転生ヴァンパイア様の引きこもりスローライフ。お暇なら国造りしませんか

水瀬 とろん

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第6章 魔族の国

第39話 魔王城跡

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 翌日からも、同じように町の周りに土塁を作っていく。兵士達も慣れてきたのか作るスピードも速くなってきた。

 予定よりも早く、四日目の夕方には町や畑を守る土塁が完成した。

「みんなよく頑張ってくれたね」

 手伝ってくれた兵士達をリビティナが労う。

「賢者様のお力のお陰です。これでこの町も発展する事ができます」

 三つの村を統合する当初から関わってきた兵士もいるようで、努力が報われたと感激のあまり泣いている者もいる。

「賢者様も兵隊さんも、こっちへ来てくだされ。宴席を用意しております」

 この町の町長がみんなを呼びに来た。土塁を作っている間に酒や料理を用意してくれたようだ。

「さあ、このアカネイの町を守る壁の完成を祝おう」

 こういう席での乾杯の音頭を取るのは苦手だからね。ここの隊長さんに仕切ってもらう事にしたよ。
 それでも立派な壁を作ってくれたと、町民達がリビティナの周りに集まってくる。

「わしらは建国の式典に参加できなんだが、この国は貴族もなく平等だと王様が言われたそうじゃな」
「その意味が良く分からなかったけど、賢者様がこんな田舎町に来てくれて、汗水かいて働いてくれた」
「これ程の恩義を感じたことはねえ。本当にありがとうございました」

 感謝の言葉を次々にもらったよ。

「でもね、まだ町の土台を作っただけなんだ。これからの事は君達住民に掛かっているんだよ。いい町にしてくれると嬉しいよ」

 このアカネイには故郷の村を捨ててきた人が大勢いる。その人達と協力して発展させてくれる事を願っているよ。

「賢者様。この町は魔王様ゆかりの地に近い場所。それでここまで来てくれたのですか」
「魔王ゆかりの地?」
「この北側に小さな丘があり、その先には殲滅の平原があります。その奥の森を抜けると魔王城跡に行くことができます」

 魔王城跡。そういえばブクイットも、そんな場所があると言っていたね。

「ここから近いのかい」
「丘の上に立てば、魔王城跡が見える距離です。馬で行くこともできますが……」
「賢者様。最近はそこに幽霊が出没しております。今はいかれない方が良いと思います」

 住民が口々に幽霊の噂話をする。どうも夜になると人がいないはずの魔王城跡に火の玉が浮かんでいるらしい。
 隊長さんにも聞いてみた。

「魔獣もうろついているようですが、あの地は多数の戦死者が出た場所ですので」

 それで誰も近づこうとしないみたいだね。それじゃなおさら調査した方がいいんじゃないかな。盗賊のアジトになっているかもしれないしね。

 宴会場を抜けて外に出て、北の畑がある方向を見てみる。夜になると星しかない真っ暗な空、草原の向こうがぼんやりと光っている。

「あれですよ。時々北側に光が見えます」

 隣りにこの部隊の隊長さんが来てくれた。夜中の警戒の時、ボヤッと光る光景を目にする兵士も多いそうだ。

 みんな怖がっているし、明日にでも行ってみようかな。
 ともあれ今晩は、町に防壁ができた記念日だからね。飲んで、食べて大いに騒いでくれたらいいよ。

 翌朝、隊長さんには次の仕事があるからと朝早くに町を出た。森に入ってから空に飛び立ち、昨日言っていた魔王城の方向に向かう。町の北にある丘の向こうは広い平原。これが噂に聞く殲滅の平原だね。確かに何万もの兵が戦える広さがある。
 その先の森を越えると遠くに瓦礫の山のような場所が見える。

「ここが魔王城跡か。確かにお城一つ分の岩が積み上がっている……でもこれは血の匂いだね」

 大昔に亡くなった死者の血の匂いがするはずはない。瓦礫の裏側に行ってみると冒険者らしい遺体が三つ転がっている。あれは魔獣と戦った跡だね。無残に食いちぎられている。

 その近くに降り立ち歩いていると、後ろから殺気をはらんだ声が飛んできた。

「貴様、何者だ!!」
「そう言うあんたこそ何者なんだい。ここは普通の人が近寄らない場所のはずだけど」

 ゆっくり振り向くと、そこには妖精族の女性冒険者。手に短剣を構えて警戒の眼差しを向けてくる。よく見ると背中にある片側の二枚の羽が無くなっている。
 この冒険者も魔獣と戦かったんだろう。短パンにすね当てや肩当ての軽鎧姿。それらが傷ついたり片方が無くなったりしている。

 その冒険者の斜め後ろから、男性のうめき声が聞こえた。その声に動揺する冒険者。

「君のお仲間かな。君もだけど怪我をしてるんじゃないのかい。ボクは治療ができる。少し話を聞かせてくれないか」

 そう言って手に光魔法を灯す。手足も傷つき、妖精族では珍しい原色ではない紫色のショートヘアーは泥が付いたままなのか、薄汚れた感じだ。
 女冒険者は躊躇しながらも、短剣を鞘に収めて、こちらに来るようにと合図をする。

 そこにいたのは身なりのいい鬼人族の青年。貴族だろうか? だけど魔獣に襲われ右足の膝から下が無くなっている。

「この人を助けてくれたら、その分の報酬を渡そう」

 リビティナを冒険者だと思っているのか、金で解決する事を提案してきた。

「いつ襲われた」
「昨晩だ」

 足に巻いた包帯はどす黒くなっていて乾いた血がこびりついている。その包帯を取り除くとちぎれた肉が化膿していた。
 手刀で青年の膝上を断ち切る。

「ぐぅっわ~!!」
「貴様!!」

 青年の叫ぶ声。と同時に女冒険者が短剣を抜きリビティナに斬りかかる。その剣を指で挟み弾き飛ばした後、女冒険者の首を掴み地面へと叩きつける。

「ゴフォッ」

 こんな少女に地面に押し付けられて、肺の中の空気が全て外に押し出された。なんて力だ。頭を打ったのか意識が朦朧としてきた。自分はなんて化け物を呼び寄せてしまったんだと、後悔の念だけが頭をよぎる。
 目の前に居るのは人の形をした化け物。牙をむき出しにしてフロード様の足に食らいつく。「止めて」と叫ぼうにも息が全くできない。目の前が徐々に薄れて真っ暗になり絶望の淵へと自分の意識が落ちていくのを感じた。
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