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第6章 魔族の国
第49話 交易路1
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翌日の朝早く、かつての魔王城からミシュロム共和国へと伸びる街道を見に行く。
「もらった地図だと、ここを北に行く道があるはずだけど分からないね」
二百年も使っていないと言うぐらいだから、森に飲み込まれているんだろう。そのまま山に向かうけど道らしき物は見つからない。
真北よりも一つ西の山の谷沿い。そこが入り口になっていて、ミシュロム共和国へと続いているらしい。
確かに谷沿いの低い位置を進むことができる。クネクネと曲がる谷を進んで行くと道らしきものが見えた。
「なるほど、ここが途切れているミシュロム側の道だね」
山の崖を切り崩した細い道。それに草木が生い茂っていて、日頃使っていない事が分かる。
「これだけ狭いと、馬車が通る事はできないか……」
交易路とするには、馬車が通れない事にはどうにもならない。もう少しミシュロム側に行ってみると幅が広く馬車の通った轍がある道に出た。山の幸を求める住民が日頃馬車でここまで来ているようだね。
女王が言っていた道はこれに間違いない。道に生い茂る樹木だけでも伐採しておこうと、左右の木々を切り払っていく。
お昼を過ぎた頃、後ろの方から大きな声で呼びかけられた。
「お~い、そこの人。これから工事をする。危ないから麓の町に帰ってくれないか~」
呼びかけたのは妖精族の人達。後方に大型の馬車を置き、荷物を担いだ十五人程がぞろぞろと道を登って来る。妖精族にしては筋肉質の男達だ。
魔王だなんて言う事はできないし、とりあえず仮面を付けてローブを目深に被っておこう。
「おや、妖精族の住民じゃないな。冒険者の人か?」
「ああ。ちょっと依頼でね」
「その仮面は宗教的な物だな。すると大陸中央部……帝国の冒険者か」
「それよりも君達は、工事をするとか言ってたね」
「女王様直々の要請でな。この先の街道を整備しに来たんだ」
東部の州にある土木事務所の人達みたいで、州都から工事の依頼があってここまでやって来たそうだ。
「ボクも魔国からの依頼でこの道を作る手伝いをしに来たんだよ」
そう言って冒険者カードを見せる。魔国の賢者だって言うのも恥ずかしいし、一介の冒険者ということにしておこう。こういう時このカードは役に立つね。
「そうかい、そりゃ助かるな。冒険者になりたてのようだが、危険な工事もある。怪我せんように気を付けてくれよ」
そう言って一緒に山の奥へと入って行く。
「ここが一番の難所だな」
さっき見た道幅の狭い場所だ。左に岩の崖、右が谷になっていて馬一頭しか通る事ができない。
「どうやって工事するんだい」
「まあ、見てなって。そのために俺達が呼ばれたんだからな」
そう言って作業員が何やら計測器みたいな物を地面に置いて測量を始める。四人が協力しながら作業を進めていき、三脚台の上に大きな三角定規のような物を設置した。
腕一本分の長さがあるその斜め部分に腕を当てって、一番上の頂点にあるハンドルを握る。
すると水魔法だろうか、六十度くらいに傾いた水の刃が飛んで行き崖を切り崩す。
「うわ~、すごいね」
手前から広がりながら飛んで行ったから、崖の所では高さ十五メートル程が切り取られ、その上の岩がゴロゴロと谷へ落ちていく。
この三角定規のような物は魔道具で、細く絞った水の刃を正確に飛ばす装置だと説明してくれた。
次に直角部分を使って、腕二本を縦と横に置いて同じように水の刃を飛ばす。すると岩が弾け飛び水平部分が道になり、垂直部分が崖側の壁になる。これで馬車がすれ違える幅の道ができる。
昔、山の洞窟に住んでいた時に山道を作っていた。あの時は人が通れる幅で、指先から魔法を飛ばしたり手刀で岩を切り裂いていた。この道具があったらもっと楽に道ができていたんじゃないかな。
「これは面白いや。ボクにもやらせてよ」
「ああ、いいぞ。魔力を多く使っちまうから気を付けなよ」
早速、測量後に正確に置かれた台の斜め部分に、そっと腕を置き上部のレバーを握って魔力を込める。
その途端、甲高い鋭い音と共に水の刃が山の向こうまで飛んで行った。山崩れが起きたんじゃないかという勢いで、崖の上部から大量の岩が谷へと落ちて土煙が上がる。その光景にリビティナ自身も呆気にとられて立ち尽くす。
「うわ~、何をやらかしたんだ!」
近くにいた工事の責任者が大声を上げてこちらに走って来た。
通常は奥に二メートルも削れればいい方だけど、リビティナがすると崖のほとんどが切り裂かれている。
「バカ野郎! 道が反対側に曲がっていたら山ごと崩れちまうところだったじゃねえか! それにしてもなんちゅう、魔力量なんだよ」
すごく怒られてしまった。これは街道を作る工事。正確に進めていかないと必要な部分まで壊れて台無しになってしまう。
ごめんよ~。魔道具を使うのは初めてなんだよ~。
「まあ、それにしても予定以上に進んだな。よし、この区間の道を作る部分も、あんたがやってくれるか」
水平と垂直部分、そこに腕を沿えてレバーを握る。手加減したつもりだったけど、水の刃が崖を通り抜けて飛んでいった。でもなんとか道の形に切り裂くことはできたぞ。
「よし、この左カーブはほとんどできたな。前に進むぞ」
