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第6章 魔族の国
第45話 外交 ミシュロム共和国3
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えっ~! あのエルフィを大使にだって~。
大使と言えば、外交官の中でもトップの地位じゃないか。それを聞いてエリーシアが慌ててエルフィを呼びに行った。
「魔国とは友好条約を結ぶんですもの、大使を置いてもよろしいでしょう?」
「こちらは貴国に大使を置く予定はないんだがな」
「そちらが大使を任命された時で結構ですわよ。こちらには大使館もありますし、いつ来ていただいてもよろしいですわ」
積極的に友好を促進させようとしているみたいだね。それは嬉しい事だけど。
途中で合流したのか、地図を持ったネイトスと一緒に、エリーシアがエルフィを連れて部屋に戻って来た。
「あ、あの、女王様。あたし大使とか良く分からなくて来ているんですけど」
「あなたがエルフィね。じゃあ、そこに立っていてくれるかしら」
エルフィをテーブルの横に立たせ、女王が立ち上がり向かい合わせになる。女王の侍女が鞄から羊皮紙の書類を取り出し女王に手渡した。
「エルフィ。あなたを女王の名のもとに魔国の大使に任命します。今後も魔国との友好のために尽力して下さい」
「は、はい。ありがたくお受けします!」
エルフィが 柄にもなく緊張してその書類を受け取る。
「それでね、これが外交資格を書いた信任状なの。これを魔王殿に渡してくれるかしら」
言われた通りエルフィが書類を持ってリビティナの前で手渡す。これも羊皮紙で女王の印が押された正式な物。このような場所で大使の任命と信任状の捧呈を同時に行なうとは。
「これであなたは正式に魔国に駐在するミシュロム共和国の大使になったわ。これからも頑張ってね」
この女王は格式には拘わらない性格のようだね。商業の盛んな国のトップであれば、無益な威厳より実質が大事と言う事なんだろう。
エルフィを女王の隣に座らせて、話を進める。
「これが魔王殿がお持ちの世界地図だと……」
眷属の里にある地図の内、大陸の地図とミシュロム共和国内の詳細な地図のみを、複製して綴じて一冊の本にしてある。それを手に取り、地図をめくりながら中を確かめていく。
「確かに詳細な地図ですが、私どもが知る世界地図とは違うようですね」
「女王殿はこの世界が球体である事を知っていようか」
そのリビティナの発言に女王が息を呑み、エルフィは首をかしげる。
「この世界がボールみたいに丸いって事? そんなはずないじゃない、下の方の人は落っこちちゃうわよ」
まあ、この世界に住む人はみんなそう思っているだろう。この異世界に月は無い。空に浮かぶ満ち欠けをする天体を知らず、この大地も球体だという発想は出てこないだろうね。
「それは共和国内でもアカデミーの一部の者しか知り得ぬ事。魔王殿はどこでお知りになったのか」
この大陸で一番の知識を持つという妖精族。そのプライドもあってか真剣な面持ちでリビティナに対峙し、睨むような眼差しを向けてくる。
「我は空の上からこの惑星を見ている。その時、地図にある大陸も目にしていてな」
女王の鋭い視線は一時の事で、心情は隠し表情を変え微笑み返す。
「やはり魔国との友好条約を結ぶことを決めたのは、正解のようですわね。今後とも良しなに」
ミシュロム共和国内で友好条約を結ぶかどうか、相当の議論があったようだね。事前協議でも、一時期揉めたと聞いている。
魔族と言えば大陸中で恐れられている存在。当然どことも国交がなく未知の種族。この国は鬼人族と友好関係にあるから、戦争で示した魔国の武力の事も知っていて警戒もするはず。
恐れられて当然だね。それをこの女王が押し切ったのかな。
「こちらも地図を見せていただきましたので、そちらへの贈答品も見ていただきましょう」
そう言うと、傍にいた侍女が箱から何かを取り出した。
「オリハルコンで作りました手鏡ですのよ」
「オ、オリハルコンとは、あの魔法金属の事か!」
ネイトスが大きな声を出して聞き返した。オリハルコンはミスリルよりも貴重な金属。早々見る事ができる品ではない。
女王が持っているのは手に持つ、直径十センチ程の丸い手鏡。オリハルコンともなるとこれ一つでダマスカス鋼の盾に匹敵するか。目録には手鏡としか書いていなかったから、驚く顔が見たかったんだろうね。
「キレイな鏡ですわね」
「どうぞ手に取って見てくださいな。古来よりの技法で作った物で不思議な鏡なんですのよ」
そう言ってエリーシアに手鏡を渡す。真円のような丸い鏡に、持ち手と背面は鮮やかな色と彫刻で飾られ、その技術と芸術性の高さを示す。
「鏡を遠ざけて見ると、顔が逆さまに映るのよ。不思議でしょう」
「まあ、本当ですわね」
「オリハルコンで作っているので、魔力を流すと光り輝きますわよ」
手鏡の柄の部分が魔道具になっていて、指の魔力が鏡に伝わるらしい。廊下にあったシャンデリアのスイッチと同じ物らしく、エルフィが手に持って魔力を送ると、確かに鏡の部分が光り輝く。
「女王殿。その鏡はもう一枚あるのではないか」
「よくご存じですわね、魔王殿。古来よりこの鏡はふたつで一組の物。合わせ鏡で頭の後ろや横を見る事ができます」
「これを二つもいただけると」
ネイトスの言葉に力が入る。
