転生ヴァンパイア様の引きこもりスローライフ。お暇なら国造りしませんか

水瀬 とろん

文字の大きさ
上 下
87 / 212
第6章 魔族の国

第31話 外交 王国3

しおりを挟む
「魔王殿。今回、いただいた品々は素晴らしい物でしたな。双胴の遠見鏡、先ほど見せてもらいましたがあれは素晴らしい」

 公爵が見たと言っているのは、支柱に取り付けて見る大型の双眼鏡。里でも見張りに使っているのと同じ物だ。これは王様からの要望があって持ってきた。王城の警戒監視のためにどうしても欲しいと言われていた品だ。

「機械弓の事もそうだったが、こんな良い物があるなら早く言ってくれんかハウランド伯爵。双胴の遠見鏡、わしの城にも一台欲しいくらいだ」
「あれは門外不出の品だと言われて賢者様から授かった品でありますので……」

 里で試作として作った手に持つ大きさの双眼鏡を、随分前にハウランド伯爵に渡したことがある。そこから王様にまで伝わったんだろうね。

「あの遠見鏡は手間暇かけて作ったものだからね。これ以上外には出さないよ」
「そうであろうな。上下逆さまにもならずあの見え味、魔道具と同し高度な技術が必要であろうな」
「それにマダガスカル鋼の盾。あれを作られた職人も良い腕をしておる。曲面の盾の前面に素晴らしい文様が浮かび上がっておったからな」

 まあ、あれは高純度のマダガスカル鋼だからね。武器職人の技と相まって素晴らしい仕上がりになっているからね。

「あれほどの品、ミスリルの短剣程度では釣り合わなんだか……。すまぬな魔王殿」
「いや、いや、王様。あんな素晴らしい短剣をもらって、こちらこそ恐縮しているよ」

 貴重な天然のミスリルだものね。短剣とはいえ刃渡りが三十センチを超え、実戦でも使える品。釣り合わないのはこっちの方だよ。

「ところで魔王殿。そなたが建国の折、魔国には貴族制度が無いと言われたそうだな。貴族無しでどうやって国を運営していくのか教えてもらえんか」

 王様が聞きたいのは、民主主義の事かな。まだこの世界には無い制度だからね。

「世襲貴族がいなくても能力の高い者が、責任ある地位に就けばいいんだよ。元帝国貴族のブクイットにも家名は捨ててもらっているけど、地域を管理する長として働いてもらっている」
「統治能力は貴族の一族が高くて当然。次代はその息子が受け継ぐなら貴族制度と同じに思えますが」
「息子が受け継ぐとは限らないさ。今はボクが決めているけど、いずれは国民みんなで決める事になるんだよ」

 選挙によって役職を決める。この先、魔国ではそうなっていくだろうね。

「例えば王がいなくても、国のかじ取りができる者を国民全員で選んで、その者に従えば国は運営できるんだよ」
「貴族だけでなく、王も要らぬと……」

 王様と公爵がリビティナの言った言葉に驚き息を呑む。自らが築き上げてきた王族や公爵の地位。その国家の根幹が不要だと言われれば、驚くのも当然だね。

「そうだね。全ての国民一人ひとりが王だと思ってくれたらいいよ。その王が集まって決めた事に皆が従う。そんな国が理想だよ」

 そう聞いても、今の貴族の人が理解するのは難しいかな。

「まあ、最初はボクや眷属が指導していく形になるけどね」
「知識無き者を集めて物事を決めるなど、混乱の方が大きいように思いますな」

 公爵の人達が心配するのも無理はないだろうね。
 教育が行き届き、国民全員が読み書きできる程度にまで進めばそれも可能さ。

「自分の命が懸かった決定もあるからね。知識はなくとも、決定を下した責任は全ての者が負う事になる。無責任な意見を言う者は少ないよ」

 この国の王や貴族も自分の決定には責任を持つだろ。それを全員でするという事さ。

「国を守る兵士も、国民全員がなるんだ。子供と老人以外だから人口の半分くらいかな」

 最初は徴兵制で訓練をし、その後志願兵を募る形になる。でもいざとなれば国民全員で戦う事になる。

「魔国の人口は、現在六万人ほどと聞いておるが、三万の兵を有すると……」
「単純に言うとね。本当はその百分の一でも十分戦えるんだけどね」

 専門の職業軍人みたいなのは、その程度いればいい。でも自分の国を守る意識は全員に持ってもらわないと。自ら考え行動する国民になってもらいたいしね。

「それができるまで、王国には食料の支援を一年間と軍隊を三年間貸してもらいたいんだ」
「その程度で良いのか」
「それでお願いするよ。その後はボク達の力だけでやっていくからさ」

 ◇
 ◇

「魔国。どうも掴みどころのない国ですな。あれで安定した国になってくれるのか……」
「魔国には我らの盾になってもらわねばならん」
「潰れれば、切り捨てるまでの事」
「それでは我らの支援が無駄になる。身近で見てきたハウランド卿はどう考えるか」

「魔王様、いえ賢者様の言に従い私の領地は豊かになりました」
「魔国は伯爵領よりも少し広い程度。あの魔王であれば、今の魔国を統治する能力があるという事か」

「だが貴族が存在せぬ国が成り立つものなのか」

「賢者様の眷属が住む里、おそらくそこが貴族の存在しない場所であろうと思われます」
「里程度の小さき場所だからできる事ではないのか」
「百人に満たぬ里ではありますが、その技術力と軍事力は今回の事でお分かりかと」

「確かに此度の戦闘、いくら強いとはいえ魔王一人でできる事ではないな」
「今回の軍事介入も、反対する賢者様を眷属が説き伏せたと聞いております」
「なんと! 王の命に反して軍事行動に踏み切ったというのか」
「里の総意として決めた事に、王も眷属も全員が従ったという事です。あの里には高度な自治が存在します」

「魔国の国民全員が王となり、半数が兵士となる。三万の軍を持つ国。あながち嘘ではないと言う事か……」

「魔国に対する援助は今後も続けることにする。魔国とは友好的であった方が良かろう」
「そうですな。王の言われるようにいたしましょう」
「我らには、我らの意思決定機構がある。伝統に甘えず公爵共々研鑽せねばならんようじゃな。ここで見聞きしたことは他言無用じゃ。混乱が生まれるかもしれんからな」
「御意にご座います」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...