こうやって順々に前に進みながら街道を作っていくらしいね。
夕方になり今日の工事が終了して、工事用の馬車に乗って麓の町まで降りてきた。
「もらった地図だと、ここを北に行く道があるはずだけど分からないね」
二百年も使っていないと言うぐらいだから、森に飲み込まれているんだろう。そのまま山に向かうけど道らしき物は見つからない。
真北よりも一つ西の山の谷沿い。そこが入り口になっていて、ミシュロム共和国へと続いているらしい。
確かに谷沿いの低い位置を進むことができる。クネクネと曲がる谷を進んで行くと道らしきものが見えた。
「なるほど、ここが途切れているミシュロム側の道だね」
山の崖を切り崩した細い道。それに草木が生い茂っていて、日頃使っていない事が分かる。
「これだけ狭いと、馬車が通る事はできないか……」
交易路とするには、馬車が通れない事にはどうにもならない。もう少しミシュロム側に行ってみると幅が広く馬車の通った轍がある道に出た。山の幸を求める住民が日頃馬車でここまで来ているようだね。
女王が言っていた道はこれに間違いない。道に生い茂る樹木だけでも伐採しておこうと、左右の木々を切り払っていく。
お昼を過ぎた頃、後ろの方から大きな声で呼びかけられた。
「お~い、そこの人。これから工事をする。危ないから麓の町に帰ってくれないか~」
呼びかけたのは妖精族の人達。後方に大型の馬車を置き、荷物を担いだ十五人程がぞろぞろと道を登って来る。妖精族にしては筋肉質の男達だ。
魔王だなんて言う事はできないし、とりあえず仮面を付けてローブを目深に被っておこう。
「おや、妖精族の住民じゃないな。冒険者の人か?」
「ああ。ちょっと依頼でね」
「その仮面は宗教的な物だな。すると大陸中央部……帝国の冒険者か」
「それよりも君達は、工事をするとか言ってたね」
「女王様直々の要請でな。この先の街道を整備しに来たんだ」
東部の州にある土木事務所の人達みたいで、州都から工事の依頼があってここまでやって来たそうだ。
「ボクも魔国からの依頼でこの道を作る手伝いをしに来たんだよ」
そう言って冒険者カードを見せる。魔国の賢者だって言うのも恥ずかしいし、一介の冒険者ということにしておこう。こういう時このカードは役に立つね。
「そうかい、そりゃ助かるな。冒険者になりたてのようだが、危険な工事もある。怪我せんように気を付けてくれよ」
そう言って一緒に山の奥へと入って行く。
「ここが一番の難所だな」
さっき見た道幅の狭い場所だ。左に岩の崖、右が谷になっていて馬一頭しか通る事ができない。
「どうやって工事するんだい」
「まあ、見てなって。そのために俺達が呼ばれたんだからな」
そう言って作業員が何やら計測器みたいな物を地面に置いて測量を始める。四人が協力しながら作業を進めていき、三脚台の上に大きな三角定規のような物を設置した。
腕一本分の長さがあるその斜め部分に腕を当てって、一番上の頂点にあるハンドルを握る。
すると水魔法だろうか、六十度くらいに傾いた水の刃が飛んで行き崖を切り崩す。
「うわ~、すごいね」
手前から広がりながら飛んで行ったから、崖の所では高さ十五メートル程が切り取られ、その上の岩がゴロゴロと谷へ落ちていく。
この三角定規のような物は魔道具で、細く絞った水の刃を正確に飛ばす装置だと説明してくれた。
次に直角部分を使って、腕二本を縦と横に置いて同じように水の刃を飛ばす。すると岩が弾け飛び水平部分が道になり、垂直部分が崖側の壁になる。これで馬車がすれ違える幅の道ができる。
昔、山の洞窟に住んでいた時に山道を作っていた。あの時は人が通れる幅で、指先から魔法を飛ばしたり手刀で岩を切り裂いていた。この道具があったらもっと楽に道ができていたんじゃないかな。
「これは面白いや。ボクにもやらせてよ」
「ああ、いいぞ。魔力を多く使っちまうから気を付けなよ」
早速、測量後に正確に置かれた台の斜め部分に、そっと腕を置き上部のレバーを握って魔力を込める。
その途端、甲高い鋭い音と共に水の刃が山の向こうまで飛んで行った。山崩れが起きたんじゃないかという勢いで、崖の上部から大量の岩が谷へと落ちて土煙が上がる。その光景にリビティナ自身も呆気にとられて立ち尽くす。
「うわ~、何をやらかしたんだ!」
近くにいた工事の責任者が大声を上げてこちらに走って来た。
通常は奥に二メートルも削れればいい方だけど、リビティナがすると崖のほとんどが切り裂かれている。
「バカ野郎! 道が反対側に曲がっていたら山ごと崩れちまうところだったじゃねえか! それにしてもなんちゅう、魔力量なんだよ」
すごく怒られてしまった。これは街道を作る工事。正確に進めていかないと必要な部分まで壊れて台無しになってしまう。
ごめんよ~。魔道具を使うのは初めてなんだよ~。
「まあ、それにしても予定以上に進んだな。よし、この区間の道を作る部分も、あんたがやってくれるか」
水平と垂直部分、そこに腕を沿えてレバーを握る。手加減したつもりだったけど、水の刃が崖を通り抜けて飛んでいった。でもなんとか道の形に切り裂くことはできたぞ。
「よし、この左カーブはほとんどできたな。前に進むぞ」
こうやって順々に前に進みながら街道を作っていくらしいね。
夕方になり今日の工事が終了して、工事用の馬車に乗って麓の町まで降りてきた。
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