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第10章 ヘブンズ教国
第100話 アルディア1
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「ねえ、ねえ、アルディア。あそこの通りには何があるの」
「服や靴の専門店が並んだ通りですね。最新のファッションが見れますよ」
エルフィさんとハイメルドの街を歩く。ここに来るまでの道案内役として来たけど、この首都の外に出たこともない私にそんな事を期待されても無理というものよ。
でも眷属の里には、この世界の詳しい地図がある。それに示された街道を進むだけで、ちゃんと首都に辿りつけた。地図に描かれていない町を追加して、地図を修正するのが私の仕事になっていた。
それでも首都のハイメルドならみんなを案内できると思っていたけど、リビティナ様や他の人達は仕事があるからと迎賓館に籠もっている。今は、暇だというエルフィさんと一緒に街に出ている。
「やっぱり里や、魔国の町とは全然違うわね。この街は華やかでいいわ」
「そうですね。人だけは多いですからね」
歳も近いし、ネイトスさんやエリーシアさんより話しやすいけど、妖精族なんだから本当の年齢は私の三倍くらいのはずよね……。
このヘブンズ教国には、獣人三国から人々が集まってくる。流通も盛んで、その分私の実家のような商売人も多い。
「ねえ、ねえ、あっちは何かしら。人がすごく集まっているわよ」
でもこんな多くの人がいる中、私達は目立っているようだわ。私達が歩く姿を見たこの街に住むオオカミ族はギョッとして道を開ける。
王国では、最近知られるようになった妖精族も、南のヘブンズ教国では見た人がいないのでしょうね。魔族と呼ばれるこの私も恐ろしい生物としか思ってないんじゃないかしら。
先を行くエルフィさんに遅れないようにと付いて行くけど、急に目の前を屈強な男の人二人が道を塞いだ。
「な、何なの、あなた達は!」
顔はターバンで隠されていて見る事はできない。その男が私の口を塞ぎ抱え上げられて脇道へと連れていかれる。悲鳴を上げる事もできずに用意されていた荷馬車に放り込まれてしまった。
まさか昼日中に暴漢に襲われるなんて思わなかった。ここが野蛮な異世界だという事を思い出す。怖くて声も出せない。
「お前はアルディアのお嬢さんだな。大人しくしていれば危害は加えんよ」
幌で覆われた荷台にいた男が、私の手足を縄で縛りながら言ってくる。これは誘拐……私の事を知っていて誘拐したの……。
でも、おかしいわ。この街で私の事を知っているのは、家族とお店の従業員。眷属になって顔形が変わってから家族に会ってないから、私だと分かるはずがないんだけど。
そんな事はお構いなしに、私を乗せた荷馬車は速度を上げて走る。
「さあ、ここだ」
また、担ぎ上げられて馬車を降り、連れていかれた場所は薄暗い小さな部屋。ソファーに転がされて猿ぐつわと手足のロープをほどいていく。
「あなた達は一体……」
「俺達の仕事はここまでだ。あとはこの家の者に聞くんだな」
私を誘拐した男達は、今後の事は知らんとばかりに、とっとと部屋を出て鍵を閉めた。窓のない物置のような部屋。でもこのソファーはフカフカで上質な物だ。
しばらくすると部屋の鍵が開く音がした。
「アルディア。あなたやっぱりバケモノの姿になっていたのね」
「ツエラお姉さま!」
一体どうしてこんな所にお姉さまが居るの!?
