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第9章 第二次ノルキア帝国戦争

第88話 魔国の新兵器4

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 帝国南部への侵攻が決まり、ここからはリビティナも最前線に行き戦場に立つ。

 帝都の守りを固める帝国軍には、各町や村に散らばっていた国境警備隊と、首都を守っていた部隊の一部を向かわせて睨み合わせる。
 リビティナ達の本隊はそれを横目に見て、帝国国内を南下していく。第一目標は四年ほど前に帝国に奪われた王国領だ。

 しかしそこに行くには、帝都の西にあるザーパット領を通過しないといけない。
 ウィッチアによると、その地方を治めるのはザフト侯爵。先の王国戦争と魔国戦争においても、戦火に巻きこまれる事なく戦力を温存している領地だそうだ。


「あれが一つ目の砦だね」

 軍が通れる広い街道を見下ろすように建つ岩の砦。魔国軍の行動を察知し、既に道は瓦礫によって塞がれている。有利な高台から攻撃を仕掛けるつもりのようだね。

「ここは私の砲撃部隊で、砦を破壊しましょうか」
「そうだね、ルルーチア。それが一番損害の少ない方法だろうね」

 戦力的にはこちらが圧倒的に有利。数で押しつぶすこともできるけど、まずは砲撃部隊に頼もう。
 後方からの長距離砲撃が始まる。さすがルルーチアの率いる砲撃部隊だ、正確に砦に当てて城壁や見張りの塔を潰していく。

「リビティナ、砦の裏手から飛行隊が空に上がったわよ」

 砦を監視していたエルフィが報告を入れてくれた。ここでも飛行隊が編成されていたんだ。
 ウィッチアの開発した飛行ユニットだけど、帝都だけでなく地方の領主達にも広がっているようだ。こんな小さな砦でも十五人程の部隊が配置されているということは、帝国のどこかで飛行ユニットが大量生産されているはずだね。

「ねえ、あれぐらいならあたしとシームに任せてもらえないかな。シームも役に立ちたいって言ってるの」

 まだ子供のシームを危険な目に遭わせないように、いつも監視ばかりで戦闘には参加させていない。それが心苦しいようだ。

『それじゃボクも一緒に空に上がろう。シーム、無茶はしないようにしてくれよ』
『うん、分かった。エルフィママ、背中に乗って』

 轡《くつわ》と手綱を付けたシームに跨ったエルフィが飛び立つ。それに遅れないよう、見守りながらリビティナが黒い翼を広げ後ろに付く。

 敵の飛行隊は地上から攻撃されない射程外まで上昇し、砲撃部隊の方へ向かっているようだ。この作戦も帝都の主力と同じだね。情報が共有されているようだけど、まあ、いいや。下からシームと共に急接近する。

 まさか、ロックバードが襲って来るとは思っていなかったんだろう。慌てたように隊形を崩して魔法攻撃してきた。
 でも飛ぶスピードはシームの方が遥かに上だ。シームは落ち着いていて訓練通り、攻撃を躱してくちばしの先から炎の魔法を放つ。

『シーム、上手いよ。次はあっちの敵を攻撃するわよ』

 背中のエルフィが指示し旋回しながら、次々に敵を落としていく。なかなかいいコンビだね。リビティナも後ろに回り込もうとする二人を倒す。飛行隊は一掃できたようだ。初陣にしては上等だよ、シーム。

 空中戦を制して地上に降りた頃には、砦は完全に破壊されていて地上から魔法の集中攻撃を受けていた。

『ねえ、ねえ、ママ。どうだった。役に立てたかな』
『うん、うん。シームよくやったわね』

 エルフィに撫でられて、シームが目を細める。
 一つ目の砦はあっけなく落ち、魔王軍は進軍を続ける。この後、二つあった砦も陥落させて、ザフト侯爵のいる城まで到達した。

「あの都市には二万人程の住民がいますね。どうしましょうか、リビティナ様」
「そうだね~。都市に爆撃はできないし、領主の帝国貴族を倒すだけでいいんだけど。後の事を考えると兵力を減らしておきたいんだよね」

 一応爆撃機は既に発艦させて後方に待機させている。都市を攻撃せず貴族だけを暗殺してもいいんだけど、ここの兵士は忠誠心が強いのか士気も下がらず攻めてくる。
 捕虜にしても反乱を起こされて、背後から攻められる可能性もある。

「あのお城と城壁だけを破壊して、あぶり出そうか」
「それなら私の出番ですね、リビティナ様」

 新兵器の動作確認やメンテナンスのために、里からティーアを戦場に連れてきている。

「本当は工場長が来るはずだったんですけど、もう歳ですし腰も痛めてますからね~」

 技術者代表としてティーアはよくやってくれている。ここで新兵器を試験的に実戦投入するのもいいだろう。

「ではレールガンのお披露目といきましょうか」

 工場の職人達が開発してくれた新兵器のレールガン。五メートルの砲身に内蔵されたマダガスカル鋼の二本のレールと強力な磁石。そのレールに大電力を供給して金属の弾丸を打ち出す。

 陣地の後方に位置する砲撃部隊、そのまた後方の広い平地でレールガンの組み立てに入る。

「ほう、この重い石を木材に取り付けるのか。何のために運んでいるのかと思ってたが、こいつのためだったのか」

 レールガンの全体を見るのが初めてのネイトスは、感心しながら組み立てを興味深そうに眺めている。

「ネイトスさん、それは発電機。本体はこっちですからね」

 ティーアに言われネイトスが振り返る先には、黒い砲塔が台座に設置されている。打ち出し角度を調整するための金属の円盤が左右に取り付けられ、弾丸を装着する一番後方には何本もの太い電線が接続されていく。

「何だかすげ~装置だな。だがこんな遠くからあの城に当てられるのか」

 部隊の一番後方、城を眺める事のできる場所だけど確かに遠いね。

「高速の弾丸にはスピンをかけていて、ほぼ直線で飛んで行きますからね。当てるなんて簡単ですよ」
「ほぉ~、そりゃすごいな」

 感心するネイトスを背に、ティーアが砲身の調整に入る。
 前の世界の知識でリビティナが設計したけど、それを実現してしまう職人技がすごい。大電流を流しても溶けないマダガスカル鋼のレールと弾丸。研究開発してくれた里のみんなに感謝だよ。
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