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第9章 第二次ノルキア帝国戦争

第94話 帝国南部、最後の城2

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「ガリアトス様。まだ地上部隊は健在。敵の飛行部隊は地上の魔法射程内に入ろうとしません。飛行隊と共に突っ込めば敵陣を叩くことができます」

 確かにあの土塁を越えるだけなら飛行隊は有利だ。今の戦力で一気に押すべきか。

「騎馬の部隊を編成して、北側の森を進ませて敵の側面を突け」

 土塁を迂回して川の手前の森を走らせて側面からも攻撃させる。倍の兵力を活用して、何としてもあの西部隊を潰してやる。


 翌日。別動隊が移動したのを確認して、全部隊に前進を命ずる。やはり前方奥からのA級魔術が雨のように降り注ぐ。戦闘を開始してすぐに報告が届いた。

「て、敵陣、巨大魔術が発動しています!」

 報告を受け慌てて司令テントの前に出ると、敵陣中央部で巨大な岩が出現している。あれはSS級魔術ではないか! 前にウィッチア様が発動された魔術と同じ……なぜ敵に宮廷魔術師がいる!!

 その岩は地上に巨大な影を落としながらゆっくりと飛んで行く。その光景に一瞬戦場が凍りついたように動きが止まった。巨大な岩は戦場を掠めて、北の森の方へと飛んで行く。
 別動隊が狙われたか! 部隊が進んでいた川沿いに落下し、轟音と共に水柱が上がる。

 我が本隊は射程外で助かったが、別動隊は全滅か……。だがその程度の損害ならば仕方なかろう。お陰で今後SS級魔術が発動されることは無くなったからな。

 敵の火魔術で戦力を削られながらも本隊をさらに前進させる。間もなく前方の部隊が土塁まで到達できる。このまま押し切れば……。

「伝令! 川が干上がり魔国軍……魔族の軍団が後方より攻めてきております!!」

 その悲鳴にも似た報告に我が耳を疑った。川が干上がっただと……そんなバカな事があってたまるか。いくら魔族とはいえ天地創造の力があるはずなかろう。

 だが確かに、後方から敵の迫る音が聞こえてくる。川に足止めされているはずの魔王自らが率いる一万の軍勢がここにやってくるのか! 足元より沸き上がる恐怖の感情を生まれて初めて味わった。

「我らはこの陣を捨てて、前方の部隊と合流するぞ!」

 多少声が上擦っているが、なんとか指令を出す。ここには幹部の者と千人ほどの兵しかいない。後方から迫る増援に太刀打ちなど不可能。
 馬のある者は馬に乗り、馬車に乗れる者は乗り、そうでない者は武器も持たず走らせる。予備の武器などの物資を全て放り出して、急ぎ前方へと向かう。

 先ほどSS級魔術が撃たれた森を右手に見ながら、側近に囲まれて戦場を駆ける。
 SS級の魔術……あれは都市ひとつ分を丸ごと破壊しその後、巨大な穴が出現する程の威力。
 ウィッチア様の時もそうであった。それが森の向こうの川に落ちれば巨大な湖となるであろう。そうか、それで下流の川が……。


「閣下は安全な中央部へ」

 前方の部隊に合流し、騎士団長に言われ攻撃の届かない場所へと移動する。右翼、左翼と扇形の攻撃陣形を、後方からの攻撃にも対応できる円形の陣形に変えている最中だと聞かされた。

「前方の西の部隊を突き破る事はできぬのか。このままでは挟み撃ちに合うぞ」
「先ほどと打って変わって、攻撃が激しくなっております。土塁に近づく事もままならず……」

 後方の陣で見ていた時は、苦しくはあるが前進できていた。飛行部隊も土塁を越えようとしていたはずだ。

「土塁を越えた飛行部隊がことごとく撃ち落とされ、ロックバードによる攻撃も受けております」

 ロックバード……魔族は怪鳥をも手懐けていると言うのか。

「上空よりS級魔術を連続で撃たれ、一歩も前進できない状態です」

 あの西部隊は飛行隊に特一級魔術師を編成しているのか。それほどの戦力をここに置いていると……。
 後方からも容赦のない攻撃が始まった。我らは円形に固まり魔国軍の攻撃に耐えながらも、数を頼りに西に向かいあの部隊を突破するしか道はない。
 全軍に西へ向かうように指示を出したその時。

「愚かなる帝国貴族とその兵士どもよ」

 急に聞こえてきたその言葉に前方を見ると、そこには黒い翼を広げた人物が宙に浮かぶ。

「な、なぜここに魔王が居る!!」

 魔王は後ろの増援部隊に居るはずではないのか! 今から向かおうとする西部隊の先端に浮かぶ魔王。弱いと思い今まで戦ってきた部隊、そこには宮廷魔導士と共に魔王自らも参戦していたのか。我らの動きを事前に見切り、西に戦力を集中していただと!
 するとこれは罠か……あの魔王の悠然たる態度がそれを物語っている。

「わが魔国に攻め入った事を後悔し、貴様らはこの地で朽ち果てよ!」

 大きな影が横切った。
 上空を仰ぎ見ると屋敷が空を飛んでいる……その巨大な屋敷から岩が落ちて来た。円形に陣を組んで固まっている我が兵達が押し潰されていく。

「ガリアトス侯爵様、お助けを……ガッ」

 隣りにいたウェルター卿までもが、頭を砕かれて血まみれになり地面に転がる。

「……何なのだ、この惨状は」

 武を誇り二百年続いた我がガリアトス一族。その末路がこれなのか。敵と剣を交える事もなく無残に散るだと。これが魔族、人知の及ばぬ魔王の力か。それに立ち向かう我らの何とも小さきことよ。

「ウエノス神よ、これが我らに与えられた試練だとでも言うのか」

 両手を広げて天を仰ぐ。空から降る岩は誰にでも平等であった。そして我が頭上にも……。
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