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第6章 魔族の国
第31話 外交 王国3
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「魔王殿。今回、いただいた品々は素晴らしい物でしたな。双胴の遠見鏡、先ほど見せてもらいましたがあれは素晴らしい」
公爵が見たと言っているのは、支柱に取り付けて見る大型の双眼鏡。里でも見張りに使っているのと同じ物だ。これは王様からの要望があって持ってきた。王城の警戒監視のためにどうしても欲しいと言われていた品だ。
「機械弓の事もそうだったが、こんな良い物があるなら早く言ってくれんかハウランド伯爵。双胴の遠見鏡、わしの城にも一台欲しいくらいだ」
「あれは門外不出の品だと言われて賢者様から授かった品でありますので……」
里で試作として作った手に持つ大きさの双眼鏡を、随分前にハウランド伯爵に渡したことがある。そこから王様にまで伝わったんだろうね。
「あの遠見鏡は手間暇かけて作ったものだからね。これ以上外には出さないよ」
「そうであろうな。上下逆さまにもならずあの見え味、魔道具と同し高度な技術が必要であろうな」
「それにマダガスカル鋼の盾。あれを作られた職人も良い腕をしておる。曲面の盾の前面に素晴らしい文様が浮かび上がっておったからな」
まあ、あれは高純度のマダガスカル鋼だからね。武器職人の技と相まって素晴らしい仕上がりになっているからね。
「あれほどの品、ミスリルの短剣程度では釣り合わなんだか……。すまぬな魔王殿」
「いや、いや、王様。あんな素晴らしい短剣をもらって、こちらこそ恐縮しているよ」
貴重な天然のミスリルだものね。短剣とはいえ刃渡りが三十センチを超え、実戦でも使える品。釣り合わないのはこっちの方だよ。
「ところで魔王殿。そなたが建国の折、魔国には貴族制度が無いと言われたそうだな。貴族無しでどうやって国を運営していくのか教えてもらえんか」
王様が聞きたいのは、民主主義の事かな。まだこの世界には無い制度だからね。
「世襲貴族がいなくても能力の高い者が、責任ある地位に就けばいいんだよ。元帝国貴族のブクイットにも家名は捨ててもらっているけど、地域を管理する長として働いてもらっている」
「統治能力は貴族の一族が高くて当然。次代はその息子が受け継ぐなら貴族制度と同じに思えますが」
「息子が受け継ぐとは限らないさ。今はボクが決めているけど、いずれは国民みんなで決める事になるんだよ」
選挙によって役職を決める。この先、魔国ではそうなっていくだろうね。
「例えば王がいなくても、国のかじ取りができる者を国民全員で選んで、その者に従えば国は運営できるんだよ」
「貴族だけでなく、王も要らぬと……」
王様と公爵がリビティナの言った言葉に驚き息を呑む。自らが築き上げてきた王族や公爵の地位。その国家の根幹が不要だと言われれば、驚くのも当然だね。
「そうだね。全ての国民一人ひとりが王だと思ってくれたらいいよ。その王が集まって決めた事に皆が従う。そんな国が理想だよ」
そう聞いても、今の貴族の人が理解するのは難しいかな。
「まあ、最初はボクや眷属が指導していく形になるけどね」
「知識無き者を集めて物事を決めるなど、混乱の方が大きいように思いますな」
公爵の人達が心配するのも無理はないだろうね。
教育が行き届き、国民全員が読み書きできる程度にまで進めばそれも可能さ。
「自分の命が懸かった決定もあるからね。知識はなくとも、決定を下した責任は全ての者が負う事になる。無責任な意見を言う者は少ないよ」
この国の王や貴族も自分の決定には責任を持つだろ。それを全員でするという事さ。
「国を守る兵士も、国民全員がなるんだ。子供と老人以外だから人口の半分くらいかな」
最初は徴兵制で訓練をし、その後志願兵を募る形になる。でもいざとなれば国民全員で戦う事になる。
