125 / 212
第7章 新たな種族
第68話 人族の誕生
しおりを挟む
翌日、眷属となったアルディアを里のみんなに紹介し、エマルク医師に健康診断をしてもらう。
「アルディアは健康体じゃな。黒死病の心配もなかろう」
「黒死病?」
「この世界での人間は魔素に弱くてね。体内に溜まると死んでしまうんだよ」
驚くアルディアに遺伝子の話をする。知識を持つアルディアはすぐに理解してくれたようだ。
「他の種族は外殻遺伝子を持つと……。それで魔法が使えたり、人間と全く違う体になるんですね」
「でもね、人間の外殻遺伝子を持つ子供がもうすぐ生まれるんだよ」
フィフィロの子供が今月生まれる予定だ。
「メルマとお腹の子は元気にしているかい」
「順調じゃよ。臨月じゃしな、いつ生まれても良いように準備しておるぞ」
その一週間後。代理母をしてもらっているメルマには、診療所で入院してもらう事にした。
「メルマ。ここならいつ陣痛が始まっても安心だからね」
「はい、ありがとうございます」
今も、時々陣痛があるらしい。エマルク医師にもここに詰めてもらって、出産準備をしてもらう。隣りには分娩専用の部屋も用意した。
今までもリビティナ自身で定期健診をしてきて、母子共に異常はなく順調に胎児は育っている。しかし出産は何が起こるか分からない。万全の体制にしておかないと。
入院した翌日、本格的な陣痛が始まった。出産経験のある人を二人呼んで手伝ってもらう。
「メルマ。頑張るのよ。私達が付いているからね」
「う、うん。里のみんなのためにも……頑張るわ……ウ、ウッ」
「メルマ、呼吸を整えるんじゃ。しっかりのう」
「は、はい」
この場には、自分の子供を産んでもらうのだからとルルーチアも同席している。「頑張ってください」と声を掛け励ます。
「よし、もう少しじゃぞ。頑張るんじゃ」
そのすぐ後、元気な赤ん坊の泣き声が部屋中に響き渡った。
「メルマ、産まれたわよ!」
「元気な男の子よ」
「よく頑張ったね。メルマ」
「ハァ、ハァ……。ありがとうございます。リビティナ様」
赤ん坊の声は診療所の外にまで聞こえたのだろう。外で見守っていた里の人達の歓声が、この部屋まで聞こえてきた。
「この里で生まれた最初の子供だ。みんなよくやってくれた」
産まれたばかりの子供を抱いてメルマが涙ぐみ、その横でルルーチアも感動のあまり床に座り込み大泣きしている。
診療所の前に集まっているみんなにも報告しよう。
「元気な男の子が無事産まれたよ。母子共に元気だ。新しい命をみんなでお祝いしよう」
みんなを分娩室に入れる事はできないけど、玄関を開けてお祝いの言葉を投げかけてもらう。
「さあ、フィフィロ君はこっちに来てくれるかい。君の子供を見にいこう」
全身を魔法で洗って、清潔なガウンを着てもらい分娩室に入ってもらう。フィフィロも小さな赤ん坊に対面して感動しているようだ。泣いていたルルーチアの肩を抱き、「ありがとう」とメルマに何度もお礼を言っている。
この後、メルマと赤ん坊は三日間入院してもらう。
退院後、赤ん坊は授乳期間の一年程をメルマの家で育ててもらう事になるけど、フィフィロとルルーチアも一緒に住んでもらい子供の育て方を学んでもらう。
リビティナも忙しくなる。赤ん坊の体を詳しく調べて、異常が無いか、外殻遺伝子が機能しているか確認しないといけない。
「ねえ、リビティナ。これで里の奥さん達も子供が産めるようになるの?」
「体外受精の形になるけどね。四分の一ぐらいの確率で人族の受精卵になるんだ」
受精時に人族の外殻遺伝子が周辺にあると、高確率で取り込んで人族の受精卵になってくれる。
実験だと八世代後の人族同士の受精にも成功している。八世代経っても強固な構造の外殻遺伝子に変化はなく、内殻遺伝子のみ両性の遺伝子を取り込み多様化していく。
これなら一世代目だけ体外受精をすれば、人族として将来に子孫を残す事ができるようになる。そのためにも、この赤ちゃんの体をしっかりと調べていきたい。
赤ん坊にはククルという名が付けられ、順調に成長していく。胸の魔結晶も成長し、体内に魔力回路がある事も確認された。半年後にはククルの外殻遺伝子を使って、試験管内で別の夫婦の体外受精に成功した。
