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第1章

第5話 メアリィの旅立ち

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 私が生まれたのは王国の西にある、ゲンマという町だ。それなりの大きな町で暮らしやすかったけど、私は都会で働いてみたかった。幸い魔力量が大きく魔術師として働くこともできる。

 両親は、安定した魔術師協会の職員になって地元で働いて欲しかったようだけど、それは嫌なの。

「父さん、母さん。やっぱり私、王都に行くわ」

 家族とも色々話し合った末、結局私の我がままに賛同してくれた。

「都会に出て、独立したいと言うのは分かるが、世の中そんな甘いものではないぞ。だが一度決めたことだ。しっかりとやりなさい」

「そうね、あなた自信が考えて決めたことだから仕方ないけど、いつでもここに戻って来てもいいのよ」

「お姉ちゃん、そんな遠くに行かなくてもいいじゃない。ここに居てよ」

 弟の二人は寂しがっていたけど、もう決めたことだ。

「あなた達は父さんと母さんを、しっかり支えるのよ」

 家の事は二人に任せればいい。少し押し付けたみたいだけど、私はここを出て、自分の力で自分の人生を歩きたかった。
王都に行く決心をして準備を進める。王都までは定期的に馬車が出ていて、その馬車で行くのが一番安くて安全だ。

「父さん、母さん、行ってきます」

「体には気をつけるんだよ」

 両親に見送られて町を出る。12日かかった馬車の旅。その途中には魔獣との遭遇もあったけど護衛の人達が倒してくれた。初めて見る魔獣との本格的な戦闘。2人の鎧を着た剣士が前に出て、後方から魔術師が魔法攻撃を放っていた。

 私も中級魔法で魔獣を倒す事ができるけど、やはり本職は違うわね。連携して見事に魔獣を倒していく。
私もこんな風に、自分の技術を磨いて仕事をしたいと思った。

 王都は、すごく高い城壁に守られた大きな街だ。初めて見る鉄と木で出来ている黒くて頑丈な城門。巨人でも通れそうな大きな城門に、私はあんぐりと口を開けて見上げるしかなかった。

「ここが王都……」

 何もかもが広くて大きい。建物も5階建てのものが建ち並でいて、私の町とは全然違う。広くて綺麗な公園、遠くに立派な王宮も見えるわ。露店も沢山出ていて、噴水のある広場はお祭りでもしているのかと思うぐらい多くの人々が行き交っている。

 でも、私はここに観光をしに来たわけじゃない、働きに来たんだ。私は大きな荷物を手に、遠い親戚にあたるバジルさん夫妻の家へと行く。

「こんにちは。私、メアリィです」

「よく来たね。話は聞いているよ」

「長旅で疲れたでしょう。さあ、お入りなさい」

 歓迎されているみたいで良かった。今日はここに泊めてもらって王都の事を教えてもらう。

「この王都で、ひとりで働きたいと言う事だが、最初は住み込みで働ける所がいいだろうな」

「そうね。安いアパートもあるけど、この王都での暮らしに慣れるまではその方がいいわね」

 王都は物価が高い。最初は住み込みで働いて、暮らしに慣れてきたら自分の住む場所を決めればいいと言われた。

「君は文字の読み書きはできるのかい」

「はい、魔術師学園の高等部を卒業しています」

「それなら、王都の魔術師協会の職員が一番いいんだが狭き門だからな。その下請けの所なら職はあると思うぞ」

 役所に行けば、いろんな職業を紹介してくれる部署があると言われて、翌日この地区の役所に行ってみることにした。
窓口に並んで、私が働ける仕事場がないか尋ねてみる。

「ヤマネコ族でゲンマ出身の方ですね。年は17歳で魔術師学園の高等部を卒業されたということでよろしいですか」

 職員の人が、私の履歴を聞いて、書類に記入していく。字の読み書きができない人も多くいるから、こうして聞き取って書類にしているんだろう。

「あなたのように魔力があるなら、魔弾の製造工場はどうでしょうか。経験が無くてもすぐに働けますし、それなりに給料もいいですよ」

 結局、魔弾の製造工場で住み込みの従業員の募集をしている所があるからと紹介された。経歴を記入した履歴書をもらってその工場に行ってみると、すぐに採用されて明日にでも働きに来て欲しいと言われた。

「バジルさん。私、魔弾工場で働くことになりました」

「そうか、それは良かったな。何かあればまた尋ねておいで」

「はい、ありがとうございました」

 早くに職場が決まって良かった。自分の荷物を待って、バジルさんの家を後にする。これなら王都で何とかやっていけそうだわ。

 翌日から、数人の新入社員と共に仕事の説明を受けながら工場の見学をする。従業員が80人程の大きな工場だ。魔弾には私の魔力を充填する。充填用の機械に指を置いて魔力を流し込めば魔弾ができるそうだ。

「割と簡単な作業なのね」

 魔弾は魔力の籠った銃弾で、銃か矢の先に取り付けて撃ち出す物だ。銃弾は当たった衝撃で中の魔力が開放されて魔法を発動する。魔法が使えない者でもこれで魔獣を倒すことができる。

 その心臓部となる魔弾キューブに魔力を入れるのが、私の仕事になる。昼からは練習を兼ねて魔弾を作るそうだ。

 魔弾キューブは薄い色が付いた小さなサイコロのようなガラス製品。魔法属性により4種類の色があって、充填機械の色を合わせてセットする。その機械に指を置いて魔力を流すと色に合わせた属性の銃弾となる。一定量の魔力が入ればランプが消えて終了だ。

「魔弾には初級魔弾と中級魔弾があります。その日によって作る魔弾は違いますが、入れた魔力量によって給料が違ってきます。でも無理して魔力切れにならない程度で作業してください」

 魔弾製造は歩合制だそうだ。基本の給料はちゃんともらえるけど、作った魔弾の量でもらえる給金が違ってくる。私は魔力が多い方だと思っていたけど、半日も持たずに魔力切れになってしまった。

 魔力量の多い人は1日中、魔弾を作り続ける事ができるという。翌日からは、本格的に魔弾製造の仕事をする。
半日魔力充填を行って昼からは別の製造ラインに入る。この工場は魔弾以外にも色々な工業製品を作っているそうで、仕事はいくらでもある。


 同じ寮に住んでいる友達もできた。

「なんだかこの工場、忙しいよね」

「ほんとよね。朝から晩まで働いてクタクタだわ」

 工場ではいつも同じ作業ばかりしている。最初は物珍しかったけど、慣れてくれば、只々魔弾に魔力を入れる単純な作業ばかりで飽きてくる。確かに給料はいいので文句を言うのは贅沢なんだろうけど。

「私も、なんだかつまらないわ。もっとクリエイティブでアクティブな仕事はないかしら」

 私がこの王都に来たのは、こんな工場で単純な仕事をするためじゃないと最近感じ始めている。

「私達は魔術師だけど、王都軍の魔術師になったり、薬師や魔道具師になるなんて無理でしょう」

「そうね、そんな職業に就くんだったら、魔法大学に入って王都の試験に受からないとダメでしょうね」

 やはり自分の思い描くような仕事に就くのは厳しいのだろうか。でも諦める訳にはいかないわ。わざわざ故郷を離れてこの王都に出てきたんだもの。
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