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第10章 ヘブンズ教国

第101話 アルディア2

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「あら、アルディア。もう、あの部屋から出してもらったの」

 居間に行くとツエラお姉様と隣には見かけないオオカミ族の男の人。婿養子のコルジアだと紹介された。

「お前の事もコルジア君が調べてくれたんだぞ」
「お初にお目にかかります。アルディアさん」

 立ち上がり丁寧な挨拶をする。細身の長身で、私の嫌いな商売人が見せる作り笑いを浮かべる。

「今回の戦争、コルジア君のお陰で儲けさせてもらっている。我が商会は東の地方が手薄だったからな」

 東方出身の彼の口添えで販路を広げたようね。でも。

「あの戦争は帝国国内での事。この教国には関係ないでしょう。お父様は武器を輸出し帝国を援助していたの」
「いいや、魔道具の開発資金を出しただけだ。充分な見返りはもらえたがね」

 魔道具? お父様が儲かるという程の大規模な魔道具開発など、この国ではしていないはずだけど。

「アルディアは知っているんじゃないの。飛行ユニットと言う魔道具よ。何でも今回の戦争で使われた新兵器だそうじゃない」
「飛行ユニット! あれはキノノサト国で開発された物ですよ。盗用したのですか」
「おや、よく知っておいでですね、アルディアさん。やはり魔国の中枢に居たというのは本当の事のようですね」

 コルジア氏が話に入って来た。この男は魔国に内通しているの? 

「そんな事、どちらでお聞きになったのかしら」

 その問いに答える事はしなかったけど、目の奥に鋭い眼光を感じた。

「コルジア君は東方の大司教様と懇意にしていてな。帝国内の布教活動中にお前の名前を聞いたそうだ。そんな事よりこれからが本題だ」

 そう前置きして戦争の事について聞いてきた。

「新しく開発した飛行ユニット。他国にも売り込みにいこうと思っていたが、魔国の新兵器に惨敗したと聞いた。どういう事かお前は知っているのだろう」
「それこそ、そちらの婿養子さんの方が良く知っているんじゃないのですか」
「今は魔国との国境が全て閉鎖されていまして……なぜか王国南部と魔国の国境まで閉鎖されている状態です。商売のための情報も入らないのですよ」

 教国からの増援部隊を入れないため、国境は完全閉鎖していて、そのままになっている。今開いているのは王国北部の一ヶ所だけ。
 それで私を誘拐まがいの方法で家に連れて来たのね。

「その新兵器の製造や販売を、ワシの商会に任せてもらえるようにしてくれんか」
「その兵器の事については知りませんし、私にそのような権限はありません」

 多分、戦闘機の事を言っているのでしょう。ジェットエンジンはある程度分かるけど、反重力装置の仕組みも製造方法も全く知らない。あんなのは前の世界でも無かった物だもの。
 リビティナ様が作った物は世に広めてはダメな物が多い。リビティナ様の判断で一部をウィッチア様に見せた物があるけど、今後の平和のためだと言っていた。

「魔族の人は、戦地や首都の司令部で指揮を執っていたと聞いています。あなたが知らないはずないでしょう」
「アルディア、あなたはマキャレイ家の一員なのよ。少しは協力しなさい」
「いいえ、私は魔国の人間です。私には自分の人生を歩む権利があります。あなた方とは一切関わりのない事です」
「お前は今まで育ててやった恩を、何とも思わないのか!」
「お父様。その恩はあなたにではなく、私の子供に与えます。育てた恩と言って自分の子供を道具のように扱うのはお止めください!」

 きっぱりと言い放つ私に面を食らったのか、目を丸くして後の言葉が出てこないようだわ。そうでしょうね、以前の私ならこんな物言いはしなかったもの。

「き、今日のところはお前も疲れているだろう。部屋で休んでまた明日にでも話をしよう」

 これ以上は話にならないようだと、私を昔の自室に閉じ込めた。外から鍵が掛けられ出られないようになっている。この高さでは窓から外に出る事もできない。
 昔はこの部屋に閉じこもって、外に出ようともしなかったわね。もう遠い昔のような気がするわ。

 翌朝、早い時間に衛兵がこの屋敷に来たようね。リビティナ様が私を探してくれているのだろうか。

 部屋に朝食が運ばれてきた。メイドは私の顔を見るなり扉を閉めて鍵をかける。魔獣か何かを見るように。
 その後、また居間に連れていかれて魔国の兵器の話をしてくる。兵器がダメなら貿易だけでも商会が参加できるように手配してくれと依頼された。
 私はその一切を断った。

 そして昼前。私達が話し合っている居間のドアを執事がノックする。

「何事だ。衛兵は追い返したではないか」
「だ、旦那様。ま、魔国の魔王様が玄関に来ておられます!」
「魔王だと!!」

 皆、ソファーから立ち上がり窓から外の様子を覗う。リビティナ様がここまで来てくれたんだわ。

「あれは確かに化け物の親玉」

 コルジアの言葉に耳を疑った。リビティナ様をそのように言うとは……。

「アルディア、お前はここに居ろ。外には出るな!」

 そう言い残してお父様が、執事と共に玄関へと向かう。お姉様は動揺して部屋の中をウロウロするばかりだ。
 外の声がここまで聞こえてきた。

「アルディアが世話になったようだな。即、開放してもらおうか」
「か、開放などと……。我が娘が昨日実家に帰って来ただけの事。今は居りません」
「この魔王に虚言を吐くか。ならばこの屋敷、破壊してでも探させてもらうぞ」

 玄関の方で大きな破壊音がした。そして廊下から足音がして扉が破壊された。

「アルディア、無事か!!」
「ネイトスさん!」

 剣を片手にしたネイトスさんが部屋に入って来る。

「この、魔族風情が!」

 ネイトスさんの言葉を聞いた直後、窓際にいたコルジアが突然魔法攻撃してネイトスさんが炎に包まれた。

「ネイトスさん!!」

 炎の塊がそのまま高速で窓際に向かって移動し、炎の中から剣が振るわれる。

「グゥワッ」

 片腕を切り落とされ、血を噴き出して倒れ込むコルジア。

「俺を殺りたきゃ、SS級魔術でも打ち込んで来な」

 ネイトスさんの手にはマダガスカルの盾があった。

「アルディア~。大丈夫だった~」
「エルフィさん!」
「ごめんね。あたしが街中で目を離しちゃったから……。怪我してない」
「はい、私は大丈夫ですから」

 エルフィさんが涙を浮かべて私に抱きついてくる。
 私の足元には、立てずに床に座り込むツエラお姉様がいた。驚きのあまり放心状態となり、虚ろな目で私の顔を見てくる。

「お姉様。もう会うことはないと思いますが、お元気で」

 それだけを言い残して、ネイトスさんとエルフィさんと一緒に屋敷を出る。玄関からは教国の衛兵達が何人も屋敷の中に入って行き関係者を捕らえていく。

 多分、首謀者はコルジアでしょうけど、そんな事はどうでもいいわ。この異世界、私は眷属の人達と歩んでいく、もう私を縛るものは何もないのだから。リビティナ様の笑顔と共に、今まで私を閉じ込めていた屋敷を後にする。
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