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第8章 ノルキア帝国戦争

第82話 武闘大会3

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 二日目はヒアリス様と魔王城の遺跡観光や、近くの町で食事などをして楽しんだ。
 最終日の三日目。

「ウィッチア。いよいよあなたの出番ね。でもあまり無理しちゃダメよ」
「分かっていますよ、これはエキジビション。本当の戦いじゃないんですから」

 これは武闘大会の最後を飾る模範試合。SS級魔術も使わないし、飛行ユニットで飛んだりもしない。相手も浮かぶキックボードを使わないから、魔術限定の地上戦になる。

 相手は魔国の宮廷魔導士。名をフィフィロという男の魔術師と聞いている。戦場で戦った事はあるけど、顔を見るのは初めてね。
 ワタシの控室に挨拶に訪れたのは、成人したばかりの子供? 隣りに居るのは恋人……いえ、妹さんね。顔立ちのよく似た女の子と一緒にやって来た。

「あの、ウィッチアさんですよね。オレ、フィフィロって言います。今日はよろしくお願いします」

 全くの拍子抜けだわ。ワタシのSS級魔術を相殺した男だから、もっと年上だと思っていた。

「よろしく。今日はあんたの実力を見せてもらうわ」

 多分、魔力量はあっても技術力の劣る魔術師ね。お子ちゃまの妹から「兄さま、頑張って」と励まされているわ。はんっ! こんな相手、一対一なら負けるはずないわね。

 ワタシ達が戦うのは、会場に作られた武舞台じゃなくて殲滅の平原の一部。柵で区切られた観客席が用意されているけど、すごく広い場所で戦う。これぐらいの広さが無いと、思い切ってS級魔術で戦えないものね。

 戦う会場に出る時は、お互い顔を隠す仮面を付ける。魔術に制限はあるけど、見る者が見れば宮廷魔道士だと分かってしまうものね。
 指定された服装もリビティナが着ているようなダサいローブだし。遠くからでも見分けられるようにと、ワタシは黒い三角帽を被らないといけない。これはリビティナのセンスね、困ったものだわ。

 司会者からは魔術の達人と天才児の対戦だと紹介された。まあ、そんなのは関係ないわ。あの戦場でのリベンジをここでしてあげるわよ。

 双方、距離を取って試合開始のドラの音が会場に響き渡った。



「さ~て、いよいよ始まりました魔術師最高峰の戦い。実況はわたくし妖精族のエルメラと、解説は鬼人族のサドエラさんにお願いしています」
「サドエラです。よろしく」

「今回は特一級魔術師同士の対戦という事ですが、見どころなど教えていただけますか」
「武闘大会で魔術師部門の優勝者は一級魔術師の方でした。特一級となると実際の戦場でしかお目に掛かれないS級の魔術を使えます。普段見れない魔術を堪能できますな」

「お~と、そう言っている間にも、女性魔術師がS級を撃ってきました~」
「あれは、雷魔術を円形に束ねたものですね。落ちた雷の周辺にも攻撃が及ぶ範囲魔法! これは避け切れないでしょう」

「いや、男性魔術師が岩のドームを作って防御したようです」
「普通の岩なら穴が開いてしまう威力のはずですが、二重にしたのか防ぎ切りましたよ。これはすごいですな」

「男性魔術師も氷の槍を雨のように降らせています。それを女性魔術師が高速移動で躱しきる!」
「あれは氷と水魔法を使って移動する高等技術。普通の魔術師にできる技じゃありません。さすが最高峰の魔術師同士。目が離せませんぞ」



 フィフィロもなかなかやるわね。でもキックボードがなけりゃワタシのように速く移動できないでしょう。必死に走っているようだけど、こっちからは狙い撃ちよ。

 フィフィロの足が止まったと思ったら、高速の石の球が飛んできた。これはリビティナが使っていた魔術! なるほど、魔術はあいつから教えてもらっているのね。連続で高速の球を撃ってくる。これは通常の魔術では出せない速度だわ。