「魔国の人口は、現在六万人ほどと聞いておるが、三万の兵を有すると……」
「単純に言うとね。本当はその百分の一でも十分戦えるんだけどね」
専門の職業軍人みたいなのは、その程度いればいい。でも自分の国を守る意識は全員に持ってもらわないと。自ら考え行動する国民になってもらいたいしね。
「それができるまで、王国には食料の支援を一年間と軍隊を三年間貸してもらいたいんだ」
「その程度で良いのか」
「それでお願いするよ。その後はボク達の力だけでやっていくからさ」
◇
◇
「魔国。どうも掴みどころのない国ですな。あれで安定した国になってくれるのか……」
「魔国には我らの盾になってもらわねばならん」
「潰れれば、切り捨てるまでの事」
「それでは我らの支援が無駄になる。身近で見てきたハウランド卿はどう考えるか」
「魔王様、いえ賢者様の言に従い私の領地は豊かになりました」
「魔国は伯爵領よりも少し広い程度。あの魔王であれば、今の魔国を統治する能力があるという事か」
「だが貴族が存在せぬ国が成り立つものなのか」
「賢者様の眷属が住む里、おそらくそこが貴族の存在しない場所であろうと思われます」
「里程度の小さき場所だからできる事ではないのか」
「百人に満たぬ里ではありますが、その技術力と軍事力は今回の事でお分かりかと」
「確かに此度の戦闘、いくら強いとはいえ魔王一人でできる事ではないな」
「今回の軍事介入も、反対する賢者様を眷属が説き伏せたと聞いております」
「なんと! 王の命に反して軍事行動に踏み切ったというのか」
「里の総意として決めた事に、王も眷属も全員が従ったという事です。あの里には高度な自治が存在します」
「魔国の国民全員が王となり、半数が兵士となる。三万の軍を持つ国。あながち嘘ではないと言う事か……」
「魔国に対する援助は今後も続けることにする。魔国とは友好的であった方が良かろう」
「そうですな。王の言われるようにいたしましょう」
「我らには、我らの意思決定機構がある。伝統に甘えず公爵共々研鑽せねばならんようじゃな。ここで見聞きしたことは他言無用じゃ。混乱が生まれるかもしれんからな」
「御意にご座います」
公爵が見たと言っているのは、支柱に取り付けて見る大型の双眼鏡。里でも見張りに使っているのと同じ物だ。これは王様からの要望があって持ってきた。王城の警戒監視のためにどうしても欲しいと言われていた品だ。
「機械弓の事もそうだったが、こんな良い物があるなら早く言ってくれんかハウランド伯爵。双胴の遠見鏡、わしの城にも一台欲しいくらいだ」
「あれは門外不出の品だと言われて賢者様から授かった品でありますので……」
里で試作として作った手に持つ大きさの双眼鏡を、随分前にハウランド伯爵に渡したことがある。そこから王様にまで伝わったんだろうね。
「あの遠見鏡は手間暇かけて作ったものだからね。これ以上外には出さないよ」
「そうであろうな。上下逆さまにもならずあの見え味、魔道具と同し高度な技術が必要であろうな」
「それにマダガスカル鋼の盾。あれを作られた職人も良い腕をしておる。曲面の盾の前面に素晴らしい文様が浮かび上がっておったからな」
まあ、あれは高純度のマダガスカル鋼だからね。武器職人の技と相まって素晴らしい仕上がりになっているからね。
「あれほどの品、ミスリルの短剣程度では釣り合わなんだか……。すまぬな魔王殿」
「いや、いや、王様。あんな素晴らしい短剣をもらって、こちらこそ恐縮しているよ」
貴重な天然のミスリルだものね。短剣とはいえ刃渡りが三十センチを超え、実戦でも使える品。釣り合わないのはこっちの方だよ。
「ところで魔王殿。そなたが建国の折、魔国には貴族制度が無いと言われたそうだな。貴族無しでどうやって国を運営していくのか教えてもらえんか」
王様が聞きたいのは、民主主義の事かな。まだこの世界には無い制度だからね。
「世襲貴族がいなくても能力の高い者が、責任ある地位に就けばいいんだよ。元帝国貴族のブクイットにも家名は捨ててもらっているけど、地域を管理する長として働いてもらっている」
