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第6章 魔族の国

第41話 メルーラ2

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 場所を知られないようにと目隠しされて飛んで行った先は、森に囲まれた場所。ここが眷属の里か。

 フロード様と一緒にここへ来る途中、崖から落とされたような感覚に何度も悲鳴を上げてしまった。空を飛ぶ事には慣れていたつもりだったけど、魔王の飛ぶ速度は尋常ではなかった。

 やっと地面に降り立たった里は、人家が少ない割に広大な土地。物見やぐらや変な塔まで立っている変わった所、というのが第一印象だった。

「こっちでフロードの治療をしようか」

 魔王とは思えない、澄んだ高い声で自分達を呼ぶ。フロード様に肩を貸して一軒の家に入ると初老の人物がいた。この里に一人だけの医者でエマルク医師だと紹介された。

「それじゃ、後はよろしく頼むよ」

 そう言って魔王はこの家から出て行った。
 医者だと言われた人物、これが魔族か。鬼人族と姿は似ているけど、角は無く真っ白な肌。学者であるフロード様と見比べてもひ弱な感じの人物だ。聞いていた魔族とは全然違う。

「こりゃ、上手く切断しておるな」

 ベッドに座ったフロード様の切断された足を診断して感心している。

「上手くだと! あの女がいきなりフロード様の右足を切り落としたんだぞ」

 あの時の場面がフラッシュバックして、また血の気が失せ膝から崩れ落ちそうになる。

「お前さん、魔獣に襲われた後、傷口の治療をちゃんとしたのか」
「膝の上部分を布で硬く縛り、包帯を巻いて止血した」
「それじゃダメじゃな。傷口が半分腐った状態になっておったのじゃろう。破傷風じゃよ。そのままにしていたらこの男は死んでおったよ」

 確かに応急処置だけで、傷口から嫌な臭いがしていた。あの女は一瞬で見極め、その部分を切断したというのか。

「だが、あの女はその傷口に噛みついて……」
「リビティナ様の血を分け与えたんじゃんな。ほれ見てみるがいい。もう傷口が塞がっておるじゃろう」

 血を与えただと! あの女はヴァンパイア。その血を与えれば眷属の化け物になってしまう。
 でもそれも否定された。

「眷属になればワシらと同じような人間の体になる。このフロードは鬼人族のままじゃろう」

 あの魔王が魔獣に襲われた自分達を治療して、命を助けてくれたの。確かに今のフロード様の傷口は、普通の治療ではありえないほど綺麗だ。これも魔王の力だというの。

「簡単な義足と松葉杖を渡しておこう。お前さんがこの男の面倒を見るんじゃろう。装着の仕方を見ておいてくれるか」

 そうだ、自分がフロード様の手助けをしないと。片足のままじゃ歩く事さえおぼつかない。その医師に義足の付け方や介助の方法を教えてもらった。

「これは化膿止めと、痛み止めじゃ。ちゃんと朝晩飲ませてくれるか」

 フロード様用の薬。妖精族以外の国では呪いや祈祷による治療をするというが、薬や松葉杖も用意されているのだから、ここはちゃんとした病院なんだろう。
 こんな小さな里に病院があるとは驚きだ。

「エマルク。眷属化はすぐにできそうか」
「そうじゃな、今日一日様子を見て、明日にした方がいいじゃろうな」

 中年の男が入って来て、何やら医者と話をしている。

「それなら先に家に連れて行ったほうがいいな」

 そう言って自分達を荷馬車に乗せて空き家に連れて行き、ここに住むようにと言ってきた。

「片足で不便だろうが、ひとまずここで暮らしてくれ。今日の食事は隣の家に頼んであるから、時間になれば持ってきてくれる」

 その男は明日また医者の所に行って、その後に眷属にすると言って帰って行った。

「フロード様。本当に魔王の眷属になるおつもりですか」
「ああ、それが僕にとって一番いい事だからね」
「それなら、自分も眷属になります。そしてあなたと一緒に……」
「メルーラ。無理することはないよ。少しの間は手伝ってもらうけど、その後は国に帰るのが君のためだ」

 帰るといっても妖精族の国に自分の家はもうない。キノノサト国に帰ってマルボルト家お抱えの冒険者を続ける事になる。

「フロード様はマルボルト家を捨てるのでしょう。それなら自分も……」
「君も片方の羽を失ってしまったね。僕がいなくても、その補償はちゃんと家の方でやってくれるよ。今後も冒険者を続けられるさ」

 自分はそんな事を聞きたかったわけじゃないのに。


 次の日、医者の元に訪れた後、眷属になる儀式をするという。その時、魔王に申し出た。

「自分も眷属にしてください」
「君は本当に眷属になりたいのかい……。まあ、いいだろう、フロードと一緒にボクの血を分け与えるよ」

 そう言って椅子に座ったフロード様の首筋に噛みつき血を吸う。やはりおぞましい姿に見える。その後、同じように自分の首筋にも牙を立てて血を吸われた。

 フロード様と二人並んでベッドに横になる。しばらくするとフロード様が苦しみだした。

「フロード様、フロード様。大丈夫ですか!」

 ベッドから飛び起きてフロード様の元へ行く。暴れるように苦しむフロード様を眷属の人と押さえつける。何がどうなっているかも分からず、苦しむフロード様を見守るしかなかった。そして辺りが暗くなってきた頃、フロード様の角と浅黒い皮膚が剥がれ落ちる。

「もう大丈夫だ。フロードの眷属化は成功したよ」

 そこには真っ白な体でベッドから起き上がるフロード様の姿があった。何だか神々しい姿に見えた。

「やっぱり君はダメだったね。本気で眷属になりたいと願う者にしか、この眷属化は起きないんだよ」

 魔王にそう言われて自分の腕を見る。妖精族のクリーム色の肌がそこにあった。
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