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第9章 第二次ノルキア帝国戦争

第90話 王国領、奪還作戦

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 帝都の西に位置するザフト侯爵領。城は破壊され兵力の全てを失い、領主の住んでいた二万人の都市は抵抗する事なく占領される。
 ここの責任者と文書を交わしたネイトスも、ホッと胸を撫でおろして破壊された城門を見返す。

「やっと南へ進む道ができましたな」
「そうだね。これで王国軍と共闘できるようになるよ」

 このすぐ南には、以前帝国に奪われた王国の穀倉地帯が広がる。そこは王国の南を守る辺境伯ヘルモンド侯爵の元領地。その地を奪い返すために既に軍隊を集結させている。
 王国には、早馬で魔国軍が南下する事を伝えている。それに呼応して、まもなくヘルモンド侯爵の軍が攻め込んでくるだろう。

「ボク達は、帝国軍の増援が中に入らないようにするだけでいいからね」

 王国との共闘とはいえ一緒に戦う訳じゃない。奪われた領地は広い穀倉地帯で、帝国軍は西の王国との国境付近にしか軍を配置していない。
 魔国軍はこの辺りにある街道二ヶ所に陣取り、援軍を入れなければいいだけだ。

「ネイトス。帝国の南部地方は、今どうなっているんだい」
「魔国との全面戦争で、南部の兵力を帝都に集めていましたからな。残存する兵力は多くないでしょうな」

 その主力は既に壊滅している。追加で帝都への増援は出せても、この占領地である南の穀倉地帯に大兵力を出す余裕はないだろうと言っている。

「皇帝も包囲されつつある帝都を守るように命令を出すでしょう。こちらに向けられる兵力は少ないはずです」

 その言葉通り増援部隊は現れず、王国軍は侵攻して二週間で元領地を占領できたようだ。魔国軍は敗走してくる敵部隊を、王国軍と挟み撃ちにして殲滅した程度で損害もない。

「帝国はこの地方を見捨てたようだね」
「元々、王国領でしたからね。元に戻るだけだと思っているんでしょうな。リビティナ様、ヘルモンド侯爵が来られたようです」

 穀倉地帯を占領しつつ、帝国内へ攻め入ってきた王国軍。指揮していたヘルモンド侯爵が部隊を引き連れリビティナの陣地までやって来た。

「あなたが魔国の賢者、リビティナ様か。お初にお目にかかる。南の国境地帯を任されております、ゲルキオ・フォン・ヘルモンドです」

 壮健なトラ族の辺境伯様だね。新鋭のハウランド辺境伯とは違って、代々南を任されている王国貴族だ。武の家系だからか、ざっくばらんな物言いで声も大きい。どちらかというと脳筋といった感じかな。

 近づき握手を求められて手を差し出すと、両手で握手してきてブンブンと上下に手を振られてしまったよ。まあ、立ち話も何だしリビティナのテントに来てもらって話をしよう。

「前回は不覚を取り領地を奪われましたが、挽回の機会を与えてくださった魔国には感謝いたしますぞ」

 椅子に座った侯爵は両手を膝に置き、軽く頭を下げる。領地を奪還できて余程嬉しかったのか終始笑顔のままだ。

「それなら君にお願いがあるんだ。占領したザーパットの町と、ヘブンズ教国の国境警備に当たってもらいたいんだ」

 今後リビティナ達はさらに南下して行く。占領した町の管理や国境封鎖の手伝いをしてもらいたい。特に教国から帝国へ増援が入ってこないように閉鎖してくれるようにと依頼した。

「なるほど。我ら王国とヘブンズ教国とは友好関係にありますが、一部の教徒が帝国を支援しているとは知りませんでしたな」
「君達が国境の警備をしてくれると、ボク達は南部地方を攻めやすくなるからね」

 進軍し実際に戦うのは魔国軍で、その後の国境警備などを任せられるなら、その分の兵力を南部攻略に回すことができる。

「それぐらいならお安い御用ですな。我らに任せてくだされ」

 領地奪還戦では魔国の協力もあり兵の損耗も少ないそうだ。これからは奪還した領地の整備や防衛の任に当たると言っている。ヘルモンド侯爵はこちらの申し出を快く受けてくれて、その一部の兵士を魔国に貸してくれることになった。


「それじゃネイトス。ボク達は南部攻略に移ろうか」

 今回は帝国を徹底的に叩くと決めている。南部地方を占領して帝都を孤立させ、その後に帝都の攻略戦を行う予定だ。

 南部地方は主に六人の帝国貴族によって統治されている。お城にいるウィッチアの情報では、以前は盟主となる貴族によってまとまった行動をしていたそうだ。
 前の戦い、第一次魔国戦争で惨敗した責任を取って処刑された将軍がその人らしい。将軍がいなくなって、今は個別の領地をばらばらに守っているようだね。

「それなら、部隊を二つに分けて別々のルートで進軍しよう」

 現在、南に進軍している魔国軍は約二万。二つに分けても充分な戦力だ。リビティナとネイトスで帝都近くの内陸へ侵攻する。もう一方はフィフィロを攻撃主体とした部隊で国境付近を南下してもらう。
 戦闘経験の少ないフィフィロに司令官は無理だ。ブクイットの側近で州兵の師団長に司令官を任せる。

「レイボンド司令官。この後に帝都攻略戦がある。その事も考えて、犠牲者を出さないように戦ってくれ」
「はっ。リビティナ様の期待を裏切らない成果を挙げて見せます」

 レイボンドは騎士からの叩き上げの職業軍人で、経験は豊富。その上リビティナと一緒に戦場に立ち、その戦術を見てきている。この者なら部隊をまとめて上手くやってくれるだろう。

「フィフィロ君。この部隊全体を守る事がルルーチアを守る事につながる。君自身が倒れては、誰も守る事ができないよ」
「はい、リビティナ様」

 フィフィロには、無茶をして怪我やまして戦死してはならないと言い聞かせる。周りから英雄だと持ち上げられて、一人で前に出るような愚かな事をせず作戦を遂行するようにと注意しておく。

 フィフィロの部隊の後方には王国軍がついて行くから、後ろを気にすることなく進軍できる。戦闘機は共用で使うけど、爆撃機はそれぞれの部隊に一機を専属配備する。それほど危険な戦いにならないはずだ。後はフィフィロの活躍に期待しよう。
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