「統治能力は貴族の一族が高くて当然。次代はその息子が受け継ぐなら貴族制度と同じに思えますが」
「息子が受け継ぐとは限らないさ。今はボクが決めているけど、いずれは国民みんなで決める事になるんだよ」
選挙によって役職を決める。この先、魔国ではそうなっていくだろうね。
「例えば王がいなくても、国のかじ取りができる者を国民全員で選んで、その者に従えば国は運営できるんだよ」
「貴族だけでなく、王も要らぬと……」
王様と公爵がリビティナの言った言葉に驚き息を呑む。自らが築き上げてきた王族や公爵の地位。その国家の根幹が不要だと言われれば、驚くのも当然だね。
「そうだね。全ての国民一人ひとりが王だと思ってくれたらいいよ。その王が集まって決めた事に皆が従う。そんな国が理想だよ」
そう聞いても、今の貴族の人が理解するのは難しいかな。
「まあ、最初はボクや眷属が指導していく形になるけどね」
「知識無き者を集めて物事を決めるなど、混乱の方が大きいように思いますな」
公爵の人達が心配するのも無理はないだろうね。
教育が行き届き、国民全員が読み書きできる程度にまで進めばそれも可能さ。
「自分の命が懸かった決定もあるからね。知識はなくとも、決定を下した責任は全ての者が負う事になる。無責任な意見を言う者は少ないよ」
この国の王や貴族も自分の決定には責任を持つだろ。それを全員でするという事さ。
「国を守る兵士も、国民全員がなるんだ。子供と老人以外だから人口の半分くらいかな」
最初は徴兵制で訓練をし、その後志願兵を募る形になる。でもいざとなれば国民全員で戦う事になる。
「魔国の人口は、現在六万人ほどと聞いておるが、三万の兵を有すると……」
「単純に言うとね。本当はその百分の一でも十分戦えるんだけどね」
専門の職業軍人みたいなのは、その程度いればいい。でも自分の国を守る意識は全員に持ってもらわないと。自ら考え行動する国民になってもらいたいしね。
「それができるまで、王国には食料の支援を一年間と軍隊を三年間貸してもらいたいんだ」
「その程度で良いのか」
「それでお願いするよ。その後はボク達の力だけでやっていくからさ」
◇
◇
「魔国。どうも掴みどころのない国ですな。あれで安定した国になってくれるのか……」
「魔国には我らの盾になってもらわねばならん」
「潰れれば、切り捨てるまでの事」
「それでは我らの支援が無駄になる。身近で見てきたハウランド卿はどう考えるか」
「魔王様、いえ賢者様の言に従い私の領地は豊かになりました」
「魔国は伯爵領よりも少し広い程度。あの魔王であれば、今の魔国を統治する能力があるという事か」
「だが貴族が存在せぬ国が成り立つものなのか」
「賢者様の眷属が住む里、おそらくそこが貴族の存在しない場所であろうと思われます」
「里程度の小さき場所だからできる事ではないのか」
「百人に満たぬ里ではありますが、その技術力と軍事力は今回の事でお分かりかと」
「確かに此度の戦闘、いくら強いとはいえ魔王一人でできる事ではないな」
「今回の軍事介入も、反対する賢者様を眷属が説き伏せたと聞いております」
「なんと! 王の命に反して軍事行動に踏み切ったというのか」
「里の総意として決めた事に、王も眷属も全員が従ったという事です。あの里には高度な自治が存在します」
「魔国の国民全員が王となり、半数が兵士となる。三万の軍を持つ国。あながち嘘ではないと言う事か……」
「魔国に対する援助は今後も続けることにする。魔国とは友好的であった方が良かろう」
「そうですな。王の言われるようにいたしましょう」
「我らには、我らの意思決定機構がある。伝統に甘えず公爵共々研鑽せねばならんようじゃな。ここで見聞きしたことは他言無用じゃ。混乱が生まれるかもしれんからな」
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