「あら、あなた実家の物置小屋の事も忘れてしまったの」
「実家? ここが」
言われてみれば、確かに見覚えのある場所だわ。
「どうしてこんな所に連れてきたの。私はもうあなた達と縁を切ったはずよ」
「そんなつれない事を言わないでちょうだい。お父様が王国を通じて何度も手紙を出したはずよ。見てないのかしら」
手紙? そんなのは見たこともない。縁を切ったという私のために、多分ハウランド辺境伯様かブクイット様の所で止められたのね。
「その分だと、私が婿養子を取って結婚したことも知らないようね」
私が家を出てから三年は過ぎている。お姉様が結婚していてもおかしくはないわ。
連絡も取っていないのに、なぜ私がここに来る事を知ったのだろう。魔国の大臣でもない私の名前が、他の国の人に知れ渡っているはずないのに。
「あなたの事が分かったのも、私の旦那様のお陰なのよ。感謝しなさい」
お姉様の結婚した相手も多分商売人ね。そのネットワークで私の事を知ったのかしら。魔国と教国とは国交がないはずなのに……。
「もうすぐお父様も帰って来られるわ。それまでここで大人しく待っていなさい」
そう言ってお姉さまは、鍵をかけて出て行った。確かここは半地下の倉庫。上部の空気取り入れ口が少し明るくなっているけど、明り取りもなく薄暗い部屋。扉を開けようとしたけど丈夫な鍵でびくともしない。
「みんな、私を探しているわよね」
街中で急にいなくなって、リビティナ様達は驚いているでしょう。でも実家の場所も家族の事もみんなには話していない。この広い首都で人一人を探すのは難しいでしょうね。私が自分でここから脱出しないと。
陽が落ちてきたのでしょう。部屋の中が真っ暗になった頃、扉の鍵が開く音がした。ろうそくを片手にお父様が扉の外に立っていた。
「アルディア、少し手荒な事をしてしまったようだがお前も悪いのだぞ。一切連絡を寄こさず魔族の幹部になっているのだからな」
幹部? 私が? 一体どこからそんな情報を……。
「お父様、私は魔王様の眷属になっただけ。この家とも関係のない生活を送っているだけです」
「お前はマキャレイ家の末娘だ。……まあ、積もる話もある。こちらに来なさい」
家の外に出す訳にはいかないと言われたけど、居間に行って食事をしながら話をしようとここから出る事ができた。
廊下ですれ違ったメイドは私の白い顔を見るなり、声を上げんばかりに驚き壁際に退く。見知ったメイドも居たけど、私だとは気付かないようね。
「服や靴の専門店が並んだ通りですね。最新のファッションが見れますよ」
エルフィさんとハイメルドの街を歩く。ここに来るまでの道案内役として来たけど、この首都の外に出たこともない私にそんな事を期待されても無理というものよ。
でも眷属の里には、この世界の詳しい地図がある。それに示された街道を進むだけで、ちゃんと首都に辿りつけた。地図に描かれていない町を追加して、地図を修正するのが私の仕事になっていた。
それでも首都のハイメルドならみんなを案内できると思っていたけど、リビティナ様や他の人達は仕事があるからと迎賓館に籠もっている。今は、暇だというエルフィさんと一緒に街に出ている。
「やっぱり里や、魔国の町とは全然違うわね。この街は華やかでいいわ」
「そうですね。人だけは多いですからね」
歳も近いし、ネイトスさんやエリーシアさんより話しやすいけど、妖精族なんだから本当の年齢は私の三倍くらいのはずよね……。
このヘブンズ教国には、獣人三国から人々が集まってくる。流通も盛んで、その分私の実家のような商売人も多い。
「ねえ、ねえ、あっちは何かしら。人がすごく集まっているわよ」
でもこんな多くの人がいる中、私達は目立っているようだわ。私達が歩く姿を見たこの街に住むオオカミ族はギョッとして道を開ける。
王国では、最近知られるようになった妖精族も、南のヘブンズ教国では見た人がいないのでしょうね。魔族と呼ばれるこの私も恐ろしい生物としか思ってないんじゃないかしら。
先を行くエルフィさんに遅れないようにと付いて行くけど、急に目の前を屈強な男の人二人が道を塞いだ。
