんぞ」
それなら十分戦力になりそうね。
「まったくのタダ働きと言うのも気が引けるわね。狭いけど屋根裏部屋で良ければ空いているから、そこで寝泊まりしたらどうかしら。食事などはこちらで用意するわよ」
「そうか、それは助かるな。王都では右も左も分からぬゆえ。宿から通う手間も省けて良いな」
「じゃあ、今日はシンシアと一緒に部屋の掃除や荷物を運び込んでおいてくれるかしら。仕事は明日からにしましょう」
そう言い残して、私とユイトは午後からの仕事に出かけた。その日の夕方は、みんなでセイランの歓迎会をする。
「セイランは一人で魔獣を倒したことがあるんだって。すごいな~」
まだユイトは一人で魔獣を倒す事ができない。セイランのような戦士にあこがれるのだろう。
「ああ、国では魔獣が多くてな。常日頃らから魔獣と戦っているのでな」
「それでお店に来た時、あんなすごい防具を付けていたのね。びっくりしちゃったわ」
「何でも屋は危険な仕事もしていると聞いた。すぐにでも仕事ができるようにと準備してきたからな」
最初シンシアに連れられて、お店に来たセイランは完全武装だったわね。
「魔獣討伐だとユイトだけじゃ、まともに戦えないのよ。前衛で戦ってくれると助かるわ」
「酷いな~、メアリィ。ボクだって強くなったんだから、ちゃんと戦えるよ」
「じゅあ今度、熊の魔獣と一人で戦ってよね」
「え~! それは無理だよ~」
ほらね、シンシアにも笑われてるじゃない。あんたが弱いのはみんな知っているわよ。
「神龍族のキイエ殿は魔獣討伐に参加せぬのか。あのお方なら一網打尽にしてくれると思うが」
「キイエ様は強力過ぎて、全て燃やし尽くしてしまうの。毛皮とか魔石の回収ができないのよ」
「なるほどな。ただ倒すだけではダメなのだな」
セイランは王国に見聞を広げるために来たと言っている。しかしお共を一人亡くし、もう一人は怪我をして、それが果たせないまま帰国するらしい。
「特に魔道具について知りたかったのだがな。輸入している魔弾銃はすごい威力なのだが高価でな。その扱い方や運用方法も見てみたかったのだが……」
「魔弾銃ならユイトが最近使うようになってきたから、実際に使ってみたらいいんじゃない」
「いやいや、そのような高価な物を貸していただく訳には。近くで使っている所を見せていただくだけで結構」
「ボクは別に使ってもらっていいけど。機会があれば討伐の時に使ってみてよ」
「かたじけないな、ユイト殿。折を見て使えそうなら貸していただくとしよう」
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