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第6章 魔族の国

第48話 外交 ミシュロム共和国6

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 調印式の翌日は、折角来たのだからと州都の観光スポットを聞いて、馬車で見て回る。きれいな街並みに伝統的な建物。治安もいいのか、街中で武器を持った人も見かけない。

「あたしもアルスヘルムは初めてだけど、大きな都市だし魔獣の被害もないんでしょうね」

 村とは違って危険の少ないこの町が羨ましいとエルフィは言う。
 商店が建ち並んだ一角に、果物を挟んだクレープのような物が売られていた。三人分買って来てもらって馬車の中で食べる。

「これは甘くて美味しいですわね。果実も新鮮ですし」
「この白くてフワフワなのがいいわ。なんていうものかしら」
「ホイップクリームだね」
「ねえ、リビティナ。里でも作れないかな」
「そうだね。もっと砂糖の生産量が多くなればできるんだけど」
「そうですわね。砂糖は貴重ですからね」
「ネイトスは食べないのかい」
「そういう甘いのは……俺はこっちのワインの方がいいですね。お土産で何本か買っていきやしょう」

 里のみんなにも何かお土産を買っていこう。ここは王国に無い珍しい物が揃っているからね。

「この国は文明が進んでいる感じだね。ボクの魔国もこんな風に発展すればいいんだけど」

 魔国は元ノルキア帝国の住民がほとんどだ。そのため王国よりも遅れている国となっている。少しでも良くして、ここみたいな美しい町にしたいものだね。


 四日間滞在した州都のアルスヘルムでの行事も全て終了して、魔国への帰路に就く。

「ここから眷属の里まで、飛べば丸一日掛からずに着けるね」
「まあ、そんなに近いのですね」
「だからさ、エリーシアと一緒に先に帰るよ」

 今まで馬車の旅で疲れているだろうし、里には息子のミノエル君が待っているからね。

「そうですな。今回の外交、一番苦労したのはエリーシアだし。早く里に帰って休んでくれ」
「はい、ありがとうございます」
「あたしは故郷に帰って大使になったことを知らせてくるわ」
「そうだね、大使として魔国に駐在するなら、当分は故郷にも帰れなくなるだろうし。のんびりしてくるといいよ」

 ここに来る途中で故郷には立ち寄っているけど、両親に顔を見せる程度みたいだったからね。大使になったと知ったらご両親や村の人も喜んでくれるさ。
 馬車には魔国の責任者としてネイトスが残ってくれればいいよ。

「ネイトス。帰り道、この町で待機していてほしんだ」
「へい。ここに何かあるんですかい」
「昨日、ヴェルデ女王から連絡があってね。魔国まで通じる街道の整備を早速してくれるそうなんだよ」

 その工事が早く済めば、帰りはその道を通って直接魔国に帰ってこれるかもしれない。その街道に一番近い町がそこなんだと説明した。

「あたしも故郷に帰った後、その町に行くようにするわ。そこからなら飛んで魔国に入れるんでしょう」

 妖精族は高い山脈を飛び越せないから、帰りはその新しい道を通りたいと言ってきた。馬車が到着する頃に合流する事にして、エリーシアを手に抱いて連れて帰る。

「少し高い位置を飛ぶから、暖かい格好をしておいてくれよ」
「はい、リビティナ様」

 ミシュロム共和国との国境は万年雪が積もるような、高い山脈が連なる。一人なら凍りつくような山頂を越えても大丈夫だけど、エリーシアがいるからできるだけ低い所を通りたい。

 女王からもらった地図には、街道を作る予定の場所が記されている。一番近いのは、眷属の里の裏手にある森へと抜ける道。王国ルートとなる道だ。山脈手前の町でお昼休憩した後に、その道の上を飛んでみる。

「なるほど、山と山の間の谷沿いを通っていくんだね」
「クネクネと曲がっていますが、馬車が通れそうな幅はありそうですわね」

 上下する峠道だけど標高も高くなくて、木々を伐採したり岩を削って平にすれば交易路として使えそうだ。

「あら、もう里の裏の森へ抜けたんですね」

 その峠道を抜けると、見知った森と川の風景が広がる。ミシュロムの都会的な風景と違って、緑に覆われた大地。その風景にエリーシアは懐かしむようなホッとした表情を見せる。

 この川を下って行けば、里の浄水場のある場所まで行ける。州都アルスヘルムから里までは、割と早く着いて夕暮れまでにはまだ時間がある。
 まずはミノエル君を預かってくれているセリアーヌ夫人の家に行こう。

「ミノエル。元気にしていましたか」
「母様!!」

 やはり寂しかったんだろうね。エリーシアの顔を見た途端、走り寄って抱きついてきた。キノノサト国で別れて約一ヶ月間、ずっと我慢してきたからね。

「セリアーヌ夫人、今までありがとうございました」
「いえ、いえ。ラブロとも仲良くしてくれて、こちらも助かりました」
「じゃあ、ラブロ君。また明日ね」
「うん、また明日」

 歳の近いこの二人は兄弟のように仲がいいね。ミノエル君はエリーシアに手を引かれて自分の家に帰っていった。

 さて、周辺国との条約締結はできた。今後は国が安定するための方策を打ち出していくことになる。実際の国の運営は首都にいるブクイット達に任せる事になるけど、指針としてはリビティナが出さないといけない。

 今の魔国は小さく貧しいけど、安定した国になればいい。まずは食料や収入を確保して、住民達が安定した生活を送れる事が大事だね。
 村を集約して農地を改良したり、水路を引いたりする。これは既にやってもらっている。帝国領だった頃は、生産性が悪かったみたいだからね。王国並に生産できるようにしたい。

 将来的には、交易で住民の生活を豊かにする。今回ミシュロム共和国から交易の話が出たのは上出来だった。短期に収入が得られる可能性もあるし、この繋がりは大事にしたい。国内の主要な交通網を整備すれば対応できるだろう。

 別に世界征服したいわけじゃないから、そこそこ収入が得られればそれでいいよ。その方が自分自身も苦労する事なく、この眷属の里で引き籠っていられるしね。
 明日からは、ミシュロム共和国が造ると言う交易路を見に行く。手伝えるようなら力を貸して早く完成させたいね。
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