その後も人族の子供を宿す夫婦は増え、里は妊娠ラッシュとなる。
「この分ですと、この里をもう少し広げないといけませんな」
「そうだね。周りの魔獣達の縄張りを荒らさない程度に広げる事も考えてみようかな」
魔国自体も発展してきている。食料を他の町からこの里に輸送すれば、農地を増やさずに人家を増やすこともできそうだ。
この地は魔獣の森に囲まれた隠れ里。魔獣と共存できるリビティナにとって理想とする場所。これから先も愛するこの里の眷属と共に、のんびりと暮らしていきたいね。
◇
◇
「皇帝陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」
「大司教殿。遠路はるばるお越しいただき、ありがたい」
「前回、ご要望のありました大聖堂の分所を造る件ですが、やはり難しいと本国より連絡がありました」
「そうですか。このノルキア帝国に聖堂ができれば、遠く巡礼することなく参拝できると思ったのですが……」
「ノルキア帝国は信者数も少なく聖堂建設のための資金も足りないと、教会本部から言われておりまして、誠に申し訳ありません」
「資金面ですか……確かにそうですな。人口も少なくなっていますからな」
「北方の魔国。あの土地は元々皇帝陛下の領地、取り戻すことはできないのでしょうか。最近では異教徒の妖精族もあの地に入り込んでおると聞いておりますが」
「予も気に掛けておるが、先の王国との戦いで、戦力が不足しておりましてな……」
「であれば、我々教団も支援は可能であると思います」
「兵をお貸しいただけると」
「異教徒撲滅のためであれば」
---------------------
【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
今回で第7章は終了となります。
次回からは 第8章 ノルキア帝国戦争編 です。お楽しみに。
お気に入りや応援、感想など頂けるとありがたいです。
今後ともよろしくお願いいたします。
「アルディアは健康体じゃな。黒死病の心配もなかろう」
「黒死病?」
「この世界での人間は魔素に弱くてね。体内に溜まると死んでしまうんだよ」
驚くアルディアに遺伝子の話をする。知識を持つアルディアはすぐに理解してくれたようだ。
「他の種族は外殻遺伝子を持つと……。それで魔法が使えたり、人間と全く違う体になるんですね」
「でもね、人間の外殻遺伝子を持つ子供がもうすぐ生まれるんだよ」
フィフィロの子供が今月生まれる予定だ。
「メルマとお腹の子は元気にしているかい」
「順調じゃよ。臨月じゃしな、いつ生まれても良いように準備しておるぞ」
その一週間後。代理母をしてもらっているメルマには、診療所で入院してもらう事にした。
「メルマ。ここならいつ陣痛が始まっても安心だからね」
「はい、ありがとうございます」
今も、時々陣痛があるらしい。エマルク医師にもここに詰めてもらって、出産準備をしてもらう。隣りには分娩専用の部屋も用意した。
今までもリビティナ自身で定期健診をしてきて、母子共に異常はなく順調に胎児は育っている。しかし出産は何が起こるか分からない。万全の体制にしておかないと。
入院した翌日、本格的な陣痛が始まった。出産経験のある人を二人呼んで手伝ってもらう。
「メルマ。頑張るのよ。私達が付いているからね」
「う、うん。里のみんなのためにも……頑張るわ……ウ、ウッ」
「メルマ、呼吸を整えるんじゃ。しっかりのう」
「は、はい」
この場には、自分の子供を産んでもらうのだからとルルーチアも同席している。「頑張ってください」と声を掛け励ます。
「よし、もう少しじゃぞ。頑張るんじゃ」
そのすぐ後、元気な赤ん坊の泣き声が部屋中に響き渡った。
「メルマ、産まれたわよ!」
「元気な男の子よ」
「よく頑張ったね。メルマ」
「ハァ、ハァ……。ありがとうございます。リビティナ様」
赤ん坊の声は診療所の外にまで聞こえたのだろう。外で見守っていた里の人達の歓声が、この部屋まで聞こえてきた。
「この里で生まれた最初の子供だ。みんなよくやってくれた」