「な、何なの、あなた達は!」
顔はターバンで隠されていて見る事はできない。その男が私の口を塞ぎ抱え上げられて脇道へと連れていかれる。悲鳴を上げる事もできずに用意されていた荷馬車に放り込まれてしまった。
まさか昼日中に暴漢に襲われるなんて思わなかった。ここが野蛮な異世界だという事を思い出す。怖くて声も出せない。
「お前はアルディアのお嬢さんだな。大人しくしていれば危害は加えんよ」
幌で覆われた荷台にいた男が、私の手足を縄で縛りながら言ってくる。これは誘拐……私の事を知っていて誘拐したの……。
でも、おかしいわ。この街で私の事を知っているのは、家族とお店の従業員。眷属になって顔形が変わってから家族に会ってないから、私だと分かるはずがないんだけど。
そんな事はお構いなしに、私を乗せた荷馬車は速度を上げて走る。
「さあ、ここだ」
また、担ぎ上げられて馬車を降り、連れていかれた場所は薄暗い小さな部屋。ソファーに転がされて猿ぐつわと手足のロープをほどいていく。
「あなた達は一体……」
「俺達の仕事はここまでだ。あとはこの家の者に聞くんだな」
私を誘拐した男達は、今後の事は知らんとばかりに、とっとと部屋を出て鍵を閉めた。窓のない物置のような部屋。でもこのソファーはフカフカで上質な物だ。
しばらくすると部屋の鍵が開く音がした。
「アルディア。あなたやっぱりバケモノの姿になっていたのね」
「ツエラお姉さま!」
一体どうしてこんな所にお姉さまが居るの!?
「あら、あなた実家の物置小屋の事も忘れてしまったの」
「実家? ここが」
言われてみれば、確かに見覚えのある場所だわ。
「どうしてこんな所に連れてきたの。私はもうあなた達と縁を切ったはずよ」
「そんなつれない事を言わないでちょうだい。お父様が王国を通じて何度も手紙を出したはずよ。見てないのかしら」
手紙? そんなのは見たこともない。縁を切ったという私のために、多分ハウランド辺境伯様かブクイット様の所で止められたのね。
「その分だと、私が婿養子を取って結婚したことも知らないようね」
私が家を出てから三年は過ぎている。お姉様が結婚していてもおかしくはないわ。
連絡も取っていないのに、なぜ私がここに来る事を知ったのだろう。魔国の大臣でもない私の名前が、他の国の人に知れ渡っているはずないのに。
「あなたの事が分かったのも、私の旦那様のお陰なのよ。感謝しなさい」
お姉様の結婚した相手も多分商売人ね。そのネットワークで私の事を知ったのかしら。魔国と教国とは国交がないはずなのに……。
「もうすぐお父様も帰って来られるわ。それまでここで大人しく待っていなさい」
そう言ってお姉さまは、鍵をかけて出て行った。確かここは半地下の倉庫。上部の空気取り入れ口が少し明るくなっているけど、明り取りもなく薄暗い部屋。扉を開けようとしたけど丈夫な鍵でびくともしない。
「みんな、私を探しているわよね」
街中で急にいなくなって、リビティナ様達は驚いているでしょう。でも実家の場所も家族の事もみんなには話していない。この広い首都で人一人を探すのは難しいでしょうね。私が自分でここから脱出しないと。
陽が落ちてきたのでしょう。部屋の中が真っ暗になった頃、扉の鍵が開く音がした。ろうそくを片手にお父様が扉の外に立っていた。
「アルディア、少し手荒な事をしてしまったようだがお前も悪いのだぞ。一切連絡を寄こさず魔族の幹部になっているのだからな」
幹部? 私が? 一体どこからそんな情報を……。
「お父様、私は魔王様の眷属になっただけ。この家とも関係のない生活を送っているだけです」
「お前はマキャレイ家の末娘だ。……まあ、積もる話もある。こちらに来なさい」
家の外に出す訳にはいかないと言われたけど、居間に行って食事をしながら話をしようとここから出る事ができた。
廊下ですれ違ったメイドは私の白い顔を見るなり、声を上げんばかりに驚き壁際に退く。見知ったメイドも居たけど、私だとは気付かないようね。
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