転生ヴァンパイア様の引きこもりスローライフ。お暇なら国造りしませんか

水瀬 とろん

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第6章 魔族の国

第44話 外交 ミシュロム共和国2

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「魔王様。長旅お疲れ様でした。本日はここでお休みください」

 そう言う案内役の先導で迎賓館の中に入る。日頃は執事をしているのだろう。礼儀正しい客への対応と、部下の者達にテキパキと指示を出す働きぶり。馬車内の荷物も全てそのメイドたちによって宿泊場所まで運んでくれる。

 友好条約の調印式は、明日の午後からこの迎賓館で行われる。贈答品や資料などの重い荷物も迎賓館内の一室に運び入れてくれた。

「至れり尽くせりで楽ちんよね」

 手ぶらのまま廊下を歩くエルフィが満足げに話す。
 館内の内装も大理石で造られていて、大きな窓に高い天井。伝統を感じさせつつ床の絨毯は洗浄したてなのか、細かな柄が綺麗に浮かび上がっている。

「あの天井から吊るしてあるシャンデリア、どうやって火を灯しているんでしょうな」

 ネイトスの疑問を聞いた案内役が答えてくれた。

「魔道具を使って火魔法を天井まで誘導しておりまして、壁にある窪みに指を入れて点灯させております」

 消すときは風魔法を送れば消えるそうだ。

「照明を吊るしておりますパイプから燃料の油が補給されて、いつでも、いつまでも明かりが灯る照明となってございます」

 妖精族の国では魔道具を組み合わせた製品が普及していて、色々と便利な物があるらしい。こういった物は王国にも眷属の里にも無いから興味を引く。

「でも、里の電球の方が便利よね」

 エルフィがこそっと呟いた。まあ、それはそうなんだけど、これはこれで素晴らしい技術だよ。

 招かれた部屋は、一室に四人が泊まれるように設えてある。リビティナはエリーシアとエルフィとで一室に泊まる事にした。

「リビティナ様。ここにはお風呂がないそうですね」
「そうみたいだね。エリーシアはずっと馬車で旅しているから、疲れが溜まっているんじゃないかい」
「ここで最後ですので、大丈夫ですわよ」

 そうは言いつつ、里での暮らしが恋しそうだね。ミノエル君が里で元気に過ごしていると様子を伝えると、懐かしむように微笑んだ。

 ここまで馬車で野営したり、小さな町で泊まったりと苦労をかけたようだ。途中の大きな町でもお風呂の施設は無かったみたいだね。

「大体、妖精族はお風呂ってものに入らないからね。この国を出るまで水浴びしかできないわよ」

 エルフィが言うには、お風呂の存在は知っていても、外国の貴族がする変わった道楽と考えているそうだ。

「女王様や貴族が、水辺で使用人に体を洗ってもらっている絵があってね。みんなそんな生活に憧れるのが普通なのよ」

 商業が発展しているこの国では、貴族の生活や外国の事なども本で知ることができるそうだ。自国の文化や知識が一番だと考える妖精族は、他国の貴族がしているからと言って、それを真似たりすることもないらしい。

「リ、リビティナ様! ちょっと来てください!」
「うわっ! どうしたんだい」

 ネイトスが勢いよく扉を叩く。返事をすると、慌てた様子で部屋に飛び込んできた。

「女王が! 女王がここに来てるんですよ!」

 友好条約の調印式は明日、なぜ女王自らが訪ねてくる。条約に不備があって直談判に来たか、予定を変更しようとしているのか?
 女王は女性の護衛を二人だけ連れて、この迎賓館の一室に来ていると言う。

「まずは話を聞かない事にはね。エリーシアも来てくれるかい」

 女王が居るという部屋をノックすると、柔らかい女性の声が返ってきた。
 豪華な応接室、その中央に大理石のテーブルがあって、少し大柄の妖精族が左側のソファーに座る。これがヴェルデ・ソシアーノ女王か。歳は百十歳を超えリビティナよりも長く生きているけど、見た目は三十歳ぐらいにしか見えない。

「使者も送らず、いきなり来るとは無作法ではないのか。ヴェルデ女王」
「ごめんなさいね。魔王殿が来られたと聞いて居ても立ってもいられずにね。まあ、そちらに掛けてくださいな」

 テーブルを挟んで右側のソファーを勧められた。護衛で来ていると言う女性が、お茶の用意をしてくれる。護衛ではなく侍女のようだね。いや、この隙のない動きは戦闘もこなせるかな。

「明日の調印式の後、魔王殿は祝賀会に出席しないと聞いて、今のうちにお話を聞いておこうと思って来ましたのよ」
「友好条約の調印は?」
「事前協議のままで調印しますわよ。明日はお互い椅子に座っているだけですわね」

 なんだ、条約は既に了承されているんだね。それなら一安心だよ。

「それよりも、亡くなられた私の曾祖父ひいおじい様が、あなたと直接会われたと聞いておりました。曾祖父様のお話を伺うつもりで来たのですけど、あなたは別人のようですわね」

 伝説として残っている魔王。三百年以上前から歴史に登場するけど、妖精族の国に来ていたとは知らなかった。

「その方は好青年で二人の奥様とこの地に来られたと聞いています」

 だからリビティナは別人だと、顔を見た瞬間に分かったと言う。

「まあ、その話が聞けないのは残念ですけど、何やら世界大陸の地図をお持ちだとか」
「明日、贈る予定の贈答品の事だな」
「できれば先に見せていただけないでしょうか」

 妖精族はこの世界全ての知識を欲しているからね、この女王もそうなんだろう。ネイトスに言って地図を取りに行ってもらう。
 あの地図にこれ程興味を示すとは。エルフィが言った通り、贈答品に加えておいて正解だったようだね。

「そう言えば、エルフィという娘が同行していると聞いていましたが……その方は?」
「魔国の関係者ではないのでね。この場には呼んでいない」
「ああ、そういえばまだ辞令を渡していませんでしたわね。エルフィを魔国の大使として任命しましたのよ」

 えっ~! あのエルフィを大使にだって~。
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