産まれたばかりの子供を抱いてメルマが涙ぐみ、その横でルルーチアも感動のあまり床に座り込み大泣きしている。
診療所の前に集まっているみんなにも報告しよう。
「元気な男の子が無事産まれたよ。母子共に元気だ。新しい命をみんなでお祝いしよう」
みんなを分娩室に入れる事はできないけど、玄関を開けてお祝いの言葉を投げかけてもらう。
「さあ、フィフィロ君はこっちに来てくれるかい。君の子供を見にいこう」
全身を魔法で洗って、清潔なガウンを着てもらい分娩室に入ってもらう。フィフィロも小さな赤ん坊に対面して感動しているようだ。泣いていたルルーチアの肩を抱き、「ありがとう」とメルマに何度もお礼を言っている。
この後、メルマと赤ん坊は三日間入院してもらう。
退院後、赤ん坊は授乳期間の一年程をメルマの家で育ててもらう事になるけど、フィフィロとルルーチアも一緒に住んでもらい子供の育て方を学んでもらう。
リビティナも忙しくなる。赤ん坊の体を詳しく調べて、異常が無いか、外殻遺伝子が機能しているか確認しないといけない。
「ねえ、リビティナ。これで里の奥さん達も子供が産めるようになるの?」
「体外受精の形になるけどね。四分の一ぐらいの確率で人族の受精卵になるんだ」
受精時に人族の外殻遺伝子が周辺にあると、高確率で取り込んで人族の受精卵になってくれる。
実験だと八世代後の人族同士の受精にも成功している。八世代経っても強固な構造の外殻遺伝子に変化はなく、内殻遺伝子のみ両性の遺伝子を取り込み多様化していく。
これなら一世代目だけ体外受精をすれば、人族として将来に子孫を残す事ができるようになる。そのためにも、この赤ちゃんの体をしっかりと調べていきたい。
赤ん坊にはククルという名が付けられ、順調に成長していく。胸の魔結晶も成長し、体内に魔力回路がある事も確認された。半年後にはククルの外殻遺伝子を使って、試験管内で別の夫婦の体外受精に成功した。
その後も人族の子供を宿す夫婦は増え、里は妊娠ラッシュとなる。
「この分ですと、この里をもう少し広げないといけませんな」
「そうだね。周りの魔獣達の縄張りを荒らさない程度に広げる事も考えてみようかな」
魔国自体も発展してきている。食料を他の町からこの里に輸送すれば、農地を増やさずに人家を増やすこともできそうだ。
この地は魔獣の森に囲まれた隠れ里。魔獣と共存できるリビティナにとって理想とする場所。これから先も愛するこの里の眷属と共に、のんびりと暮らしていきたいね。
◇
◇
「皇帝陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」
「大司教殿。遠路はるばるお越しいただき、ありがたい」
「前回、ご要望のありました大聖堂の分所を造る件ですが、やはり難しいと本国より連絡がありました」
「そうですか。このノルキア帝国に聖堂ができれば、遠く巡礼することなく参拝できると思ったのですが……」
「ノルキア帝国は信者数も少なく聖堂建設のための資金も足りないと、教会本部から言われておりまして、誠に申し訳ありません」
「資金面ですか……確かにそうですな。人口も少なくなっていますからな」
「北方の魔国。あの土地は元々皇帝陛下の領地、取り戻すことはできないのでしょうか。最近では異教徒の妖精族もあの地に入り込んでおると聞いておりますが」
「予も気に掛けておるが、先の王国との戦いで、戦力が不足しておりましてな……」
「であれば、我々教団も支援は可能であると思います」
「兵をお貸しいただけると」
「異教徒撲滅のためであれば」
---------------------
【あとがき】
お読みいただき、ありがとうございます。
今回で第7章は終了となります。
次回からは 第8章 ノルキア帝国戦争編 です。お楽しみに。
お気に入りや応援、感想など頂けるとありがたいです。
今後ともよろしくお願いいたします。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
105
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる