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第13章 受け継ぐもの

第145話 神との死闘2

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「リ、リビティナ……。よ……くも……やってくれたな」

 いくら装甲の厚いメインブロックとはいえあの溶岩の中、普通ならコクピット内部は高温になって焼け死ぬはずだ。だけどあの男はヴァンパイアと同じ再生能力がある。今も再生している途中か、途切れ途切れの音声が聞こえてくる。

 丘の中腹に居るのは細身の機動兵器。フライボード内で別の機動兵器に換装したようだけど、未完製品か装甲が無くフレームだけの箇所もある。しかし二本足で立ち、手には小口径のライフル型ビーム砲を持ち狂ったように乱射してくる。

「リビティナ……貴様だ……貴様さえ倒せば、後は下等な獣人ばかり。ワレの敵となりうるのは貴様一人……貴様さえ居なくなれば……」

 業火に全身を焼かれ死の淵から蘇っても、その時の痛みを忘れる事はできない。体は再生しても死にかけた記憶は精神深くにまで刻まれる。
 既に寿命を迎えている奴の精神はもうボロボロだろう。しかし執念ともいうべきか、逃げることなく立ち向かって来た。

 こちらも切り札の宮廷魔導士を全て使い果たしている。相打ち覚悟でリビティナ自身が突撃するしかないか……。

「リビティナ~! そこか~!!」

 装甲の厚いメインユニット内のマイヤドベガと目が合った気がして一瞬身がすくんでしまった。
 ここは最初に破壊された王国の城の基礎部分。城の上部が破壊された時に前方の城壁を偽装しながら破壊し、戦場が見えるようにしている。レーザー対策で前面に設置したハーフミラーが夕陽で光ったのか、こちらを察知されてしまった。

 機動兵器のライフルがこちらを狙う!

「姉様!!」

 イコルティがリビティナを突き飛ばした、その場所に真っ白な荷電粒子の帯が走る。

「イコルティ!」
「姉様……早く地下に避難を……」

 既に下半身が消し飛び、片腕を伸ばしたイコルティが床に転がっている。

「イコルティ、まだ大丈夫だからね。まだ再生できるからね」

 急ぎ助け出そうとイコルティに手を伸ばす。

「姉様……今までありがとうございました」

 そう言って伸ばした手から、風魔法でリビティナを地下の階段へと吹き飛ばす。その直後、再度その場所が真っ白な光の帯で包まれた。
 涙を一粒零したイコルティの精一杯の笑顔が瞼にこびり付いたまま、リビティナは地下まで飛ばされる。

「イコルティ!!」

 この世界でたった一人の弟。どうして自分が守ってやれなかったんだ。すぐ傍にいたのに……。ヴァンパイアの仲間は君しかいないんだよ。ずっとこれからも永遠の時間を一緒に過ごしていくはずだったイコルティ……。

『イコルティ~~~』

 その悲しみの叫びは、魔力波となって戦場を駆け抜ける。それは王国を越え、大陸全土を越え、惑星ノウアルズ全てを包み込んだ。


「リビティナめ! まだ生きておるのか……お前は……お前だけは必ずワレが殺してやるぞ」

 マイヤドベガはビームライフルを何度も城に向かって撃ち続けた。

「リビティナ様を守れ!!」

 全部隊から、丘にいる機動兵器に向かって魔法攻撃が集中する。

「この虫けら共が!」

 マイヤドベガは狂ったようにビームを乱射し続ける。それを止められる者は、もうこの戦場にはいない。
 機動兵器は魔法攻撃を浴びながらも丘をゆっくり下り、リビティナがいる城へと向かっていく。

「フィフィロ、ウィッチア! 何とかならんか。このままじゃリビティナ様が……」
「ネイトス、無理言わないでよ。ワタシもフィフィロも魔力を使い果たしたわよ」
「オレ、少しでも奴の足止めをします」
「バカね。防壁も張れずに奴の前に立てば、死ぬだけよ」
「レールガンも壊れちゃいましたし、カタパルトで岩を撃ち続けるしかないですかね……」

 マイヤドベガを城に近づけさせないよう、各部隊の魔術師が岩や炎魔法をぶつける。特一級魔術師が足元に沼を作り機動兵器を沈めるが、すぐに這い上がり前進を続ける。
 ビームライフルで、各部隊の塹壕や石垣が崩され戦場のあちこちから土煙が何本も立ち登る。

 双方とも最後の力を尽くした戦いが繰り広げられた。そんな中、夕陽の彼方から何かが飛んでくる。

「おい! あれは何だ! なにか巨大な物が飛んでくるぞ」
「また新たな敵か!」

 それは翼を持つ巨大な生物、ドラゴン。それが三頭、戦場の上空を旋回する。

『魔王よ。魔王はいるか』

 その魔力波の声にリビティナが応える。

『君達は一体……』
『古の盟約により、はせ参じた。汝の敵を討ち滅ぼそう。あの丘に居る面妖な者が敵か?』
『そうだ。あいつがイコルティを殺した仇。この大陸全土の敵だ』

 地下から中庭へと上がり、上空に舞うひときわ大きな黒いドラゴンにリビティナは訴え掛ける。

「な、なぜこんな所に103生物がいるのだ……」

 そう呟きつつも、マイヤドベガはライフルを上空に向けて撃ち放つ。そのビームは手前の青い鱗を持つドラゴンに弾かれて空の彼方へと消えた。

「族長。やはりあの者が敵かと」
「そのようだな。では参ろうか」

 三頭のドラゴンがゆっくりと空を舞い丘へと向かう。マイヤドベガはビームを討ち続けるが、ことごとく跳ね返された。
 黒いドラゴンの口から青味がかった白いブレスが機動兵器に向かい伸びる。背中のバーニアを吹かし、寸前のところで避けた機動兵器の右腕とライフルが蒸発する。

「中々にすばしっこい敵のようだな」
「では我らが牽制いたしましょう」

 二頭のドラゴンが動きを止めるように真っ赤なブレスを吐くと、機動兵器は背中のハッチを開放し、分離したメインブロックの球体だけが火を噴き丘の反対側へ逃れようとする。

「あれが本体か」

 黒いドラゴンのブレスが、SS級魔術でも破壊できなかったメインブロックを撃ち抜く。

「グゥア~」

 マイヤドベガの断末魔と共に、爆発し破壊された部品がバラバラと地上に落ちていった。
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