 よし、その魔術を見定めてやるわ。岩の壁で防ぐのをあえて水の壁で防ぐ。
 高速で走りながら、撃ってくる球が水の壁に当たった後の軌跡を観察する。

「石の球の前には風魔術……それと石が回転しているわね」

 防いだ水の壁が、捻れながら伸びて石を受け止めている。魔術の前に風魔術を置くと速くなるのは知っている。でもなぜ石を回転させているのか分からないわ。それに石の形も……。

「でも、それならワタシにもできるわよ」

 今見たものと同じ魔術を組み込んで発射する。すごいわね。確かに高速の魔術になって飛んで行く。これなら、あいつを撃ち抜けるかしら。
 そう思っていたら、フィフィロが高速移動して避けた。

 そんなバカな、さっきまで必死に足で走っていたじゃない。こちらの魔術を見て真似たとでも言うの!
 これは氷を操る熟練した魔力操作が必要なのよ! しかも片足ずつ交互に使って地面を蹴る……キックボードと同じ動作……。ワタシの動きを見てこの方法に気が付いたのね。

 今、使ったばかりの魔術のはずなのに、ちゃんと攻撃を避けながら走り回っている。

「ウワッ! こっちに突っ込んでくる。生意気な奴ね」

 高速で接近して、至近距離で撃ち合うつもりね。よし、その勝負に乗ってあげるわ。
 急速ターンして、フィフィロの正面へと向かいすれ違う。その一瞬にお互いが二、三発の魔術を撃ち合った。ワタシの腕を掠ったようね。血が滲んでいる。フィフィロもお腹を手で押さえているわ。

 でもこれで距離が取れた。炎を纏った岩の魔術をまとめて空から降らす。これなら地面に落ちた後も砕けた岩が飛び散ってダメージを与えられる。

「これは逃げられないわよ」

 最初の雷魔法で破れなかった硬い岩のドームでも崩せるわ。するとフィフィロは氷の壁を半球状に作り、その中心で片膝を突いた。

 防御するのかと思っていたけど、弓を構えるような姿勢から両手で作った太い氷の槍を高速で放つ。その槍もスピンしながら飛んで行き、正確に火の玉となった岩が打ち砕かれ空中で散っていく。砕かれた破片はあの氷のドームで防ぐつもりね。
 次々に氷の槍が空に飛んで行き花火のような火の粉が空を彩る。何という速さと正確さだ。

 でもその背中、がら空きよ! 高速移動で後ろに回り込み、岩魔法を背中に打ち込む。手加減してやったから気絶程度で済むわよ。
 でもその岩は空中で砕かれ、その向こうからフィフィロが高速でこちらに迫って来た。手には氷で作った剣! ワタシも慌てて氷の盾を作って受け止めたところで、試合終了のドラの音が会場に鳴り響いた。

 フィフィロの後ろには、磨かれたような半円形の氷のドーム。そこに自分の姿が映り込んでいた。誘い込まれたのはワタシの方だったのね。


「試合終了です。これはすごい戦いでしたね。サドエラさん」
「両者とも、これほどの魔術を広範囲に撃ち合い、最後は接近戦とは……この広い平原が会場に選ばれたのも納得ですな」
「両者を称えて、観客からすごい歓声が上がっております。これはすごい。本当にすごい戦いでした」
「こんな素晴らしい試合が見れ、わたくしも感動しております。両者に盛大な拍手を送ってやってくだされ」


 鳴りやまない歓声の中、控室へと戻って来た。

「ウィッチア、腕を怪我しているようね。治療しましょうね」
「ありがとうございます、ヒアリス様」
「で、相手の方はどうだったの? 強かった?」
「さすが魔族の魔術師。ワタシと互角……いえ、ワタシが少し負けていたかもしれません」
「まあ、あなたがそんな事を言うなんで珍しいわね。でも、そんな相手と出会えるなんて幸運な事なのよ」

 全力を出し切れる相手……そうね、今までそんな人はいなかったわ。同じ宮廷魔導士もワタシを怖がっていたもの。
 戦場で戦う事だけが、ワタシを熱くし真剣になれる場所だと思っていた。でもこの試合で知らなかったことを知ることができた。戦場とは違いワタシはまだ生きている。帰って魔術の研究をする事ができる。

 リビティナが話していた、スローライフというのはまだ良く分からない。でも人が死なない平和な世の中というのも、まんざらでもないようだわ。
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