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第8章 ノルキア帝国戦争

第73話 対魔国戦争2

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 敵陣の後方まで飛んで行って、その長距離の攻撃をしている魔術師をやっつければいいのよ。

「ウィッチア様、敵軍の上を飛ぶなど危険です。お止めください。あなた様を失っては魔族との戦争に支障をきたします」
「むざむざ殺られたりはしないわよ」

 ワタシの身を案じてくれるのは嬉しいけど、危険を冒さないとダメな時もあるでしょう。これは戦争なんだから。
 空高く、魔法の射程外を飛べば敵の後方まで行く事は可能だもの。

 スレイユ将軍には、わざと土塁に部隊を近づけさせて敵に攻撃させる。ワタシ達飛行部隊は上空で待機し、どの位置からの攻撃かを見極める。

「分かりました。犠牲者を出さぬように前進いたしましょう」

 地上と連携するこの作戦、必ず成功させてみせるわ。ワタシを含めた五人の小隊で上空に上がる。残りは空からの攻撃の防御に当たるためここに残す。

「それじゃ行くわよ。ワタシについて来なさい」

 小隊を引き連れ上空で待機する。ここから戦場を眺めると左右の深い森と、その間に築かれた半円状の土塁と敵陣が一望できる。
 敵からの攻撃があったようね。地上に土煙が上がっているわ。

「ウィッチア様。敵陣のずっと後方に白い煙が上がっています」

 確かに狼煙のように林の中から、何本もの煙が立ち昇っている。けど、すごく遠くじゃない。魔法射程の四倍はあるわよ!

「とにかく、あの位置まで確かめに行くわよ。地上から狙われないように高く飛びなさい」

 敵の陣地の真上を飛び越して、後方の林へと向かう。近づくと火魔法が爆発したような音が聞こえてくる。あの白い煙と同じ場所からだわ。

「あれが魔族の術者ね! 攻撃します」

 一人が白い煙の上がった場所を目掛けて、急降下して魔法攻撃を行なった。
 まだ敵を確認していないのに、立ち向かうなんて無茶よ。仕方ない、ワタシ達も一緒に降下していく。この部隊を潰さないといつまでも攻撃が続く事は確か。多少危険はあっても攻撃が優先か。
 そう思った瞬間、地上から高速の火魔法が飛んできて、先端を切った一人が炎に包まれて落ちて行く。地上の護衛部隊!

「こんな所までやってくるとはね」

 今度は上空から声が! あれは魔王、リビティナだわ!
 振り向きざま他の飛行隊員を庇うように、上空に防御障壁を展開した。間に合わなくて一人が氷の槍に貫かれて落ちていく。

「あんたらは、逃げなさい!」

 反転して飛び去ろうとする二人に向けて、地上から巨大な火の玉が襲いかかる。あれはS級魔術!!
 空中に氷の壁を展開したけど、横からだと防ぎきれない! 逃げる飛行隊員も防御壁を展開したけど、S級の火の玉は氷の壁を蒸発させて、飛ぶ二人を同時に焼き尽くした。

「こっのお~!!」

 下の林に向かってS級魔術の炎の塊を飛ばす。でも地上にいる魔術師が、多重の氷の壁を作って防御する。それと同時に上空のリビティナがワタシを狙って来る。

 左右に回避行動を取りながら上空へと上がる。地上との挟み撃ちだけは避けないと。でもリビティナに頭上を押さえられ、地上から連続で攻撃される。
 こちらも旋回しながら、リビティナと地上にS級魔術の同時攻撃を行なう。でもどちらも多重障壁の魔術で防がれた。

 最悪だわ!! S級魔術の使い手が二人。これ程の戦力を後方に置いておくなんて思ってもみなかった。

 地上の魔術師から距離を取ろうと、水平方向に全速で飛ぶ。でもワタシのすぐ下からまた魔法攻撃を受けた。

「なんなの、あいつは!」 

 木々の間から見え隠れしているのは、緑と茶色の斑模様のローブを着た魔術師。模様のせいかはっきり見えないけど、単身で走っている!? 
 そんなバカな。馬にも乗らずワタシの速度に追いつくなんて……。

 相変わらずリビティナは速く空中戦は不利ね。その攻撃を避けつつ、思い切って急降下して、林一帯の木々を燃やした。これで追って来れないでしょう。その煙に紛れて林を抜け離脱する。

 小隊は全滅してしまったけど、ワタシ一人がなんとか自陣まで戻ってくる事ができた。黒いススにまみれたワタシをスレイユ将軍が迎い入れる。

「ウィッチア様、よくご無事で戻られました」
「……なんとかね。地上部隊の損害は?」
「さしたる損害はありません。今回の飛行部隊も四人を失っただけ、次回はもっと大部隊で後方を攻める事もできますぞ」

 いや、ダメでしょうね。地上と上空からの同時攻撃とあの機動力……。今の飛行部隊で躱す事はできないわ。タオルを受け取り顔を埋め、椅子に深く腰掛け目を閉じて考えをまとめる。

 やはり、正面からぶつかって敵陣を突破する他ない。

「スレイユ将軍。SS級魔術を使用するわ」
「SS級!! 都市一つを飲み込むという、巨大魔術をですか……」
「ワタシを護衛して、あの土塁の所まで連れて行ってくれるかしら」

 こうなれば、最大級の魔術で敵陣を焼き尽くすしかないわ。でも射程は普通の魔術と同じ、それに発動するまで時間もかかる。その間は他の騎士達に守ってもらう必要がある。

「分かりました。護衛の騎士を選抜しましょう」

 他にも陽動の部隊も作って、攻撃を分散させると言っている。犠牲は出るかもしれないけど、あの敵陣を壊滅させないと先に進めない。

 作戦と編成はスレイユ将軍に任せて、ワタシは後方のテントに下がって少し休ませてもらう。S級魔術を使いすぎて少し疲れたわ。
 明日一日休めば、SS級を使えるまで魔力も回復するでしょう。明後日には決着をつけてやるわよ、リビティナ。
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