上 下
118 / 212
第7章 新たな種族

第61話 貿易1

しおりを挟む
「新しく建国した魔国、行けば面白い物が見れるそうだぞ」
「昔に大陸を制覇した魔王が住んでいたお城よね。私はそれより新しく輸入されるシャンプーや化粧品の方が気になるわ」
「あたしも聞いたわよ。何でも日焼け止めというのがあるそうじゃない。本当なら絶対に買うわ」

 最近、共和国内では魔国の噂で持ち切りだ。あの時、迎賓館の裏庭で出会ったリビティナが言っていたように、これから自由貿易が始まる。国同士での自由貿易など初めての事。間もなく始まる国境検問所でのセレモニーに俺も参加する。

 またリビティナに会えればいいんだがな。新しくできた魔国に知り合いを持つ商人は少ない。自由貿易とは言え、魔国内の情報を簡単に手に入れられるチャンスはそうないからな。


 州都より乗合馬車で十二日、明日には魔国国境の検問所に到着できる。今晩は国境に一番近いレイドの町に宿泊して、明日に備えよう。

「よう、ハヌートじゃねえか。お前も魔国に商談に行くのか」
「テキトス、久しぶりだな。景気はどうだ」
「まあ、ボチボチだな。魔国には面白れえ物があると聞いてな、荷馬車を用意してここまで来たんだ」

 他にも商人達がこの酒場に集まっている。国境が開通する前に、魔国は魔王城跡の観光ツアーや石鹸、シャンプーといった商品の宣伝を共和国中に流している。新しい物好きの妖精族の心をくすぐるような宣伝文句に俺も心惹かれた。

「魔国も中々やるもんだ。初っ端から宣伝攻勢をかけてくるとはな。それに大々的な開通セレモニー。向こうには商売に長けた人物が居るようだな」
「それが賢者様という人物じゃないのか。魔国王の側近でナンバーツーの者らしいからな」

 表舞台に姿を現さず、正式に名前も発表されていないその人物。噂話でチラホラと耳にする賢者様と呼ばれている側近がいると。条約締結で迎賓館に招かれていた、あの古びたローブを纏ったリビティナとは別人だと思うが少し気になる。

「魔族の噂はオレも聞いたな。キノノサト国の大将軍や女王様とも対等に話し合える側近が何人もいるという話だ」
「かつて大陸を制覇した魔族だからな。計り知れん力を持つと言われているが、俺の知っている魔族はそんな感じじゃなかったんだがな」
「なんだお前、魔族に知り合いがいるのか! オレにも紹介してくれよ」

 参加した友好条約の歓迎式典で見かけただけだと、テキトスをごまかした。根掘り葉掘り聞かれるのも面倒だし、こんな情報は商売仲間に知られるわけにはいかないからな。

 翌日、俺は乗合馬車で国境まで行く。テキトスは自前の荷馬車で国境まで行くそうだ。一緒に乗らないかと誘われたが、借りを作るのも嫌だし丁重に断った。

 今回俺は商談だけで商品の輸送はしない。サンプル程度は買うつもりだが、まだ販路が決まっていないからな。どんな商品をどこで売ればいいか決めてから売らんと失敗するだけだ。

 国境までの峠道。谷間を綺麗な交易路が走る。よく短期間でこんな道を作れたものだと感心する。さすが共和国の土木技術はこの大陸一だ。
 峠を越えると、そこには魔国側の国境検問所が建てられている。

「思っていたよりも広い場所だな」

 峠から少し下った平らな場所に、建物がいくつも建てられている。宿泊所でもないし何の建物だろうと思いつつ、イベント会場に入って行く。

 そこには屋台が建ち並び、共和国に売り込む物品が置かれていた。この土地で作られた食料や酒、土産物などのサンプルが並べられている。
 品質はそれほどでもないが、すごく安い値段で売られていた。これに関税が掛かって利益を上乗せしても十分元が取れる値段だ。

 向こうの壇上では、国境開通のセレモニーが始まったようだな。あれは妖精族の親善大使か? 壇上で魔国との友好を強調した話をしている。その後、テープカットに続き久寿玉が割られたようだ。人が続々と国境検問所に入って行く。

「おや、君はハヌートじゃないか。君も来ていたんだね」

 そう声を掛けてきたのは、あのリビティナだった。

「今日ここに来れば、またリビティナに会えるんじゃないかと思っていたんだ。魔国の商品の仕入れ先を教えてほしくてな」
「そんな事ならお安い御用さ。君とは迎賓館の裏庭で一緒にご飯を食べた仲だしね」

 俺なんかに気さくに話し掛けるこいつが、噂の賢者様ではないと確信したよ。あの尊大な魔王に次ぐ人物とは思えん。親切に俺を連れて国境検問所に招き入れてくれた。

「君は馬車で来たのかい?」
「いや、商談だけのつもりだから、身一つで来ている」
「それなら、こっちの観光用の窓口に行くといいよ。簡単な検査だけで通してくれるからね」

 今日は商人が多いのか、反対側の窓口は混んでいるようだな。俺は手荷物を見せて書類に名前を書き、手数料を支払えばすぐに手続きが終わった。普通の町を出るような感覚だな。

「こっちに乗合馬車があるから、それで魔王城跡まで行こうか」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...