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第10章 ヘブンズ教国

第107話 マリアンヌ1

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「あれが本物の神様なのね……」

 教会に帰って来てからも、大聖堂で見た壁画の神様の姿が忘れられない。
 小さい頃から見てきた壁画の裏から現れた絵を見た瞬間に、今までの獣人の神様が偽物だと直感した。それ程、現実味のある素晴らしい絵だった。

「どうしたの、マリアンヌ。スープが冷めてしまいますよ」
「すみません、シスター」

 食事中も、その後のお祈りも気が入らずにボーッとしたままだ。

「マリアンヌ。今日は魔国の人達と一緒だったのでしょう。その事を教皇様に報告する手紙を書きなさい」
「あの、壁画の事を書くのですか!」
「壁画? 魔族の者達の人となりを見に行ったのではないのですか?」

 今、大聖堂は修理のため立ち入り禁止になっている。ここにいる誰もが、まだあの壁画の事を知らない。
 臨場感たっぷりのあの壁画の神様を賢者様は人間だと言った。魔族に似た男女四人の神様。それぞれが違う表情で大陸の人々を見守っていた。

「なあ、マリアンヌ。魔族ってどんな奴らなんだ」
「真っ白な肌で毛が無くて……」
「ギイラ、魔国建国式典の記事を見せてもらったでしょう。あんただって街中で見かけたら声を掛けないとダメなのよ」
「オレはやだね。そんな化け物の相手はマリアンヌに任せればいいんだよ」

 ここには同じ年代の子達が集められている。それぞれ別の課題を与えられてそれを実践する。アタシは優秀だからと教皇様直々にお仕事をもらっている。魔族や魔王の悪魔の力を調べろと。

「あの人達は化け物じゃないわ。神様に近い人達よ」
「神様? 魔王が? マリアンヌ、今日のあなた少しおかしいわよ。早く部屋に戻って休んだほうがいいんじゃない」

 そうね。あの壁画を見てから少し変だわ。部屋に戻り今日の出来事を手紙にしましょう。

 今日聞いた話だと、魔国はそれ程裕福ではない国民を、魔王様と眷属の人達が指導して徐々に豊かになったと言っていた。そこに悪魔の力が使われたかは分からない。戦争でも国民全員で戦ったと……生存のための戦いだったらしい。

 建国当時の記事だと、魔国は貴族のいない平等な国にすると書いてあった。今日会った首相のネイトスさんも貴族ではなく、領地も持っていない普通の人だと言っていたわ。
 できたばかりの若い国だけど、理想の国をめざして国民と歩んでいくと笑顔で語ってくれた。その地位もその内、他の国民に引き継ぐらしい。一国の代表者の地位をだ……。

 私達の神様は、神の子である全ての獣人は平等だと言っている。それを実現するための国がこのヘブンズ教国。でも貴族もいるし、貧富の差も大きい。

「もしかしたら、魔国は神様の国なのかしら……」

 今日聞いた話だけでも、そんな風に思える。

 魔王様も神様のようなすごい力が使えると聞いている。今日聞いたのは、眷属にする力。ネイトスさんは昔ヒョウ族だった。アルディアさんはここの首都に住んでいたオオカミ族。

 眷属になれば、あの神様のような姿になれる? 神様の姿になって、アタシを神の国、魔国に連れて行ってもらう。それは素晴らしい考えじゃないかしら。

 そんな夢のような事を考えていたら、なかなか寝付けなくなってしまった。
 明け方ウトウトしていたら、シスターから朝のお祈りの時間だとドアをノックされた。

「マリアンヌが寝坊するなんて珍しいわね。いつもは一番に礼拝堂に来ているのに」
「すみませんでした」

 いつものように朝のお祈りをする。でもアタシは誰にお祈りを捧げているのだろう。ふとそんな疑問が頭を過る。

 朝食を済ませると、神父様から部屋に来るようにと言われた。昨日書いた手紙を持って急いで神父様の部屋に向かう。

「マリアンヌ。魔国より来ている使者の方々の調査は終わりだ」
「終わり? まだ調査はこれからなのに……」
「教皇様は大聖堂の事で忙しくなるそうだ。今日、お前は大聖堂の掃除の手伝いをしなさい」

 もう、あの魔国の人達と会えないの……そんなの嫌だわ。でも教皇様や神父様の言葉は絶対。
 分かりました、と答えたけど頭の中で整理がつかないまま大聖堂へ向かった。
 関係者以外立ち入り禁止の表札の脇を抜けて、中央の間へと向かう。大聖堂の事を外部に漏らさないために、事情を知っているアタシをここに派遣したのね。

「君が教会から来てくれた子だね。壁周辺の漆喰を外に運び出してくれ」

 昨日、賢者様が粉砕した壁画の壁。粉々になって砂のような漆喰をほうきで掃き集め、手押し車に積んで庭の指定された場所に運んでいく。今はこの仕事に集中しよう……でも、と天井の壁画を眺める。

 その天井の周辺部、二階の手すり付近では司祭様たちが前の壁画を慎重に取り外して、一階の別の部屋へと運んでいた。

「その壁画の断片はどうするんですか」
「いつ作られたのか、あとで詳しく調査するそうだ」

 これだけボロボロだから何百年も前の物に間違いないと言っていた。それに比べ天井の壁画は美しいままだ。聞くと表面に何か塗られていて、保護されているみたいだと言っていたわね。

 その後も他の人達と粉々の漆喰を片付けて、もうすぐお昼休み。作業している人も徐々に聖堂から出て行った頃、入り口の方から四人ほどの人がこちらに近づいて来た。

「あれは、魔王様!?」
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