「この地図とダマスカス製の盾を贈ってもらえると聞いていますから、応分の品と言って良いと思いますわよ」
小さな鏡とはいえ、オリハルコン製。ネイトスが喜ぶのも無理はないかな。
大使と言えば、外交官の中でもトップの地位じゃないか。それを聞いてエリーシアが慌ててエルフィを呼びに行った。
「魔国とは友好条約を結ぶんですもの、大使を置いてもよろしいでしょう?」
「こちらは貴国に大使を置く予定はないんだがな」
「そちらが大使を任命された時で結構ですわよ。こちらには大使館もありますし、いつ来ていただいてもよろしいですわ」
積極的に友好を促進させようとしているみたいだね。それは嬉しい事だけど。
途中で合流したのか、地図を持ったネイトスと一緒に、エリーシアがエルフィを連れて部屋に戻って来た。
「あ、あの、女王様。あたし大使とか良く分からなくて来ているんですけど」
「あなたがエルフィね。じゃあ、そこに立っていてくれるかしら」
エルフィをテーブルの横に立たせ、女王が立ち上がり向かい合わせになる。女王の侍女が鞄から羊皮紙の書類を取り出し女王に手渡した。
「エルフィ。あなたを女王の名のもとに魔国の大使に任命します。今後も魔国との友好のために尽力して下さい」
「は、はい。ありがたくお受けします!」
エルフィが 柄にもなく緊張してその書類を受け取る。
「それでね、これが外交資格を書いた信任状なの。これを魔王殿に渡してくれるかしら」
言われた通りエルフィが書類を持ってリビティナの前で手渡す。これも羊皮紙で女王の印が押された正式な物。このような場所で大使の任命と信任状の捧呈を同時に行なうとは。
「これであなたは正式に魔国に駐在するミシュロム共和国の大使になったわ。これからも頑張ってね」
この女王は格式には拘わらない性格のようだね。商業の盛んな国のトップであれば、無益な威厳より実質が大事と言う事なんだろう。
エルフィを女王の隣に座らせて、話を進める。
「これが魔王殿がお持ちの世界地図だと……」
眷属の里にある地図の内、大陸の地図とミシュロム共和国内の詳細な地図のみを、複製して綴じて一冊の本にしてある。それを手に取り、地図をめくりながら中を確かめていく。
「確かに詳細な地図ですが、私どもが知る世界地図とは違うようですね」
「女王殿はこの世界が球体である事を知っていようか」
そのリビティナの発言に女王が息を呑み、エルフィは首をかしげる。
「この世界がボールみたいに丸いって事? そんなはずないじゃない、下の方の人は落っこちちゃうわよ」
まあ、この世界に住む人はみんなそう思っているだろう。この異世界に月は無い。空に浮かぶ満ち欠けをする天体を知らず、この大地も球体だという発想は出てこないだろうね。
「それは共和国内でもアカデミーの一部の者しか知り得ぬ事。魔王殿はどこでお知りになったのか」
この大陸で一番の知識を持つという妖精族。そのプライドもあってか真剣な面持ちでリビティナに対峙し、睨むような眼差しを向けてくる。
「我は空の上からこの惑星を見ている。その時、地図にある大陸も目にしていてな」
女王の鋭い視線は一時の事で、心情は隠し表情を変え微笑み返す。
「やはり魔国との友好条約を結ぶことを決めたのは、正解のようですわね。今後とも良しなに」
ミシュロム共和国内で友好条約を結ぶかどうか、相当の議論があったようだね。事前協議でも、一時期揉めたと聞いている。
魔族と言えば大陸中で恐れられている存在。当然どことも国交がなく未知の種族。この国は鬼人族と友好関係にあるから、戦争で示した魔国の武力の事も知っていて警戒もするはず。
恐れられて当然だね。それをこの女王が押し切ったのかな。
「こちらも地図を見せていただきましたので、そちらへの贈答品も見ていただきましょう」
そう言うと、傍にいた侍女が箱から何かを取り出した。
「オリハルコンで作りました手鏡ですのよ」
「オ、オリハルコンとは、あの魔法金属の事か!」
ネイトスが大きな声を出して聞き返した。オリハルコンはミスリルよりも貴重な金属。早々見る事ができる品ではない。
女王が持っているのは手に持つ、直径十センチ程の丸い手鏡。オリハルコンともなるとこれ一つでダマスカス鋼の盾に匹敵するか。目録には手鏡としか書いていなかったから、驚く顔が見たかったんだろうね。
「キレイな鏡ですわね」
「どうぞ手に取って見てくださいな。古来よりの技法で作った物で不思議な鏡なんですのよ」
そう言ってエリーシアに手鏡を渡す。真円のような丸い鏡に、持ち手と背面は鮮やかな色と彫刻で飾られ、その技術と芸術性の高さを示す。
「鏡を遠ざけて見ると、顔が逆さまに映るのよ。不思議でしょう」
「まあ、本当ですわね」
「オリハルコンで作っているので、魔力を流すと光り輝きますわよ」
手鏡の柄の部分が魔道具になっていて、指の魔力が鏡に伝わるらしい。廊下にあったシャンデリアのスイッチと同じ物らしく、エルフィが手に持って魔力を送ると、確かに鏡の部分が光り輝く。
「女王殿。その鏡はもう一枚あるのではないか」
「よくご存じですわね、魔王殿。古来よりこの鏡はふたつで一組の物。合わせ鏡で頭の後ろや横を見る事ができます」
「これを二つもいただけると」
ネイトスの言葉に力が入る。
「この地図とダマスカス製の盾を贈ってもらえると聞いていますから、応分の品と言って良いと思いますわよ」
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